国を囲う巨大な城壁。
その一部に巨大化な亀裂が走り、穴があいている。
「ウオオオオ」
そこから異形の姿をした化物達がゾロゾロと国の中へ入ってくる。
幸いにも民家から比較的に離れた場所だ、まだ対処できる。
「これ以上先へ進ませるな」
「今こそ国の為に立ち上がるんだ」
「うおおおお!!」
武器を手に取り果敢に挑む兵士達。
「うわーー」
「た、助け」
力の差は歴然。神威を使える者でも太刀打ち出来ない。
次々と殺され蹂躙されていく。
笑い声をあげながら暴れ回るリザードマン。
建物を破壊して回るオーク。
暗闇の中で夜目がきくゴブリンの素早い動きに対応できない。
獣度の高い獰猛な獣人に押される。
いかに人間という種族が弱いかを思い知らされる。
「ここの国の兵は弱いな」
褐色肌に黒い竜を模した紋章のような刺青を施した上裸の大男。
ドラグニア竜国代表ビー・バンガロンガ。
「私達がいてラッキーだったね」
短い赤髪に赤をメインとした色彩の腹部を露出している上衣に短パンを身につけた筋肉質な少女。
ルーンブラッド代表ファイ・スターティング。
「ここで手の内を見せる訳にはいかないが。そうは言ってられないな」
革ジャンにサングラスをかけた強面のスキンヘッドの大男。ロウラクシア連国代表マーチス・アルセン。
「こりゃ血が騒ぐぜ」
バッドは笑いながら神威武装である持ち手にメリケンがついた軍刀を造り出す。
「化物共を殲滅する。いくぞ!」
メーテルが剣を化物共に向け開戦の合図をだす。
「おおおお!!」
それにともない、接近戦を得意とする者達は雪崩れ込むように敵陣へと突撃する。
「援護なら任せてほしいですわ。フリーレイン」
後方ではノアが弓を引き絞り狙いを定め、味方に当たらないように確実に仕留めている。
「俺も混ぜろよ。オラァ」
「ジェルマン、どっちが武勲上げれるか勝負だ」
「上等だ。まとめてぶっ殺してやるぜ」
ジェルマンとバッドは更に敵陣へと猛進する。
「あらあら、威勢のいい人間ね」
黒い毛皮のコートを羽織った捻り曲がった小さな黒い角を持った悪魔の少女。
「私はエスハール。さっそくだけど死んでね」
「なめるな、メタルフルジャケット」
体全身が鋼色へと変わり、軍刀を片手にエスハールへ斬りかかる。
「神威なんて使えるのかしら」
「なにをバカな事を、あれ」
手に持つ軍刀が突然光の粒子となり消え、鋼鉄と化した肉体が元に戻っていく。
「こ、これは……力が抜ける。神威が失われていく」
「ヴァイスのバオバブスの力。神威を吸収するのよ」
聳え立つ巨木を指さしながら言う。
「神威使い殺しだな」
厄介な力に苦渋の顔をするバッド。
「たかが神威を封じたからって勝った気か?くそ悪魔」
反対に特に気にもしていないジェルマン。
「勝った気?まさか、勝ち確よ。神威もない人間に何ができる」
人間という神から授かった神威が無ければ弱い種族が悪魔に勝てる訳がない。そう言い張るエスハール。
「なめんなよ。俺は今まで神威の属性能力だけで戦ってきた」
「何がいいたいのかしら?」
「神威の恩赦である身体強化はなかったんだ、意味わかるよな」
「俺は神威なしで強いってことだ」
背後から襲いかかってきた悪魔を殴り飛ばすジェルマン。
「戦えるかバッド」
「当たり前だ、ドルツェルブ軍人なめんな。神威が無くても戦える!」
指をパキポキ鳴らしながら不適に笑うバッド。
「面白いわ、その威勢がどこまでもつのか楽しみだわ」
エスハールの前に魔族達が立ちはだかる。
「こいつらぶっ飛ばしてあのクソ女ぶっ殺す」
迫り来る刃をよけ、殴る蹴るとコンボを決めながら次々と倒していくジェルマン。
今まで激戦を潜り抜け神威使いと対等以上に戦い続けてきた結果常人の領域を超越していたのだ。
「おおら!」
バッドも負けじと応戦するが、怯ませたりするのが限界でどれも決定打にならず苦戦している。
