辺りは静かだ。今戦場だと言うのに誰一人として声も音も出ていない。
敵味方とわずに皆は感じ取ったのだ。異常なまでの憎しみ、やり場のない怒り、ぶつけようのない悲しみを放つカズキを刺激してはいけないと。
片手に頭部を握り潰し血塗れのエスハールを投げ捨てる。
「なあ、オーウェン。ププリンは元気にしているか?」
静寂を破るカズキの一言。
「……………」
オーウェンは答えられなかった。いや、誰もが答えられなかった。
カズキが見た映像はこの国にいる全員が目にしたのだ。
「俺の部下、九十九番小隊の奴らは今どこにいる」
「元気さ。どうした急に?戦いに関係ない事聞くなんてお前らしく」
「本当の事を言え!!」
カズキの真剣な眼差しにオーウェンは笑うのを辞める。
「………」
「お前が会ってない奴は全員、死んだ」
「……そうか、やっぱりそうだったか。あれは本当だったんだな」
なぜあの映像が流れたかはわからないが、最後の勇姿を見せてくれたこいつに感謝だ。
「気を正気に保て、二度も発狂するのはお前らしくないぞ」
「…………」
カズキの背中をバシンと叩くオーウェン。
「ふ、ふふふ。ははは……あっはっはっはっはっははははは」
「おいおい発狂するのかよ」
「そうかそうか、死んだか、ルミスに任せれば良かったものを あいつら弱い癖にでしゃばるから、くくくくく。ふははははははあの時の幻影もお前ら死んだから出てきたのか……俺の、力になってくれたのか」
あの時、倒れそうになった俺を支えてくれた。勝ってくれと祈り囁いた。
あれはあいつらの、仲間達の思いが届いただけと思っていた。
違ったんだな、本当に来てくれたんだな。
「戦う者として戦場で死ぬのは名誉な事。より強き者に挑むのは誉れ、逃げ恥じるなら死を選ぶ。ヒノモトは、イオリ家は狂ってるな」
ヒノモト男児は世界的に見て特殊であり、自分が言うのもなんだが狂っている。
「戦士としての責務を全うしたあいつらを悲しむのは筋違い。弱者は滅び淘汰される、この世の摂理に従ったまでだ……だがな、だがな!!」
あいつらは仲間の為に死んだ、栄誉ある死だ。
「大切な友人の死を悲しまないのは筋違いってもんだろ」
死んだ奴を忘れないようにする為に、正当化させるために英雄化する俺達の悪い行い。
「思い出したよ、俺があの時に何を思いそれをなぜ封じ込めたのかを」
戦果を知った時、絶望に発狂し忘れ都合の良いような解釈をしてしまった。それでも微かに残っていたこの思い。
泣け悲しめそして世界を憎め恨め怒れ!なぜこんな絶望しかない世界なんだ。こんな世界なんか、こんな世界なんか。
あの時感じたこの思い、忘れても尚、世界を見てきても尚、変わることはなかった。
「俺は、この世界を破壊する!!」
「なに!?」
「これが俺の願いだ。剣舞祭でタイガー様に俺の手で世界を滅ぼす事を願う」
そうだ。記憶は無くてもこの思いだけは無くなる事はなかった。
それどころか世界を周り人間の愚かさ、知恵を持つが故の種族同士での争い。
こんな醜い世界などいらない、それがカズキの判断だ。
「俺は神の下で鍛え強くなった。筋は通したかったが、待つ必要はない。ダメなら俺を殺しにくるだろ」
そもそも願う事も許可を得るとこも必要ない。ダメなら止めにするはずだ。
「さあこい、儂を殺して英雄になってみろ」
なら、今やることは目の前にいる敵味方関係無く全てを殺すことだ。
オーウェンを横へ殴り飛ばす。
「へへ、俺に笑え言った奴がそんな顔するなよ」
ガードしたからそれほどダメージにはならなかった。
それでも、今の一撃で本気ということがわかった。
何よりカズキが本気の時になる顔、いや素顔とでもいっておこうか。
かつての素の顔、目付きが悪く常に何かに怒り悲しんでいると言われた気迫ある顔つき。
「なら、俺を笑顔にしてみせろよ」
オーウェンの蹴り上げをかわすと、腹部に肘を打ち込み怯んだ所を両手で胸部を強く突き飛ばす。
「がはっ」
後ろへ倒れるオーウェンを飛び越え前進する。
「カズキを止めろ!!」
「制御装置はないのか」
「都合良くあるわけないだろ」
