眩しい朝日が差し込む広大な野原のような広場。
そこで各々レイカ先生に激烈指導を受けていた。
「なあ、ヒメギのあの力ってどうやるんだよ」
ふとカズキに聞くジェルマン。
「神威を流し込むだけだ。やってみな簡単にできるぞ」
それに対して素振りをしながらそっけなく返す。
「そんな訳ないだろ」
とは言ったものの、試めさずにあーだこーだ言うのも癪なので物は試しとやってみる。
両手を地面につけて、半端な力では動く訳なさそうなので折角なら全力で神威を流してみる。
すると、微量ではあるが少しだけ揺れた。
「……できた」
「な!ただ神威と体力の消耗が激しいから」
「どうりで疲れた訳だ」
確かに流すだけならカズキやレオン誰にでも出来る。しかし、一度に大量の神威を使用したので滅茶苦茶疲れる。寝て回復したい。
「神威の消費量が多く神威武装や属性能力を使わないヒメギだから出来る技だ」
あんな馬鹿みたいな地震を何度も起こすとなると凄まじい神威の量だ。
もし、カズキに教わらずに神威使いとして育てられてもエリートの道を進んだのだろう。どっちにしろ脅威なのは変わらない。
「そういやジェルマンの属性能力、あれって凄い勿体ない使い方してるよな」
「おいおい、急にディスってくんなよ。最適な使い方してるぞ」
ジェルマンの属性能力、怒り狂う爆発(バーストレイジ)。それは体から爆発を放ったり、物を爆弾にする。だが、真の力を発揮するのは打ち込む力が強ければ強いだけ爆発の威力が無限大に上がるということだ。
腕力だけでなく遠心力も使えるバトル・トンファーはまさしくジェルマンの為だけにつくられた武器だ。
「メインはいいんだよ、サブだ」
「サブ?」
「物を爆弾に変えるのは神威を流すのに時間がかかりすぎる、だが地面の一部、表面を爆弾にするのはどうだ?」
「考えた事はあるが乱戦だと敵味方問わず攻撃しちまう可能性もあるし、一対一(サシ)だとばれる。使い道がない」
「サシでも使えるだろ」
「作るにも時間がかかる。速くつくれても足止めくらいしか」
「何言ってる、お前の属性能力の性質を使えば余裕だろ」
「………そういう事かぁ~」
カズキの言葉を聞いて額に手を当てる。なにやら一本取られたって表情を浮かべている。
「お前らしい発想だが、俺にピッタリな発想だ」
「だろ?」
「使うかは置いておいて、参考にはする」
「なーんだ」
「何を話してるんだ、サボりか」
レイカ先生がやってくる。やっべっ。
「違いますよ、これですよこれ」
手の平から赤い球を作り出すと意のままに操ってみせるカズキ。
「気術の技術だけど、神威で応用できないかなって?」
「気弾か、ダテに言われて試してみたが出来なかった」
「本当ですか」
「本来神威が形となるのは神威武装や属性能力だけで纏うか流すしかできない」
「へー、知らなかった」
そもそも神威をまともに使えないカズキが知るわけがない。
そして案外実用性がないんだなと思った。
「お前も神威武装が使えたらもっと強くなれるんだろうけどな」
確かに神威武装による武器と身体強化は素晴らしいものだ。
「俺にはこいつがあるんで大丈夫です」
腰に差してある刀を見せつける。
「そう言えば聞いてなかったが、なぜその刀に執着する?名高い刀なのか?」
「これは国切。イオリ家に代々伝わる名刀にして、カセン様に鍛えて貰い神具となった百戦錬磨の有難い刀なのだ!」
鼻を高く胸を張り偉そうに自慢するカズキ。
「神具?ってことはカセン様は神なのか?」
「その通りだ。俺の師匠にして古の軍神、軍事戦争武闘極めし勝利の神よ」
「……いや、知らないな」
「なぬ!?カセン様を知らないだと!?」
「俺も聞いたことがねえ」
ジェルマンも続けて言ってくる。
「確かに信仰はもう無いと言っていたが」
活動はしていないから、信者なんていないとか言っていたな。どうやってその存在を維持してるのか疑問だ。
「だが、カズキが神様に鍛えられてたとはな」
「その強さと神伐隊にいたんだ、神に鍛えられても不思議ではないだろ」
