休日
合宿が終わり徐々に日常へと馴染んできた今日この頃。
激闘の日々を終えてから初めての休日を迎えたのだ。
共同スペースであるリビングで各々寛いでいた。
「怪しいですわ」
ノアのその一言から本日の一日が始まった。
「あ?何がだ?」
バトル・トンファーの手入れをしているジェルマンが反応する。
「カズキさんとリュークさんですわ。最近夕飯まで一緒に行動してますし、合宿中から凄い親密な関係になってません?」
「そらあんだけ組み手してたらうまれる友情の一つ二つはあるだろ」
「友情を通り越して愛情になってるかもしれませんわ」
「だってよ、どう思うレオン」
庭でハンモックに揺られながら読書しているレオン。
「無いな」
そっけなく返す。
「同じく、あの二人が恋するツラかよ」
恋愛からとてつもなくかけ離れた存在の二人に限ってそれはないと断言するジェルマン。
「今朝も早くから一緒に出かけてますわ!これは由々しき事態ですわ」
何やら大荷物を抱えて出かけたのだ、昼御飯はいらないとも言ってたので街かそこらにお出かけしにいったのだろう。
「なにが由々しきだ」
「仮に付き合ってたらどうするんだ?」
読書をやめ、庭からリビングへ移動してきたレオン。
「勿論応援しますわ!」
「なら気にかけるなよ」
「仲間内での隠し事は嫌ですわ。幸せな事なんですからお祝いしましょう」
嘘を嫌ったり仲間の恋を応援したりする純情なノア。
「そっとしておいてやれよ」
「だが、恋はいいぞ」
「惚気か?出来たばかりが何を言ってる」
「お熱いですわね。どういった経緯で出会い付き合ったかもう一度聞きたいですわ」
以前は馬車の中で軽く話してもらったが、今は保護者もカズキもいないので深く話を聞いてみたい。
「もう一度か、そうだな」
レオンが改めて話し始めた時だ。
玄関のドアが開く音がしたと思ったら、こちらに目もくれず階段を駆け上がるカズキ。
しばらくして降りてくると
「おお、忘れものを取りに来たんだ。お騒がせしたね」
そう言って再び出かける。
「……予定変更、尾行するか」
「その方がおもしれぇ」
「賛成ですわ」
そしてカズキの後をついていく三人。
街とは正反対の山へ入っていく。
藪を掻き分け、野原を越え山頂を折り返しついた先は授業で使っている川だ。
「いつもの場所ですわ」
「やけに遠回りだったな」
そこでは水着姿のリュークが泳いでいた。
「なんだ修行か」
「そんな所だと思ってたぜ。帰ろ帰ろ」
川は激流なので水浴びには適していない。どう考えたって修行だ。
「待ってくださいまし、あれはなんですの」
ノアが指さすほうには、木で出来た小さな小屋と人が数名入れる穴には川から水を引いていある。
「あんなのあったか?」
「休憩スペースだろ」
「カズキがなんかやってるぞ」
その近くで石を組んで釜戸をつくり、木で椅子をつくっている。
「本当に修行か?」
「キャンプでもすんじゃね?」
「夕方には帰ってくるといっておりましたわ」
「じゃあなにやってんだあいつ」
「知りませんわ」
そのまま観察をしていると、作業が終わったカズキは服を脱ぎ水着姿へとなると、川へ飛び込みリュークの元へ泳ぐと手を掴み陸へ上がらせる。
「なにをするんだ」
「あ、じゃんけんしだした」
「カズキさんが負けましたわ」
「ザコいな」
負けたカズキはお手製の椅子に座り、袋から食材と調理器具を取り出しテーブルに並べると、淡々と調理に取りかかる。
「あら?お料理ですの?」
「もう昼飯か」
「まだ時間がはやいだろ」
「なにしてるの?探偵ごっこ?」
となりからひょっこりと現れるリュークに驚きの声を上げる。
