黒曇が世界をおおう真っ暗な夜。
雨が降り風が吹き雷が落ちる。
「うおおおおおおおおおっ!!」
大気を揺るがす雄叫び。その衝撃で大地が揺れ天が荒れる。
「俺の悲しみが嵐を呼び、俺の怒りが雷を落とす。そして衝動が火となり俺を突き動かす」
カズキの涙が雨となり、叫びが風となり、怒りは雷として落ちる。まるで神話だ。
「俺の邪魔をする奴はぶん殴る!たとえ神でもだ!!」
「これが噂に聞く鬼神降臨。この世界の住人とは思えない、迫力が段違いだわ」
「黒風白嵐!!」
両手から鋭利な風の波動を放つ。
地面に激突すると、ドリルで穴を開けられたかのよに抉り取られる。
「はあ!」
「うおおおおっ!!」
リュークの蹴りをものともせず前進し顔を掴むと地面に叩き付けそのまま走る。
「光焰烈火」
城壁にぶつけると、顔を掴んだ手に大気を覆うようなエフェクト状にエネルギーが集まると大爆発が起こる。
「がっ」
「雷槍滅脚」
遥か上空へと飛び上がり一回転すると、雷を纏った蹴りを落とす。
「いったぁ、この野郎……最高に楽しいじゃない」
先程とは比べ物にならない破壊力。桁違いに羽上がった脅力。
カズキの猛攻に押されるリューク。今のままでは勝てない。
たかがちょっと強いだけの人間が神を倒したのも納得がいく。
「喰らうに値する者と認めるわ、カズキ!!」
これなら本気でやれる!!
背中に背負っていた刀を手に取ると鞘からゆっくりと引き抜く。
「はあああ」
リュークの体から紋章が浮かび上がる。
「この刀、龍桜(リュウオウ)は私本来の力を封じ込めた鍵。この意味はあなたならわかるはずだ」
「神殺しは経験済みだ」
「たかが邪悪な神々の頂点に君臨する破壊神を殺した程度でいい気になるな、私は別格よ」
「ぬかせ、はああ!」
勢い任せにリュークを殴り飛ばす。
「死ねえ!」
続けて吹き飛んだリュークの背後へ回り込むと、素早く刀を抜き大きく振るう。
「ぐっ」
リュークは刀で防ぐと、カズキの腹部に肘を叩き込む。
「うおおお」
激しく斬り合い、鍔迫り合う。
「ぜぇや」
刀と刀が触れる度に火花が散る。
「はっ」
動きの全てに細かな技巧がある。一瞬の気の緩み、判断ミスが負けへと繋がる。
(いいわ。生死を賭けた命の取り合い、この緊張感堪らないわ)
久しく出会わなかった好敵手に心の底から喜び、死に合いを楽しむリューク。
「最高だわカズキ。もっときて!私を愉しませて!」
「楽しみ過ぎて死ぬなよ。ふん」
振るう刀から放たれる炎の斬撃は地面を斬りながら前進する。
それをすれすれで避ける。
ほんの一瞬だ、瞬きをした直後カズキが目の前にいた。
「くたばれ!」
なんとか受け止めるが、このままだと潰される。
「っおおおおあ!」
横へ逃がし距離をとる。
カズキの一撃は地面に叩き付けられるその衝撃で、先程斬り進んだ地盤が浮き上がる。
「バカ力め、はぁ!」
間髪入れずに追撃してくるカズキの顎を蹴り上げると、腹部胸部頭部と神速の連撃を与える。
「壊神」
大気に亀裂がはいる程の強烈な一撃を食らわす。
「ッ」
大きく吹き飛び、地面を滑りながら地層断面に激突する。
「酔狂は覚めたかしら?」
「うおおおおおっ」
雄叫びと共に崩れた岩を吹き飛ばすカズキ。
「まとめて滅ぼしてやる」
不適に微笑むと両手で交差させ両肩を掴み体を縮ませ力を溜める。
カズキを中心に巨大な竜巻がおこり、辺りのものを吸い寄せる。
「ずあああああああっ」
吸い込まれたものは雷と炎で破壊尽くされる。
「溜めてるのに攻撃してるなんて、随分面白い技ね」
その場に留まり刀を握り力を込めるリューク。
狙いは力を解放するその一瞬だ。
「ふはははは、まとめて死んでしまえ。はーっはっはっはっは」
狂喜の高笑いを上げるカズキ。
この技はより多く効率的に虐殺するために殲滅用として考えたオリジナルの技だ。これさえ放てばアルガド及びその近辺も亡ぶ。
「ルミスバースト」
溜め込んだ膨大な力を解放する。
「!?」
その瞬間。カズキの目に一人の少女が映る。
身体中に切り傷や痣が出来ている。恐らく拷問の類いで出来たものだろう。
意識を失い、無抵抗なまま竜巻に呑まれ暴風に流されている。
その少女に見覚えがあった。
「ルミス?」
「?」
あれほど猛威を振るっていた技が止まり、カズキから溢れ出る凄まじい殺気が消えた事に異常を感じたリューク。
充分に警戒をしながら近づくと、カズキはルミスを抱えながらその場で座り込んでいた。
「なぜだ。なぜルミスがこんな姿に」
「仕方のないことだ。せめて俺の手で安らかに死ね」
「やめろ。ルミスを殺すな」
「ダメだ、皆殺しだ」
「俺の大切な仲間だろ、なんで」
「死ねえええ」
「やめろーーっ」
「か、カズキ。あんた一人で何喋ってるの?」
そこには一人で感情的に大声でブツブツと喋っているカズキ。
