「わざわざ神々の皆様が下天をしてまで地上へ降り立った事を光栄です」
神々の前に片膝をつき、挨拶をするカズキ。
「前もって言っとけば良かったんだが、急遽行けるようになったから迷惑をかけた。ごめん」
はははと笑いながらカズキに話す大男。
「しかしなぜ下天を?」
「そらお前、娘の活躍を見にな。本来は俺と妻二人で行く予定だったんだが、弟子達の活躍がみたい神や地上に興味ある神が多くて大所帯になっちまったよ。やれやれ困った困った」
「…………」
神様とは思えないだいぶ砕けたしゃべりをする。
この黒の胴着に赤い上着を羽織った黒髪の大男は神々を纏める中心的存在。
面識があるが故に対等に話せているが、そうでなければ気圧され声を発するどころか呼吸すらできない。重厚で重圧な空間、まるでここだけ四方八方から圧縮されているんじゃないかと思えるほどだ。
「おいカズキ、何か余興はないのか?剣舞祭まで時間があるだろ」
「面白いことしてくれよな」
この飲んだくれたおっさんみたく野次を飛ばす者達も神様ということに驚くだろう。
「あらあら、カズキくん。剣舞祭に出るんですって?お姉さん応援してるからねぇん」
艶のあるピンクの長髪、小さい布面積は恥部を隠す必要最低限しかない露出に狂った服装のナイスバティな女神が色のある声で囁いてくる。
「うっ、ポイソン様」
「可愛いわねぇまたキスしてあげる」
「っ!!テメェのせいで俺はキューちゃんを泣かせちまったんだぞ!死んで償え!」
「あら?トラウマ(虜)になっちゃったの?次はもっと激しくしてあげるわよ」
「斬る」
腰に下げた刀の柄を強く握る。
「ポイソン。からかうのはやめろ、お前らも神なんだから節度ある行動をしろ」
「あら?あなたは節度ある行動をしてるのかしら?」
「兄貴の顔に泥を塗るなって言ってるんだ」
先程カズキとのほほんと話していた表情とはうってかわって、鬼神ですら裸足で逃げ出すほどに凄まじい殺気を放った恐ろしい顔になる。
「本来なら俺達だけで行くはずだったんだ。お前らにお情けをかけて兄貴に交渉して下天できたんだ、あんま調子乗るな?………消すぞ」
「あらあら怖いこと。冗談を本気にしないでほしいわ」
その大男の圧に押されたポイソンは、後ろれ下がる。
「ふん、戯れ言を……すまなかったなカズキ」
「いえ、滅相もございません」
「そこで一つ頼みがあるんだが」
「なんですか?」
「なんかもう一個余興やってくんない?」
「は?」
「まだ妻が来るまで時間がかかるからさ、それまで時間潰させて!なっ!なっ!」
「い、いや時間潰すなら外でも」
「一緒に回りたいの!」
「は、はあ」
なんだよこの神様は。もうそんなイチャイチャする年じゃないだろ。
「お前ら、カズキが明日の前座としてエキシビションマッチをしてくれるってよ」
「なに!?相手は誰だ」
「俺がやろうか?」
「ふざけんな。俺がいく」
「おいおい、カズキは明日も試合があるんだ。影響を出さない程度死ぬ気で戦い楽しませろ」
「難しい事を仰有りますね。しかも矛盾してる」
「そら神だからね」
神々を満足させられる戦いを出来る奴。んー、隊長達だと師匠の面子とか色々あるし、同じチームだと良くないし、かといって他じゃ満足してくれない。
とても難しいぞ。俺と同格で、かつ神々に教えを習ってないやつ。
「私が相手になるぞ。カズキ」
「ルミス」
「ほう。その名は耳にしてるぞ。ただの村娘が神に教わる事なくそのセンスと実戦経験、努力でその力を身につけた叩き上げの騎士。あ、エクスティアには教わったんか」
ルミス・セインティア。神道院に志願し鍛え、神伐隊を結成される前にカズキと共に戦い死線を潜り抜け生き延び実績を積み上げてきた普通の人間が成せるであろう最大級の強さをもつ少女。
カズキですらその強さを認め、信頼出来る存在。
相手に不足なんてあるわけがない。