「うお!?いつの間に」
「ついさっきだよ、皆の姿が見えたから声かけちゃった」
「いえ、山へ行ったので気なったのでつけたのですわ」
「なにやってんだこんなとこで」
「サウナだよ」
「さうな?」
「知らない?ネーシャルムーン発祥の蒸し風呂」
「蒸し風呂?よけいわからん」
「見ればわかるよ」
「おお、なんだまだいたのか」
カズキも気づいていたのか手招きをする。
「気づいてたんかい」
「そんなもんよ」
「折角だ、入ってけよ」
「しっかし、こんな建物造ってよ。レイカ先生にバレたら怒られるぞ」
「うわっ暑ッ」
「おい……はやく閉めろ」
灼熱の空間。頭に被せたタオルから不気味な眼光がこちらを睨む。
水着姿のレイカ先生だ。
「ゲッ」
「はやく閉めろ。熱が下がる」
バァンとすぐに閉めるジェルマン。
「なんでレイカ先生がいるんだよ」
呑気に大鍋に食材をぶちこんでいるカズキを揺さぶるジェルマン。
「なんでって、造る許可を得るために話したからな」
「はやくいえ」
「聞いてこなかったら話さないだろ。レオンそれとって」
「飯はまだか」
サウナから出てきたな汗だくのレイカ先生。
「今やってますよ姐さん」
「先生と呼ばないか!」
カズキにデコピンする。
「いてぇっすよ。出たから早く川入ってくださいよ」
「ったく、お前らも休日ぐらい休め。休息も修行だぞ」
そういうと川の方へと歩いていく。
「いつの間につくったんだよこんなの」
「合宿前からつくったよ」
「合宿後に久々に行こうとしたらこのバカがついてきてな」
「サウナの一人占めは許されないよ!死刑執行万死に値する」
プンスコ怒るリュークの頭をペチペチ叩くカズキ。
「やめい」
「そんなにいいもんなのか?熱いだけだろ」
先程入ったが、あんな熱気が立ち込った部屋にいるなんて信じられない。
「理屈はわからないが体が良くなるんだよ」
「意味わからん」
身振り手振り説明するが、全く通じない。そもそも説明してる本人がわかってない。
「入ればわかる。そうだろ?」
「もう上がったのかよ」
「そんな長く入れるか。ご飯が出来たら起こせ、私は寝る」
川で冷やしていた酒瓶を片手に、カズキが渡してきたタオルで体を拭きながらハンモックへ向かう。
「了解しました。さて、俺もサウナ入ろうっと」
釜戸に火をつけると鍋を乗せる。
「入るんだ」
「当たり前だろ!俺が入る為に造ったのに俺が入れないなんて理不尽あるかい!」
とんでもない発言に若干キレ気味に声を上げる。
「入りたかったら水着もってきな、夕方までここにいるから」
「お先に!」
「あ、まてこら」
カズキを差し置いて入るリューク。それを追うように入るカズキ。
「急に親密になりすぎだな」
「んじゃあ行くか」
「どこへ」
「どこって、水着取りに行ってくる」
「………」
てことで、水着を手取りに寮へと戻る。
「おー、戻ってきたか」
「どんなもんか試してやるよ」
「それより、うまそうなもん食ってるな」
「おう!やっぱサウナの後はカレーだよな!」
「いい感じにスパイス効いてて旨い!」
「っかぁ。この辛さ酒に合うぞ」
「マジ倒れないでくださいよ。しっかり水も飲んで」
「カレー?知らない料理だな」
「バウナの郷土料理だ。滅茶苦茶うまいぞ」
「バウナってあの幻のリゾート地か」
バウナ、クイナ、ヒノモト、ネーシャルムーン。この四つの島は秘境四島と呼ばれる行くのが大変難しい幻の島なのだ、中でもヒノモトが一番難しく、次にネーシャルムーン、バウナ、クイナとなっている。
「悪いがお前らの分はないが、サウナ楽しんでる最中になんか作っておいてやるよ」
