「死ねえ!」
イザベラに向かって走り出すヴァイス。
「はーっはははは」
高笑いを上げながら鋭い爪を連続で振る。
「がっ」
(は、はやい)
気がついたら後ろにいる。背中合わせの形だから背後に回った、取ったではない。
訳がわからない。一体いつ斬られたんだ。
瞬きする間もなく体全身を斬り刻まれたヴァイス。
「グオオオオッ」
それでも力を振り絞り、イザベラに向けて炎を吐く。
しかし、それに対して片手をクルクル回すとその軌道に乗って螺旋状に天高く舞う。
「くそっ………くそ、くそくそくそくそくそーーー!」
抵抗するヴァイスの頭を地面に叩き付け押さえつけるアニク。
「往生際が悪い」
ヴァイスの両手を合わせると槍を突き刺す。
「殺したいのは山々だが、何か知ってるようだから生捕りにしてあげる」
「凄いいきいきしてるな」
「これが本来の実力差だからな」
本来神威さえ使えればあの程度の簡単に制圧できるのだ。
「しかし驚いたな、まさか神威を吸収するなんてな」
木の棒でヴァイスをちょいちょいとつつくメーテル。
今までの敵はそんなことしてこなかった。いや、神の力が強大過ぎて出来なかった。
それなのに太古の植物を使って克服しようとしてきた。これはゆゆしき事態でもある。
「神威封じは我々の課題だな」
メーテルの隣へ行くと捕らえたヴァイスを見下ろす。
何度も議論されてきた課題だが、解決策がない。あるとすれば神威なしで強くなるしかないのだ。
「さて、向こうもそろそろ決着がくつかな」
カズキとリュークが激闘している姿を心配そうに見るイザベラ。
ちょいちょい咆哮だったり、攻撃の余波だったりで敵味方共に支障が出たがまあいいだろう。
それよりカズキのあの姿だ。
かつて魔界最強である闘神を倒し邪悪な神々の頂点に君臨する破壊神を倒したあの姿こそが最強たる由縁。
それに対して互角に戦うあの少女は何者なのか、あれほどの猛者がこの世にいたのか。
「こっちも終わらさないとな」
「とりあえず気絶させますか。ちょいそー」
ギニラルは下に拳を降ろし、ヴァイスの頭に陥没する。
「パワフル娘だな」
「解けないからまだ意識あるな」
「殺すなよ」
「わかってるって、そそーい」
連続で殴るが、何かがおかしい。
「っ!?」
ヴァイスは急にビクンビクンと痙攣し始める。
口で槍を引き抜き上に乗るアニクを振り下ろすと、頭を抱えながら苦しみ悶える。
そして胸元に白く輝く紋章が浮かぶ。
「これは……神威の紋章」
神威の紋章とは、神威が使えない人の心臓に施すことにより圧倒的な神威を扱えるようになるのだ。
悪魔が人間を誑かす為に作られた魔装具で施すのだが、体にかかる負荷が強く寿命が減るというリスクがあるので禁止されている。
「こいつ。神威も使えない全部偽ってるな嘘つき男」
「バオバブスをなんとかしないと常に神威を補給される、強くなり続けるぞ」
攻撃による神威吸収するのを封じ込めただけであって、供給を断った訳ではない。
あの木をなんとかしないとこちらの神威が底をつく。
「俺達の神威が尽きる前に倒しきるまでだ」
「グルオオオオオ」
体が更に大きくなり、角も新たにはえ、しっぽもはえる。
「発動させやがった。あの野郎、俺を捨て駒にするな」
「あの野郎!?」
「このまま死ねるか、テメェら全員ぶち殺して任務遂行する。すれば予定通りだ」
禍々しいモヤをまとい、明らかに異常である。ただでたえ異常だったのにそれがかわいく見えるほどにだ。
「この感じ……」
「ああ、間違いない」
「神格化だ」
神に鍛えられし者にしか授けられない力。
隊長達だからこそ感じ取れたのだ。
「邪神侵蝕!!」
人であり獣でもあり竜でも悪魔でも神でもあると同時にそうでもないこの世ならざる存在。人工複合種(キメイラ)となった。
「ハアーーー!」
「所詮は擬物だ、神威が使えれば相手ではない」
振り下ろしてくる両腕を槍で受け止める。
パワーが桁違いに羽上がっている。さすがは神格化といったところだ。
