「……あーー、お邪魔だったかな」
「カズキさんも隅に置けない方ですわ」
「……あーん」
三人を前にして、見なかった事にして再び食べ始める。
「あ、開き直った」
「自棄糞(ヤケクソ)になったな」
「うるさいうるさい、来るのがはやいんだよ」
ベッドの上でバインバインと羽上がるカズキ。
「お前の事だから復活も速いってわかってんだよ頑強野郎」
「随分とわかってるじゃないか。俺の事好き過ぎだろ」
「オレの方が知ってる。 オレの方がカズキ好き」
「熱々だな。お邪魔みたいだから失礼するよ」
「カズキ」
「その事なんだが」
「ちょっと待て、なんで名前だけで会話出来るんだよ」
「思い人なんだからそれくらい当たり前だろ」
「別れようって言ったのに」
「そうだ。俺はキューちゃんと別れたい。理由も教えずにだ」
「なんで 教えて、くれない の」
「理由を言ったらお前は絶対に関わってくる。それだけは嫌なんだ」
「関わる?」
「俺にはやるべき事がある。それが終わって自分勝手な俺を許してくれるならもう一度、一からやり直してほしい」
左手で頬をポリポリかきながら言うカズキ。
「じゃあ その時まで待つ、よ」
「ありがとう。約束だよ」
カズキとワルキューレ、小指と小指を重ね強く握りる。
「懐かしい、な」
「そうだな」
「なんだそれ」
何かのまじないなのだろうか。とりあえず聞いてみるジェルマン。
「ヒノモトの約束をかわす時にやる奴だ。破った方には全部の指切って拳で一万回殴られ絶命する」
「こわっ」
さすがヒノモト、狂ってやがる。
「それくらい約束は守りましょうってことだ」
「二回目 カズキ、嘘ついた」
「腹を切ろうか?敗北もしたし、嘘もついたしで俺は構わんが」
ちょうどいい感じに生き恥を晒しているからな、切腹にはもってこいの状態だ。というか今すぐ死にたい。
腹を手刀で切る動作をしながら生き生きと言う。
「ダメ 生きて」
ギュッと抱き締めるワルキューレ。
「んもう可愛いんだから。その優しさを大切にな」
そんなんされたら死にたい欲が消える。
ワルキューレの頭を骨が粉々の手で撫でる。
「あとは寝れば完全に回復するからもう大丈夫だよ」
「ダメ 今日 一緒に 寝る」
頬を赤らめながら言うワルキューレ。無表情でクールな彼女が表情を崩し、恥ずかし気な仕草をする乙女な姿にときめく。
ガシャアァン。
その瞬間、カズキは窓を突き破って逃走を試みた。
考えるより先に体が動く本能的行動、あの場にはいられなかった。
着地。
グシャン。
「いっでぇ!!骨粉砕してるの忘れてた」
治りかけてた足の骨達が再び崩れ落ちるのがわかった。めっちゃ痛いってもんじゃないよ。
その場に倒れるも、すぐに立ち上がり走る。
今が正念場だ、頑張れカズキ!と自身を鼓舞する。
「むっ!?」
その道中で二人の少女に出会う。
「イザベラ隊長じゃないか、久しぶり!ではまたな」
黄金の髪を持つ麗しい少女に対しては今は話す余裕がないので、軽く会釈をして終わらす。
「アリスさん、ちょうど良かった。すまないこの怪我治してほしい」
もう方方の母性みが溢れるシスター姿の女性を見るや立ち止まり、助けを乞う。
「カズキ」
「くっ、もうこんな所まで。また後で挨拶にいきます」
背後から聞こえるワルキューレの声。もうここにはいられない。
走り出そうとするカズキ。だが、片足のアキレス腱に氷でできたナイフが突き刺さる。
「ぐぬあ!?」
足に力が入らん。再生しようにも氷のナイフが溶けなくて不可能。
直ぐ様ナイフを抜き捨て、怪我部分に気を当て集中し治癒力を高める。
ダメだ、間に合わない。つかまる。
「逃げちゃ ダメ カーくん」
捕まった。
服の襟を捕まれ引っ張られる。
回転し、ワルキューレの方を向くと両手で抱き締めにかかっていた。
一瞬の判断。数少ない逃げ方を予想してみる。
後ろへは逃げれない。上へ飛んでも捕まる。しゃがんで潜り込んでも捕まる。逃げ場がない。
こうなったら、これしかない。
その手を掴み合わせ、力比べの体勢になる。