「助かる」
「んじゃあサウナ楽しんで」
「おい、どうやって楽しむんだよ」
「まずは水を飲みます。サウナ入ります。極限まで体を暖めたら川に入ります。体が冷めたら体を拭いて椅子に座って風浴びます。なんか体がよくなります。喉乾いたら水を飲む。を何回かやるだけ!!最低三回な!無理するな」
と大雑把な説明を受けた。取り敢えず実行する。
「あっぢぃ」
「わ、私はもう限界です」
「わたくしもですわ。一緒に出ましょう」
汗だくのルリーとノアは灼熱の部屋から出ていく。
「まだ数分しか経ってないぜ。だらしがない」
「熱い熱い言ってる癖になかなか粘るな」
「はっ、何事も苦しくなってからが本番だからな」
「そうか。だがこれの何がいいのかわからんな」
体からは溢れんばかりの汗が吹き出している。こんなに汗かくのはなかなかない。
「まだ始めたばかりだぞ」
「だが温泉と違い苦しいだけだ」
「それもそうだな」
「修行じゃないし、楽しんでいこうぜ」
「だな」
しばらくして限界がきたので外へ出て川へ飛び込む。
「うっわ、冷た」
「心臓止まるぞこれ」
急な温度差で心臓がバクバク動く。本当に体にいいのだろうか。
「うおぉ、冷たくなってきた。上がろ上がろ」
「そうだな」
体が冷え始めたので上がってパパっと体をタオルで拭くと、先に上がっていたルリーとノアがほぼ横になっているといっても過言ではない椅子でくつろいでいる所で向かう。
「うわぁ、なんつーだらしない顔してんだよお前ら」
そこには気持ち良さそう横になっている二人。なんとなく顔がとろけているようにも見える。
「あら、きたのですね」
「そうだよ、どうだ?気持ちよくなったか」
「なんでしょうかこの感覚。体の内からぽかぽかしだして、なんだか悪いものが抜け調子が整ったかのようなこの気分」
「なんだそりゃ」
「お二人もやればわかりますよ」
「じゃあ退けよ。その椅子二つしかないんだ」
「嫌です。レオンさんを見習って地べたに横になってください」
「っく。このやろう」
「野営で慣れてるのでしょ?」
「慣れても、好きじゃねぇよ。ったく」
レオンの隣でゴロンとよこになる。小石がいてぇ。
「風が気持ちいい」
「だな」
「こんなにゆっくりなのは久々だな」
「そうだな」
毎日毎日強くなるために飽きもせず鍛えつづけている。
嵐のような日々を過ごしているのだ、こんな静かなのは久しぶりだ。心が和み洗われてる気がする。
「たまにはこんな日もあっていいのかもな」
「俺達に足りないことかもな」
「青春ってやつか」
「血と汗しかない青春があってたまるか」
「俺の幼少期はそうだったぞ。今は違うけど」
大きな獣を担いでやってきたカズキ。
「お前は生い立ちが違うだろ」
「そういや神様との修行はどうだったんだ?参考に聞きたい」
神という本来なら会う機会すらないのに稽古をつけてもらっているという滅多に無い経験をしているカズキ。
誰だって興味はある。
「カセン様ともう一人の神様にも稽古つけてもらってたしな。あと他の神々とも手合わせしてたし、語るには時間が無さすぎるからまた今度」
「じゃあ神伐隊はどんな感じだったんだ?」
「常に死との隣り合わせだったな。日に日に周りの戦友が消えてくのはどうしようもない虚無と己の非力さに打ちひしがれたもんだ」
俺一人が強くても意味がない。チームってものに悩まされたが感動もした、俺の人生の節目だった。
「お前の所の隊員も死者が多かったのか?」
「まさか、俺の隊員に戦死者はいなかったがな!」
「そういやお前といると必然と強さが上がっていくんだよな」
