「ぐはっ」
ハンアンの肩に刃を突き刺すが、腕を取られ地面に叩きつけられるアディラ。
攻防を続けていく内に最初こそは押していたもの、攻撃を受ける度に徐々に強くなっていくハンアンに押されている。
「はああ」
「もう効かんわそんな攻撃」
神威を込めた渾身の一撃、それすらも効かなくなってしまった。
(くそ、私は、私の思いはこれまでなのか)
思いの強さは神威の強さ。その信念のもと強くなってきたアディラ、だがそれにも限界がきた。
思いだけじゃ勝てないのはわかってる。だけど、私が尊敬し大好きなあの人が教えてくれたのだ。まともに神威すら使えない私をトレードとして指名し、鍛え上げ今の強さをてにいれた。あの時の恩を返す為に今の私がいるのだ。
こんなやつに負けてる暇はない
「顕現せよ、ソードマスター」
右手に淡い青色の光が集まると、白銀の刃が美しいシンプルな形をした剣を作り出す。
一度だけ無理を言って教わった究極の技。あの日から練習し、成功率は二十パーセント。失敗しても成功しても肉体にかかる負荷が異常なため最後の攻撃になるだろう。
それしかもう手段はない。一か八か、やるしかない。
「はああ!」
体全身にありったけの神威を流し込む。
(至らないならかき集めろ、全てを振り絞れ……全てをこの技に)
体にある全ての神威を凝縮し強制的に流し強化するが、その反動に目は充血し、口や鼻、耳から血が流れる。
全身に雷が打たれたような激痛が走る。今すぐ倒れてのたうち回りたいほどの耐え難い苦痛。
構わない、この身が散ろうともこいつは倒す!倒さねばならない!
「お?まだ諦めてなかった?」
「烈華桜乱」
それは閃光のように一瞬の輝きだった。
「!?」
気がつけばハンアンの体縦半分真っ二つに切られていた。
「うぎゃあああ」
両腕で体が崩れないよう頭を押さえ修復する。
あと一撃、あと一撃与えれば殺せる。
だが、体はもう動かない。無理をさせすぎた。体の細胞という細胞が、繊維がズタズタだ。
(ちくしょう。あと、少しなのに。動け私の体)
「危ない危ない、まさかこんな技を持っていたとはな。あと一撃くらってたら終わっていたぞ」
修復を終えたハンアンは不気味な笑いをあげながらアディラに近づく。
「だが、いい痛みだぞ。見ろこのパワーを!」
体の部分部分が大きくなり、一軒家を優に越える巨体に成長する。
更に屈強になった力を見せつけるかのごとく、アディラを掴み握りしめる。
「うぐああああ」
「いいぞ苦しめ、潰れろ」
バキボキと骨が軋み砕ける音がする。
「隊……長…ォ……」
意識が遠退く。
ここで私は終わるのか。
「粉砕王」
「禍宿ノ剣」
ハンアンの腕を大剣で斬るミカルド。その隙に殴り飛ばすヒメギ。
「ぐおおおおお」
「大丈夫?アディラ」
落下するアディラをキャッチすると、優しく降ろす。
「助太刀にきましたよ」
「ヒメギ、ミカルド隊長」
「他はアニクとタスカ率いる近衛兵が戦場に、シバさんとダテさんは学生を率いて住民の避難誘導に向かってる。とりあえず休んでな」
「ありがたく、そうさせてもらうわ」
崩れた壁に寄りかかりそのいく末を見守る。
「なら倒しましょう。正義執行!禍゛威゛狂゛甲゛ッ゛!゛」
「全てひれ伏せ、天地無双刀」
鎧を出したり刀を出したりとそれぞれ戦闘体勢に入る。
「ふふふ、ミカルド隊長にヒメギ……とても心強いわ」
「くるわ」
「反逆流(リバース)」
大振りのパンチ、横へ飛ぶようにかわすヒメギ。
「これは粉砕王?」
触れた所が弾け飛ぶ。それを見て一瞬で反射技と見抜く。
「反射技をつかってくる、気を付けろ」
「オオオオオオッ!!」
「吸収(アブソリュート)」
ミカルドの渾身の一撃を受け止めると、ヒメギを蹴り上げる。
「がふっ」
大きく吹き飛び建物に激突するヒメギ。
ヒメギの威力が相乗してとんでもない威力をうんでいた。
「まずは一匹、ヒートブレス」
大口を開け灼熱の炎を吐く。
「オオオオオオ」
大剣を振りかざして炎を吹き飛ばす。その炎を美味しく頬張るハンアン、明らかに異常だ。
「何も効かないのか、どうすれば倒せる」
装甲の兜をカパッと開け話しかけるミカルド。
