雲を掻き分け空を飛ぶ船、飛空艇にカズキ達は乗っている。
剣舞祭を行う聖地。聖レイクロウ神国へと向かっているのだ。
「いよいよですわね」
「そうだな」
「剣舞祭、楽しみだな」
「はわわわ、緊張します」
「そう身構えるな。お前達なら勝てる」
緊張している生徒達を他所に呑気に葡萄酒を嗜むレイカ先生。
「なにを呑気に飲んでおりますの」
「これまでの戦いを振り替えろ。修羅場を乗り越えお前達は飛躍的にパワーアップしてきた」
「ですが、相手は神伐隊に各国が出し惜しみをせずに送り出す猛者」
「こっちは各国の寄せ集めチームなんだ、対策はバッチリなんだろ」
「そうですが」
「こっから強くなるなんてほぼありえないんだ。自分信じて戦ってこい!」
「そーそー、どうせカズキが暴れて終わりなんだから」
「おいこら」
「ですが、確実にカズキさんの対策を練っていますわ」
「対策?そんなのが通じないから絶対のカズキと呼ばれてるんだよ」
「そうなのか?」
「いや知らん」
「適当過ぎるだろうがよ」
「剣舞祭ってどんな感じなんだ?名前しか聞いたことがないからわからん」
「試合が見れるのは貴族がほとんどで、庶民が目にするのは僅かですから仕方ありませんわ」
「ノアさんはあるですか?」
「勿論ですわ」
ふふんと鼻を鳴らすノア。さすがはお嬢様。
「俺もあるぞ」
「あら、ドルツェルブでも見に来る物好きはいるのですのね」
「ドルツェルブが剣舞祭に参加し始めたのは最近だからな」
大戦が終わりしばらくしてからなので、ドルツェルブは歴史は浅い。
「基本は三日かけてトーナメントを行うのですわ」
「基本は?」
「たまに試合の流れがスムーズで、はやく終わることもありますの。形式も個人戦だったりチーム戦だったりと毎年違いますし」
「俺が見に行った時は個人戦だったな。世界一位のハクアが優勝した時だ」
「史上初の二連覇を成した時ですわね」
「ハクアか、懐かしい名だな」
「たしかレオルド帝国でしたわね」
「もう滅んだけどな」
「ま、まさかカズキさんが殺したとか!?」
「あの革命は死者はでてない。俺が切ったのは国を囲っていた城壁と城だけだ」
圧倒的実力差を見せつけて相手の戦意を削いだ上での交渉革命だ。
「そのハクアって人は騎士団長だろ?革命軍の長と恋仲だったから献身的だったぞ」
「その長はバルトか、また懐かしい奴が出てきた」さ
「おいおい昔話が始まってるぜ」
「話が脱線してるぞ」
「すまんすまん」
「レイクロウか、どんな国なんだろうな」
飛空艇で会話をしながら到着までの時間を潰しているのであった。
聖レイクロウ神国
世界の中心にあるとされている島国。観光目的でこれるような場所ではないが、世界中から多くの者が参拝しにくる。そのため港からは世界中から交易を行い街は賑わっている。
一生に一度はレイクロウという言葉があるくらい信仰深いのだ。
「ここがレイクロウか」
「神秘的な気がするぞ」
「言われてみれば神々しい気がします」
「無茶しなくていいのですわ」
「雰囲気に飲まれてやがる」
「なーんだフツーの街だね」
アルガド王国の住宅街となんら変わらない風景に落胆するリューク。
「相変わらずつまらん街だこと」
巫女の修行や神のお告げを聞く場所なため、娯楽が基本的にない国だから超つまらない。酒場もギャンブルもその他諸々なんにもない。魔物も危険種もいない平和で退屈な国だ。
「カズキは来たことあるんか?」
「これで三回目だな」
「一回目は?」
「内緒」
「二回目は?」
「世界を回ってる時だ」
「一回目はなんなんだ」
「内緒」
「わかった」
「さっさと宿に行こうぜ。試合は明日なんだからよ」
