「■■■■■■■」
身の毛がよだつ咆哮が静寂を突き破る。
「うっさいわね。夜なんだから静かになさい」
大気を震わす悲痛な叫び、その言葉にすらならない訴えは聞いてるだけで彼の心情がうかがえる。
だがそれをなんとも思わないで駆け抜け飛び蹴りを食らわす。
踏みとどまったカズキはリュークの足を払い、拳を腹部に叩き込み、その勢いのまま地面へ叩き付ける。
続けて大きく飛び上がり踏み潰してくる。
体を回転させかわし、体勢を整えるとすぐにカズキめがけて拳を振るう。
「はあああ」
そして互いに激しく打ち合う。
殴り、蹴り、防ぎ、避ける。その攻防の勢いはどんどん加速していく。
「だぁりゃあ!」
カズキのストレートパンチを腕で軌道をずらし、がら空きになった顔面に思いっきりぶん殴る。
「楽しかった、もう充分楽しんだわ」
久々にお遊び無しで戦った。この私をここまで満足にさせたのだ、大した男だ。
まだまだ戦いたいが、これ以上やればこの国は復興出来ない程に壊滅する。
「だから、これで終わりにしましょう」
強く握りしめる拳は虹色に輝く暖かな光を纏っていた。
カズキは本能で勘づいた。
あれは受けてはいけないものだと。
見かけ倒しの危険な技だと!
「■■■■■■■■」
大きく後ろへ下がり距離を取ると、両手にエネルギー弾をつくり連続で放つ。
雨嵐のように放たれるエネルギー弾を掻い潜りながら確実に距離をつめる。
「■■■■■■■!!」
目の前に迫るリューク。
打つ手を止め、カズキも渾身の一撃を叩き込む。
「はああ!」
頬を掠りながらかわすリューク。
そして、カズキの腹部に拳を叩き込む。
「ッ!?」
貫くように背中から神秘的な星屑のような光の粒子が弾け出る。
口から勢いよく血を吐く。体に亀裂が入りそこから黒く禍々しいエネルギーが溢れでる。
「■■■■アアアアア!!」
黒い光と共に勢いよく弾け飛ぶ。
「終わったわ」
元の姿に戻ったカズキが倒れているのを確認すると、終わりを確信する。
あれほどたちこめいた黒雲が消え、朝日が優しく照らす
「ぅ、ぁぁ……ま、まだ、おわって……ないぞ」
しかしカズキはまだい生きていた。
掠れる声で立ち上がり、落ちていた愛刀国切りを拾うと足を引き摺りながらリュークの元へ歩く。
「まだ生きてるなんて、生命力は確かなものね」
体が弾け飛んだのに原型を留めているという矛盾。
生きて刀を持ち戦いを挑んでくるのは流石と言いたい所だ。
「……トドメを、させ」
リュークの前に刀を地面に刺し、その前に胡座をかく。
「は?」
予想外の出来事に呆気にとられるリューク。
「もう充分だ……もう……怒り、疲れたよ」
疲弊しながらも満足の笑みを浮かべるも、口から夥しい量の血を吐く。
「お前の言う通り、俺の理想は叶うことが出来ない夢の世界だ。所詮は駄々をこねるガキ、ひっでぇエゴだ」
世界を滅ぼそうと行動に起こし、アルガド王国に膨大な被害を与えた。
だが、それも自身を遥か上回る力で阻止された。
「あなたの気持ちは痛い程わかるわ。実現しようとして死んでいった者達も多くみてきた、なにより私も同じ気持ちよ」
「へへ、やっぱ同志だったか。それだけでも、嬉しいな」
無謀な願いだが解ってくれた。それだけでも救いだ。
「さあ、俺は敗者だ……やってくれ」
「………」
「俺の国切りで、お前に殺されるのならこれ以上のない誉」
今まで多くを殺し、多くを壊し、多くを悲しませた。
楽に死ねるとは思っていない、まともに殺されるとは思っていない。
だが、戦場で、死地で、俺を倒した強き者に殺されるならば願ってもない本望。
「……バカね。ヒノモトの人間は……どの時代も侍のまま、自分勝手な武士道(己の道)を貫きたがる。いいわ、その気持ちに答えてあげる」
刀を引き抜くと、カズキの首元に刃を向ける。
「見事な散際なり、伊織和輝!!」
「有難う」
リュークはカズキの首めがけ刀を振るう。
目を閉じ、自身の命の終わりを静かに構える。
ブシャア
真っ赤な血が吹き出る。
「!?」
「殺、さないで……お願い」
国切りを腕で受け止め阻止するワルキューレ。
「あららワルキューレじゃない、お久しぶりね」
突然飛び出したワルキューレに驚きながらもペコリと会釈をする。
「リューク様、やめて」
そんなリュークにカズキを生かしてほしいと願う。
「私は別に殺すつもりはないけど、カズキが今死にたいって言うからさ叶えてあげようとしただけよ」
「カズキ、生きて」
