「すまないなルイス、組み手に付き合ってもらって」
「この為に来たんだ。構わない」
他の方々が二日酔いによりダウンしているので、飲んでいなかったルイスに組み手相手してもらっていたのだ。
衣服が破け、ボロボロのルイスに対しほぼ無傷なカズキ、やはり実力の差は嫌というほどわからされている。
「それより、今回はしっかり寝たから疲れ取れたんじゃないか」
カズキが超ショートスリーパーな事を知っているルイス。
珍しく何時間も寝たのだから、体が軽いのでは?と聞いてくる。
「まさか、休めた気がしねぇよ。あの野郎マジ許せねぇ」
「?まあ、酒は睡眠の質を下げるというしな」
少し会話が噛み合ってないが、よく眠れなかったのだろう。
「私は着替えるが、お前はどうするんだ?」
「俺か?俺は……愛する娘のケアでもしてやらないとな」
「娘?」
何を言っているのかわからない顔をするルイス。
そういや、ルイスはまだ知らなかったな。
「……カズキ」
校舎へ向かう道中、前からヒメギが両手に刀を握りながら静かに立っていた。
「噂をすればなんとやらだ。ヒメギ、まだ落ち込んでいるんか?可愛いやつめ」
「うるさい、いいから組み手やろ」
我が娘ながら血気盛んなことだ。だが、それでこそ我が娘!イオリの名を冠するに相応しきことこの上なし!
「いいだろう……父さんとしてつける最後の修行だ。一瞬で終わらしてやる」
組み手だけで強くなれないのはわかってるはずだ。今何をすべきなのかわかっているはずだ。
構える。
「特別だ。特別に俺の奥義を見せてやる」
両手を大きく広げ空に陰陽を描くと、片方の腕を上にもう片方を下に構える。
「さあくるがいい」
「カウンターね。わざわざ死地に行くほどバカじゃないわ」
カズキの構えを見てカウンターだど直ぐに分かったヒメギ。
だが構えにしては隙がありすぎる。まるで家族や友達と側にいるかのような安心、安らぎさえも感じる。
惑わされてはダメだ。
ただでさえ実力差があるのに見てから攻撃されるのでは太刀打ちできない、迂闊に攻撃したから殺られるのは目に見えているので慎重に動く。
「たわけが!既に死地に踏み込んだ事にも気づいてないのかこのバカ娘が!!」
「なっ!?」
「三歩三撃ッッ!!」
カズキが目の前に迫ってくる。そこからヒメギの記憶は無かった。
三歩三撃。
三歩とは間合いであり、踏み込み。三撃とは三回攻撃。そして、それらを同時に一動作でやる。
見てから相手の攻撃を封殺した上で倒すカウンター型と自ら攻めるアタック型、つまり攻めの防御の究極系。
医務室でヒメギをベッドに寝かせ終えた後、台所で一緒に調理をしてるルイスに説明する。
「三歩の間合いで三回だけ攻撃できる。簡単だろ?」
基礎を大事にし基礎を極めたカズキらしい技だ。
それ故にこれが様々な大技をもつカズキが奥義と言うのだから、ルイスは違和感を覚えた。
「ちなみに他言無用で、この技を使った相手はヒメギ含め今まで三人だけで存在を知ってるのはお前ら含め三人だから」
「もう一人はどうした」
「さあな、誰も知らないはずだが」
誰も知らない、つまりはこの世にはいない。殺したということなのだろうか。
平気で言うカズキにルイスは殺し慣れているのだなと改めて思った。
「今までの技に比べればこの技にそれ程の脅威が感じられないのだが」
雷を落としたり、炎を出したり、山を消し飛ばしたりと人離れした様々な技をやってきたのにたどり着いたのがカウンター技とは意外である。
「脅威ってのは感じられたらダメなんだよ、脅威を隠し相手を引き込み殺す。堂々とした暗殺がこの構えだ」
サッと構え見せる。ただの構えにしかみえない。
「本来なら見られた者は皆殺さねばならない程の重要な技なんだが、今回は娘の為に一つの経験として学ばせるため軽く使った」
「私は見てしまったのだが」
「お前はいずれ俺を殺しにくるんだ。精々構えさせてくれ」
微笑みながら切っていた大量の野菜を巨大な鍋に入れかき混ぜる。
「所でこんなに作ってどうするんだ?」
明らかに人数分以上の量をつくっている。ましてや全員二日酔いで倒れているのだから絶対に余る。
「ヒメギが食べるからな、もっと作るぞ」
「彼女がか?」
「あいつ凄い食べるからな、健啖家なんだぜ」
大食いなのはわかったが、さすがに物理を無視した量だ。胃袋に収まる訳がない。
「ヒノモトの米じゃないのは残念だが、米は手に入ったからな。ヒメギも満足するだろう」
「まだ寝てるんじゃないのか?」
「どうせもう起きてるよ。一人で修行して腹空かして帰ってくる。そんな娘の帰宅を待ってやるのが親ってもんだと思う」
よく山中を駆け回って、道場で沢山動いて腹空かして帰ってきたなと昔を思い出す。
ばあちゃんのご飯は美味しかったし、じいちゃんは酒ばっか飲んでるし、姉ちゃんもよく食べるし、賑やかだったな。
「寝て食って遊ぶ。誠実で自由に生きるが家訓だからな」
好きなように生きろがモットーの家だったからな、おかげで好き勝手できている。
「自分に言い聞かせたらどうだ?」
「全部好きでやってるんだが?」
「強い奴は皆そんなことをいってるな」
「あ!?しまった、肉がたりないぞ。ちょいと狩ってくる」
「忙しい奴だな。さて、どうしたものか」
急いで出掛けてしまったカズキ。
調理の途中だというのに、味付けもせずに行ってしまった。
勝手に味付けをする事はできるが、ヒメギさんの為にも家庭の味がいいだろ。
ここはなにもせず厨房の片付けをするのであった。
……もしかして、片付けを押し付けられた?
