ガシャアアァンゴロゴロゴロドガアァン。
それは会合中の出来事であった。
突然壁が突き破れ勢い良く転がり円卓にぶち当たる血塗れのカズキ。
何事だと皆戦闘態勢にはいる。
一体誰がこんなことを、あのカズキをこんな姿になるまで追い詰めたのだろうか。
それだけで背筋がゾクゾクする。
「うっ……うぅ、ぐ」
痛みに悶え横へ倒れ蹲るカズキ。体には腹部に二本の剣が、肩から腰まで縦に刀が突き刺さっている。
前には血塗れの白いワンピースに腹部に黒のベルトを身につけた少女。
美しい金色の長髪をなびかせながらゆっくりと歩み寄る。
その海より深いアイスブルーの瞳は見つめるもの全てを凍てつく程冷たく鋭い。
そのカズキを負け犬を哀れむかごとく見下ろす少女。
(ここまで実力差がつくとは、このままだと死(負)ける)
「くそっ、があぁぁ」
手足が動かない。骨が折れている、知ったことか。
動け動かすんだ、立って戦え!
「っああああああっ!!」
痛みをこらえゆっくりと立ち上がり体に刺さっている刃物を抜き捨てる。
息が定まらない、体全身で呼吸をしているようだ。
傷口から血が流れ血溜まりができる。出血で目が霞んでいる。
臓器がほとんど傷ついてる。骨もほぼ砕け使い物にならん。
痛みや感覚すら徐々に消えてきてる。
「俺を……この俺を誰だと思ってやがる。俺はカズキだイオリ・カズキだ!絶対のカズキだ。天地魔界の総大将にしてこの世を破壊する覇王だ、この俺が」
それがどうした。息が出来ないならしなければいいどうせ肺は使い物にはならん。骨がイカれてるなら筋肉で補え、軟体動物でも出来るんだやれ。目が見えないなら気配を感じろ、全て滅ぼせ。
意識が遠退くなら己を鼓舞しろ闘志を燃やせ。
辛いなら笑え死を楽しめ。
「この俺が負ける訳にはいかないんだ……負けてたまるかあああ」
今まで積み上げてきたものの為に、俺が殺してきた奴らの為に、俺を信じ付いてきてくれた者の為に俺は負けられないんだ。
使いたくはなかったが、使うしかない。
こうなる事は最初からわかってたじゃないか。なら覚悟を決めろ、これしか勝つ手段はない。
「鬼神こグハッ」
両拳を強く合わせ力を溜める。
完全に溜まりきる前に少女の上段蹴りの前に崩れるように倒れるカズキ。
完全に白目を向いてる。微かに呼吸はしているので死んではない、気絶なのだろう。
「強さも弱さも全部受け止めてあげる。大好きだよカズキ」
倒れるカズキを抱え上げギュッと抱き締める。
「すま、ない。 すぐ 出ていく」
そう言うと何事もなかったかのようにその場からゆっくりと歩みだす。
遡る事十数分前。
大広場ではある事が騒ぎになっていた。
「おい、あんな美女いたか?」
「さっきお前デブとか言ってなかったか」
「言ってない!告白してくる」
後ろで縛った長髪に大人びた顔付きは見る者を引き込むほどの美貌を持つ少女に視線が集まっている。
美しさ以上にその威圧感なオーラに注目が集まっていた。こいつとは関わってはいけない、そう悟ったかのように周りにいる猛者達を退け自然と避け通り道を作る。
「すまない。 さっきいた 男 知らな、いか」
親しげに対談しているジェルマンとバッドに声をかける。
「わ、ワルキューレさん!?お疲れ様です」
「そんな 固く、ならないで」
直立不動の姿勢を取り敬礼をするバッドの肩を軽く叩く。
「カズキならあそこで静に社交ダンス見てるぞ」
それとは裏腹に楽な態度を取っているジェルマンはカズキの居場所を指さす。
「!?」
「浮き沈みが激しい奴だな、あんまり関わらない方がいい」
「ジェルマン 久しぶり、だな」
「名前覚えてもらってるとは光栄だな」
ワルキューレとは過去に一度だけ戦い圧倒的力の前に破れたジェルマン。
その時以来面識はなかったので覚えてもらっているとは思ってなく意外そうな表示が浮かぶ。