「トドメだ!」
押し返し精霊の力を纏った槍を心臓めがけて突く。
しかし、槍が光の粒となり消える。
神威が尽きたのだ。
「おしかったな!」
嘲笑うヴァイスは鋭い爪で突き刺そうとする。
「しまっ」
「バトンタッチだよアニク」
頭上からヴァイスを踏み潰すギニラル。
「任した」
「私の次にあと四人控えてるわ。 もつかしらね?」
座っているメーテルと立っているイザベラと寝ているオーウェン、そして見てすらいないソウル。
「コケにしやがってぇ……」
一斉にかかってこないということは一人で事足りる証拠であり、万が一の為にと保険をかけているのだ。
それはここまで強くなったヴァイスにとって屈辱である。
「鬼神の首飾りよ。今こそ力を発揮せよ」
首にぶら下げた鬼を模した不気味なアクセサリーの目が赤く輝く。
それと同時に筋肉が急成長し、全ての鱗が逆鱗へと変わる。
「グオオオオオオッ」
ついには言葉すらも失い、ただ目の前のものを壊す兵器へと偽(な)った。
「本格的な化物になったな」
「やれやれ、仕方ない。私の残りの神威やるから暴れてこい」
「ソウル。いいのか?」
「私は魔法がメインだ。魔法が使えないなら神格化も意味がないからな。安心しろ、ほとんど使ってないからあいつから倒す分は賄えるぞ」
「私は大丈夫だ、アニクとギニラルに与えてやってくれ。その間はなんとかしてやる」
そういうとヴァイスめがけ駆け出す。
「真面目だな」
その熱意に関心しながらアニクに神威を流す。
「お前も見習え」
「そういうな、私がサボってて良かっただろ?」
「ふん。楽して」
「無駄をしない。頭がいいと言ってくれ」
「ソウルさん私も私も」
「はいはいっと」
パタパタとやってくるギニラルにも神威を分け与える。
「はああ」
「ガアアアア」
ヴァイスの豪腕をかわしながら隙を見つけては剣を振るう。
ガキン
(弾かれる。私の神威も少ないな)
本来ならスパッと切れるのだが、神威が弱まり切れ味が落ちてきたのだ。
ノアに与えた神威の量が多すぎたか。
それに加えバオバブスが神威を吸収するから消耗が激しいのだ。
ガキンガキン。
連続で攻撃するも弾かれる結果に終わる。
硬い鱗を持つ相手に切れ味の悪い剣を振っても意味がない。
「はああ!!」
神威武装を解除し、攻撃をかわす。
攻撃の隙を見つけてるとすぐさま顕現すると同時にありったけの神威を流し斬る。
神威の扱いが超一流だからこそ使える節約戦法。
それが功を成したか、ヴァイスに傷を与えていく。
「ガアアアア」
大口を広げ広範囲に炎を吐く。
逆に近寄り股下にくぐり抜けると背後に周り腕に剣を突き刺す。
「グギャアアア」
すぐさまイザベラを振り払う。
受け身を取りすぐに立ち上がるが、振り払われる時に腹部に腕が掠り重症なダメージを負ったのだ。
(掠っただけでこの威力。まとまに喰らえば確実に死ぬ)
動くと脇から凄まじい痛みがしょうじる。
だが
「ウオオオオオオ」
大きな足音をたてながらイザベラに向けて前進する。
ここで止まったら殺される。そう自身に言い聞かせ立ち上がると前蹴りを剣で受け止める。
「がはっ」
大きく後ろへ吹き飛び、バオバブスが根を張る宮殿の壁に激突する。
口から血を吐く。
衝撃で折れた骨が臓器に突き刺さったのだろう。
なにより肺が潰れ呼吸が出来ない、全身強打で体が動かない。
それに対して目の前には炎の息が迫っていた。
こんな状況で平気に動けるのはあのカズキ(バカ)くらいだろう。
覚悟を決め受けきろうと全身に神威をまとい構える。
「うる、さい」
一人の少女がやってくると、炎に向けて手をかざすと一瞬で消える。
「!?」
一体何をしたのだろうか。その光景にイザベラとヴァイスは驚く。
「何を しているん、だ?」
そのやたら背の高い少女は頭にボンボンがついた三角帽子にふりるがついネグリジェといった可愛らしい寝巻き姿をしていた。
「ふぁ」
手に持つ枕をギュッとしながら欠伸をする。
(この少女、確かカズキを伸した)