「はしゃぎすぎて試合に影響だすなよ」
そう。当然だが前乗りしたのだ。
レイカ先生に連れられるまま豪華なホテルへとつく。
「おー、すげぇな」
「代表メンバーはみんなここに泊まる。神様のお膝元なんだ騒ぎだけはおこすな。特にカズキ」
「俺かよ」
「お前は顔が知られてるから狙われるかもしれない」
「そら返り討ち」
「騒ぎで出場停止になったら全て無駄になるんだよ!」
「うぉ、耳痛」
「中入ろうぜ」
「はやくシャワー浴びたいですわ」
中へ入るとシャンデリアが目を引く豪華に飾られた装飾品、隅まで清掃させた清潔な空間さすがは一流ホテルだ。
「なんか落ち着かないな」
「民家みたいな宿がいいんだけどな」
「でもこういうホテルは憧れませんか?」
「たまにはいいんじゃない?いつもと違ってさ」
「非日常ってやつか」
「ほら早く行くぞ」
「わたくたちは六階ですわ」
「すげー、一人一部屋かよ」
「代表ですから当然ですわ」
「お前どこ部屋よ。暇だから遊び行くわ」
「観光なんてする場所ないからトランプやろうぜ」
「いいぞ。次は負けない」
「試合の作戦を考えてくださいまし」
「明日にならないと対戦相手もわかんないだろ、やるだけ疲れる」
「全員倒してこそ最強だ」
「注意人物とその対策は寮で練ったばかりだろ、誰が聞いてるかわからん場所で話したくはない」
「ですが」
「盛り上がってる所悪いが、夜には前夜祭があるからな。それまで安静にしてろよな」
「前夜祭?」
「そうだ。以前やったパーティと同じと思ってくれ」
「また襲撃されませんかね」
「まさか、さすがに度胸ありすぎるわ」
「それよりも、またやるのかよ」
「なにをやるんだ?」
「神々に捧げる奉納神楽が主だな」
毎年優秀な姫巫女が選ばれ、神々の前で奉納するのが恒例行事となりその後にパーティが始まる。
「……退屈しそうだな」
「そんなことはないぞ。祝福と加護を受けれるからな、戦いで有利になる」
「みんな受けたら変わんなくね?」
「それはそう」
「今年は誰が舞うのでしょうか」
「毎年違うからな、去年はソフィアがやっていたな」
「ソフィア?あぁ、レオルドの御姫様か。そこまで地位戻して俺は嬉しいぞ」
「なんだ知り合いか?」
「御姫様とは修行時代の顔馴染みでな。レオルドを滅ぼす時は温情をかけたものだ」
懐かしいな。いくら友人だからとて、ヒノモトの姫さんを暴君に逆らってまで匿ってくれた時は感謝を極めたものだ。
ロウレクシアがはやく建国出来たのは彼女の存在が大きい。と、おもうぱずだ。
「夜まで暇だな」
「トランプやろうぜトランプ」
「そうだな」
一人一部屋あるのに結局一人の部屋に集まってワイワイするのであった。
レイクロウの中心にある霊峰の麓に鎮座する異様に巨大な宮殿。
かつてそこには全世界を納めた王が住んでいたのだが、今では姫巫女の修行場であり宿舎として使われている。
そこにある円形の巨大な広場。アルセウス学園にある闘技場と全く同じ形であり、剣舞祭の舞台にもなり神々に奉納する神楽を舞う場所でもある。
「うおー、懐かしいな」
「ここで神楽を舞うのですわ」
久々に来た場所。あの時の懐かしさと熱狂を思い出すジェルマンとノア。
「学園の闘技場と同じじゃないか」
「ここを真似して作られたのですわ」
「神々はどこにいるのですか?」
「え、えーっと。神様は現れませんわ」
「神々と対面出来るのは優勝者だけだ」
「さすが優勝者。詳しい」
「詳細を話すのは禁止だからそれ以上は言えない」
神様がどんな感じで何を話したかも話してはいけない全て秘密であり、勝利者の特権なのだ。
