「……………」
皆は呆気に取られていた。カズキの身体の変化にだ。
それを他所に巨大化した自身の身体を隅々まで調べるかのようにボーッと眺めている。
「はぁ……やってくれたなルミス」
「色々と聞きたいことがある。だがその前に、服を着てくれ」
褌が破けてはいなかったが、ほぼ全裸のカズキ。目のやり場に困るのだろう。
「アズ」
「お呼びでしょう」
カズキの一声で現れるあのメイド。
「衣服を」
「こちらに」
「流石だ」
手際良くカズキに服を着させ、無頼に伸びた長い髪を切り整える。
「アズ。ここの制服を仕立ててくれ、私服で大会は出られん」
赤い上着に黒の胴着、腰巻き、それと簡単な武具。
あの時にカズキが着ていた服装。それを大きくしたものだ。
「すぐに取りかかります」
そう言うとその場からパッと消える。
「さて、と。細かい事は後だ。試させてくれ十六の肉体をよ」
「!?」
一直線に振るった拳から放たれる風圧で壁に巨大な亀裂が入る。
「ふむ。力加減が難しいな、制御しきれるまで慣れが必要だな」
「はあ!」
しゃがみ、懐に潜るとカズキの顎に肘を当てる。
「なるほど、リーチも視線もだいぶ変わる。この体の使い方、感覚も掴まないとな」
背の高さによる視線の変化。当たったと思われた正拳突きが当たらなかった距離感覚の変化。まだ慣れていない。簡単に間合いを詰められ懐に潜られたのがその証拠。
「本気でこい。不慣れな以上、お前とて殺してしまう」
「なめるなよ……。光輝く聖なる大剣(ライトニングソード)」
神威を練り上げ作り出された光輝く大剣。
「いいねぇ。かかってこい」
「はぁぁ!」
大きく一閃。巨大な斬撃波がカズキに向けて放たれる。
「ふん」
手刀で切り払い、前進する。
「はああああああ」
「うおおおおおお」
カズキとルミスの激しい攻防。
拳と大剣がぶつかり合う余波で壁が砕け、広間に亀裂が走る。
カズキが動くたびに炎が走り爆発が起こる。ルミスはそれを切り払い猛攻を仕掛ける。
「なんと通快。これが成長!お前らはこんないいもん使ってその程度なのか」
溢れんばかりに漲る力を発散するように暴れる。
「ふん」
ルミスの一撃を頭突きで受け止めると両手で首を掴み持ち上げる。
「殲滅劫火」
カズキから溢れんばかりの炎が迸り広間は火の海となる。
「ヴェリスタ」
「反射ごと焼き殺してやる」
更に火力を上げるカズキ。炎は立ち上ぼり広間は黒焦げ客席も赤く熱しられる。
反射しているはずなのに凄まじい熱量が襲う。そして反射出来ない首締めに苦悶の表情を浮かべる。
「ふん」
カズキの肩に剣先を突き刺す。
「無駄だ」
そんなものものともせずに、メキメキと両手に力を込め握力任せに締め上げる。
「エアストラスト」
両手に持つ大剣に神威を込め青く輝く。
それを首に向けて大きく振るう。
「ぐっ」
首を下げかわす。視線が離れ気が逸れた瞬間カズキの顔面を蹴り、両腕を振り払うと難から逃げ出す。
「ちっ、普通なら首締められたら必死に逃げ出すはずなのに攻撃しやがって…最高に狂ってやがるぜ」
首締め。呼吸や血流を止める簡単に殺せる恐ろしい技だ。故に必死に踠いたり、パニックになったりして冷静に対処出来ないものだ。
だが、ルミスは攻撃をし隙をついての脱出。ましてや炎に包まれている状況でだ。
幾度も戦場を駆け修羅場を潜り死線を生き抜いた百戦錬磨のルミスだからこそどんな時でも常に冷静になれるのだ。
「お遊び無しだ!ぶっ殺してなる」
「上等。返り討ちだ」
「ほざけ、黒風白嵐」
後ろへ飛ぶと両手を広げる。腕を纏うように巨大な竜巻が横に伸びる。
それをルミスを挟むように振るう。逃げ場などない。
「はあああ」
燃え焦げ付いたリングを抉り、礫と炎を含んだ鋭い凶悪な暴風。
そんなものものともせずにカズキに向かって一直線に前進する。
「エアストラストッ!」
再び大剣に神威を込めカズキに向けて斬りかかる。
「がふっ」
鎖骨から斜めに大きく袈裟斬り。大きな切り傷から夥しい血が吹き出す。
「とどめだ!」
「ゼェアッ!」
手刀で二撃目を防ぎ、もう片方を手刀にして首を斬りかる。
大剣を手放し受け流すと、腕を掴み脇で抱え込むと背中に乗せ投げる。
地面を陥没する威力。倒れるカズキに向けてすぐに神威を集中させ大剣を顕現させ突き刺す。
両手で挟むように掴み回避すると、足で胴を蹴り吹き飛ばすと立ち上がる。
「調子に乗るな」
両手を素早く振るい鋭い無数の切れる風を放つ。
それをなんなく切り捨てながら前へ進む。
「うおおおお」
「はああああ」
再び激しく激突する。
「おおおおおお」
「ああああああ」
目に止まらない高速の攻防。一般人から見れば音と衝撃しか感じられないだろう。
攻めては防ぎ、隙を誘い狙う。一進一退の苛烈な戦いに息を呑む。
「鬼神降臨」
「聖光騎士」
「そこまでだ」
神の中枢を担っている大男が止めにはいる。
「これ以上はどっちか死ぬまでになる」
カズキを持ち上げルミスを片手で制する。
