トレーニングを終え午前最後の授業である歴史を受けている。
神威使いの育成を目的地とした学校ではあるが、他の学校と同じようにように勉強もする。
「おい、わかるか」
「すまん、わからん」
その為、カズキとレオンは頭を悩ましていた。
「こんなものもわからないですの?」
「すまない、ずっと森にいたから勉学は苦手だ」
「俺もよくわからん」
一方で、女子の方は優秀で、問題をすらすらと解くだけでなく、男子に教えている。
「お前達、私の授業を聞かないか。勉強会じゃないんだぞ」
しかし今は授業中で、レイカ先生が教えている時に突発的に勉強会が始まったのだ。そりゃ怒るわな。
ちなみに、学力が低いカズキとレオンが一番前の席に座っており前から先生が、後ろから優秀な仲間から教えてもらっている。
まさしく逃げ場がない。
やっとの事で授業を終える。昼休みがありがたく感じる。
「あいつから多少は教わったが、難しい」
「森の外ではこんな事が起こっていたんだな」
「まったく、基本中の基本ですわ」
世間から疎い二人にはその基本中の基本もわからない。
いつまで考えても仕方ないので、午後に備えて昼ご飯を食べる。
今回はノアが全員(レイカ先生)分の弁当を作ってくれたので、わざわざ寮に戻らなくてもいい。
「せっかくですので、外で食べてはいかがです?」
天気が良く学園内の庭園には綺麗な花が咲いているので、外で食べるには向いている。
ついでに、次の授業はまた裏山で実戦練習をするそうなので、移動を含めればちょうどいい。
「そうだな」
「賛成」
「よし行こう」
「あぁ、すぐに行こう」
弁当を持ったレオンとカズキは教室を飛び出し裏山へと向かう。
「あ、ちょっと」
「行っちゃいましたね」
「私達も行こう」
その後を追うが、既に居ない。場所は裏山にある野原なので集合はできるのでゆっくりと学園内を歩いていく。
「凄い人が多いですね」
「いろんな種族がいる」
学園では、姿形が違う生徒達をみかける。
アルガド王国は他の大陸とは違い全ての大陸中から集めているのが特徴なため、人以外にもレオンのような獣人やリザードマン、数は少ないがエルフやドワーフなどいる。
「アルガド王国は多民族国家ですのよ、それほど珍しい光景ではありませんよ」
「私、アルガド王国は初めて来ましたので。勉強はしてきましたけど、その、まだよくわからなくて」
「なるほど、他の大陸から来たのですか。そちらの方珍しいですわね」
「ジェルマンやレオンはどうなの?」
「……それもそうですね」
ジェルマンやレオンは元々アルガド王国に住んでおらず、各大陸から遥々入学した珍しいケースなである。
「ところで、みなさんはどちらからいらっしゃったのですか?」
「私は」
「おやおや、ノアさんじゃないですか」
「こんな所で会うとは、奇跡ですね」
ルリーが言いかけた所で二人の生徒が声をかけてきた。
「これはこれは、えーっと、誰でしたっけ?」
向こうの男達は知っているようだが、対するノアは知らないようだ。
「アンガロ・ブライタス」
「リゼ・ヴォンザーバー、名前を忘れるな」
肥満気味の男と痩せ気味の男が怒鳴り口調で自己紹介をする。
「失礼、覚えるに値しない名前でしたので忘れていましわ」
「なんだとコラ」
「それで、わたくしになんの御用ですか?」
「あのアルバートン領土のノア様が、落ちこぼれ(ヴァンセン)にまで格下がった無様な姿に挨拶をしようと思ってな」
「笑いに来ただけさ」
「そうですか、それと用がなければ失礼させていただきますわ」
「おい待てよ」
「あなた方を御相手している程暇ではございません。さぁ行きましょう」
2人を退かし速足で歩く。
「なんだよ、落ちこぼれの集まりを率いて王女様気取りか?お山の大将さんよ」
「なんと言いましたか?」
ピタッと動きを止めたノアは、振り返る。
「あん?」
「お山の大将だって言ってんだよ」
「違いますわ、Fクラスがなんですって」
「落ちこぼれって言ったんだよ」
「落ちこぼれのクラスですって?そんなことはありませんわ」
「全生徒が知ってる事実だろ」
「本当の事を言って何が悪いんだ」
「あの方達を悪く言うのは、わたくしは許しませんわ」
激しい口喧嘩が注目され、生徒達が集まりだす。
「はっ、善人ぶりやがって」
「心では見下してるんだろ?え?超優等生さん」