「全知全能の創造神タイガー様。名前はこの世の全ての者が知っていますわ」
この世界を創り神々を従える全ての頂点。その存在は知られど対面できた者は少ない。
「タイガー様……是非一度御会いしたいものだ」
カズキが言う。
「神様に鍛えられたお前も会った事がないんだな」
「当たり前だろ。そう簡単に会えるか」
「何を期待してるかわからないけど、普通な人だよ」
「普通な訳あるか、お前の父は異常だったろ」
「はい悪口!はいギルティ!」
「異常だから神なんだろうが」
「相変わらず言い合ってますわね」
「疲れたから席すわろうぜ」
「私は違う席だからな。くれぐれも騒ぎを起こすなよ!」
少し後方の席へ移動するレイカ先生。
代表メンバーなので最前列という貴族や王族よりも優先でいい席に座れるのだ。
ちなみに、各国ごとに場所が決められているので他国同士が交わる事はない。
神楽の準備をする修道院服や巫女服を身につけた少女達がパタパタと広間を動き回っている。
前もって準備しておけよ段取りが悪いな。と思うが何かあるんだろう。知らんけど。
「今更順暇してるのかよ」
「こら、悪態つかないの」
「神聖な儀式ですから、前もっての準備は良くないらしいです」
「なんだそりゃ」
「長いな。眠くなる」
大掛かりな準備をしている模様。既においてあったものを片付けたりしてるのを見ると急遽変更のため準備をしているようにも見える。
「暇だからなんか買ってこーよっと」
長引きそうだし、ここにいても暇だから露店で何か買ってこようと立ち上がるカズキ。
「おっ、気が利くな。みんなの分なんかかってこいよ」
「へへへ、知ってましたよ。損な役割するのはよぉ」
言い出しっぺが全て背負うのがこのクラスの流れ、我慢できなかった自分を恨みながら席を離れる。
「カズキさんも優しい方ですわね」
「ノリはいいからな」
「すみませーん、ここからここまでの全ての席を空けてくれませんか」
座っている席の最後列でなにか騒いでいる。
「なんでだよ!こっちは高い金払って席を取ったんだぞ」
「そうだそうだ」
「折角抽選で当たったのに」
「今度はいつやるのかわからないのに席譲れるか」
「横暴だ!許されないぞ!」
何やら席で揉めているようだ。
「おいおい、騒ぎまで起きたぞ」
「神々の前でこれはマズイだろ」
「それより、さっきの発言からしてわたくし達も含まれているんじゃありませんの?」
つまり最前列から最後尾までのこっからここまでの席だ。
後ろを振り返ると金色に輝く毛並みをもつ黄金の虎の女の獣人が、十メートル先の旗を指差しながら言っている。
結構な席を開けろと言っている。これは文句も言われてしまうのも納得だ。
「やれやれ、大きな騒ぎだな」
ここへ真っ赤な毛並みの獅子の獣人アニクがやってきた。
「アニク、何しに来た」
その姿を見るとすぐに臨戦態勢をとるジェルマン。
「何しにって、席が近くだから挨拶にな」
「敵同士だろ。馴れ合いはいらん」
「お前らには世話になったからな。試合以外は友好に接してるだけだ」
「アニク、お前の所のメンバーじゃないのか?止めてきてくれ」
レオンが後ろで騒動を起こしている獣人を指差す。
「いいや違うぞ」
「じゃあ誰なんだ?」
「黄金の虎の獣人は見たことがない」
あんな派手な獣人がいるなら耳にはいるはずだ。
「なら止めてこいよ。王子なんだろ?言うこときくだろ」
「いや、人見知りだから話したくない」
「嘘だろお前!」
「あ、聖騎士団がやってきましたわ」
騒ぎを聞き付けた聖騎士団が数名やってくる。
「あれはロットとルクスか。メンバーなのに仕事とは感心だな」