「言い争ってる場合か、来るぞ」
「グラビドン」
凄まじい速さの低空飛行でこちらに向かってくるカズキに対してソウルは上級の高重圧魔法を唱える。
動きが鈍くなる、それでも速いスピードで飛んでくる。
「ちっ、重力を100倍に上げてもこのスピードか」
「うおおおお」
「はああああ」
アニクとギニラルは飛び上がり真上からカズキを踏み潰すと地面にを抉りながら失速する。
「そのまま押さえてろ。グラビドン!グラビドン!」
二人ごとカズキに向けて呪文を連発するソウル。
「こ、これはきついな」
「うおおお潰れますよ」
グラビドンによる高重力は凄まじく、どんどん地面へ沈んでいく。
「はやくアリスを連れてこい」
「ダメです、医療班で動いていて遠くにいます」
「ちっ、神威無しでこの化物はツラいな」
「過去最大のピンチか」
「うるあああ」
魔法を気合いで解除し、アニクとギニラルを雑に投げ飛ばす。
「まずはお前らから死ね」
ソウルとメーテルに向かって前進する。両手にエネルギー弾をつくりそのまま直接当てるつもりだ。
「やめてください隊長」
しかし二人の前に立つ少女に、カズキは寸前で止まる。
「アディラ」
「死んでいった仲間はこんな事望んでません」
誰よりもカズキを慕い仲間を思っていたアディラ。だからこそ、このような行為はやめてほしい。
「みんなが命を賭けて守った世界を、隊長が壊すのですか」
「だから儂が壊すんじゃ。他の誰でもないこの儂がだ」
命を賭けて守ったくだらない世界だ、せめてこの手で壊してやる。
「そこを退け!退かぬなら先にあいつらの元へ行ってろ」
「そんな、こんなの副長が見たら泣きますよ」
「安心しろ。お前も、ルミスもセラフもハートも仲良く送ってやる」
「そんな……なんで、なんでそんな事を言えるのですか!大切な友達を殺せるんですか!」
「敵対するなら殺せる」
アディラの肩を掴み持ち上げると、刀を抜き首に刃を突きつける。
「情けだ、楽に殺してやる」
「隊長ぉ、目を覚ましてください」
「おいおいヒノモト通り過ぎて狂い過ぎだぜ」
「発想がカズキらしいのが恐ろしい所だがな」
ジェルマンとレオンがカズキを倒す。
「折角お友達になれたのに、殺し合うだなんてあんまりですわ」
「短い間でしたが、本物の友達が出来たと私は思っていました」
ノア、ルリーがアディラを保護する。
「お前ら……口で言っても俺が止まらないのは知ってるよな」
ゆっくり立ち上がると睨み付ける。
相変わらずの殺気だ。この殺意は馴れるまで何度か気絶したものだ。
「わかってる、だから………死ねやゴラァッ!!」
バトル・トンファーを持ち構えるジェルマン
「それでこそ俺のダチでチームメイトだ!」
ジェルマンの迷いの無い突撃に心が踊るカズキ。
「レオン」
「わかってる、グラン・ギアよジェルマンに纏え」
ジェルマンの鉄球にグラン・ギアの力が纏い真っ黒になる。
「うるああ」
「良い強度だ。使えない属性能力を補ったか」
「はああ」
「獣烈脚」
ジェルマンとレオンの猛攻を的確に対処するカズキ。
「バーニングフレア」
距離を空けるとルリーの魔法が飛んでくる。
いつの間にか連携が上手くとれている。味方が何を望んでいるのか何を考えているのかを瞬時に理解できるようになっている。
戦ってみて脅威なのがよくわかる。
「神威を使えない雑魚と言いたいが、ノアさん以外は神威使わないもんな」
「むぅ、わたくしだけ見学ですわ。くやしいですわ」
アディラのとなりで頬を膨らませながら涙目でこちらを睨んでいる。
「はああ!」
ジェルマンは両手に持つバトル・トンファーの持ち手部をカズキの肩に引っかけて固定するとレオンはカズキの胴体をがっちり掴む。
「取ったあああ!!」
そして真上からヒメギがカズキの首へ向けてけ強く握り締めた二本の刀を振るう。
「ヒメギ、こしゃくな」
体の関節を全て外すと、シュルンと下へ抜ける。
「お父さん、世界を壊したら一緒にいられないよ」
「お前にはレオンがいる。もう安心だ」
「同じ事だよ、孫は見たくないの?」
「これから滅ぶのに新たな生命を喜ぶとでも?」