武器を使ったり作戦立てたりするより殴り合いを好む、ようは喧嘩が好きバカ野郎なのだ。流石は狂人と特攻野郎と呼ばれるだけはある。
「どうしたバッド、神威使えないと弱いのか?」
「うるせぇ、死ねやゴラァ!!」
「下がるぞジェルマンとお前」
奮戦する二人の元にレオンが駆けつけると、ひょいっと担ぎ上げ後ろへ後退する。
「あぁ!?今良いとこなんだよ下ろせや」
「俺に後退の文字はない、突撃させろ」
「今だ、頼む」
後退した先には先程まで戦っていた者達が避難していた。
「エクリクシス」
「グラセルターク」
「ストームベイズ」
「ノヴァ」
「ジェノスパーク」
そして間髪いれずに凄まじい爆発音が響く。
ルーンブラッドのメンバーとルリー達から放たれた上級魔法。
爆裂、氷、風、炎、雷それらの威力は凄まじく、周囲の地形を変えるほどの威力だ。
「これが魔女の力か」
「ルーンブラッド、要注意だ」
「ノヴァを使えるとは流石だなルリー。私炎系得意なのにまだ使えないぞ」
ルリーの頭をガシガシ撫でるファイ。
「当然だ、私の自慢の義妹だからな」
「まだ敵はいます、気を付けてください」
倒したのは表面上だけで沢山いる。
さらにあの魔法を受けても見るに耐えない死体の山から立ち上がり、再び襲ってくるやつらもいる。
「ちっ、上級魔法でも倒しきれないか」
「詠唱準備」
再び呪文を唱えようとする魔女の前に一人の少女が前に立つと、
「本物の火力を見せてやる」
そう言うと手を魔物に向けると、凄まじい炎を放つ。
「グギャァァァ」
「アヂィグルジイ」
「水デモ消エナイ」
赤黒い禍々しい炎に包まれる。
熱さに悶え苦しみながら絶命していくその光景は身の毛もよだつまさに地獄絵図。
「これは私の炎、私の力。神威なんかに頼ってるからこうなる」
「なら俺も見せつけてやる。ほっ!!」
ひょいっと隣からあらわれるカズキ。
指先から小さな火の粒を放つ。
「それにはしても、いい火力出せるようになったなグラーエ」
「カズキにはまだ及ばない」
火の粒が触れた瞬間巨大な火柱が起こる。
「神の火と俺の火とでは質が違いすぎる」
「……いつか焼き殺す」
「その威勢だ」
「これは随分とハデに暴れたな」
「神威無しはやっぱりキツイよな」
続いてアニク、オーウェン、ギニラルがやってくる。
「はやかったが、やったのか?」
「逃げてきた」
イザベラの問に苦笑いをしながら返すギニラル。
「は?」
「ウオオオオオ」
「仕方ないだろ、あの木に近づいたら神威吸われるんだから」
「フィジカルのお前達が逃げてどうするんだ」
獣人アニク、筋肉オーウェン、竜の血ギニラル。神威なしで戦うとしたならばイザベラも大苦戦するであろう逸材、それらが逃げてましてや最前線に連れてきたのだ。
「どうするって、短期決戦だろ」
「そうだなぁ」
「それしかないだろ」
三人は頷きながら話す。この脳筋隊長が。
「全隊長達にカズキ、代表者も集まってるか」
辺りを見回して戦況を把握するヴァイス。
魔界の軍隊がほとんどやられているのに対してほぼ無傷か。
「流石に分が悪いかしらね」
エスハールが隣にやってくる。
「切り札だ、切り札を使うぞ」
「そうね、死体も充分に揃ったしね」
「やるぞ、ウオオオオオ」
ヴァイスはカズキめがけ走り出す。
「俺に挑むか」
殴ってくる腕を掴むと力で思いっきり下へ潰す。
「そんな装飾品だらけの御飾りで俺に勝てるかよ」
適当にあしらうカズキ。
「俺は今キューちゃん対策を練ってて忙しいの、他とやってくれ」
「お前みごとな負けっぷりだったぞ」
カズキの見事なまでの負けっぷりに笑いながら声かえるオーウェン。
「だまらっしゃい、くそ恥ずかしい所みられた腹斬りたい」
「俺との再戦の前に負けやがって」
「うるさい」
「うぐあ、なめやがっグハッ」