「いいだろう。存分にやりあえ」
「「御意」」
カズキとルミスは広間へと飛び降りると各々ウォーミングアップをする。
「おい、カズキとルミスが何かやる気だぞ」
「あの感じ、戦う気なのか?」
「明日剣舞祭なのにか」
突然広間に現れた二人を見て、客席がざわざわし始める。
予定では、この後は巫女達の舞いを見て宮殿でパーティーなのだが明らかに違う。
こんなことが許されていいのか。聖騎士団や元老院、カルディナルも困惑している。
「ただいまより。元神伐隊第七番隊九十九小隊隊長このイオリ・カズキと「同じく副隊長ルミス・セインティアのエキシビションマッチをする」
カズキとルミスが高らかに宣言する。
「な、なにを勝手な事を」
「いますぐにやめろ」
「あぁ由緒正しい伝統が」
「やかましい!最強とその右腕が雌雄を決するんだ。考えてみろ剣舞祭個人戦なら事実上の決勝戦だ」
周りの反論を声量と圧力、言葉の強さで黙らせる。
「先の戦で俺は左目、お前は右腕を失った。互いに戦いは懲り懲りなはずなんだけどな」
「何を黄昏てる。私達はもう普通には生きられない事くらいわかっているだろ」
「お前がそう言うなら俺からはもう何も言わん」
互いに淡々と体をほぐす。カズキ達にしては珍しいちゃんとしたウォーミングアップだ。
「さあて。久々に組手といこうかルミス、腕が鈍ってないか確かめてやる」
「組手?あのカズキが随分と甘い事を言うようになった……死に合いだろ」
「鈍ってるのは俺の方だったみたいだな」
「わかればいいんだ。二流にしてはいい理解力だぞ?褒めてやる」
「やかましい三流三下三枚目のトリプルスリー風情が」
「…………」
「…………」
「「ぶっ殺してやる!!」」
「はああっ!」
腰に差した剣を抜くと同時に大きく振るうルミス。
カズキは直ぐ様受け止めると、つばぜり合う。
「ふん!」
ルミスを弾くと、すぐに距離を詰め体勢を整えるまえに攻撃をしかける。
それを受ける事なく、飛び上がりかわすとカズキの後頭部に蹴りを入れる。
「死ね」
剣を逆手持ちに変えると、首めがけ突き落とす。
寸前で掴むと、そのまま力任せに一回転し振り回すと垂直に投げる。
「挨拶代わりだ。カラミティィバアァァン!!」
炎と気を纏わせた腕を振るうと、巨大な炎の壁が放たれる。
「真実の鏡(ヴェリスタ)」
ルミスの両手から目映く輝く白い光が放たれると、カラミティバーンが反射されカズキめがけ前進する。
「小癪な小細工な能力だ」
両手を広げ受け止めると、圧縮し一つの炎球にする。
「反射するのは読めていたぜ」
ルミスに向けて投げられた炎球は、寸前でじょうしょうしし遥か上空へと飛ぶ。
そして、激しく爆ぜ巨大な花火となる。
「開戦の花火だ。お洒落だろ?」
花火の残り火は七色に輝き、星やハートなど形様々なものとなり幻想的な空間へとなる。
「全く……どこまでも堕ちたんだ」
「堕ちた?否、余裕というものだ。お遊びもできる程のな」
「すまないが、魅せる戦いはあまり得意じゃないんだ」
ダンッとリングを蹴る。すると巨大な鏡となり、残り火が触れた瞬間反射され空へ打ち上がり花火が爆ぜる。
「はあぁ!」
「だりゃ!」
そんなの露知らず。再び剣と刀で斬りあう。
「ぐっ」
残り火に触れるとその場で爆ぜ焼かれる痛みがおそう。動きが制限された状態での攻防に苦戦する。
「はっはっはっ。魅せが仇になったか?」
「仇?否、余裕というもんだ。遊べるくらいにはね」
「挑発には相手を真似するといいって誰が教えたんだっけな、くそが」
「お前だよ」
「末恐ろしいやつだ。だからこそ、相応しい」
刀を鞘へ納めると両手を軽く前へ突き出し構える。
「徒手格闘と?」
「刀は分が悪いとみた。安心しろ、斬れないのは知ってるだろ?」
「あぁ。だからそこ、ぶっ叩っ斬ってやる」
そこから激しい攻防が繰り広げられた。
落ちてくる火を避け、相手の攻撃を捌き隙を狙い攻撃する。