「強く、才能、あった。世界見て 強く、なったか?」
「まだまだお前には勝てる気はしねぇよ」
「そう、か」
「んでカズキになんの用だ?」
「問いただす」
「は?」
「カズキはオレのもの。オレもカズキのもの。 理由もなしに、破棄は許さない」
「どういうことだ」
「オレはカズキの婚約者」
首につけてある赤色のチョーカーを手に触れながら頬を赤らめる。
「初耳……じゃないな、なんかそれらしい会話があったからな」
「まさか、ワルキューレだとはな」
「はぁ」
「なに耽ってるんだバカタレ」
テーブルに突っ伏するカズキの頭を叩くジェルマン。
こいつの挨拶はいつも手からなんだよな。
「なんだジェルマンか、見ろよ」
いつもの事なので大した突っ込みも入れずに接するカズキは、うっとりした表情で中央で踊っている集団を指さす
「美しいな、俺もあんな風に踊りたいよ」
その集団にはノアとルクスの組も踊っており、妖精と見間違えるほど華やかで気品が溢れていた。
その踊りにカズキは見い入っていたのだ。
「ただの踊りじゃねぇか」
特になんとも思ってないジェルマン。
「お前には感性というものが無いのか、感性で生きているような奴なのに」
「なんだと直感野郎が」
「いいのかジェルマン。ノアさん取られるぞ」
「関係ねえよ」
「硬く結ばれた二人の愛は引き裂かれないってか?」
「……そういうお前はどうなんだよ」
「ん?どういう事だ?」
いつものように照れながらぶっ殺す!とか言わないから不審に思う。
「おいバッド」
「こちらです」
バッドに案内されやってきた少女。
それを見た慈愛に満ちた表情を浮かべるとカズキはゆっくりと立ち上がり近づく。
一目見てわかった。八年前と姿形は変わってしまったが核心的部分は何も変わってない。
腰にぶら下げた刀の鞘を強く握りしめる。
俺の愛しき人にして、最大の……
「久しいなキューちゃん。死に合いしようぜ」
最大の敵!!
「そう 焦らないで」
刹那の抜刀。しかし、ワルキューレは指で摘まんで止めてみせる。
「すまないな、イオリ家は血気盛んだからよ。好敵手がいると滾ってしょうがない」
カズキのあの目、冷たく人を殺す本気の目をしている。
(自らあの目をするとはな)
あいつは今全力で戦おうとしているのを一瞬で理解したジェルマン。
「やはり出場してきたか」
「カズキ 出る なら、出たら会える」
「俺の狙い通りだ。これなら絶対会えると思ってた。さあ殺し合おうぜ」
「せっかち でも好き」
カズキの腹部を蹴り、大きく後ろへ飛ばす。
「ありがとう。俺も好きだ」
床に足をつけ踏みとどまる。床には摩擦で出来た二本の火の線が出来ている。
「またカズキが騒ぎを起こしてるぞ」
「隊長達もいないのに、誰がとめるんだよ」
「あれは……誰だ?」
「これ以上の騒ぎは許さない」
再びざわめき始める。どんなに上品に接しても神威使いにして戦士達だ、内心では血気盛んな奴らが多いので戦いが起これば波紋のように広がり大乱闘となるだろう。
「二人とも落ち着いてください」
この騒ぎにロットとルクスの二人が駆けつけ仲裁に入る。
「白の旅団風情が、俺とキューちゃんの間に入ってくるな。滅ぼすぞ」
「ですがカズキさん。ここで争い事は」
「ルクス、いくらルミスの弟だからって容赦はしない。ワルキューレは俺の得物だ!邪魔するならお前らから滅ぼす」
「ワルキューレさんも、カズキとやるだけ怪我しますよ」
カズキは言うことを聞いてくれないと諦めると、ワルキューレの方を説得する。
「暴れたいなら俺が相手してやるぜ」
「くくくくっ、お前らがキューちゃんの相手をするだと?笑わせるな、俺ごときを最強言ってる世間知らずが勝てる相手じゃない」
ロットの発言に手を叩き大いに笑うと、冷めきった表情で呟く。