「ノアさん、もういいよ。いこう」
涙目になってノアの腕を引っ張るルリー。
「よくありません」
2人を鋭く睨む。今にも殺しにかかるような勢いだ。
「おいコラ、何してんだこの野郎」
松葉杖を振り回しながらジェルマンがやってくる。いつにまして荒々しい態度をとり、そして口調が更に悪くなっている。
「おいコラノアテメェコラ飯はどこだバカ野郎腹減ってんだオラァ」
「怪我人なんだから医務室で寝てなさい」
「だああれが怪我人じゃボケコラ殺すぞ!」
「あぁもう、こんな時にめんどくさいですわ」
「あ?」
辺りを見回すジェルマン。野次馬となっている生徒達が徐々に増えていってる。
「なんだテメェらあぁ!?見せもんじゃねぇんだぞオラァァ!こちとらイラだってんだぶっ殺すぞゴラァ!!」
松葉杖で床をバシバシ叩き脅す。集まった生徒達は散るようにどこかへ行く。
「…そういやテメェら、落ちこぼれだのどーだの言ってたなボケコラァ」
ノア達に挑発してきた二人に目線を向ける。
「戦(や)りもしねぇで、決めつけてんじゃねぇぞゴミ共が」
「ほ、本当の事を言っただけだろ」
「そうだ、事実お前らは落ちこぼれのFクラスなんだぞ」
「うっせぇ!こちとら実践主義なんだよ、半端な実力主義と一緒にすんなや」
「なんだと」
「自信があるようだな?え?なんならここで一戦始めてもいいんだぞオラァ」
トンファーを取り出し手首のスナップを利かせ回し始める。
「こら校内での決闘は許さない」
「待ちなさい」
騒ぎを聞き付けた風紀委員がやってくる。
「ちっ、めんどくせぇ……いくぞ」
「ちょ、そっちじゃありませんよ」
「どこだよ」
「裏山ですわ」
「逆じゃねぇかバカ野郎」
なんとか風紀委員を巻き裏山へ逃げ込んだ4人。野原ではカズキもレオンが食べる準備を終え座って待っていた。
「遅かったじゃないか」
「何かあったのか?」
事情を知らない2人だが、明らかに様子が変だ。
ノアは顔色が悪いし、ルリーも泣きそうな顔だ。リュークは野原で蝶蝶を追っかけているから大丈夫だろ、あとなんかジェルマンがいるくらいだ。
「ちょっといろいろありまして」
「大丈夫か、おい」
「大丈夫です」
「あーあー、腹減った、飯食おうぜ飯飯」
暗い雰囲気になってきた時、ジェルマンが声をあげながら弁当に手を出す
「……そうだな」
「おい、お前の分ないぞ」
「はあ!?ふざけんなよ」
「卵焼きうっまっ!」
弁当に群がる男子達にリュークが混ざる。
「おいしいよ、食べないとなくなっちゃうよ」
「残しとけよな」
「知るか早いもん勝ちだ」
「凄いな、こんな料理があるのか」
「それ牛肉だよ」
「……知らん」
「うわー、カニカニリズムだ」
「カリバニズムだバカ」
馬鹿馬鹿しい会話をしながら食べる4人に思わず笑ってしまう。
「ふっ、ルリーさんも食べましょう」
「う、うん」
「お前達、私を差し置いていいもん食ってるな」
そんな中、レイカ先生が茂みの中からやってくる。
「お前らつまみあってるのに、私だけ弁当ってひどくない?」
「先生は先生と食べてるんじゃないのですか?」
「なわけあるか、教師も大変なんだよ。ってか一緒に食べてくれる人なんかいないよ」
「うっわー、先生ボッチだ~。いい年こいて人見知りか?」
「ジェルマン、この後の授業で覚悟するように」
「あいててて、カズキにやられた所が。まだ治ってねぇから医務室送りか、くっそー」
「そういえば、お前ら騒ぎを起こしたらしいな?」
「あ?あぁ、しらんな」
「とぼけるな、騒ぎは起こすのは構わんがほどほどにしろよな」
「騒ぎ?」
「どうせどっかのクラスから因縁つけられたんだろ?」
「………どういうことだ」
レイカ先生の言葉にカズキとレオンは、遅れてきた4人を見る。
「いじめられたのか?」
「ちょ、ちょっといざこざがありましたわ」
「なわけあるか、バリバリに挑発してきてたろ」
心配をかけないように言葉を濁すノアだが、ジェルマンがキッパリ言ってしまう。
「なっ、見ていましたの?」
「途中からな」
「ジェルマンならわかるが、他はいじめられる要素はなくないか?」
喧嘩っぱやいジェルマンなら誰かに恨みやら逆恨みやらあってもおかしくないが、他は違う。
「最底辺だから虐めの対象になる、Fクラスの運命だな」