「じゃあワルキューレは?」
「母さんを呼び捨てするのはよくない。奴とは最後の決戦だ、夜遅いからまだ寝てるだろう」
バオバブスの巨木に制圧されている宮殿を指差す。
「こんな状況でも寝てるの?」
「寝つきがいいんだよ、早寝遅起きは相変わらずだ」
「強者感が強い」
「ああもう変な自我があるとめんどくせぇ、まとめてぶっ殺してやる」
どうもこっちが殺したくても身内や仲間が相手でここまで話されながら戦うと気分が乗らないし殺りにくい。
こういう時は一気に一瞬で殺すに限る。
「カラミティバーン」
片手を大きく振るうと、巨大な炎と気で造り上げたエネルギー波は円状の壁となり巨大化しながら前進する。
「おおお、なんだこの技は!?」
目の前に迫り来る圧倒的暴力の前に臆する。
「嫌な技を使ったわね」
「知ってるのか」
「あれは世界を亡ぼす三つの技、雷で破壊し炎で無に返し風で亡ぼす。そのうちの炎だ」
「どうするんですか、あれ」
「止めるしかないわ、力づくで」
炎の壁へ向かって走り出すヒメギ。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」
衝撃波や熱風で近づくだけでも困難だが、彼女は臆することなく近づき両手で受け止める。
手から伝わる灼熱、すぐに放して逃げたい。でも逃げる訳にはいかない、どんなに情けない顔をしても、みっともない声を上げても退くわけにはいかない。
前進するたびに威力も大きさも上がっていく、これ以上規模を広げる前に止めなければならない。
「賛成だ」
「神威はまだ残ってる、やるしかない」
バオバブスのせいで神威が吸われているが、まだ完全に無くなった訳じゃない。両手にありったけの神威を纏わせて保護し、炎の壁に向かって走りだす。
「うおおおおお」
ヒメギに続いて両手で受け止める。
圧倒的火力は僅かながらのありったけの神威もグラン・ギアの大地の力も通用せず、燃えるのを防ぐが精一杯だ。
「ぐぬあああ」
「なめんなやあああ」
熱い。熱い暑い焼い燃い焦いあついアツイ。
想像を絶する痛み、これを痛みと言っていいのかわからない程の痛み。少しでも気を抜いたら意識どころか死んでしまう。
ただでさえ触れているだけでつらいというのに、この前進を止める事が出来ず後ろへ下がる一方だ。
「やああ」
懸命に止めているジェルマン達、その隣にノアも両手を突き出す。
「ノア、なにやってんだテメェ!」
「わたくしの属性能力は黙示の氷魔(メギトバラス)は圧倒的火力差があってもでも一瞬だけなら凍らす事が出来ます」
なんどもカズキを射抜いてきたが、凍り付く事はなく平然としていたがほんの一瞬だけ凍りつく事が出来た。
常に送り続ければ凍らす事もできるはず。
「はあああ」
ノアが触れている部分が僅かながらだが徐々に凍り付いていく。
「回復魔法を、ハイリング」
激しい火傷をおった三人に回復魔法をかけるルリー。
「ありがてぇ!」
「これが、魔法」
徐々に痛みが消えていく。完全回復とまではいかないが、これでまた押し返せる。
「グラセミチザード!!」
両手から凍れる吹雪を放つソウル。
ノアのメギトバラスの力を助力するようにカラミティバーンを凍らせていく。
「神威を合わせた魔法だ、役に立つか」
「充分ですわ!」
「私の神威を使え、全力で止めるぞ」
「世界の命運は君にかかっているのだ」
ノアの肩を叩き神威を送るメーテルとイザベラ。
「ありがとうございますメーテル様イザベラ様」
これまで感じたことのない神威の量、メーテルやイザベラの強い思いと共に体中に駆け巡る。
「いけ!止めて勇者になれ」
「アルガド王国を、世界を救うんだ」
「わたくし達の思いに答えよメギトバラス!!」
徐々になんて悠長な事はしてられない。神威を爆発させ一気に凍りかせる。
神威の激しい流れに肉体が耐えられない。肉が裂け体から血をふきだす。それでもやめる訳にはいかない、この身が弾け飛んでもやめる訳にはいかない。世界を、友達を助ける為にも。
激痛に耐え神威をひたすら流し込む。
「はああああ!!」
つづく