「お前は勝てるのか」
「バカ言え勝つんだよ!……だが、語るに恥じるが今のところ全敗だからな」
今まで数多くやりあってきたが、良いところで引き分けで他は負けだ。
「なっ。だが八年前の話だろ」
それは衝撃の事実。
だがそれは八年前の話、今は比べ物にならないくらい強くなっているはずだ。
「ワルキューレが八年も普通に過ごすと思うか?」
あれ程の猛者だ。ただ闇雲に年月を過ごす訳がない。
「俺が八年かけ強くなったのに、あいつが強くなってない訳がない。お前の国最強なんだからわかるだろ」
「……そうだな」
かつてテラ、クニヨシとともに肩を並べ猛威を振るったあのクラウザー大将軍の娘だ。
発想も考えも何もかもが常識から外れていると聞く、そんな奴が普通に過ごす訳がないのは明白だ。
「俺はワルキューレを倒す為にここまで強くなったんだ。負けはしない」
血反吐を吐くほど修行し、休む暇を惜しみ常識外れの時間を鍛練に当ててきた。
「ワルキューレに勝って初めて俺の努力は報われる」
この強さ、この技術。それは全てワルキューレに勝つ為に培ったものだ。ワルキューレだけのためにだ。
だから今までの戦果はただの過程にしか過ぎない。魔界最強を倒しても、破壊神を破壊しても、世界を救ってもだ。何も知らないお前らから言われる『最強』という称号は不服であり汚名だ。
ワルキューレに勝ってこそ、この強さに意味があるのだ。
「てことで、今は全て忘れて俺と勝負しろワルキューレ」
「いいぞ 昔みたいに 捻り潰す」
「そうはいくかよ。はあああ」
目元に紅色の隈が浮かび上がり、髪が一気に逆立つ。迸る稲妻や炎を連想とさせるオーラは他の追随を許さない圧倒的威圧を放っている。
先程まで騒いでいた声も静まり、初めて見た者はその力の前に恐れおおのく。
「いきなり全力か!?」
はやくも戦禍乱状態になるカズキを見て、そこまでしないと勝てない相手なのだと悟ったと同時に勝負を焦っているようにも見えた。
「チェストオォーーッ!!」
刀を大きく振り上げると一気に振り下ろす。
キイィィンと甲高い音が響く。
ワルキューレは二本の剣で防ぐ。
「銃剣(ガンブレード)か、ドルツェルブらしい武器だ」
その剣は先端が枝分かれしており、その間から弾を放てる仕組みになっている。
「これは 師匠に 造ってもらった」
「なるほど、クニキリで斬れない訳だ」
「ふん」
カズキを後ろへ弾くと、二本の剣による猛攻はまるで乱舞のように荒々しい。
「くっ」
距離をあけるカズキに対して剣先を向けると、レーザーのような弾丸を連続で放ってくる。
「ただの弾じゃねぇな。気を練ってやがる」
となれば弾切れはほぼあり得ない。撃ち合いになった場合、ワルキューレは制御部がある分エネルギーや集中力の消耗は少ない故に負ける確率が高い。このまま接近戦にもちこんでもペースは相手のままだ。
「逃げてる だけ」
「うるああ」
ワルキューレの呼び掛けに応じるように猪突猛進的に突撃する。
「単純 故に 好き」
再び刀を降り下ろす。ワルキューレも受け止める姿勢になる。
今度は当たった瞬間に刀を手放し、下へ潜り込む。
「噴破ッ!!」
持てる限りの力を込め全力で腹部を殴る。
内部に直接衝撃を流す方法で殴った。これで骨や臓器はおろか腹部が弾け飛び体が真っ二つにわかれるはずだ。
「……………」
しかし、ワルキューレは平然としていた。
「想定内だ」
続けて攻撃に移ろうとするが、腹部に二本の剣を刺される。
「ぐっ」
怯みはしたが、すぐに攻撃に移るが先程手放した刀を空中で手に取るとカズキの肩から腰まで真上からぶっ刺す。
切れ味が良いせいで、肉や骨をものともせずすんなりと突き刺さる。
続けて足を蹴り、体勢が崩れた所で顔面を上段蹴りで後ろへ大きく飛ばす。