立ち上がろうとするヴァイスの頭を踏み潰すカズキ。
「ザコは黙って寝てろ。ワルキューレの前にてめえを始末してやろうか?」
「やれるのか?」
「簡単だろ?」
「じゃあ神威を取り戻してくれ」
「確かに!はよ死ね」
連続で頭を踏み続けるカズキ。
そうとう怒っているのか、口調が悪くなり動作も荒々しくなってきた。
「魔界からの刺客の割に弱いな、前座にもならんぞ」
「リコルドネット」
エスハールの瞳が光るとカズキに向けて怪しい光線を放つ。
「精神操作か幻覚か?くだらん」
精神を侵食してくる弱い奴がひっかかるくだらん技だ。
エスハールの頭を掴み握り潰そうと力を込める。
(あ、ひっかかったわ。恥ずかしい)
ふと気がつくと不気味な場所に立っていた。
空は薄気味悪く暗い荒れ果てた大地、魔界での戦争。
おそらくあの時の戦争だ。
戦っている人と魔族に触れようとするが触れない。つまり記憶の中というわけだ。
自身の記憶を見せてトラウマを無理矢理見せて精神を崩壊させるのはよくある手口だ。俺にそんなものはない、はずだよな。
(まあなんも出来ないから大人しく鑑賞してるか)
別にどうこうできるわけがないし、こんな体験滅多にない事なので折角だからしばらく見ておこう。
(この戦争は懐かしいな、俺の最後の仕事だったな)
そこで奮闘する少年カズキを第三者の視点で凄い楽観的に見ている。
(よわっちいな~、まだまだクソガキじゃねえかよ)
その後方で隊員達を逃がす為に一人の少女が戦っていた。
(あれ、こんな感じだったか?)
だが何かが違っていた。
「カハッ」
化物に肩を噛みつかれるハート。ルミスはすかさず化物の首を斬り助け出す。
「ハート、致命傷だ。退け」
深い傷口から大量の血が流れる。幼い我々ではすぐに死ぬ。
「やだ、私もみんなと、最後まで戦う」
傷口を抑えながら立ち上がるハート。
「ファロン、ハートを連れて行け」
他に比べると体格の良い少年は頷くとハートを抱える。
「副長は?」
「私は、隊長の命令を全うする」
「わかった、後で俺も向かう。くたばるんじゃないぞ」
「ふふ、頼もしいな」
敵の大軍に背を向け走り去るファロン。
それを見届けると大きく息を吸い込む。
「この戦いは負け戦だ!この私、ルミス・セインティアがしんがりとなる。死を恐れる者は生き延びろ!!」
敵味方問わず聞こえるような大声を上げる。
「負け戦だと!?」
「でも隊長達は全員やられた」
「一時撤退だ」
「逃げろ」
その言葉を聞いた隊員達は一目散に逃げ出す。
「グギャギャギャ、逃ゲレルト思ウナ」
「がき一匹何ガデキル」
当然そうはさせないと、ルミスを無視して逃げる奴らを追いかける。
「エアストラスト!!」
青く光る一閃を放ち、辺り一面の化物を切り捨てる。
「ここを通りたくば、私を倒してからにしろ!」
「私達でしょ?副長」
「まったく堅物なんだから、抱え込まずに頼ってくれよ仲間だろ」
「セラフ、アディラ、マルク、ププリン、マーム、バルガス、アミラ、ドーナ……お前達」
「俺達は天下の九十九番小隊だぜ?」
「あの隊長の下で動いてきたんだ、逃げる選択肢はありえないだろ?」
「この状況、俺達が勝ち戦にして全部九十九番小隊の手柄にしてやるぜ」
「ヒノモトが移ったのかしらね」
「わ、わたしも最後まで戦います」
「泣くなよ、でも偉い!」
「さあ副長、命令をください」
「我ら九十九番小隊をもって敵を殲滅する!生きたくば死に物狂いで戦え」
「うおおおおおお」
確か俺はルミスにしんがりを務めさせたはず、それなのになぜ隊員全員が戦っている。
というかそもそも映像が俺ではなく、ルミス達の方が移っている。
ここまできたなら俺の方をみせろよ、くそが。
それはそうとこの時点で走馬灯でも俺の記憶でもない。さっさと抜けよう、力込めれば出れるかな?