今まで馬鹿げていた強さを誇ったカズキだが、隊長達と同じように神様に鍛えられたらその強さは納得だ。
「なら尚更神威を使えないのが理解出来ない」
神威は神が与えし力、その力の使い方を教えない訳がない。
「神の力に頼ってちゃ本当の強さとは言えない。万一神威を使えない時なにも出来ないじゃ笑えないだろ?手間がかかるが、カセン様は真の強者を育てるお方だ。全てに感謝している」
毎日が辛い修行の日々、思うように出来ない覚えれない、それでも諦めず最後まで教えてくれたのがカセン様だ。
今の俺がいるのも。俺が俺でいるのも。俺が理想の俺になれたのも、全て全てカセン様方々のおかげだ。
この強さもこの出会いもこの運命も全てカセン様のお導きなのだろう。
「最も性能が良いからな。見ろこの切れ味、天地全て斬れるぞ」
切先の部分を地面につけ手を放すと、ストーーンっと鍔まで突き刺さる。
「確かに素晴らしい切れ味だな」
神具なら当たり前とも言える切れ味だろう。
「……それだけか?」
「刀なんだから当たり前だろ」
「切れ味が良いのは武器として当たり前だ。それに加え何か特殊な能力とかないのか?」
「そんなものはない」
「なんか大した事ないな」
「確かにダテ兄の天突きは繋ぎ絶つ力がある。それに比べると何もない国切は劣るかもしれない。だがこの刀はイオリ家の誇りにして、カセン様の威光、そして俺の生き様だ。それだけで充分よ」
共に戦場を生き、喜怒哀楽を過ごした信頼なる武器だ。愛着なんてもんじゃない、もはや俺の一部だ。
「相性が良いんだよ。お前がバトル・トンファーを使ってるのと同じだ」
「けっ、神具と比べるな」
「何を言う、武器も使い鍛えこめば神格と化すって言うぞ?」
「神具と神格を一緒にするな」
「変わんないと思うんだけどなあ」
「貴様ら、お喋りはその辺にして修行に戻れ」
会話に一段落がついた頃合いにレイカが止めて修行へと促す。
「バースト・ショック」
「ちっ、全然威力が変わらねえ」
「闇雲にやっても効率が悪い、属性能力を強化したいなら瞑想をやれ」
「瞑想ぉ?」
「安心しろ、私は今も毎日それをやってここまでの威力に仕上げてる」
「んなじれったいことできるかよ」
「体を鍛えれば自身が強くなれても神威は変わらない。最も中から、精神を鍛えないと変わらない」
「瞑想って、ルリーと同じ事やるのか」
木陰で瞑想しているルリーを指差す。
毎日毎日同じ事を同じ場所でやっている。あんなのを続けてたら気が狂う。
「あれはまた別のものだ、お前がやるのは自身との語らいだ」
「語らい?」
「言っただろ、精神を鍛えろ……って言ってもわからないか」
「わからん!」
「仕方ない、最終日に連れて行こうと思ったが今日連れていくか」
「なに?」
再び馬車に揺られ、山を掘られて造られた古錆びた遺跡へとつく。
あ、ルイスとミカルドは残ってダテとシバの監督の元、アニマニア精霊学園の生徒達と組手をしている。
「なんだこの遺跡は」
「歴史を感じさせますわ」
「精神と願望の間。アニマニアではココロノ遺跡として観光地になってるが、自身を見つめ直す最適の場所だ」
「おいおい、そんな所勝手に使っていいのかよ」
「安心しろ、許可は取ってある。なんなら貸し切りだ」
観光地の割には静かすぎると思ったが、まさか貸し切りだとは。
「ついてこい」
レイカ先生のあとに続いて遺跡の中へ入る。
中はひんやりとしていて、別の季節にいるのではないかと思えるほどとても涼しい。
しばらく歩き、地下へ繋がる階段を更に下っていくと、小さな部屋へたどり着く。
「なんだここ」
部屋には更に小さな個室が何個か設置されている。
「みんな中に一人づつ入れ、そしたら黙想を始めろ」
「黙想ねぇ」
「ただの黙想と思うな、自身の強さ弱さと戦うんだ。」
「戦う?」
「いいから、実施!!」
何がなんだかよくわからないが、言われるがまま部屋に入る。
「カズキ、お前は残っていろ」
「えーなんでだよ」
「それも条件の一つだ」
「くそ、アニクめ」
……カズキ以外は入るのであった。
「……あ?どこだここ」