「この 状況を、説明 してほし、い」
説明も何も見れば一瞬だろう。
「襲われている」
簡潔にそのままを答える。
「何を すればいい?」
「そうだな、この木をなんとかしてくれないか」
「木?」
聳え立つ巨木を指さす。
「そうだが、出来たら苦労は」
「わかった」
眠い目を擦りながら答える。
「何をいって」
少女は指を鳴らすと、一瞬にしてバオバブスが凍り付く。
「なっ!?」
「後 は、頑張っ て」
そういうとヴァイスの方へ向かって歩いていく。
「おい、どこへいくんだ」
「カズキが哭いている」
表情は何一つ変わってはいないが、その声だけでワルキューレは酷く悲しんでいることがわかった。
「……………」
ヴァイスの真横を素通りする。
だが、ヴァイスは動けなかった。襲いかかったら確実に殺されると本能と理性が悟ったのだ。決して触れてはいけない異常な存在だと。
ワルキューレも愛する人の前には、あのおぞましいバケモノなんて眼中にないのだろ。
「はは、私は目の前の敵よりも彼女が恐ろしくてたまらないな」
ワルキューレに戦慄するイザベラ。
神威が通じないバオバブスを凍らせたということは確実に自分の力でやったことだ。
なにより、何もせずヴァイスを制したのだ。
まだこんなに強い奴がこの世にいるとは信じられない。
「さて、やろうか」
凍ったことにより神威が吸収される心配はなくなった。
あとは神威が、命が枯れるまで戦うのみ。
「はああ!!」
戸惑いを隠しきれないヴァイスに猛攻するイザベラ。
「加勢するぞ」
「遅くなってごめーん」
それに加えソウルから神威をもらい復活したアニクとギニラルが参戦する。
「よく神格化なしで戦えたものだ」
「運が良かっただけさ」
「私達が隙をつくるから、トドメはよろしくね」
そうイザベラに告げると、ヴァイスに向けて走り出す。
「わかった」
期待されたらそれに答える。それがイザベラだ。
神威を集中させる。黄金の剣が更に強い輝きを放つ。
「獣神転生」
「竜神招来」
「バアアアアッ」
両手を振り回し暴れるヴァイス。
腕を振るう度に風が巻き起こり近づくだけでも困難。
距離をあけると、炎の球を口から連続で吐き出す。
「ふん!」
ジェットの力と獣人の力から繰り出される槍投げは、凄まじい回転力もあってかヴァイスの腕に突き刺さる。
「ドラゴンスレイヤーアターック!」
それだ!と言わんばかりにギニラルもハンマー投げのように一回転して剣をぶん投げる。
しかし、簡単に叩き落とされてしまう。
「あれ?」
「いい囮だ」
その隙をついて懐に潜り込むことに成功した。
「アアアア」
それに気づいたヴァイスは即座に両手を振り下ろす。
「キングクロー!」
自慢の一撃で両腕を迎撃する。
「ナイス囮!」
大きく仰け反った時にアニクを踏み台にし飛び上がるギニラル。
「ドラゴンショック」
腹部に両手を突き出す。
ドォンと内部で破裂する音が響く。
「今だ!」
「これで、終わりだ!」
吐血し、片膝をついているヴァイスめがけ剣を振り下ろす。
黄金に光る巨大な斬撃波が地面を斬りながら前進する。
「グウオオオオオオ」
両手で押さえ受け止めるが、その前進は止まらず後ろへ後ろへと押される。
そして、バオバブスの巨木へと当たり逃げ場を失う。
「ギャアアアアア」
ついに力負けをし光の斬撃波に飲まれる。
「グワアアアア」
斬撃波はバオバブスの巨木にも亀裂が入ると脆く砕け散る。
「やっと終わった」
バオバブスの破片は砕けると神威の光粒子となり王国に降り注ぐ。
「バオバブスも処理して一石二鳥だね」
「長い夜だったな」
「もう夜明けだもんね」
太陽が顔を出し真っ暗な夜を照らす。
砕け散ったバオバブスの凍り付いた破片が朝日の光に反射しながら振ってくる。
砕けた破片は神威の光粒子となり戦場となった王国に恵みを与える。
「向こうも終わったし、ひとまずは一件落着だな」
遠くで倒れる三人を見てほっと安心するのであった。
つづく