「それだけじゃない。アリスやイザベラまで出てきたな」
「メンバーほぼ総出だな」
あれ程の者達が出向くとなるのだから余程の事態なのだろう。
「あーあ、みーんな失礼働いちゃって。しーらーなーい」
「他人事だなリューク」
「私にはね」
「気になるな。行ってみるか」
「あまり首を突っ込まない方がいいんじゃないですか?」
後々で面倒事になるかもしれないから止める賢明なルリー。
「……それもそうか」
「お?まだ始まってないのか?」
ここへカズキが飲み物が入った袋と食べ物が入ったバケットを両手に持ち、食べ物が乗ったトレーを頭に乗せて帰ってくる。
「あーアニク!お前の分はないからな!」
「いやそこかよ」
「他の隊長達は?」
「みんな自分の国の席にいるさ」
「じゃあお前は?」
「席が近いから挨拶さ」
「へー律儀」
「当分始まりそうにないな。ここで雑談でもしてようぜ」
「そうだな。折角カズキが買ってきてくれたしな」
「感謝したまえ!」
「ありがとうございますわ」
「んー、おいしいですけど買ってくるものセンスありませんね」
「ひでぇ」
確かに肉とかガッツリ系なものしか買ってきてない。なんか甘いものでも買って来ればよかったな。
「んで、聖騎士団が動いてるけどなんの騒ぎだ」
後方を指差して聞いてくるカズキ。
「なんか獣人が席を空けろと騒いでいるんだとよ」
なんにもしらないカズキに教えるジェルマン。
「なんだそれ、おいアニク」
「さっきも言われたぞそれ」
「そうか。仕方ない、仲裁にいってやるかー」
準備もまだ時間かかるし、暇潰しにはちょうどいいだろうとたかをくくり立ち上がる。
「おい騒ぎは」
「野次馬になるだけさ。イザベラにも挨拶しておきたいしな」
そう言うとスタスタと騒ぎの中心へ向かう。
「むっ」
「あっ」
その道中で、ルミスとぱったり出会う。
「ルミス。体調はいいのか」
「あぁ。傷も癒えた」
「お前には戦わないで欲しかったが、出るんだな剣舞祭に」
「それは私も同じ気持ちだ」
「そっか。ならしっかりぶっ殺してやるよ」
「こっちの台詞だ」
「それにしても、剣舞祭はいつもこんな遅いのか?」
「今回が特例だ。いつもはもっとスムーズに進んでいる」
「まあ騒ぎも起こってるしな」
「犯人はお前と思ったから動いたんだが、宛が外れた」
「おいこら俺をなんだと思ってる」
「元凶」
「ヒデェ」
などと話ながら騒ぎが起きてる場所へと向かう。
「ですか、必要なんです。これくらいの広さが」
「だからなんでです?理由も無しに認められませんよ」
「そうだ、みんなの迷惑だ。これ以上騒ぎを起こすなら」
腰にかけてある剣に手をかけるロット。
「あらあら、乱暴はいけませんよロットさん」
「理由は、その、伏せられていまして」
「困ったな。理由も無しでは協力はできない。すまないが、やめていただきたい」
「そこをなんとか。勇神ブレッジさんに鍛えてもらった一番隊隊長のイザベラさん」
「!?なぜ、私の師の名前を」
修行をつけてもらった神の名前を出され警戒するイザベラ。この件は極秘のはず。
「有名ですから。ね?」
両手を合わせ、何度もウインクをしながらお願いする。
(この獣人、ただものではないな)
神の名前をさん付けする辺りで流石に察したイザベラ。
この獣人は神かそれと同格の存在なのだと。
「何を騒いでるんだイザベラ、らしくないぞー」
そこへ何も知らないのんきなカズキとルミスがやっくる。
「ぬっ、カズキ」
また何か話が拗れそうになるので、最大級の警戒をとるイザベラ。
「あー、カズキくん。実にいいタイミングです」
「こっ、こここ虎威(コイ)様!?なぜこのような場所に!?」