「ぐわあ」
「マルク、うわーー」
「くそ、数が多い」
「弱音吐くな、笑顔で死のうぜ」
「カズキに毒され過ぎだっつーの」
「仲間の仇だ」
「先にいってるぜみんな」
とても幼い少年少女達とは思えないほどの凄まじい勢い、化物達も苦戦を強いられていた。
だが、その勢いは続かず次から次へと仲間達は殺されていった。
「はあ、はあ、マルク、ププリン、他のみんな、無事か返事をしろ」
敵に囲まれながら仲間の安否を確認するルミス。だが、誰も返事はかえってこない。
「オ前ノオ友達ナラココダゼ」
ケタケタと笑いながら見るに耐えない無惨な姿の仲間達を見せてくる。
首だけの者、体の四肢をもがれ串刺しになってる者、逆十字架に吊るされ体中に数十の刃物を刺された者、握りつぶされ顔以外原型を留めていない者、真っ二つに斬られた者、炎で焼かれ炭となった者。
「う、嘘だ」
信じられない、信じたくない光景。
「お前も仲間の所へ送ってやる」
「オオオオオオッ」
背後から巨大な顎だけの化物が大口を広げ飛び出してきた。
目の前にも敵が襲ってきている。
避けられない。
「危ない副長!!」
ルミスを庇い横へ押し倒すファロン。
バクンッ。
体の大半を喰われ頭部と腕だけが残り地面に落ちる。
「ふぁ、ファロン」
「副長……約束通り、戻って、来……」
微笑みながら親指を立てると静かに息を引き取る。
「嘘だ」
目の前で仲間が殺された。
「嘘だーーーっ!」
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ。
だがこれは現実だ。みんな死ぬのはわかっていた、だがあいつらなら大丈夫という気持ちもあった。
私は仲間が死ぬという覚悟をもってないのに共に戦わせたこと、死ぬのは自分だけで良かったのに。
「殺してやる。みんな殺してなる!」
激しい憎しみと怒りが沸き上がる。こいつら全員殺してやる、例え殺されても全員呪い殺してやる。
「うわああああああ」
悪魔や魔王ですら恐れ戦く程の執念。
鬼神の如き強さを見せるルミス。
「死ねーーーっ!!」
片腕を喰いちぎられる。知ったことか。
脚部を槍で貫かれる。だからなんだ。
鉄槌が腹部に叩き込まれる。まだ死ねない。
止まれない止まらない止まってられない。
「皆殺しだ!」
憎悪で痛みなど感じない。仲間の仇を打つ為、死ぬ最後まで戦い続けてやる。
「うわああああ」
その戦いを見て次第に化物達が恐怖する。
「クソ、ナゼコンナがき一匹二」
「なぜだ、なぜ殺せない。なぜ死なない」
「□□□□□」
声にもならない程のおぞましい叫び声。
気が付けば周りには死体しか残っていなかった。
「……………」
先程までの激戦とは思えない程の静寂。
ルミスの枯れ果てた泣き声だけが静かに響く。
(おかしい)
俺の記憶ではルミスがしんがりとなり九十九番小隊、もとい他の隊員を逃がし、俺がグラティアを倒し、ジェノファイスを破壊したばす。
他から聞いた話では多くの隊員は死んでしまったが、九十九番小隊全員は助かったと聞いていた。
だが、この光景は、この結果は聞いていたのとは大きく違う。
そういえばアニマニアでファロンも見かけなかったし、なんかはぐらかされた。
それだけじゃない、世界を旅してく中でかつての九十九番小隊員とだけは会えなかった。
(まさか、そんなはずはない)
カズキの疑問は晴れぬまま元の意識へと戻ってしまった。
つづく