自然と静寂しかない秘境に、カラカラと木製の御者席を引きながら走る馬。
馬車に揺られ、ココロノ遺跡を後にするFクラス一行。
「はぁ、俺もやりたかったな」
「まだ言ってるよ」
「うるさい、お前らがやってる間レイカ先生と二人っきりだぞ。凄い気まずかった」
「お前が全然喋らないからな」
「喋るっても限度があるでしょ、二時間も話せるか」
「二時間もいたのか」
「もしかしてずっと沈黙ですか」
ルリーの問いに静かに頷くカズキ。
「わたくしは話せますわよ」
「さすがノアさんコミュ力お化け」
「誉めてますの?それ」
「このメンツの中でもに頷く二人っきりはきついな」
「ジェルマンとノアを覗けばな」
「確かに」
「どういう意味だコラ」
「喧嘩でも世間話でもなんでも会話は続きそうだろ」
「仲が良いですもんね」
「ルリーてめえ」
「うわーごめんなさーい」
「まったく、騒がしいのですから」
「そうだそうだ!いちゃつくのはノアだけで充分だ」
「どういう意味ですの」
「馬車の中で暴れるな馬鹿共!」
レイカ先生の怒号に馬の鳴き声と共に馬車が大きく揺れる。
「なんだなんだ、レイカ先生の声に恐れをなしたか馬公」
「あり得る」
「バカな話はいいですわ、外を見てきますわ」
取り敢えず状況確認とみんなして馬車から降りる。
「こ、これは」
外は昼間だというのに雲で薄暗い、空には羽ばたく異形な人形の化物。以前見た悪魔と同じだ。
街は炎の灯りに黒煙が巻きあがっている。明らかに襲撃されているのがわかる。
「まさかとは思ったが狙われてたな」
「悪魔共め」
「先を急ぐぞ」
焦る気持ちを抑え馬車に乗り込むと街へと急がせた。
エレメンタリア。
そこでは炎が立ち上がり、建物は破壊され、獣人や魔物の死体が転がっている悲惨な戦場となっていた。
首の無い甲冑兵士、人間離れした骨格に腕が四本の剣士、アニマニアの獣人とはまた違った全身が剛毛に包まれた獣人。どれも魔界の住人だ。
巨大な武器を振りかざしては建物を破壊し、住人を虐殺していく。
「ガルシャシャシャシャ、殺せ壊せ食せ」
戦火渦巻く街で高笑いを上げながら獣肉を食してる様々な動物を組み合わせた暴食悪魔ハンアン。
「ハンアン様、ここら周辺の制圧は完了です」
「いいぞ、褒美をとろう」
そういうと近くの建物を壊し壁の一部を渡す。
「ありだかく食せ」
「は、ハンアン様。それは食べ物では」
「なあにい!?」
怒りに身をまかせ巨大な包丁で悪魔の首を叩き切る。
「口に入れば食べれるだろうが勿体ないやつだ」
不機嫌ながら手に持つ壁をバリバリと食べる。
「次だ次の街へ侵略!略奪!強奪!全食全進だ!」
ジャイアントボアの上に乗り街の中心部へ移動する。
「ここから先は行かせないぞ」
王宮の戦士達が土嚢をつくり道を塞いでる。
「ん~こんな雑魚(オードブル)を食って満たされんが……まあいいか」
「なめるな、やれえ」
「うおおお」
「無限吸引(ブラック・ホール)」
大口をあけると、凄まじい吸引力で弓や炎弾といった飛び道具だけでなく、建物、精霊や獣人をも吸い込む。
ほとんど丸飲みだが、全てを食したハンアン。微妙な表情を浮かべる再び前進する。
「半端に食べると腹がへる。はやくメインディッシュが食べたいぞ」
「そこまでよ」
正面から投げられた無数の剣がハンアンに突き刺さる。
「少しは歯応えのありそうだなぁ」
「暴食悪魔のハンアン」
ハンアンの前に現れたのはアディラ。刺さった剣がみるみるハンアンに飲み込まれていくのを見て吐き気を催す嫌悪感に襲われる。
「あなた達の目的は何、なぜここを侵略に」
「目的ぃ?俺の役目は世界樹の伐採、ついでにアニマニアの滅亡。あとは食事に来たんだが、お前みたいなオードブルを食っても満たされない」
「世界樹の伐採、つまり精霊の力を断とうという訳ね」
「そこまで話す必要はなーい!食(く)うたばれ」
「ハンアン様が出るまくでもない」
「我々にお任せを」
「うおおお」
「雑魚に構ってる暇はないわ。ソードマスター」
アディラの周りに顕現した数多の剣が群がっている悪魔に向かって投げつけられる。
「ぐぎゃあああ」
「いでええ」
「ミカヅキ」