「コイ様。どのご用件でありますか」
その獣人をみるなり、片膝をつき頭を垂れる二人。
「まあルミスさんまでお久しぶりです」
「おいお前らも頭を下げんか無礼者」
「あっ、私は大丈夫ですよー。気にしませんから」
「しかし」
「私が良いっていってるんですよ」
ニコニコ微笑みながら答えるコイ。
「御意」
その言葉にカズキはただ従う。
「それで、なぜここへ?」
「はい。ここからあそこまでの間の席を空けてほしいんです」
「承知いたしました。おいルミス、イザベラ、さっそく席を空けるぞ!後に続け」
「イザベラ殿。彼女が何者なのかわかっていなかったのか?」
「薄々は感じていた。だが、お前らの動きで確信した」
「どうしますか団長」
「言われた通りにするんだ」
「しかし、納得するかどうか」
「兎に角やるんだ。返金と御礼も一緒にだ」
ロットとルクスに事情を説明することなく指示を出すイザベラ。
不服ではあるが従ってくれる。
「カズキくん、彼女は何者なの?」
「後でまた話します。今ははやく席をあけましょう」
カズキもアリスと共に各席へと赴き席を空けてくれるよう頼みに回る。
が、しかし。
「全然退いてくれない」
「なんてことだ。お前ら騎士団だろ、なんとかしろよな」
「そこまでの力はない」
「仕方ありません。弟様には申し訳ありませんが」
「そんなの出来る訳ないじゃないですか。なんとかします、絶対に」
「カズキくん。キュン」
とは言うがどうしたものか。暴力はよくないし、楽しみに来ているのだから説得はほぼ無理だ。
「カズキ殿、数日ぶりてすな」
頭を悩ますカズキ。そこへ高貴な衣服を身につけたドルツェルブ皇帝陛下クリス・カイザーヘルムがやってくる。となりに側近のボリックを従えてだ。
「コイ様。場所はどこでもいいんですか?」
「この際は大丈夫です。席さえ確保できれば」
「ピコーン!天才的発想持つべきは頼れる権力者なり!」
ここでカズキは内容は申し訳ないが、奥の手を閃く。
「???」
ここまでの流れをクリスに一通り説明をする。
そして
「挨拶に伺っただけなのに、まさかドルツェルブの席を空けてほしいとは」
皇帝陛下という最強の権限を使って強制的に席を譲ってもらったのだ。素晴らしいねこれ。
「頼れるのは陛下しかいませんでしたので」
「その急用とはなんなのだ」
「今は言えませんが、自分を信じてほしい」
「うむ。信じよう」
「カズキ、ドルツェルブとは仲がいいのだな」
怪訝な顔をしたイザベラが聞いてくる。信仰が比較的薄い国であるため、あまり良い印象はないのだろう。
「そらまあ許嫁の祖国だから仲良くしないとな」
「……それは本当なのか?」
「そうだけど?ねぇアリスさん」
「はい。私も驚きましたよ」
「いつ知ったんだ」
「カズキさんが、私に力を貸してとお願いした時ですね」
「あの時か!!」
「はい」
「団長。我々はここらで」
「わかっている。我々は自分の持ち場へもどる」
「おう。助かったぞありがとうな」
「ふん」
「ルミスさん、また一緒に稽古しましょう」
「恐縮です」
「姉さん、知り合いなの?」
「あぁ、ちょっとした縁だな」
イザベラ、ロット、ルミス、ルクス、アリスはその場から去っていく。
「みなさんご協力ありがとうございます。ドルツェルブの皇帝陛下さんも無理を言ってごめんなさい」
「良いのだ。困っていたらお互い様、助け合い」
「まぁ、ドルツェルブは信仰が薄くてよくわからなかったですけど素敵な陛下様なのですね!まだ幼いのに立派です」
クリスの発言に感心するコイ。それに対して照れ臭そうに反応する。
「私はこれで呼びに行ってくるので、また後で御会いしましょう」