寮に先生がいるのも守る為で、過去にFクラスの寮へ侵入し集団暴行があったそうだ、そしてほとんどが学園から去っていった。
「お前がそんなもんに屈するとは思わない、ただやるなら校則に則れ、じゃなきゃあいつらと一緒だ」
「……そんなことは、わかってる」
「…………」
「その時の為に今はきっちり実力をつけろ。さぁ授業をやるぞ」
「うげぇまだ全然食べてない」
「五分待って、全部食べる」
「カズキ、それ俺の焼き魚」
大急ぎで食べる男子達。
実戦訓練で暴走した、怪我人(仮)のカズキとジェルマンは罰としてトレーニングを叫びながらしていたのはきっと気のせいだ。
「貴様ら、隠密スキルの授業なのに堂々と戦闘をするな」
レイカ先生にみっちりしごかれているジェルマンとカズキ。頭には大きなたんこぶができている
「んなもんしてられるか」
「見つかったら徹底交戦、それしかない」
「脳筋バカが、設定は敵地に浸入してるんだぞ。暴れるバカがいるか、逃げろ」
「んなことできるかよ」
「火を放ちながら暴れればあっという間だぞ」
「現実を見ろバカ共」
次は互いに怪我している所に蹴りを入れられる。
「ぐぉ!?」
「おっ?痛いのか?ジェルマンくん」
「あ?全然痛くないわドアホ」
「無理しちゃってま~、涙目だぞ」
「ぶっ殺す」
「いい加減にしないかぁ!」
取っ組み合う2人に愛の鞭が襲う。パァンと空気が破裂する音とぐわあぁと悲鳴が聞こえたのは事実だった。
厳しい授業を終え、寮へと戻るFクラス男子一行、女子はレイカ先生になぜか呼び出しを食らっている。
「待ってたぜ、Fクラスさんよ」
「さっきは邪魔があってゆっくり話せなかったから、来てやったぜ」
寮の前で見知らぬ男2人が声をかけてかたが
「お前信じてないな」
「当たり前だ。山よりもでかい生物なんかいてたまるか」
「いくらアニマニアが辺境だからって、それはないだろ」
「まぁ伝説の生物だからな」
「伝説なんかい!」
会話に夢中になりそのまま寮内へ上がる。
「ちょと待てやコラ」
声を張り上げ呼び止める2人。それでやっと気づいたのか、振り返る。
「あぁ!?んだテメェら」
獰猛な視線が2人の威勢を殺し、手に持つトンファーを向ける。
「やめろよジェルマン、怖がっているだろ」
「すまない、礼儀知らずなんだ」
今にも殴りかかるそんなジェルマンを宥めるカズキと2人の男子生徒に謝るレオン。
「おいコラ何謝ってんだ、こいつら俺達に喧嘩を売ったやつだぞ」
「……なんだと?」
ジェルマンの言葉に、レオンの目付きが一気に変わる。
「あのジェルマンやノアに喧嘩売ったのか、度胸あるな」
カズキはその度胸と行動力に感心している。
「ノアが居ないのは誤算だが、まぁいいだろう」
「あんなやつに振り回されて、お前ら落ちこぼれも大変だろう」
「知ってるのか、ノアが落ちこぼれた理由をよ」
「言ってやるな、こいつらが可哀想だろ」
「だあああっ。さっきからノアの事ばっかでうるせぇんだよストーカーが。テメェらキメェんだよ!」
罵声とともにトンファーを地面に叩きつける。
「大体よぉ、喧嘩吹っ掛けるなら回りくどい挑発しねぇで堂々と攻めてこいや腰抜け共」
ジェルマンの目が血走っている。相当怒っている。
「むきになるな、別に喧嘩売ってる訳じゃねぇよ」
「そうだ、第一お前らを倒しても意味ねぇんだよ」
「なんだとゴラァ」
「そもそも、Fクラスが俺達Bクラスに勝てる訳ないだろ?」
「戦いたいなら、それ以下のクラスを倒してみろよ」
「そうそう、今度の剣舞祭は団体戦らしいしな」
「なに……」
「お前らも一応エントリーはするんだろ?」
「まぁお前らを選んでくれるやつらはいないだろうがな」
「最底辺なりに仲良くチームでも組むんだな」
「知ったことかよ」
「あ?」
「今、テメェらを殺すのにチームも剣舞祭も関係ねぇだろぉが」
「わからねぇやつだ」
「落ちこぼれらしく最底辺でさ迷ってろ」
「貴様ああああっ」
「よせジェルマン」
襲いかかろうとするジェルマンをレオンが必死に止める。
「はなせレオン、テメェは悔しくねぇのか」
「悔しいさ、だがここで手を出したら同類だ」
レオンも握る拳から血を流すほど怒っている、それでも堪えている。
「今は……落ち着け」
その姿にジェルマンは腕を降ろし静かに後ろへ
「命拾いしたなジェルマン」