制限された空間で無駄のない激しい戦い。
「ふん!」
縦からくる両断を片手で受け止めると、空いてる方の手でルミスの腹部を殴る。
そのまま持ち上げ半回転すると地面に向け叩きつける。
「なつ!?」
凄まじい反動がカズキ達を襲い、上空へと飛ばされる。
「しまった、今のリングは反射するんだった」
「迂闊だったな」
体勢を整えたルミスは剣をカズキの腹部を斬る。
キィンと鈍い音がするだけで傷一つつけることはなかった。
「小賢しい」
「小さくても賢ければ相手を上回れる」
ルミスの頭を掴むと、ぐるんと体勢を入れ替える。
「鏡ごと砕いてやる。粉砕王」
勢いよく地面に叩きつけようと落下速度を上げる。
振り払う動作をせず、懐かから何かを取り出し広間へ向けて投げつける。
「また反射か。付き合ってられんぞ」
「こっちのセリフだ」
「なっ!?」
下から上へ昇る激しい風によりバランスを崩す。
「私が投げたのは風の魔法が詰まった瓶だ」
「反射で倍増させこの威力にしたのか」
「頭を掴む癖は読めていた。あとは技名をいったのが失敗だったな」
「やかましい。叩きつけずともこのまま砕いてやる」
なにも粉砕王は叩きつける技じゃない。握り潰し砕く技だ。
このまま卵を潰すようになんの面白みもなく発動してやる。
「うお!?」
背後から強い衝撃がくる。
振り向くと、花火の残り火がカズキめがけ集中的に落ちてくる。
「反射する方向を誘導して俺に降りかかるようにしたのか」
「わざわざ解説ご苦労。そして死ね」
気を取られた隙にカズキの手を払い背後に回ると剣を突き刺す。
硬い。だが、大丈夫だ。
「反射は解いた。このまま貫く」
勢いよく叩きつける。
「粉砕剣」
それと同時に神威を流し剣先からカズキへ伝える。
一点集中した振動はカズキの剛ボディを貫く。
「弱くなったな、カズキ」
剣を抜き、鞘へ納める。
「あー、いてぇ死ぬぞ普通なら」
腹を押さえながら立ち上がる。
傷口は突如と燃え上がり、徐々に傷口を治していく。
「再生の炎がなければ明日の試合出れんわ」
「遊び無しにしても弱くなったな」
「抜かせ小娘が」
「私の方が年上だ」
「そうだったなおばさん。さて神々がこれで満足してくれる訳ないか……まだまだ続けるぞ?」
とは言ったものの、機転では一枚上手を取られた。その仕返しがしたいだけだったりする。
こいつを凡人と比喩する奴らがいる事に驚くわマジで。
「無論」
「そうこなくっちゃな」
「………」
(カズキから殺気が消えた。一回やられたのが堪えたな、負けず嫌いは相変わらずか)
カズキが全力で本気になる時は決まって殺気を消す。それは殺気は攻撃の意思であり、動きが見切られるからである。
かくいうルミスも、先程までは殺気を消しながら戦っていた。
「ほう殺気を放つか。とことん真反対なことをしてくる」
「私なりの対処法だ」
「……めんどくせぇ。俺もな~んも考えず戦いてぇな!!」
突如として放たれるカズキの圧倒的殺気。客席にいる代表メンバーや一部の猛者、神々を除いた者達は気絶し倒れてしまう。
「戦り合おうぜ」
拳と拳を合わせ気合いを入れると、何も構えることもせずただただ立っている。
「っ。はあ!」
ガキン
「久々に魅せてやるよ。圧倒的暴力をな」
首に受けた渾身の一撃を何事も無かったかのように振る舞う。
そして、ルミスの胸当てを掴むと思いっきり引き寄せ思いっきりふりかぶって思いっきりぶん殴る。
「がふっ」
一直線に吹き飛び、剣を突き刺し速度を落とすも壁に激突してしまう。
「さぁ暴れようぜ」
胸当てを握り潰し捨てると、ゆっくりとルミスに向かって歩く。
そこからカズキは一切避けることもせず全ての攻撃を受け止める。
まるで避ける防ぐという行為が弱者がする行為と言わんばかりの技と受けている。
一発一発に溜めを作る大振りの全力攻撃。これもまた相手に対して躱すか?受けるか?と聞いているようなもの。