そう言うとコイはそそくさと何処かへ行ってしまった。
「相変わらず御苦労なされているな」
「時にカズキ殿。さきほどの御方とはどのような御関係なのだ?」
「俺のもう一人の師匠ですよ」
「やや!?カセン様以外にも師匠が」
「カセン様の薦めですね。お陰様でこんな強くなりましたよ!」
両腕を折り力こぶを見せて胸を張る。強そうなポーズだ。
「それはさぞかし有名な方なのだろう。顔見知りになれただけで良しだ」
「本当に申し訳ない。あとそのすぐに決断し行動する力は尊敬します」
「そうか?我はただ良い選択を取ったにすぎないぞ」
先見の明ってやつなのか、俺よりも年下なのに凄いなと感心するカズキであった。
「我はこれでいくが、剣舞祭が終わったら必ずワルキューレの所へ行くんだぞ!いいな!」
「は、はい」
あからさまに念をおされる。これは逃げられないな。
クリスと別れ自分の席へ戻るカズキ。
「お?やっと帰ってきたか」
「遅かったじゃないか」
「まあ色々あってな」
「テメェ、陛下に無理強いしたんじゃないだろうな」
「ギクゥッ。そんな訳ないだろ、皇帝陛下様の御厚意だ」
「本当か」
「勿論勿論。互いにメリットはあったはずだ」
「それでどうだった?コイちゃん元気にしてた?」
「相変わらずだったね」
「コイちゃん怒ると怖いからね。なにもなくて良かった良かった」
「あの獣人さんはコイさんって言うんですね」
「知り合いだったのですか?」
「まあね。早めに問題解決出来てよかったよ」
「おっ、そろそろ始まるみたいだな」
広場では準備が整ったのか、あれほどいた少女達の姿はなくとても静かだ。
それに察したのか会場も静かになる。
「やっとかよ。長かったな」
そこから狐のお面を被った一人の姫巫女。長く美しいプラチナブロンドを靡かせながら広間の中心にやってくる。
誰も知らない無名の姫巫女だ。
「グラハハハハッ」
突然空から巨大な赤い龍がうねりながら宮殿を旋回し広場に顔を向ける。
「どうやら間に合ったようだな」
「ま、魔物か!?」
「こんな所に魔物が現れるなんて」
見るもの全てを圧倒する龍に皆は驚き騒いでる。
「すまないなコイ。急遽席を空けてくれと頼んで」
「大丈夫ですよ。こちらに来てください」
先程クリスによって空けられたドルツェルブの席にて手招きをするコイ。
「おいお前ら、そこに移れ」
龍の背から次々と何者かが飛び移ると、席に座る。
老若男女、全員人の形をしているが明らかに人間ではない。
かといって他の種族ではない、この世とは異なる存在。
「久々に来たぞ地上界」
「人間達は元気にしてるか」
「最近戦争やめたからみんな仲良くしてるかしら」
「ちょうど神楽を舞う所か、間に合ったな」
「誰か酒をもってきてくれー」
その者達は各々寛ぎ何食わぬ顔をしている。
巨龍は天高く昇ると一人の男が広場に降りてくる。
「お騒がせしてすまない。んじゃあ遠慮なく我々に神楽を奉納してほしい!」
赤い上着を羽織った大男が一礼をすると、高らかに宣言する。
「…………」
突如現れた者達に動じることなく優雅で堂々とした佇まいの姫巫女はバンッと扇を広げると、神楽を舞い始める。
大男は跳躍すると空いてる席へ座る。
「⋯⋯⋯」
彼女が舞う神楽は圧巻だった。息をするのを忘れる程に美しく見入ってしまう。
どれほどの鍛錬を積んだのだろうか。一挙一動の動き一つ一つ全てに細かな技巧がある。
圧巻の神楽を終えると、深々と一礼をし広場を後にする。
「美しいですわね」
「とても繊細で引き込まれました」
「神楽というより剣舞や演舞に近いな」
「あぁ。それも超実戦的だ」