ギューッと抱き締める。
「だってさ、身を呈して守ってくれた婚約者が言ってるよ」
「そそそそんな事より速く止血を、綺麗な腕なのに傷が残ったら大変だ。はああ!」
ワルキューレの傷口に触れると、暖かい光を放つ。
みるみる傷口は消え元の美しい腕へと戻る。
「ふう、一安心と。じゃあ俺の死に様を見届けてくれ」
素早くリュークからクニキリを奪うと喉に突き刺そうとするが、ワルキューレにいつの間にか阻止される。
「ダメだこりゃ……また死に損ねた」
今回も死に場所を失ったカズキは残念な表情を浮かべる。
「指突」
「ヴッ」
カズキの喉に指を突き刺すと、白目を向いてそのまま気絶する。
「死んじゃ……嫌」
これ以上意識があると自殺したがるので落とす。
「これでやっと一件落着……とは行かないわよね」
荒れ果てた国を見てこれからの事を考えるとため息をつくリューク。
「好き勝手暴れて、復興にはだいぶ時間がかかるな」
駆けつけたメーテルもリュークと同じくため息をつく。
「あら、そっちは片付いたの?」
「勿論」
「で。国王の一人として、カズキをどう裁くのかしら?」
「魔物に襲われた。カズキのせいじゃないだろ」
今回の件は魔物によるもの。
カズキによる被害はあるが、原因は魔物であることにかわりはない、
「そうじゃない。カズキが世界を滅ぼそうとしたのは紛れもない事実、それに対してどう裁く」
カズキが本性を現し世界の脅威となった今、どういった処置を施すのか。
「何も知らない奴らは死刑を望むだろう。あのバカもそれを受け入れるはずだ」
「なんとかしてやりたいんだがな、各国を治める王がいる前でこの騒ぎだからな」
カズキの真意と脅威を身をもって知った国々はそれ相応の処置を望むだろう。
更にこのような事件が起き、アルガド王国の信頼は地に落ちたと言っても過言ではない。保護や匿いは難しい。
「世界が、環境が生んだバケモノよ。可哀想過ぎるわ」
純粋過ぎるが故にこの醜い世界を認められず、全てを憎んだ哀れな男。
カズキを見つめながら世界の在り方について考え込むリュークであった。
その後、皆は宮殿へと向かい一晩戦い疲労により倒れる者、王や友人の安否を確かめる者、各々今を生きてるを喜ぶ。
そして夜が明けた。
アルセウス学園
山の麓に作られあまり目立ってなかった為か、襲撃の魔の手から逃れ無事だった。
その為避難場所となり今は住む場所がない人達が暮らしている。
学園も長い休みを取り、国民総出で復興作業を行っている。
そして、学園長室にて重苦しい空気が立ち込めていた。
長テーブルで簡易に作られた円卓に並べられた椅子に各国の王達が座る。
もちろん、カズキの件での会議だ。
取るべき処遇はアルガド王国以外の国々は決まっているのだが、思うように話が進まない。
「さっさと議題に取りかかれ、王族に構ってやれるほど暇じゃないぞ」
「魔界について考えなければならないのだ。カズキ如きにかける時間はない」
この場にテラとクラウザーがいるのだ。
「私の娘の将来がかかってる。真面目にやれ」
「そうだ、私の姉の孫の命がかかってるんだ。真剣に話し合ってもらたい」
「おや?珍しく意見があったな」
「珍しく?初めての間違いじゃないのか?」
更に険悪な雰囲気になる。
襲撃され苛立っているのに、かつての宿敵同士が顔を合わせている。二人は共にカズキに繋がりがあり、同じ意見を持っている。気に入らないんだろう。
最悪な会議となりメーテルが議題を上げてから誰も口を出していない。
「ドルツェルブは許そう」
重圧な空気を突き破るったのはクリスだ。
「……正気か?」
「無論!カズキ殿とは方向性は違うが同じ理想を持つ同志と思っている。今一度我々の社会を見直し、共に手を取る時がきたのだ」
「戦争の元凶が平和を語るか」
「確かにドルツェルブは我や親、御先祖様は国を豊かにするのに必死だった、他の国々と比べれば小さな土地、資源もさほどもないこの国は武力で強くするしかなかった」
かつてドルツェルブ公国。それは六大国が出来る前にあった数多の国の一つでしかなかった。
周辺の国を支配し領土を広げ、連国となり軍国へとなった。
「御先祖様のおかげでドルツェルブは成り立ったが、武力による支配は我の世代で終止をうつ」
これまで血で血を洗う争いで勝ち取った国だが、それを終わりにしなければならない。