ふと気がつくと夜でネオンサインが光る近代的な高い建物が並ぶ。しかしどこか静かな街。人が居ないのも相まって廃墟のような感じだ。
おかしい、部屋に入ったまでは記憶にある。だがその後の記憶が全くない。
だが、ここは間違いなくジェルマンが産まれ育った国ドルツェルブだ。
「一体どうなってんだこりゃ」
そんな街中を一人で歩いていると、目の前に両手に剣を持った一人の少女が道のど真ん中に立っていた。
目を見張るような美貌。腰まで伸びた輝かしい金髪。アイスブルーの瞳は冷たく目があっただけで凍らされてしまいそうだ。
「て、てめぇは」
一目でわかった。あいつだと。俺を完膚なきまでに負かした、あの人物だと。
あの時の屈辱と恐怖が甦る。だが同時に喜んだ。
「そうか、あの時お前に負けてから産まれた恐怖怒りが俺の弱さなのか」
今の俺の足枷はこいつが原因なんだと、ならば話しは早い。
「なら、俺の弱さごとてめえをぶっ殺してやんよ」
バトル・トンファーを持ち構えるジェルマン。
ぶっ殺して取り戻す。バカでもわかる簡単なことだ。
レイカ先生が言っていた戦うって意味もわかった、まさか物理的だとはな。
「…………」
こちらが戦闘態勢に入ったにも関わらずただ立っているだけの少女。まるで眼中にない。
「なめやがって」
ギリギリギリ歯を食いしばる。ビキビキビキ青筋が浮かび上がる。ギリギリギリ拳を握りしめる。この震えは武者震い。
「バースト・クラッシュ」
怒りを力の礎とし一気に駆け込みバトル・トンファーを全力で振るう。
ボゴオオンと相変わらず凄まじい爆発を起こす。だが、片手で受け止められ、もう片方の剣を振るってくる。
こちらももう片方のバトル・トンファーで受け止めると、前蹴りで腹部を当て後ろへ飛ばす。
しかし、その力を利用し上へ飛び一回転して蹴ってくる。
それを防ぐも、二本の線をつくりながら大きく下がる。
「ちっ、五年経ってもまだ互角かそれ以下かよ」
やつは五年前の姿のまま、それなのにこの力、この速さ、この技術。あの時の俺が勝てる訳がなかった。
だが、ここは俺の精神の世界のはずだ。なら俺の想像なのでは!?
どっちでもいい、戦って勝つ。今はそれだけだ!!
悩んでも仕方ねぇ、考えてもわかるわけがない。なら、今目の前の事を集中するのみ。
苛烈な攻防、徐々に押され始めたジェルマン。
「はあーーーっ」
大きく踏み込みバトル・トンファーを大きく振り落とす。
両手の剣で受け止められるも、鍔迫り合う。
まだだ、まだこんなもんじゃあない!
ジェルマンは更に力を込める。握る手は指が食い込み血が流れる。血管は浮き上がり今にも破裂しそうだ。
それでも力をいれ続ける。痛かろうが痺れようが感覚が無くなろうが決して緩める事なくだ。
力は五分五分、だが少女の剣に亀裂が入る。
「これが今の俺だあああ!!」
勝機を見出だしたジェルマンは最後の力を振り絞り、剣を砕くとそのまま少女を鉄球で潰す。
「はあ、はあ……くそ、嬉しいのか嬉しくないのかわからねえ」
光の原子となり消える少女を見て唾を吐き捨てながら言う。
「だが、俺はまた強くなれた。まだまだ強くなれる」
「ここは、どこですの?」
だが、どこか見覚えのある懐かしい町並み。看板にはフブキノ村と書かれている。
「フブキノ村……アルバートンの領土みたいですわ」
通りで見覚えがあると思ったらアルバートンの領土みたいだ。
だが、なぜこんな所にいるのだろうか。ここは精神世界、何かあるはず。
人っ子一人居ない静かな村を歩いていると、小さな店から二人の少女が出てくる。
容姿が似ている姉妹なのだろうか。笑顔で会話するその姿は微笑ましい光景だ。
「あれは、わたくし!?」
姉だろうか、背の高い少女はノアと瓜二つ。
自分でも驚くくらいそっくりだ。
「そして……ミュア?」
そして、もう一人は居なくなった妹のミュアにそっくりだ。
声をかけずにいられなかった。例え遺跡が見せる精神世界だとしても、無駄だとしても、あの時わたくしが何を間違えたのか。
「ミュア!!」
教えてほしい。