戦いとは言えない、己の強さを過信し思うままにただただ力任せに暴れているだけ。
「傷しかつけられないか」
カズキの硬さに防がれるが、傷をつくくらいなら出来る。
(再生の炎で治さないか。痛みすらも楽しんでいる)
「ふん」
カズキの一撃を受け止めると意図も簡単に剣が真っ二つに折れてしまった。
「なまくらが」
「一応神の加護を受けた一品なのだがな。後で元老院にねだらなくては」
「あの死に損ないの老いぼれ共に何言っても無駄だろ」
「それもそうだな。まぁ格闘技は得意だから問題ない」
「そうこなくちゃ面白くない」
ルミスの華麗で素早い動きは敵を翻弄し確実に仕留める。
だが、相手が格上のカズキ相手だとそうはいかない。自慢のスピードもカズキには通じない。
ならどうするか。カズキと同じ土俵で戦う。無駄な小細工無しの真向勝負。だがこちらからは極力攻めない、回避、最悪は防御、そしてカズキの動きに合わせてのカウンター。一撃も食らわないを目標に戦う。
「ふん」
カズキのパンチをさばき、近づくと鳩尾、喉、鼻、眉間と連打を与える。
人間の急所。それでもカズキは怯まない。
ルミスは肩を捕まれ頭突きをくらい、手刀を鎖骨を受け最後に裏拳で真横へ吹き飛ばされる。
「その程度では俺の命は絶てない。もっと必死に抗え」
「なにが必死だ。互いにウォーミングアップだろ?」
片方の穴を親指で押さえ鼻血を吹き出す。首をコキコキ鳴らすと両手を突きだし鏡を作り出す。
「真実の鏡(ヴェリスタ)」
「物理は反射されない。なんの真似だ」
「真実を暴き映す光(アレーティア)」
「!?」
白く輝く光をカズキは避ける。
「これを避けるとは。カズキ、何か隠しているな」
さっきまで全ての攻撃を受けきるスタンスをとっていたのが、ただの光に対して過度に嫌がる素振りをみせた。
「眩しいから避けたまでだ」
「これは相手を真の姿に戻す力だ。神格化や神威武装、薬物(ドーピング)などバフ効果、自身の力ではない紛い物を強制的に取り払う」
それと相手の弱点を見つけるくらいだ。ダメージや殺傷能力は皆無故に避ける必要はないはずなのだ。
「それを知って避けた。何をやったんだ貴様は!」
「何もしていない。つづけろ」
口ではそう言っている。だが、付き合いの長いルミスには異常なまでに嫌がると見える。そんなカズキに不信感を抱く。
「……はぁ!」
どちらにせよ当てなければ此方の突破口が見つけられないので無理矢理にでも当ててやる。
作戦変更。こちらからも積極的にしかける。
「反射(ミラース)」
反射するアレーティアを避けながらルミスと対峙するのは至難の技。攻撃を受け一瞬の硬直が取り返しの付かないミスとなる。
そもそもなぜ避けるのか。神威など使わず己の肉体で強くなったカズキにとってなんの脅威でもない。
それが知りたい。
「お遊びはここまでだ。一気に終わらせる」
素早いジャブをルミスの目元に当て視界を奪うと、懐に潜り大きく踏み込む。
「白王!」
腰を落とし真っ直ぐに放たれる正拳突き。
「アレーティア」
それを狙っていたかのように、ルミスの両手からヴェリスタが現れると目映い光が放たれる。
「しまっ」
回避不可能。カズキはそのまま光に包まれる。
「ど、どうだ」
「…………」
光が消え視界が落ち着いた時。目の前には特に変化のないカズキが立っていた。
「……カズキ?」
「っ。っぐ……うがあぁぁぁっ」
突然踞るカズキ。胸に手を当てのたうち回る。
「ぐあああああっ」
悲痛な悲鳴。そこから凄まじい激痛が襲っているのだとわかる。
そして、カズキの体が一回りも二回りも大きくなっていく。
衣服は破け、筋肉も膨張し髪も長髪へとなっていく。
「はぁ、はぁ……はぁぁっ」
痛みが消え呼吸が定まり立ち上がる。
さっきまでのカズキではない。別のカズキがいた。
つづく