「効かないんじゃない、吸収してるだけ。吸収するなら吸収しきれない威力を出せばいい」
「脳筋だな」
「簡単な答えだろう」
巨大な包丁を受け止めると前蹴りで後ろへ押し返し距離をあける。
「グランドクロスッ」
二つの刀を重ね十字の形にすると、気を集中させ出来た光の輝きを一気に放つ。
「砕け散れ、ツインブラスター」
刀から放たれる炎と雷の光線を続けて放つ
「鬼ッ壊斬(きっかいざん)」
力を溜め大剣を大きくふるい、斬撃波を放つミカルド。
「ウグプププププッ」
聖なる光に続けて破壊光線、更にだめ押しの斬撃を受けたハンアンは更に巨大化する。
「これもダメか」
「どうするんだ、更に大きくなったぞ」
「んー、何回もやって破裂するのを待つとか?」
イメージは空気を入れすぎた風船が破裂するみたいな感じでどんどん攻撃する。みたいなことを提案してみるヒメギ。
「そんな悠長な事出来るか」
「こういう時は落ち着く事が先、こういう相手には力でいくか……一点集中攻撃だった気がする」
「集中攻撃だと?」
「そう一点集中、吸収する箇所を狭めて限界を越えさせる。んでもって貫通が目標だね」
「まてお前達、そんな簡単に」
「よし、実施!!」
遠くからのアディラの言葉を無視して行動に移す。
「オオオオオ」
滅茶苦茶に攻撃しているミカルドに気が向いてる隙に二つの刀を投げ、脳天に突き刺さる。
「雷槍蹴」
雷を纏ったヒメギは凄まじい勢いで刀めがけ飛び蹴りを放つと、そのまま貫通する。
「ぐあああああ」
「やったか!?」
一瞬やったかと喜んだが、次の瞬間ハンアンの頭部が再生され何もなかったかのように暴れだす。
「あちゃー、再生ありだったか」
「ガルシャアアアアア」
背後にいたヒメギを叩き落とす。
それと同時に足元にいたミカルドを蹴り飛ばす。
「いっててて、なんて威力だ」
「うっとおしい奴らだ、全て吸い込んでやる!」
大口を広げるとブラック・ホールで全てを吸い込み始める。
建造物は簡単に崩れ木々は根刮ぎ吸い込まれ、地面ですらも亀裂が入り始める。
「オオオオオオ」
「うわーー吸い込まれる」
「くっ、これまでか」
既に体が動かないアディラは簡単に浮き上がり吸い込まれる。
助けにいこうにも、自身を守る事で手一杯。
絶体絶命のその時だ。
「食い過ぎだバカ」
吸い込まれそうになった直前でカズキが抱き抱えると、大口を開けてるハンアンを真上から踏みつけるカズキ。
「よお最近ぶりだなハンアン。またてめえを食わしてやろうか?」
「カズキィ……メインディッシュの登場だ」
カズキの登場に怒るわけではなく喜びの笑みを浮かべる。
「ここまで強くさせやがって、バカ娘が。食い止めたことは評価してやらんことはないが、はぁ」
「隊長、隊長ぉ」
「くっつくな。ミカルド先輩、ルナを頼むぞ」
アディラをミカルドに渡すと、身に付けてる鎧とヒメギが持ってる刀を見てため息をつく。
「俺も無駄な事はしたくない。ノーリスクで勝ってお前らにこの武具の真価を教えてやる」
「ちょ、勝手に」
ヒメギの首にかかっている赤い勾玉を取る。
「え、あっ、あれ?」
ミカルドの鎧が勝手に外れ巨大な竜が空高く羽ばたいてる。
「悪魔竜ディアボロス、久々に使ってやるから喰ってみろよ」
「ヌカセ小僧、喰イ殺シテヤルワ」
ドスのきいた声と共に垂直降下しカズキを頭上から喰らいつくディアボロス。液状が徐々に鎧へと形を変えていく。
普段よりも一回り二回り大きい全身鎧に包まれたカズキがいた。
「溢れんばかりの破壊衝動、いい狂気だ……力も高まる漲る」
「うおおおお、喰わせろ喰わせろ」
襲いくるハンアンの腹部を蹴り、肉を踏み台にしそのまま顎へ拳をぶつける。
「いい痛みだ、いいぞぉいいぞおお」
ハンアンの巨体が宙に浮く。踏みとどまると満面の笑みで笑う。
「ふん」
「アブソリュートからの、リバース!」
カズキの正拳突きを受け止めると、上から叩き落とす。
「潰れろお!」
飛び上がるとカズキめがけ踏みつける。
何度も何度も、踏みつける度に大地が揺れるほどの威力。
「とどめだぁ!」
更に上空して勢いをつける。