テーブルや椅子に激突し埋もれる。
「お、おいおいカズキがやられてるぞ」
「夢でも見てるんじゃねぇのか俺達」
「あの最強が、手も足も出てない」
「無敵か……奴は……無敵だ」
存在するだけで周囲を圧倒していたカズキを一方的に蹂躙しているワルキューレの強さに恐怖する。
最強ですら相手にならない、まさしく敵無し、無敵だ。
「ふざけるな。この世に無敵な奴なんかいないんだよ!」
勢い良く立ち上がるカズキ。纏うオーラは怒りで燃え上がりテーブルや椅子は一瞬で灰となる。
「こい!今度は俺が受け止めてやる!」
両足を強く踏み込み両手を大きく広げる。
「ドラゴンナーガ」
龍を連想させるエフェクトを纏った掌底が胸部に当たる。
「ッッ!?」
そして今に至る。
「何事だ」
軽装な甲冑を身につけた筋骨隆々の大男。
部屋では戦闘体制に入った者達がワルキューレを囲っている。
「ワルキューレ、どういう事だ」
ボロ雑巾のようなカズキを抱えている返り血で真っ赤なワルキューレを睨む。
「父さん。カズキ 手に入れた もうオレのもの」
「さすがは私の娘だ。クニヨシも悔しがろう」
ワルキューレの父、クラウザー・ビスマルク。かつての大戦で名を轟かせた武人。
逆立った金髪やアイスブルーの瞳、そしてこの重厚な威圧感はそっくりである。
「だがな。ここは各国の王族達の集い、それを邪魔し我が祖国の面目を潰したのだ。それ相応の覚悟は出来ているな」
「わかった」
瞬間。
凄まじい勢いでワルキューレに近づき、おでこを人差し指で弾く。
「ふっ。これくらいで勘弁してやろう」
ワルキューレを見て少しだけ広角を上げると、愛しそうに頭を撫でてる。
「イオリ家にとって敗北は死より重たい。切腹して勝手に死なれては困るからな、常にカズキの側についてやるといい」
「ありがとう」
ワルキューレが部屋から出ていくのを見届けると周囲を睨めつけながら一言発する。
「この場は私の顔を立ててもらおう」
その威圧は既に全盛期を過ぎたにも関わらずにこの場にいる者達を黙らせる。
「随分と甘いんだな、あの熱壊王がここまで衰退したとはな」
ゴランが呟く。
「当然だ。私と妻のこの世でたった二人しかいない娘達の為なら再び武人になろう」
「どんな者でも子が一番か」
「陛下、先程の無礼を」
「良い。ワルキューレの強さを見せつける良い機会だった、これでしばらくは平和が続くだろう」
クラウザーの言葉を遮りるクリス。
仮にも世界から最強と呼ばれていたカズキを一方的に蹂躙する姿を見せれば誰もちょっかいを出す気にはなれない。
「それに見事だったぞ。ワルキューレとカズキを二人っきりにさせる口実もつくって、これで関係が進展すればいいな」
「そうですな」
二人の行く末を見守る二人。
そんなことは知らず、たった今起こった衝撃な現実に唖然とするしかなかった。
「あのカズキがこんなに簡単にやられるなんて」
「広すぎるぜ世界。こんな強い奴がいたとはな」
カズキがやられる一部始終を見ていたレオンとジェルマンが口を開く。
「お母さんは強いからね。当たり前だよ」
その隣で山積みのステーキを頬張っているヒメギが言う。
「ヒメギ、知っていたのか?」
「うん。何回か稽古つけてもらったけどお父さんの比じゃないね」
「そうか、強いのか」
「まだまだ力を出してないから序の口だね」
今でさえ強いのにまだ力を隠し持っているとなればら絶望的である。
「おもしれぇ。剣舞祭が楽しみでしょうがないぜ」
「あぁ、カズキを超える猛者がいるなら願ったり叶ったりだ」
だがこの二人は逆に燃え上がっていた。なんなら最強と認めざるを
得なかったカズキが負けたってことはカズキに勝つことは可能という事が証明されたからこの世に無敵な奴なんかいないという事だ。
戦いようには勝てるぞおい!努力すればいけるぜおい!