「ミュア、危ないですわ」
ノアが近づくと、精神世界のノアがミュアを庇うように前に立ち神威武装を展開する。
「下がってなさい。あなたから今度こそ守ってあげますわ」
あなた(わたくし)から今度こそ守ってあげますわ……ですか。
「さすが精神世界、わたくしの心を抉ってきますわ」
「動かないで、あなたを射ぬきましてよ」
「………」
構えられた相手に対して、こちらは無防備。今神威武装を展開してもその間に射ぬかれる。
展開の速さに自信はある。でも相手は自分自身、それを考慮するとうまくいく可能性が低い。
でも、やるしかありませんわ。ここで逃げたら一生逃げる事になる、自分に負けたままですわ。チャンスは一度きり。やるしかないですわ、いくしかないですわ。覚悟を決めるのですわ。
「はあ」
一気に神威を放出し練り上げ、弓矢を顕現させる。
「動きましたわね」
そんな隙を見逃すはずはなく、引き絞った矢を放つ。
「そん、な」
胸に突き刺さる冷たい氷の矢。
「や、やったですわ」
射ぬかれたのは精神世界のノアだった。
矢は軌道が分かれば簡単にかわせる。以前カズキに教わったアドバイスだ。
今回の場合既に相手の狙いが定まっている。更にタイミングはノアが動いた瞬間というのもあったので尚更容易かった。
「刹那の勝負ってとこですわ」
ふっと得意気に髪をかき上げるノア。
「……お、御姉様」
「ミュア」
凍りついた精神世界のノアの元に駆けつけるミュア。
それはそうだ。わたくしはここでは姉ではない、ミュアから見たら姉のノアを襲った悪い人。
「御姉様をいじめるなあ!」
手に持つ短刀でノアを斬りにかかる。
「違うのですミュア」
「わああああ」
必死にやめさせようと呼び掛けるが、止まらない。
「おね、御姉様の仇」
「やめて、お願いだからやめなさい」
矢で仕留めるのは簡単だ。相手も精神世界のミュア、別に倒してしまっても関係はない。
それでも、妹を傷つける事はなできない。
なんならこの世界のミュアを悲しませた自分自身が許せない。
「情けないですわね、自分の幻影は倒せても妹の幻影は傷つけられないなんて」
腹部を突き刺すミュアを優しく受け止める。
「ごめんなさい。ダメな姉でごめんね」
幻影でもなんでもいい。伝えたいのだ。
「あなたの居場所はここよ」
涙を流しながらギュッと抱き締める。
この痛みはあの時何もしてやれなかった自分への罰。ミュアの苦しみに比べれば苦しみに比べれば軽いものだ。
「……御姉…様」
ノアの優しさを受けたミュアは安らいだ顔をして胸の中で消えるのであった。
「よう、どうだった」
部屋に入ってから数十分後、やっと全員出てきた。
「ああ最高だったぜ」
清々しい顔をしたジェルマンが言ってくる。
「とても疲れましたわ」
「私もです」
精神世界の中とはいえ恐らく苛烈な戦いをしてきたのだ、みんなクタクタだ。
「それで何を見てきたんだ?」
レイカ先生が聞いてくる。
「わたくしは自分自身が出てきましたわ」
「私は御姉義様でした」
「俺は……言ってもわかんねえよ」
「俺もだな」
それぞれ答える。
「そこで見たのは、自身の理想と負い目だ」
「確かに」
「納得ですわ」
「俺があいつを理想としてるだと!?」
「原点がわかったろ、もう一度やり直せ」
各々納得していると、リュークが遅れて出てくる。
「……最悪だ、くそが」
目付きが恐ろしく怖い、結構機嫌が悪そうだ。
「珍しいですわねリュークさんが口が悪くなるなんて」
「ごめんね、ちょっとイライラしちゃてて」
「どうした、親でも見てきたか?」
そんな中でもここぞと言わんばかりに煽るカズキ。
「張っ倒すわよ!」
「……お疲れ様です」
何かを察したのか労いの言葉をかける。
「いいなー、俺もやりてぇな」
「お前がやると、精神が乱れるんだとよ」
「なに!?」
「心が弱いって事だな」
「ふん雑魚が」
「みんなしてヒデェ」
こいつら部屋でてからなんか口悪くなってねぇかおい。
まあいつもの事なんで仕方ないかと気にはしない。
用が済んだので学園へと再び戻るのであった。
つづく