はっと気づくが既にカズキの姿はなし。やられた。
仕方ないと黙々と片付けを始めるルイス。
ふと今回の合宿を思いだす。ほとんど雑務をしていたが、空いた時間で組手に付き合ってくれたダテさんやミカルド先輩、獣人の生徒達。レイホークの真の力も知れた。なにより自分自身が復讐などではなく純粋に強くなりたいという気持ちが知れた。
「……少しは強くなれたのかな。私」
「カズキはいるか」
しばらくしてノックと共にドアを開けて入ってくるアニク。
「アニク様。カズキはさっき外へ狩りに出掛けました」
「そうか……ルイス、といったな」
「そうですが、なにか」
「カズキが何を言ってるかわからない時があると思う、その時は話を濁すなり無視しろ。真実を伝えるな」
「それはどういう意味ですか」
突然の警告らしき発言。正直何を言っているのかが分からなかった。
「あいつの精神は崩れている。世界の醜さ、過酷な戦争、多くの仲間を失い絶望している。いつ悪魔に堕ちてもおかしくはないんだ」
「だったらもう精神は」
「今は現実逃避でまだ済んでいる。だが、いずれ受け入れ爆発するはずだ」
「現実、逃避?」
あのカズキがだ。確かに究極的にバカでやることなすこと無茶苦茶の非現実な存在だが、現実的で非情なカズキが逃避をしているとは思えたい。戦に関係しているならなおのことである。
「記憶を蘇らせることなどさせるな」
「あー!復興に勤しんでる国民を差し置いて王子様がなんのようだ」
「話はここまでだな」
「何話してたんだ」
「雑談さ、それより父さんがお前を呼んでいる」
「精霊王がか?俺は呼んでない!」
「助けてくれたお礼が言いたいそうだ」
「ブラザーなんだ気にするな。って伝えとけ」
全ての獣人はファミリー。全ての種族はブラザー。
それがアニマニア大国に代々伝わる教え。それに乗っ取っただけだ、感謝される必要はない。
「それより、剣舞祭には他の隊長共も出るんだろ。なんか情報くれよ」
相手が感謝してる最中に、ここでしれっと情報収集に出る。
なんか有力な情報がボロッと出てこないかな。
「剣舞祭の集まりがある。勿論出るのだろ?」
「なんだそれ」
「知らないのか?剣舞祭の前に一度だけ顔合わせがあるんだ」
「そうなのか?」
ルイスの方を見てみる。アニクが虚言を吐いてるかもしれない。
「知らなかったのか?」
だが、呆れ顔で返答するルイス。アニクも数回頷きカズキを見てくる。
どうやらここにいるのは俺の味方であって敵でもあったか。くそが。
なんでも国同士の情報戦が激しく裏で諜報や暗殺、戦争などが散見されたので剣舞祭の十数日前に顔合わせとしてパーティーが開かれるそうだ。
「会いたくないから情報だけ教えてくれ」
「会って確かめた方が確実だ」
それはその通りなんだが気が進まない。
「あれから三年程は経った、それそれ進化している。もちろん俺もだ」
「はっ、ヒメギごときに手を焼いてんだ。たかが知れ過ぎてる」
「精々呑気に胡座でもかいてな。剣舞祭で一つの時代が変わる」
「変わるかは知らんが、節目にはなるかもな」
「楽しみにしておけ、話は終わりだ」
そう言うと、近くのテーブルに置いてあった骨付き肉をさりげなく手に取り食べながら部屋を後にする。
「く、食い逃げだ!本当に王族かよあいつ」
「それより、戻りが速いじゃないか?肉はどうした?」
「いや、片付け終わって無かったからさ」
「……そうか」
つづく