「ドルツェルブはすでに奴隷制度は廃止している、和解したエルフやドワーフ達との貿易にも成功した。戦争が無くなれば武器の製造は無くなり軍人も労働源となる。その暁には軍国から技術国として建国する予定だ」
「戯れ言を、実現出来る訳がない」
先日の会合で魔界の対策を話し合ったが、他国との協力を断り自国で対処するという判断をとったのだ。
自国の事だけで精一杯なのに他国も気にかけるなんてできない。
足枷をつけて喜ぶ者はいない。誰しも切り離したい。
既に出来ない事は立証済みだ。
「……ならば戦争を望むか?どちらかが滅びるまでやりあうか?愚かな歴史を繰り返すか?」
「今はカズキの処遇についてだ。議題から外れるな」
カルディナルは淡々と冷静に言う。
「外れてない、この一件で我々は」
「我々の話は後だ」
クリスの反論はカルディナルの冷たく重い言葉で潰される。
「他の者達はどういう意見だ」
「問題になる前に脅威は早めに処理した方がいいのは確かだ」
「となると、殺す意見が多数だな」
「あの映像を見たら同情したくなる気持ちもわかるがな」
「レオルドの事もあったし、でも滅んで当然だった国でもあるし……ムムム、とても難しい一度国に帰って話し合って再び議題としてじゃ時間がかかる」
カズキの処遇には頭を悩ましていた。
「いいんじゃないか?被害受けたのアルガドなんだし、他は無害だしな」
そんな中で精霊王が軽く言う。
「アルガド側からは文句はない、民を殺したのは魔界の奴らだ。それとは別で復興作業にカズキを労働させる。殺すな」
精霊王に便乗する形で被災した側にも関わらずあっさり言うメーテル。
「迫害され戦争してたドルツェルブと同じ意見か」
皮肉を言い笑うゴラル。
「戦争していた同士だからこそ、我々から変えるべきだと思わないか」
「和睦するのは一向にかまわん。だが、カズキが脅威な事にかわりはない。またいつ暴れ出すかわからん」
「神に使える国として神殺しは一番の脅威。理由はどうあれ脅威は消しておきたいのは誰しもだな。保身過ぎてつまらん議題だ」
欠伸を漏らしながらムゥは言う。
魔女として脅威の対象として迫害され、自ら長年他国との関係を断ち保身に走った。
その結果は各国との文明の遅れ世界情勢が入っておらず急な戦争により多くの民が死んでしまった。
その過程があるルーンブラッドにとっては目先の保身に走るカルディナルの姿は滑稽に見えてしまった。
「その通りだ。あの世界が作り出してしまったバケモノを殺しておきたい」
それを見越しているのか、堂々と振る舞うカルディナル。
他者とは違う判断の一つ一つで歴史は大きく変わり造られていくと言わんばかりの対応。
「殺す殺さないにせよ、まず殺せるのか?」
「己の過ちを受け入れ処遇を待っている。死も容易く受け入れるだろう」
その証拠にカズキから抵抗の意思が全く感じられていないという。
「カズキをわかってないな。受け入れてるんじゃなくて、興味無いの間違いだ、今更殺しを悔やむ善人じゃない」
他人事のように呟くメーテル。
「他人事だな。我々の世界の運命がかかってるんだぞ、ましてや魔界の事もあるのに」
魔界からの侵略に加えてカズキの暴走となると滅びるのは確実。勝手に共倒れしてくれればいいが、そんな都合良くいくわけがない。
なんなら利害の一致で手を組まれる可能性すらある。
どちらにせよ野放しはできない。
「殺す方が手っ取り早い」
「だから殺せるのか。話によれば生半可な神威武装じゃ傷つけられないそうじゃないか」
「隊長達がいるんだ。それに、あのカズキを倒した少女がいるだろ」
少女とは恐らくリュークかワルキューレの事だろう。
現に倒してみせたのだ、格上なのは明白。
それに加えカズキと同期の神伐隊の隊長達がそろっている、たった一人で暴動を起こし勝つことは不可能だろう。
「ただちに処刑の準備を始めろ、続きはその後だ」
「まて、独断で決める横暴が認められるか」
クリスが立ち上がり反論する。
「……陛下」
クラウザーは肩をそっと叩き首を横に振る。
「………」
六大国などと偉そうな肩書きがあるのに、レイクロウという神の力を直接受けている国には絶対的力を持っているのだ。
逆らえない。逆らうとどうなるのか、考えたくもない。
「話は以上だ。取りかかるが良い」
そういうとカルディナルは立ち上がり部屋から出ていく。
その時だ、ドォンと厳重そうなドアが吹き飛び、長机を吹き飛ばす。
「カルディナルのムシケラはいるかっ!」
真っ赤な返り血を浴びたカズキが怒鳴り声を上げて入室。
続く