「か、カーくん!?」
それより、さっきカーくんとか聞こえたが気のせいだろうか。
「可愛い 呼び方」
「その呼び方はキツイよ、ワルキューレさん」
そんな呼び方されたらたまったもんじゃない。
こっちも呼び方を変えて、イーブンにしてもらおう。
「……嫌 キューちゃんがいい」
力を込めカズキを後ろへ後ろへ押す。
怒っている。相当嫌なのだろう。
「カーくんなんて、恥ずかしいわ!」
負けじと力を込めて抗う。
身体中の全てを使い出し惜しみ無しのありったけの力、フルパワーで押しす。
(びくとも、しねぇだとぉ)
「大丈夫 馴れる」
「馴れてたまるかあああ」
体から発火し巨大な火柱を造り上げる。
それを呑み込むようにワルキューレから冷気が吹き出し凍てつかせる。
「氷たぁ師匠の真似事か」
「お互い様」
「やめないか。決闘は禁止されている」
この状況を見かねてイザベラが止めにはいる。
「バカコノテメェコノこれが決闘に見えるか。ただの蹂躙だ、助けてください」
自身を発火させ凍りつくのを防いでいるが、それも時間の問題だ。
いくらヒノカミが強力でも使い手の体力が無ければ、使いこなす技術が無ければ意味はない。
このままじゃ危ないので仕方ないが助けを求めみる。
「あらあらワルキューレさん、お久しぶりです」
「アリス 久しぶり、だな」
シスター姿の女性アリスが話しかけてきた事で力が緩んだ。
その隙に手を振りほどき、距離をとる。
「ありがとうアリスさん」
「私はただ挨拶をしただけですよ」
「アリス カズキを こっちに」
「カズキくん、ワルキューレさんはカズキくんの為に色々とやってくれてるんですから、期待に応えないとダメですよ」
めっ!と怒るアリス。
「なっ!?アリスさんまでワルキューレさんの味方をするのか!ひでぇやひでぇや」
それに対して駄々をこねるように反論するカズキ。
「アリス、知っていたのか?」
ここでもう一人の少女イザベラが会話に混ざる。
「はい。カズキくん自身の事を色々と話してくれましたから」
「なに!?そんな仲だったのか」
「そらお前、信頼がものを言うんだぞ。隊員達やボスでも知らない事を知ってるからな、何かあったら真っ先に滅ぼさないと」
「一体どこでそんな仲になったんだ」
「負けた時からかな、アリスさんなくして今の俺はいないからな。感謝感謝だ」
「皆と仲良くしないとダメですよ」
「勇者様には恐れ多くて近づけませんわ。あと堅物は好きじゃないんでな、俺とは相反する仲だし普通だよ」
「………」
「んじゃあ、そう言う事で」
トコトコとその場から歩き出すカズキ。
「……カズキ」
ワルキューレの一言で背筋がゾクッと凍りつくほどの寒気が走る。
足の怪我や骨は治った。今なら……
「逃げろ」
自身を雷にし移動する術、雷体術。これなら見切れないし追い付けまい。
バチィッと弾ける音と共に姿を消す。
「ぐぬあああ」
光となり消えたカズキは約三歩先の所で倒れていた。両足には氷の刃が突き刺さっている。
「逃げちゃ イヤ」
ゆっくりと歩み寄るワルキューレ。
絶対に見切れるはずのない速度だったはず。なのにこいつは対処している。まるで時間でも止められたかのような速さだ。
あぁ、久しぶりだなこの感覚、多くの死線をくぐり抜け修羅の道を歩み続けていてとっくに忘れていたこの感情。
……これが恐怖だったな。
「助けてくれ」
その一言が今のカズキの心情を物語っていた。
無情にもワルキューレに抱えられその場から連れ去られるのであった。
そして夜が更けるころ、事件が起きた。
パーティは無事?に終わり本日は一泊して明日解散という流れだ。
無事に終わらす為にもアルガド宮殿の見張り台で兵士達が寝るまを惜しんで警衛している。
まあいつも通りなんだけどね。
新月で辺りは真っ暗。灯りがなければ近くのものでも見るのがやっとこだ。
「ふぁん、眠たいな」
「各国のお偉いさんが来てるんだ。気を引き締めろ」
「そんなん言ったって、剣舞祭の代表者が集まるここはある意味で世界一安全な場所だぜ?」