「命拾いしたな!せっかくぶっ殺してやったのによぉ!」
「こっちのセリフだ。あの世に行って楽になれたものを」
「なんだと」
「やるのか」
「そこまでだと言っただろ」
いがみ合う二人の間に入る。
「お前らのせいで会場はボロボロ、観客も倒れてしらけちまった。だがなかなか面白かったぞ?」
「お褒めにお預かり大変光栄です」
「よくやったルミス。時にカズキよ、その姿は」
「これですか?これ、はっ!?ごはっ」
急に血を吐き倒れるカズキ。
「……なるほど」
「か、カズキ!?これは一体」
「俺が話すのは無粋だな。はやく病院にでも連れて行ってやれ」
「はあ、はあ。ぐっ」
自力で立ち上がろうとするカズキだが、力なく倒れ気絶する。
「よくわからんが、はやく治療した方がいいな」
「カズキの事はこっちに任せろ。お前も治して万全にしとけよ俺がぶっ飛ばしてやる!」
レオンとジェルマンがやってきて、カズキを担ぎ治療できる場所まで運ぶ。
「さてさてここからは自由行動だ!お前ら人に紛れ節度ある行動をな」
「待ってました」
「地上はどんな感じになってるのかな」
「門限はいつまでですか」
「明日の開会式までだな」
「うっひょー自由だー」
神々は各々と自由に行動をするのであった。
「何もなければいいんだけどな」
こうして静かに奉納神楽を終えたのであった。
ホテル
病院へ行ったが先生曰く損傷箇所もなく、病態は特にないとのことなのでカズキをベッドに寝かして休ませている。
「おい、こいつ本当にカズキなのか?」
「いや、カズキが大きくなっただけでカズキだろ」
「なんで大きくなったかですわ」
「謎ですね」
「止まる時(シューテンアンハル)。四年前に俺自身に施した」
ベッドで横になっていたカズキが呟く。
「それって、古の禁術魔法ですか」
「流石古代魔法に精通しているルリーさん、学があるな」
「なんだそれ」
「かけた対象の時間の流れを止める。封印みたいなものです」
「封印?カズキは動いているぞ」
「だから不思議なのです。傷つくことも姿形も変わることも動くことも出来ないはずです」
「そうだな。俺が止めたのは俺の成長だけだ」
「成長?」
「そうだ。俺は十二の時にこの秘術をかけた、その時から見た目も強さも十二のままだ」
「そんな器用な事を出来るわけないです」
「あぁ、だから不完全な状態だった」
「不完全?」
「本来、秘術を解除したらその時と何も変わらないはずだ。だが見ろ、一気に成長しちまった」
塞き止められた水が一気に放出されたかのように一瞬で約四年分の成長を受け止めたのだ。
骨や肉が急激に成長し肥大したのだ、その激痛に耐えられたのは流石というべきだ。
「それに完全に成長を止める事は出来なかった。だから怪我もするし腹も減る」
成長しない。それ以外は他と一緒だという。
「どっちにしろ解除しなければワルキューレには勝てない。遅かれ早かれこの姿にはなっていた」
「なぜ、カズキさんはそんな成長を止めるような真似を」
「流石ノアさん。いい質問だ」
なぜわざわざ成長などとうものを止める必要があったのか。
年老いたとかでもない、成熟したわけでもない。成長期でもあるのに、強くなれる大事な時期をだ。
「一緒に戦う仲だ。知る義務はある」
そういうと起き上がりベッドに腰かける。
「四年前、俺は残りの寿命があと四年と言われた」
「よ、四年!?寿命が!?」
「あぁ、腕のいい医者や占い師、神様も同じ事を言った」
「四年前って、四年は今年じゃないか」
「そうだな」
「そうだなって、なに冷静なってんだよ」
「別に死ぬのは怖くないからか」
「だがなんでそんな寿命が短いんだ」
「体を酷使し過ぎて寿命が減ったんだ。特に鬼神降臨は負担がかかる」
「なるほどな。それで剣舞祭で優勝して寿命を」
「いや、そんなくだらない事願わんぞ」
「はぁ!?」
「自業自得でこうなったんだ。しっかり受け入れてやらないと」
「それじゃあ、ワルキューレさんとあんなに別れたがっていたのは」
「未亡人にしないためだ」
「コイツとんでもないバカだぞ」
「俺の生き方を変えるなんてまっぴらごめんだ」
多くを殺してきたのだ。自分だけ生きようなんて思ってはいない。
「……それよりも、俺達は十二のお前に負けたのか!?」
「ん?あぁそうだな。弱いぞお前ら」
「ぐぬぬぬっ。自尊心が壊れそうだ」
「はー、お前には完敗だ」
「だが、この姿になったからにはワルキューレに勝てるはずだ」
四年分成長したカズキ。十二の時とは訳が違うほどのパワーを感じる。これなら勝てるかもしれない。
「勝敗よりもカズキさんの身の方が心配です」
「身よりも頭の方が心配だろ」
「もともとイカレてんだろ。両方ともよ」
「あと少しの命なんだから仲良くしてくれよな」
「ふざけんな、生きろ」
「勿論。全力で生きるぜ」
「それで、何か秘策はあるのか。お前の成長を含めてだ」
「恐らく俺の予想ではだな……」
カズキの予想と対戦相手の傾向対策を再び練るのであった。
つづく