「俺もまさかここまで強くなれるとはな。しかもこの短期間で」
カズキと出会ってから異常なまでの急成長を遂げた。なにより、未知や痛みへの恐怖が薄れ、勝利への執着が高まっている。
「それはお前らの努力によるものだろ。あんま過剰評価しないでもらいたい」
短期間で優秀な神威使い、獣人や魔物、悪魔、神伐隊の隊員と戦いその経験を吸収し消化させている。
それだけ本気なのだ。そして体現できているのは覚悟の現れだ。
「肉捌いてるからもう少しサウナ楽しんでおけ」
「そうさせてもらう」
「よっしゃ!もっかい入ろう」
そういって灼熱の空間の中へ身を投じる。
「神伐隊か。あいつら元気にしてっかな」
かつての仲間の事を思いながら獣を捌きはじめる。
「ルミスさんはアニマニアに来ていましたよ?」
横になっているノアがいってくる。
あの後でアディラからおおまかだが、ルミスの話は聞かせてもらった。カズキが隊長を務めていた九十九小隊の副隊長にして各番の隊長にも引けを取らない実力者であることも。
「聞いたよ。俺いるの知ってて挨拶無しとは相変わらずだよ」
だいたいの奴らが懐かしがってくるのに、あいつと来たらいつも通りなんだもんな。まぁ俺もいつも通りの接し方だったか。
「またファロンにも会えんかったし。まっ、剣舞祭で会えるか」
「ルミスさんってそんなに凄い人なんですか?」
ルリーも聞いてくる。
「おう。タイマンでまともに俺と殺し合える数少ない奴だ」
「そんな人間がいるんですね。本当に人間?」
何者に対しても圧倒的力で蹂躙するカズキ。そんなやつと対等に戦える人間なんて存在するのだろうか。
「しかも隊長じゃないのが恐ろしい所ですわ」
「神装化は使えるけどな。まっ、無くても充分強いがな。なんせ信用できる俺の相棒だ、右腕とも言うか」
「カズキさんがそれだけ言うのであれば要注意人物としてマークしておきますわ」
「各国の出場するメンバー全員要注意な気がしますけど」
話を聞く限り今回は今までの大会とは違い異様な面子を揃えてきているようだ。
「関係ない。まとめてぶっ飛ばすだけだ!」
捌いた肉を豪快に串刺しにして焼きはじめる。
「実にカズキさんらしいですわ」
「そういやルリーさんの願い事ってなんだ?」
「え?私の願い事ですか?」
「気になってさ。あっ、無理して話さなくていいんだよ、俺もあんまり言いたくないし。野望は胸にってね」
「なんですかそれ。私の願いは野望とかそんなんじゃないですし………で、でも今は言いたくありません」
「そっか。明確な願いがあるのはレオンくらいか」
「そ、そうですわね」
「あれ?ノアさんはないんですか?」
「まあまあ。あのアルバートン領土主の娘のノアさんだぜ?優勝の名誉が欲しいんだよ」
「その通りですわ。願い事は叶えてもらうのではなく掴み取るものですわ」
「なんか、ジェルマンさんと同じ事を言ってる気が」
「あんな蛮族と一緒にしないでくださいまし!」
「類友ってやつだな、」
「うおー肉の匂いだ」
「腹減った、はやく食わせろ」
いい匂いに釣られてサウナから飛び出してくるレオンとジェルマン。
「はやく川入って外気浴しとけ。その間に焼ける」
「それもそうか」
「はやくはいろうぜ」
そういうと川へ飛び込む二人。
「さて、この肉食べたら帰るか。明日から授業始まるし」
「うっ、動悸が」
「剣舞祭も近いですから、気持ち切り替えていかないとですわ」
「果たしてどんな猛者が出るか。楽しみだな」
「予想も付かない波乱になるかもしれませんよ」
「それはそれで楽しそうだがな」
雑談を交えたサウナと食事を楽しみつつ珍しく休息な一日を過ごしたのであった。
つづく