「だからこそ襲撃を」
ガシャアァァン
巨大な何かが地面から這い出てきたのだ。
「な。なんだ!?」
見張り台よりも大きい何かに恐れおののく。
「敵襲!敵襲!」
「寝てる者を起こせ!ただちに戦闘態勢に入るんだ!」
「なんだこれは!?」
「灯りを灯せ」
「これは、うわあああ」
見張り台を壊しまた何かが飛び出してくる。
「なんだ、なんだこの化物は!?」
その何かが宮殿を、いやアルガド王国を侵蝕していく。
宮殿内。
当然この出来事で騒ぎになっている。
「なんだこりゃ!?」
宮殿の床や天井が壊れ崩壊していく中で巨大な何かに遭遇するジェルマン。
「邪魔なんだよ」
ご自慢のバトル・トンファーを取り出しとりあえず殴りつける。
柔らかいクッションを殴ったような感覚。手応えが全くない。
「なんだよこれ、効いてないのか」
「これは、根っ子ですわ」
ここで白のネグリジェ姿のノアがやってくる。
「はぁ!?こんなでかい根子があるかよ」
「よくみてくださいまし」
確かによく見ると茶色のゴツゴツとした感情はまるで樹皮のようだ
「根っ子よりも木じゃねぇのか」
「どっちでもいいですわ。肝心なのは宮殿がこれに飲まれているってことですわ」
「木なら焼けばいいだろ、バーストクラッシュ」
木と思われるものに神威を込めた一撃を見舞う。
ボゴォンと音をたて爆炎が上がると思ったらただ触れただけで終わる。
「ちっ、吸収してやがる」
「ダメですわ、わたくしのフリーレインも吸収していますわ」
攻撃全てを吸収するやっかいなもの。
その木と思われるものはどんどん蠢き宮殿を破壊していく。
「ひとまずは脱出だ」
「レオンさんとルリーさんは」
「あいつらがこの程度でやられる訳ないだろ、いくぞ」
「ま、待ってくださいまし」
この場に居ても何も始まらない。まずは脱出し外へ出てから情報を集めようと、ひとまず逃げる。
しかし根が邪魔するわ、床や天井が崩れているわで道はない。
「ちっ、飛ぶぞ」
ノアを抱えると、勢いよく走り外へ飛び降りる。
「きゃーーー」
悲鳴をあげるノア。知ったことないと次にくる着地の衝撃にそなえるジェルマン。
ダンッ。
「っととと、いてぇくそ。投げ捨てればよかった」
痺れるような衝撃が足から体全身へと伝わる。
あの高さなら平気なのだが、ノアの重さも相まって痛い。
「きゅ、急に飛び降りないでくださいまし」
「うるせぇ、クッション代わりにすればよかったぜ」
「なっ!?レディになんて暴言を」
「それ所じゃないぞおい」
「パーティの二次会にしては派手な余興だな、メーテル」
「宮殿を破壊する余興なんてやるバカどこにいる」
散歩から帰ってきたアニクとメーテルがこの光景を見て唖然とする。
宮殿と融合した巨大な木が目の前にそびえ立っている。
根っ子は獲物を求めているように地面をえぐり、建物を壊しながら生え続けて成長している。
「どういう状況なんだ」
「俺らが聞きたいわ」
「バオバブスか」
象の獣人タスカが言ってくる。
「知ってるのか、タスカ」
「俺の使役する植物の精霊、クレランツェが教えてくれた」
「で、どんな植物なんだよ」
「バオバブス、他の生命を糧に成長する災厄の木だ」
「生命?」
「そうだ、周りの木々や俺達生き物だけじゃない。大地や海、この世界を糧として成長する化物だ」
太古に一度だけ生えたが神の手によって滅んだこの世にもうない幻の植物。
「そんなのがなんではえてるんだよ」
「それはわからない」
「とにかくこれ以上成長されたらまずい、処理するぞ」
「待て、そいつらに攻撃は効かない」
神威武装を顕現させ、駆逐に向かう二人を止めるジェルマン。
「なに!?」
「本当ですわ。まるで受けたダメージを栄養にしてるみたいに活発になります」
「またハンアンみたいなのが出てきたな」
「やっかいだな」
「クックックッ、素晴らしい光景だろ」
「何者だ」
上空には黒のフードを深く被った五名の者が浮いている。
「何者でもいいだろ、どうせ死ぬんだ聞いても意味ねぇよ」
