「グゴゴゴゴゴッ」
耳がつんざく咆哮を上げ暴れるヒヅメ。
建造物は破壊し尽くされ、もはや街とは呼べないものとなっていく。
「くそ、どうする」
「まずは標的を俺達に向けないと街が終わる」
「なら、顔に当てますわ」
軽い身のこなしで建物の上に上ると、セフィリカアローを強く引き絞る。
「アイシクルショット」
巨大な氷柱を連想させるような鋭い矢がヒヅメの肩に刺さる。
「やりましたわ」
しかし、巨大な矢とはいってもサイズがサイズだ。
少しチクッとする程度だろう。
それでもこちらの存在を知らしめる事ができた。そう、見つかったのだ。
「グゴゴゴゴゴッ」
再び雄叫びを上げると、ノアめがけ巨大な足を落とす。
ズシイイン
建物は一瞬で潰れヒヅメの跡が残る。
「あ、あ危ないですわ」
建物から飛び降り走り、間一髪避けた。
たった一撃でこの威力、今までは不鮮明に攻撃していたが次からは狙って攻撃をしてくる。
勝負はこっからだ。
「グラン・ギア」
ジェルマンとレオンの足元の地面が飛び出し、一気にヒヅメの目の高さまで伸びる。
「グゴゴゴゴゴッ」
目の前にそんなものが現れたら普通は叩き崩す、だからヒヅメも巨大な蹄で崩す。
その直前に二人は飛び上がり、回避する。
「バーストクラスター」
ありったけの神威を流し、渾身の一撃を眉間に叩き込む。
少しは効いたのか、二、三歩後ろへ後退し更に被害を広げる。
「はあああ」
レオンは後頭部に着地すると、何度も何度も拳を下へ下ろす。 剛毛が良い感じの滑り止めとなり、足場がしっかりしているので殴りやすい。
「自由に駆け巡れ、浮遊歩行(フライウォーク)」
ノアに飛行魔法を唱えると、フワッと浮き上がる。
「十分だけ、自由に動けますので、効果が消える前に戻ってきてください」
「わかりました。ありがとうございます」
一言告げると上へ上へ浮き上がる。
「さて、私は足下から崩します」
「フリーレイン」
「マシンガンフレア」
上から氷の刃の雨。下から火の玉の嵐。
威力は少ないが、数で攻めていく。
「うおおおおおお」
落下するも、回転しながらヒヅメに鉄球を当てていくジェルマン。
小さいかわりにちょこまかと動き攻撃をし続ける。
「ダメですわ、効いてる用には見えませんわ」
何百と氷の矢を射っているが、効いてる素振りは見えない。
刺さった箇所は、最初は氷つくのだが瞬く間に溶けてくる。恐らく、体温が高すぎるのだろ。
「グゴゴゴゴゴッ」
後頭部にいるレオンが鬱陶しいのか、自ら後頭部を叩く。
「あぶな」
それに気づいたレオンは飛び降り脱出したが、空中で叩き落とされる。
「レオンさん、大丈夫ですか」
勢いよく急降下し、地面に叩きつけられたレオン。
その側へかけよるルリー。
「まだ息はしてます。回復魔法を」
地面にクレーターをつくる程の凄まじいダメージに、気を失っているが微かに呼吸をしている。
死んでしまえば生き返す事はできないので終わりだ。
慌て焦りながら詠唱を唱えレオンに回復魔法を行う。
「グオオオオオッ」
雄叫びを上げると、口から溢れ出す炎を一気に放つ。
その威力と範囲は絶望的で、一瞬にして焦熱地獄へと変わり果てる。
魔物や兵士もまとめて無差別殺戮行為に逃げ惑うしかできない。
「まるで災害だな」
太刀打ちできない圧倒的火力でどんどん追い詰められていく。これは封印されるのも納得だ。
全てをものともせず暴れるヒヅメ。
その頭上に雷雲もないのに一回の雷がふり落ちる。
その落雷が効いたのか、悶え苦しむ。
「大丈夫か、みんな」
一気に降下してきた黄金の鷹。その背にはルイスがいる。
「なんだその鳥は」
「まさかレイホーク?」
いつも見ていたサイズとは違い人が四、五人乗れる程までに巨大化している。
さすがは精霊の国アニマニア。レイホークがいままで以上に強力な存在へとなっている。
「そうだ、まさかこんな力を持った精霊だなんてな」
頭を撫でるルイス。それに対して喜んでいるのだろうか、とても御満悦な表情を浮かべている。
「しかし驚いたな、まさか伝説の魔獣が実在していたなんて」
改めてヒヅメを見てその圧倒的プレッシャーを感じる。
今までの相手とは違う。そう、カズキでさえ放っていなかった禍々しい程の邪悪さ。
「知ってるのですの?」
「有名な神話ではないか。主の為に戦い、呪いで自我を失い魔獣へと堕ちた悲劇の聖獣」
ふふんと得意げに胸を張っていってくる。
趣味は読書というだけあって、知識は豊富だ。
「呪い?」
「胸に赤い鉱石があるだろ?あれが呪いの原因らしい」
胸元にある赤く光る鉱石を指差す。確かにそこだけ色が違う。
「あれを壊せばなんとかなるって訳か」
倒せなくとも、そこを壊せばなんとかなるんじゃないかと希望を見つけ出す。
「私とノアでヒヅメの注意をひく、チャンスが来たらジェルマンが叩くんだ」
「言われなくてもやってやるわ」
レイホークに乗り上昇するルイス。
その途中で浮遊魔法の効果が切れフラフラと落ちてくるノアを拾い、説明をする。
「わかりましたわ。兎に角射ちまくりますわ」
「ははは、案外脳筋なんだな」
「今は勝てればなんでもいいですわ」
再び弓を構えると、強く引き絞る。
「私も、アクトレイザー」
氷と雷の連撃。目障りと直ぐに判断し、撃墜しようと両腕を振るう。
「当たればおしまいですわ」
「わかってる。レイホークを信じろ」
「はいですわ」
レイホークの俊敏な動きは、ヒヅメでは捕らえることが出来ず全ての攻撃が空振りとなる。
「くそ、狙う隙がない。なんとか足止め出来れば」
遥か上空ではみんなが戦っている。それを見て何か出来ないか考えるも、体が思うように動かないレオン。
「ダメですレオンさん。意識を取り戻したばかりでまだ動いては」
回復魔法を唱えてるルリーから優しく離れると、痛む体に鞭を入れゆっくりと立ち上がる。
なんだろう、極限の状態でも動けるようになってきたな。あいつらと関わってから慣れたなかな。
こんな時に何を考えてるんだ。何とかするんだレオン、仲間をアニマニアを守るんだろ。立て!