自分で自分と喋っていると言ったほういいだろうか。
建前と本音にズレが生じてあらたな人格が形成されたのか、どちらにせよ精神状態が重症なのはわかる。
「はっ、はははは。……息はまだある、今すぐ診てもらえば治るぞ。…………まだ生きているのか、しぶとい奴だ」
「しっかりしろカズキ!」
カズキを殴り飛ばす。
こんな状態では戦いではない。世界を救うとか戦いを楽しむとかじゃない。
「はっ!?」
勢い良く立ち上がると周りを見渡す。
「ここはどこだ。ジェルマン、ルミス、マルク、ルリー、ププリン、みんな、みんなどこへ行っちまったんだ。隠れないでくれ姿をみせてくれ、お願いだ俺を一人にしないでくれーーっ!!」
荒れ果てた戦場。周りには誰もいない。
脳裏に過る不安に駆けられるカズキ。
仲間は死んだ。いや生きている。それだけがグルグルと思考をかきまわす。
「あんた、今何してるかわかってるの!」
頭を掴み地面に叩きつけると、強く呼び掛け正気を保とうとする。
リュークは必死だ。
このままでは自身を失う。最悪は廃人になるだろう、それだけは避けなくてはならない。
「うるさい。離せリューク、俺は皆の安否を」
「過去の仲間は死んだ。でも、新たな仲間がいるでしょ」
「死んでない!そんな酷い事言うお前なんか大っ嫌いだ」
リュークを殴り飛ばし立ち上がる。手には吐血でべったりと血が付着する。
「待って、こっち来るな」
リュークが倒れている近くに傷付いたルミスが無残にも倒れていた。
「ルミス!?なんだその怪我は!?」
手から生暖かい感触がする。恐る恐る視線を向けると血で真っ赤に染まった自身の拳。
「ま、まさか、これは俺がやったのか!?大切な仲間に手をかけたのか!?俺が?この俺が!」
嘘だ、信じられない。だけど、俺の手は血だらけだ。確固たる証拠、逃れられない現実。
「相当重症だわ」
カズキの一人劇場を見て額に手を当てる。
ここまでくると滑稽と言うか、哀れみを感じる。
現実を見る→精神崩壊→精神を保とうとする→記憶を失くす。この不の永遠ループをまずどうにかしなければならない。
「あ………あぁ……あっあっあっあっ」
両手で頭を押さえつけ、悶え苦しむカズキ。
頭が痛い、苦しい。
様々な情報が一辺に来る。理解できない。解らない。
ここはどこだ、俺は何者だ。一体なんなんだ。
わからない。だが、何をするべきかそれだけはわかっている。
「っぐっ、ぬうぅぅぅ…………ああああああああっ!」
このやりきれない怒り、憎しみ、悲しみ、絶望を晴らす。
沸き上がる破壊衝動、飢えや渇きを満たす。
「■■■■■■■■■■■■」
背炎は錆びれ崩れ落ち、一回り大きくなった体、瞳は消え赤い眼光を放つカズキ。
大気を張り裂く咆哮を上げる。この世のものとは思えないおぞましいものだ。
地が砕けば天が割れるその光景は世界が崩れ逝くようだ。
「これが真の力って訳ね」
「■■■■■■■■」
炎、雷、風を纏い勢い任せに突っ込んでくるカズキ。
かわされ、地面に激突し亀裂が蜘蛛の巣状に入る。
凄まじい威力だ。なにより、移動だけで世界を攻撃しているという脅威。
常人なら触れるどころか近寄ることも出来ない。
だがリュークは平然と近づきぶん殴る。
「こいつ。バカなのか」
全てが捨て身の攻撃、痛みや恐怖などない命なんてなんとも思っていない。
死を賭けて必死に死ぬまで戦う。その鬼神の如き荒々しい戦いぶりはどこか悲し気を感じる。
「感情任せなんて、まるで獣ね」
今まで培った技、技術、戦術、知識を捨て本能のままに戦うカズキ。
「■■■■」
我武者羅で出鱈目な動きに圧倒されるリューク。
「調子に乗るなクソガキ!」
膝横を蹴り怯んだ所に思いっきり飛び上がり顎に膝をぶつける。
「オラァ」
続けて倒れるカズキの顔面を両足で踏みつける。
「死ね!」
突き立てる刃を歯で噛んで止める。
首を横へ向けリュークを退かすと、立ち上がると同時にエネルギー弾を放つ。
「ふん、はっ」
それらを斬り捨て、再びカズキを斬りにかかる。
前腕で一瞬だけ受け止めると、腹部に膝を刺しこみ、手刀で手の甲を叩きリュークから刀を手放させる。
「■■■■■」
そしてリュークをスピアタックルで押し込み、バオバブスの根が張る宮殿へと前進する。
根や壁を何度も貫くも前進をやめない。いつしか市街地を直進し反対側の城壁にぶつかると止まった。
いや。止めただ。
リュークが力で止めたのだ。
「なめんじゃあ……」
カズキの顎を掴むと、もう片方の手を大きく振り回す。
「ないわよ!!」
その一撃は再び市街地、宮殿を通りカズキを元へいた場所へ吹き飛ばした。
「楽しくなってきたなあ、おい」
頭部から流れる血をペロリと舐めながら恍惚の笑みを浮かべるリューク。
この激戦、制するのは一体。
つづく