陥没した地面からムクッと立ちあがるカズキと、ハンアンを片手で受け止める。
「な、なに!?ばかな」
怪我しないよう優しく投げられる。
「……もう終わりにしよう」
「終わりぃ?まだだまだまだ足りん、俺をぉ満たしてくれカズキィィィ」
「天地無双刀、この世に並ぶものなき矛盾の二刀を絶剣で味わうがいい。これが最後の馳走だ」
「うおおおおお、ブラック・ホール」
吸い込まれる勢いのままハンアンの眉間に刀を差し込む。
「うがぁ」
炎と雷が駆け巡りあまりの激痛に悶え苦しむ。
「烈華桜乱・十六連咲」
刃に刃を重ね神速の如く放たれる十六連撃がハンアンを切り裂く。
(ああ、心地いい。心の底から満ちていく)
体中に駆け巡る痛みと共に思い出す。なぜこんな醜い姿になったのか、俺は何がしたかったのかを。
(そうか俺は、強くなりたかったんだ。誰にも負けない、ミハイルを守れるように……)
愛する者を守れなかった後悔。そして己の非力さ限界に絶望し、気が付けば醜い悪魔の姿になり常に空腹で沸き上がるのは何もない空っぽの怒りだけだった。
「どうだ、ハングルス。満たされたか」
「ああ……充分に……満たされ、た。ありが、とう、隊……長…」
満たされない飢えに、潤わない渇き。その呪縛から解放されたのか、常に苦しみ、怒りの顔が和らぎ優しいものへとなる。
「けっ、悪魔に堕ちたのにありがとう、か……大バカ野郎」
こいつが欲しかったものは強さだ。誰にも負けない絶対的強さ理想の強さを求め飢えていた、だから完膚なきまでに倒す必要があった。
そんなくだらない事の為に悪魔に成り下がるなんて、大バカ野郎だ。
「うぷっ、ぅぅ、満足だ……御馳走様でし、た」
満たされない何かに満たされ安らいだ表情で静かに眠る。体からは禍々しい黒い邪気が浄化されるように抜け出す。
「やはり二刀は馴染む」
「これが鎧の……いや、隊長の真の力」
鎧を解除するといつものカズキへと戻る。
「やはりいい武具だ、やるのが惜しいくらいにだ」
改めてこの武具の性能に惚れ惚れするカズキ。
「使いこなせ、いつか俺を倒す程に強くなれ」
それぞれ、今の持ち主に返す。
いずれ、俺が創った武具を使って俺が鍛えた者が俺を倒すその日が楽しみだ。
「さすが、強いな」
改めてカズキの強さを知ったヒメギ。その顔は尊敬と誇りがこもった、喜びの表情だ。
「……ヒメギ、お前戦うのやめろ」
「え?」
だが、その喜びもカズキの一言により一瞬で消える。
「実力を見誤りやがって、危うくみんな死ぬ所だったんだぞ」
「でも、私は」
「鎧で底上げした俺の究極技を十六も放って粉微塵にできなかった、あいつはそれ程に強い存在だ。自惚れるな、まだ己の強さも世界もわかってない小娘が…、邪魔なんだよ!」
カズキにしては珍しく怒鳴り上げている。その声は怒りだけでなくく、どこか悲しさも感じとられる。
「隊長、ヒメギは我々のために死力を尽くしてくれました」
「死力を尽くしたからなんだ、過程が良ければいいのか?結果良ければいいのか?死んだら終わりなんだよ」
アディラが庇おうとするが、罵声は一向に止まらない。
「うっ、うううう~~……っ」
カズキの厳しい指導に泣きながらその場から走り去るヒメギ。
「言い過ぎなのでは、隊長。いくらなんでも可哀想ですよ」
「最愛の娘だぞ、これくらい厳しくしないと可哀想だ」
厳しい言葉は娘を思うが故のものだ。
多くの戦場を渡り歩き世界を見てきたからこその言葉だ。
「見てみろ、自身の理想に負け悪に堕ちた哀れな戦士を」
ハンアンが倒れていた場所には美しい犬の獣人の骸が横たわっていた。
「うそ、これって」
「獣人……?」
「そうだ、世界に絶望し悪魔へと成った」
悪魔は元からの悪魔だけでなく悪魔へと成った奴もいる。このハンアン、もといハングルスもその一人だ。
悪の心がなくとも、深い深い絶望でいつの間にか悪魔へと成ったのだ。
「お前が犯した罪は重たい、仲間を裏切り多くを喰い殺しあまつさえ悪魔に転生したお前に待つのは地獄での永久に等しい苦痛だろう。せめて生まれ育ったこの地で眠れ」
怒りと哀れみの念を抱きながら骸を担ぎ森へと入っていくのであった。
つづく