「うぅ……俺に力を貸してくれ、グラン・ギア。俺に答えろ!」
『いいよ。契約者殿、久々に思いっきり使って』
どこからともなく声が聞こえる。久しぶりだ、もう忘れてしまったあの声だ。あの時契約者した、精霊の。
「うおおおおおおグラン・ギア」
大地が揺るぐ程の勢いで巨大な岩柱が飛び出し、ヒヅメの顎をとらえる。
脳が揺れ視点が合わなずふらついてるヒヅメ。
「今だ!はあああ」
ルイスは槍に神威を流すと、雷が激しく輝く。
真上で大きく回転させると、力強く踏み込み投げつける。
「ライトニングスロー」
光線の如く放たれた雷を纏った槍は赤く光る呪物の中心に突き刺さる。
「グオオオオオッ」
壊す事はできなかったが、やはり弱点なのか悶絶の声をあげながら片膝をつく。
「今だジェルマン」
「うおおおおお」
ルイスの合図と共に剛毛を掴み上へ上へと登るジェルマン。
「くたばれやデカブツ野郎」
瞬く間に頭部へと登りつめ、大きく上へ飛び上がる。
「バーストショック!!」
双方のトンファーに最後の神威を流し込むと、ルイスの槍めがけ打ち込む。
槍が呪物を貫き、叩かれた衝撃で亀裂が入り、爆発で砕け散る。
「ギエエエエエッ」
呪物から紫色の巨大なアメーバ状の何かが悲痛な奇声を上げながら現れる。
「な、なんだこりゃ、うわ!?」
落下するジェルマンをレイホークが嘴で器用に加えその場から離脱する。
「あれが操っていたのか」
「あんたが原因かダメーバ!よくもよくも、優しいヒヅメを……死ね!」
ヒヅメの耳元にずっといたリュークが今までに見たことのない怒りを露にする。
「地獄の息吹き(ヘルブレス)」
口から怒り狂ったかのような激しく迸る稲妻を纏った赤黒い炎を吐き出す。
それは閃光のように爆ぜ、一瞬でダメーバが消し炭となった。
「地獄で後悔しなさい」
空間がビリビリとやけつき、放った跡が見える。
その光景を見た全員が脊髄に氷柱がぶっ刺さったかのような身震い、おぞましい悪寒が駆け巡る。恐ろしい破壊力だ。
「ぐおおーーん。ここはどこだ?どこ?」
正気を取り戻したのか、辺をキョロキョロして大言をかます。
「やっと正気を取り戻したのね、ヒヅメ」
「ぬぬぬ?リューク様!?どうしてここに?ジドゥは?」
目の前にいるリュークを見て激しく動揺するヒヅメ。
そこからは恐怖と敬意が感じ取られる。
「もう終わったのよ」
「そうですか」
リュークの説明を聞くと特に驚くこともなく話を飲み込む。妙に納得が早いヒヅメ。
「ではここにいては邪魔だろうから、海で寝るとしよう。また何かあればお呼びを」
最後に軽い挨拶をすると、巨大な翼を広げると大空へと飛び立つ。
「まったく、マイペースなのはかわらないね」
「おい、あいつは。ヒヅメはどこへいった?」
「海中入浴するってさ」
「海中入浴?」
「なんだ、気軽に話してたな」
「まさか。名前教えたら様付けしちゃって、律儀なんだね」
「ほんとかよ」
「世の中そんなもんよ。さっ、戦いは終わったわ。お腹すいちゃったからご飯にしよ~っと」
ルンルンと鼻唄を歌いながら歩くリューク。切り替えが凄まじくはやい。
いきなり始まった二時間ちょっとの戦いは、こうして幕を閉じたのであった。
つづく