「止めてくれた仲間に感謝するんだな」
「運がいいなお前らだ、レオンがジェルマンを止めてなかったら死んでいたぞ」
「あ?何いってんだお前」
「お前ら、誰に喧嘩売ったかわかってんだろな?しっかり覚悟しておけよな。必ず殺す」
腰にかけたある刀を握るカズキ、その異常な殺気はその場にいる全員を黙らせた。
「お前達、何をしている」
「おい風紀委員だ」
風紀委員をみるなり2人は一目散に逃げていく。
「何をしていた」
走ってきた青髪の女子生徒はその場にいるカズキ達を睨む
「誰だこの人」
「風紀委員だ、関わると面倒だぞ」
「フウキさんは」
「名前じゃねぇよ、役職名だ」
「なに、紛らわしいな」
「バカかお前、普通はわかるだろ」
「はいはい、それでえっと」
「ルイス・エミリミルス、私の名前だ」
目を張るような青い髪、青の瞳、凛とした顔つきの少女。ここの敷地にいるから同い年なのだろう。
どこか見覚えのある容姿と名前な気がするがまぁきのせいだろう
「ルイスさんね、どうしてここへ」
「君達がさっき逃げた2人と争っている風に見えたからな。取り押さえにきた」
ちょうど終わりそうな時に来るとは実にタイミングが悪い。
「大丈夫大丈夫、そんな対した事じゃないから」
「そうだ、ここで騒ぎを起こそうなんて全然思ってないぞ」
「ただの啖呵の切り合いだ」
「喧嘩の一歩手前じゃないか」
なにもなかったと説明するが効果はなく、なぜか怒っている。
「Fクラスは問題児だからな、今後は念入りに監視するよう心がけよう」
「問題児ってどういうことだ」
「じゃじゃ馬が2人もいるんだ。お前達も苦労をかけているだろう」
カズキとレオンはすぐさまジェルマンの方を見る。
「なんで俺を見るんだよ」
「いや、お前しかいないだろ」
「あと一人は誰だ?」
あともう一人が誰か分からず額に指を当てるカズキ。
「あ?優秀な問題児がいんだろうが」
優秀な問題児……優秀、優秀、優秀……?
ノアの存在が脳裏に浮かんだ瞬間、カズキは面を食らったような顔をしていた。
「……まさか、ノアさんの事か?」
恐る恐るジェルマンに聞くと
「そうだ」
一言きっぱりと答えた。
そう言えばレイカ先生もノアの事は問題児と言っていた。
「あんな素直な子がじゃじゃ馬!?ありえないだろ」
「奇遇だな、俺もそう思った」
「今はだいぶ落ち着いたが、1年前までは荒れていたからな」
「あぁ、あれは酷かったな」
ルイスの言葉にジェルマンも数回頷く。
とても気になるが、聞いてもいいことなのだろうか。
「ともかく、今後騒ぎを起こさないように。それとこれから監視がいると思え」
「はぁ!?監視だぁ?」
「Fクラスはいじめの対象になるからな、それも含めての監視だ」
「おいおい、俺達がいじめられると思うか?」
神威の扱いはダメだが、決して弱くはない。そんな相手をいじられるとは思えない。
「だからだ、大勢を巻き込んで乱闘なんてされたらたまったものじゃない」
「それに、お前達は大丈夫でも女子は心配だろ」
そう言うが
「女子か……」
「ルリーが心配だな」
「そうだな」
男子が心配したのはルリーだけで、他の女子は全く心配する気はなかった。
ノアやリュークは実力がありそんじゃそこらの奴らには負ける事はないと認識している。
「そういうことだ、さぁはやく寮へ戻れ。これ以上騒ぎを起こすな」
そう言うと再び見回りに戻る。
「真面目なやつだな」
「昔からだ」
「知ってるのか?」
「Aクラス。一学年最強と謳われるやつだ、覚えとけ」
「一学年最強か、あんまり気取ってないな」
最強ならもっと堂々としているものだと思ったのだが、礼儀正しく態度もどちらかというと謙虚な方だ。
「本人は否定してるからな、だが実力は本物だ。できるなら試合相手として戦いたくない」
あの戦闘狂のジェルマンにそこまで言わせるほどの実力者、ルイスという人物に興味がわく。
「戦ってみたいものだな」
「勝ち進めばいずれ公式戦で当たるだろ」
「団体戦なんだろ?サシでやんないと」
「それもそうだな」
他者の介入など一切ない、あくまで一対一の真剣勝負を望む気持ちはジェルマンも同感する。
「団体戦か……」
レオンが浮かない表情をしている。
「どうした、レオン」
「いや、なんでもない」
「詳しくはレイカ先生にでも聞いてみようぜ」
「そうだな」
つづく