「そうか、だが喧嘩売るタイミングを間違えたな」
今この国には剣舞祭代表者、ましてや神伐隊の面々が集まっている。どう考えてもタイミングが悪い。
「最高のタイミングだろ、みんなまとめて殺せるんだからな!」
「神伐隊の隊長達を全員潰せばあとは楽に侵略できる」
「まとめっていうのがポイントかしらね」
「バオバブが育った今なら楽勝だな」
「ふん、くだらん」
「戯れ言はいい、かかってこい」
近くの瓦礫を五人めがけ投げつけるタスカ。
「生意気な、いくぞ」
それをかわし、それぞれがフードを脱ぎ捨て襲いかかる
「襲撃とはなめらてたものだな」
「とんだ命知らずだな」
「加勢にきたぜ」
四人の男女が機嫌悪そうにやってくる。
神伐隊隊長の面々だ。
一番隊隊長イザベラ・サルワートル
三番隊隊長ギニラル・アリュータス
四番隊隊長アニク・キーリング
五番隊隊長オーウェン・バリフォード
六番隊隊長ソウル・ガーナード
七番隊隊長メーテル・アルガド
全隊長が集まった瞬間だ。
「外壁の亀裂から魔族達が攻めてきている、他はみんなそっちに行ってる」
既に神威武装を展開し構えるギニラルが言う。
「魔界に繋がってる国は大変だな」
オーウェンが笑いながら言う。
「全くだ」
やれやれとため息を一つ溢すメーテル。
「メーテル、お前が指揮をとってこい。得意だろ」
ソウルがメーテルの肩を叩きながら攻められる箇所を指さす。
「ちょうど五人、ここは俺達に任せな。タスカ達を連れて行ってこい」
アニクも賛同し、メーテルの前に立つ。
「頼もしい限りだ。頼んだ」
「我ら神伐隊隊長が相手をしよう。かかってくるがいい」
イザベラの台詞がこの戦いの開始の合図となった。
「シェアアア」
一人の小柄の男が飛び出す。両手には双剣、近づかれたらやっかいだ。
「はぁ!」
アニクはすぐさま神威武装を展開し槍を手に取り構えると、少年を吹き飛ばす。
「ウオオオオオ」
「いいですねぇ。いいですよぉ。私のドラゴンの血が疼きます」
全身に黒の剛毛に包まれた許可と力比べをするギニラル。
「はっはっはっ、いいぞどんとこい」
濃い褐色肌をした獣の腰巻きを身につけたエルフの少女の大剣を筋肉で受け止めるオーウェン。
「筋肉バカが」
「最高の褒め言葉だね」
大剣を掴み奪い取ると前蹴りで後ろへ弾き飛ばす。
「ハアアア」
魚の鱗を体全身に身につけた男が槍を振り回す。
「動きが甘い」
ソウルは手にもつ先端が三つに枝分かれした鞭を振るうと両手に絡み付き、後ろへ大きく投げる。
「獣人、エルフ、ドワーフ、魚人か。魔界の住人のオンパレードだな」
イザベラと対峙するリーダー格のような男。短い赤髪に褐色の皮膚、黒のコートに体全身に装飾品を身に付けているのが特徴的だ。
「クックックッそう焦るな、奴らの本気はこれからだ」
「なに!?」
「狂え我が駒共よ。死ぬまで戦い続けろ」
「ウオオオオオ」
胸元にある紋章が不気味に光ると、それぞれがうずくまり苦しみだす。
「ハァハァ、ウオオオオ!!」
眼から黄色い眼光を放つ。筋肉は発達し、血管が浮き上がる。体から黒のオーラが放たれる。
「あれは狂戦士の烙印」
「御名答。お前らがバーサーカーに勝てるかな」
「ウオオオオ」
「ちっ、刺されても動きやがる」
「まるでカズキだな」
「そういやカズキは?」
「さあ?」
「あのバカ、マジで使えない」
だが、彼らにとっては取るに足らない相手。お喋りしながら戦っている。
「グギャア」
槍に刺され絶命するドワーフ。
「ゴハッ」
腹部を殴られ臓器を破壊され倒れるエルフ。
「ギャ、ギャギャギャ」
鞭で首を絞められ窒息死する魚人。
「ッ!?」
ギニラルに首を斬られ倒れる獣人。
「後はお前だけだ」
五の隊長達が男を囲う。
「たかがバーサーカーが神の使いに勝てるとでも?」
「ちっ、使えないやつらだな。それでも選抜された四人かよ」
「相手が悪かったってことだよ」
「時間稼ぎにもならん雑魚が。このヴァイス様自ら地獄へ落としてやる」
つづく