神威武装を顕現させハンアンに向け切りにかかる。
「いでぇ……いい威力だ、なかなか美味だぞ」
「全てを力の糧にする。噂通り厄介だ」
攻撃を受けたハンアンの体が一回り大きくなる。与えたダメージに応じて強くなっていく吸収タイプのようだ。
(どうすれば勝てる)
「ガシャシャシャ、死ね」
内心焦るアディラに対し余裕の高笑いを上げるハンアン。
Fクラス達は早くも魔物と対峙していた。
「くたばれや化物共」
魔物は人知を越えた存在。腕力やタフさもあることながら、基本的知能数が少ないのが唯一の救いだが中には高いやつもいる。
その高いやつが厄介なのだ。
「これが魔物の強さですか」
「俺達魔族ハ、オ前達ト根本的二違ウ。人間ハ パワーモ スピードモ全テニオイテ下等ダ」
熊の毛皮を身につけたレオンを優に越える筋骨隆々の大男。手に持つ棍棒と斧でジェルマン達を追い詰める。
一撃でも受けたら即死。そんな相手との戦いは慣れてるはずだが、今回は実戦だ、勝つか負けるかの生ぬるい試合ではない生きるか死ぬかの戦場だ。
「来ます、マシンガンフレア」
その化物めがけ、フレアを連続で放つ。
「魔法トハコシャクナ。オ前達、カカレ」
そこら辺を襲っている魔物を集めると一斉に攻撃し始める。
「ウオオオオオ」
しかし、それらは全てリュークによってぶっ殺されるのであった。
「雑魚は私に任せて、そのでっかいのなんとかして」
返り血で真っ赤のリューク。瞳には彩色が消え無に等しい表情をしている。こういう顔が一番怖い。
「憂さ晴らしとして相手してあげるから、簡単に壊れないでね」
どうやらあっちは心配いらないようだ。なら俺達はこの頭目を倒す事に集中すればいい。
「アダマンフィスト」
「バーストクラッシュ」
「無駄ト知レ」
レオンとジェルマンを棍棒一振で一掃する。
「ぐうう、なんて力だ」
「当てる所かまともに近づけねぇじゃねえか」
「わたくし達が援護します、その隙に」
「当たり前だろ、さっさとやれ」
「ムカッ、なんてデリカシーのない人」
「当たり前ってことは信頼してる証拠ですよ」
「フリーレン」
「氷ノ矢カ、コザカシイ」
フリーレンを斧で防ぐと、棍棒でノアを叩き潰しにかかる。
「こざかしいのはテメェだ、くそ魔物が」
ジェルマンから視線を外したその隙に背後に回り込み死角から顔面にバースト・クラッシュをお見舞いする。
「獣烈脚」
ぐらついた所にレオンの強烈な上段蹴りが顎にヒットする。
「グオオオ」
横へ大きく倒れる化物。その瞬間を逃さない、続けて攻撃にはいる。
「弾け飛べ」
顔面を両足で踏みつけると、大きな爆発を起こす。
「ぐっ、ムズ痒イワ」
ジェルマンを払いのけ勢いよく立ち上がる。
「ハアアッ」
手に持つ棍棒と斧を振り落とす。
「バースト・ブロー」
「荒爪」
それを左右別れてかわすと、同時攻撃にはいる。
「ぐはっ。コノ程度、俺ニ通ジナイ」
後ろへ大きく下がるも踏みとどまる。
腹部を押さえながら、下げた視線戻すと目の前にはジェルマンやレオンの姿は居なく一人の少女ルリーが詠唱えていた。
「バーニングブラスト」
「!?ウワアアア」
ルリーから放たれる炎と風を合わせたエネルギー波は魔物に直撃すると跡形もなく吹き飛ばした。
「ふう」
「さすがは上級魔法ですわ」
「はっ、あいつに比べたら弱いもんだな」
「一体にこれほどの時間と人数をかけてられない」
「次来るぞ」
「仕方ありません、セフィリカアロー」
ノアの弓が光輝くと一回り二回り大きな形状へと変化していく。神威武装の更に上、神威魔装(ライクルヴァッフェ)を展開する。
「フリーレイン」
一本の矢を空高く打ち上げる。すると氷の矢が大量に降ってくる。
「レオンさん」
「グラン・ギア」
レオンが大地を操作し屋根をつくる。
「グギャアーーー」
「コ、凍ル、助ケ」
「ウワーーー」
氷の矢を受けた魔物達は次々と凍りつく。それだではない、刺さった箇所が建物も植物も地面も関係なく凍り、辺り一面氷雪地帯となる。その短時間で大量の矢を降らす光景はまさに暴雨のようだ。
圧倒的威力の前に固唾を飲む。これが神威魔装の力か。
「砕け散れやボケゴラァ」