ノアやルリーは美しさにみとれ、ジェルマンとレオンは舞とは思えぬその技巧の高さに驚く。
先程の乱入など忘れてしまう程の惚れ惚れとした神楽を絶賛する。
「素晴らしい!神楽はやっぱ生で見ないとな!」
「対面なしの奉納なんて時代遅れだよな」
「そもそも対面しちゃいけないのがおかしいよな」
「威厳を保つ為とと地上を狂わすからよ。おバカさん」
「キャーミュアちゃん素敵だったよ!」
「見事だぞ姫巫女や!よくぞ神々を前にして舞いきった」
龍から人の姿へとなった大男が拍手をし絶賛する。この者達の中心人物であろう。
「コイよ。ここの席を空けてくれた者は誰だ」
「ドルツェルブのクリス皇帝陛下殿です」
「ほー、あの信仰浅い国がよく譲ってくれたな」
「いえ、事情は話しておりません」
「なんと!?その心意気や良し!粋な者に永劫末代に富を千年帝国よりも永久な栄を与えよう」
「弟様。強大な力を与えるのは地上が狂います」
「……そうか。なら空けてくれた者達の子孫末代に幸せと繁栄くらいにしてやろう」
「リューガだけにやらせるな。俺も感謝の胸を伝えたい」
「そうだそうだ。俺達の力をみせつけよう」
「ドルツェルブに信仰心を植え付けてやるぜ」
「あとでお礼参りだな」
異常な盛り上がりを見せる者達。
それを遠い席で見るカズキ達。
「何者なんだあいつら、急に現れたと思ったら騒ぎ出して」
「神聖な剣舞祭前夜に輩が乱入するなんて前代未聞ですわ」
「とんでもない奴らなのはわかるが、どう見るカズキ」
「目を合わせるな。厄介ごとに巻き込まれるぞ」
「神々を厄介者とは随分と偉くなったなカズキ」
カズキの目の前に立つ一人の女性。
腰まで伸びた紫色の髪には黒色の彼岸花を模様した髪飾り髪飾りをつけており、赤のベストの下に身に着けた黒の服は丈が短くヘソが露にしている、また赤いスカートは注連縄を腰に巻き付け固定され、その姿は彼女がもつ女性らしいプロポーション強調している。
向かいの席にいる者達と同じ奇抜な格好だ。
「……カセン様!?」
一瞬目の前の存在を認識するのに時間がかかったが、理解した瞬間席をたちすぐに跪くカズキ。
「どうしてここへ」
「バカ弟子の晴れ姿を見たくてな」
「なら天神界でもよろしいかと」
「バカが、近くで見るから良いんだよ」
ゴツンとゲンコツを落とす。
「イデッ」
「ほら、はやく行って話をまとめてこい。面倒になるぞ」
「は、はい」
カズキを走らせると、空いた席に座る。
「お前らがカズキと同じチームメイトか。……ふむ、あいつに影響されてか皆いい顔をしているな」
「何者ですの!?」
「まて、今カズキはカセン様といった」
圧倒的な異端を前に動揺してるノアを止めるジェルマン。
「そ、それがなんですの」
「カセン様。カズキの話によると鍛えてくてた師匠であり……神様だ」
「え!?」
「カズキから話は聞いたのか。私の名前はあまり出すなとは言ってあるのだが、まぁいいだろう」
存在自体が異常とは感じていたが、まさか神様がやってくるとは夢にも思わない事だ。
「私をふくめ、あそこにいる輩は皆全て神様だ」
ここで衝撃の発言。とてもじゃないが信じられない。
「輩というのは否定出来ないな。全員個性の塊で我が強いからな」
「た、大変御無礼を働きました。すすすみませんですわ」
「気にするな。私はそんな偉い神じゃない、カズキも気軽に接してただろ?」
「き、気軽って」
明らかに怯えていたようにも見えるのだが。
「まあ、これから始まる余響でもゆっくりと楽しもうじゃないか」
「はいカセンさん御茶」
「おぉ、すまないなリューク」
「なんでお前は溶け込んでるんだよ」
つづく