「よっしゃ修行しようぜレオン」
「おう。こんな所へ居ても強くなれねぇぜ」
「待ちなさい」
外へ行こうとする二人の前に立ちふさがるノア。
「なんだよ人が楽しくなってきたってのに」
「燃えてきたぞ!」
「はぁ、まずはカズキさんの怪我の具合をみましょう」
まずはカズキのお見舞いをしようという。
「怪我?あいつは死なないだろ」
「不死身じゃなかったっけ?」
「あのですね、あれでも一応人間なのですわ。……多分」
あの程度なら心配しなくてもいいんじゃないか?気絶程度だし。
と大して心配しない二人を咎めようとすが、ノアもそんな気がしてならないので強く言えない。
「確かに生存確認くらいしてやるか」
「負けてどんな顔してるか拝んでやるか」
「なんて悪い性格をしてるんですの」
「ところでルリーは?」
「ルリーさんでしたらあそこでルーンブラッドの方とお話をしておりますわ」
指差す方へ視線を向けると、なにやら楽しそうに雑談している様子。
「……なんか、誘いにくいな」
あんなにハキハキと喋っている姿は珍しくジェルマンですら話しかけるのに戸惑ってしまう。
「久々の同郷の方と話してるのですから、そっとしておきましょう」
「俺はアニマニアの代表は知らない奴らだから話せなかった」
秘境で暮らし若くして出稼ぎにアニマニアを飛び出したレオンに知り合いは少ないようだ。
「友達なしかよ」
「本来剣舞祭に出れる人は限られてますので、その方と知り合いというのが珍しいのですわ」
ノアやジェルマンは貴族の生まれで顔は広いが、一般のレオンが顔を広げるにはそれなりの苦労が必要だ。カズキのように実績を残して世界を暴れ周ったりすれば別だが。
つまり、剣舞祭の代表メンバーと面識があるルリーはすごいってだ。
「ルーンブラッドでは有名ってことだろ」
「俺も有名になりたいな」
「剣舞祭優勝して有名人になるんですわ」
「そうだな」
などと話しながらカズキがいるであろう医療室へと向かう。
「そう言えばリュークさん見かけてないですわね」
大広場に入った所までは一緒だったが、それっきり見ていない。
「いつもの事だろ。またぽっと出てくる」
「カズキ以上に不気味な奴だ、大丈夫だろ」
「まったく、リュークさんも可愛い女性なのですよ。少しは心配してほしいわ」
ノアに言われるまでは気付きもしなかった二人に頭を抱える。
これがカズキと他との扱いの違いである。
医療室
「カズキ あーん」
「自分で食える」
全身包帯でぐるぐる巻きのカズキ。とても自力でご飯はおろか、移動もできない状況である。
それなのに、近づけるスプーンに対して頑なに口を開かず食べるのを拒否している。
「腕折れてる」
「折れても箸は使えいででで、握るな折れてるんだぞ」
ギプスで指先すらもみえてない手でどうやって箸なんか使えるのだか。
そんな意地っ張りなカズキを見かねて腕をそっと握る。
それがまた痛い。
「じゃあ あーん」
激痛に悶えるカズキに再びスプーンを向ける。
もう強がりなど無意味。
「あーーん……」
観念したのか、大口を広げパクっと一口頬張る。
「元気かーカズキー」
「んんんんっ!?!?」
医療室のドアを開けるとこれ以上にない程の幸せな顔をしたカズキがワルキューレにご飯を食べさせてもらっていた。
つづく