「突き上げろグラン・ギア」
間髪入れず凍りついた魔物達を砕いていく。これでここら辺の侵略を抑えられた。
「おー、凄い威力だね。カズキに勝てるんじゃないの?」
大柄の魔物の腹部に街灯をぶっ刺し傘代わりにしているリュークが感心しながらやってくる。
「お前は相変わらず斜め上をいくよな」
「リュークさんらしいですわ」
「それより次いくよ、次次~」
いつもの調子のリューク、だが空から突然炎の球が降ってきて直撃する。
「リューク!?」
「気にしないでいいよ」
「どこから」
「魔族とて所詮は下等種族、使えんな」
飛んできた方を見る。ハエを連想させる不気味な悪魔が薄い四枚の翅をバタつかせなゆっくり降下してる。
「俺はヤースーブー。俗に言うハエ男だ。ハンアンの命令で魔獣の復活を解いたところだ」
「気持ち悪ぃな、見てて不愉快だ」
「ハンアンって、前にいた悪魔ね」
「暴食つながりでハエか、つまらんな」
「クケケケケ、何をぼざいてるか訳わからんが。邪魔するな死っ」
「バースト・クラッシュ」
悠長に喋っているヤースーブーの顔面にフルスイングの鉄球をお見舞いする。
「さっきの化物の方が強えぞ」
見るに耐えない容姿が更にとんでもないことになっている。
ルリーとノアはあまりにも悲惨な姿に体調不良を起こし嗚咽いてる。
「大丈夫か?」
「え、ええ、大丈夫ですわ」
「うぷ、気持ち悪い」
「こ、こんな……はず、では」
「うるせえ口だけが!」
「ぐぎゃあああ」
ジェルマンの堪にさわったのか燃え上がる建物へと蹴り飛ばし、そのまま焼かれ絶命する。
「グズが、イライラする」
「おい、さっき魔獣の封印を解いたとこって言ってなかったか?」
その言葉にひっかかった
いつも通りむしゃくしゃしているジェルマンに聞くも
「あぁ!?知るかボケ」
としか返してくれない。まあ想定内だ。
「そんな事いってましたね」
「心当たりがあるんですか?レオンさん」
「……いや。少しだけ、な」
「?」
「カズキとジェルマンに話したが、遥か昔のおとぎ話なんだが」
「太古の時代、ヒヅメって言う百八の脅威が一人いるんだ。その巨体は巨人や山よりも大きく、残虐な性格で世界を荒らしまくったという神話があるんだ」
「ああ、あの胡散臭い話か」
「地元じゃ有名なんだが」
「んな秘境で有名でもな、説得力がないだろ」
「でも、もし本当なら」
「可能性はある」
「………まさ」
突如巨大な地震が起こる。
「おいおい、ヒメギが暴れてるのか」
「違う、これは」
大地の精霊を使役してるからこそわかる。これは揺れてるのではない、盛り上がっているに近いものだ。
つまり、何か下で動いているのだ。
「お、おいおい」
「嘘だろ」
アニマニアで一番デカイとされ、世界一の巨大で過酷な山と名高いシールソーマウンテンが揺れ動いている。
「グゴゴゴゴゴッ」
山が崩れ、おぞましい咆哮と共に現れる超巨大な獣人。
牛を立たせたような容姿、黒い剛毛に覆われた筋骨隆々な肉体。
一対のツノの翼、体の所々に岩が張り付いている。
特に肩から背中にかけて活火山を背負る姿は、まさしく山だ。
「あれが、ヒヅメ?」
「す、スケールが違いすぎますわ」
以前学園トーナメント二回戦で戦ったハートなんなとは比べ物にならないくらいの巨体。
一歩前に踏み出すだけでも脅威となる。我々なん見てくれもしない、規模が違い過ぎる。
「倒せる、のか?」
こちらにむかって歩いてきている。ズシイン、ズシインと音と震動が大きくなってくる。
「あ、ああ……」
目の前にくると、見上げるなんてものじゃない。見えない。
その圧倒的巨体を前に絶句する。
「グゴゴゴゴゴ」
雄叫びを上げると、近くにあった山を片手で弾くと簡単に崩れ街に降り注ぐ。
「ムシケラの気持ちがよくわかるな」
「何を呑気な事を言ってるのですわ」
「やるしかねえ!やってやる!」
頭上に落ちてくる岩を爆破でまとめて粉微塵にする。
「くたばれや!」
意気揚々と突撃するが、一歩による風圧で簡単に吹き飛ばされてしまう。
「くそが、近づくことも出来ないってのか」
「厄介なのを目覚めさせたな」
「どうすんだよこんなやつ!」
つづく