大広間は以前変わりなく上品なパーティーが行われている。
眠くなりそうなメロディー。自慢話やマウント合戦を繰り広げる貴族共。中央に置いてある見覚えのあるうまそうな料理。
相変わらずつまらん、嫌気もそうだが飽き飽きとしてくる。
だが、そんなゴミのような事はどうだっていいし驚く程に興味すらない。
隣にワルキューレがいる。ここが超重要なのだ。
「退屈だな。こういう堅いパーティーは苦手だ」
「オレは 好き」
「…確かに、キューちゃんのドレス姿を見れるからたまにはいいか」
「カズキが 望む なら いつでも 着る よ」
「い、いやいや。たまにだからいいんだよ、特別感があってさ」
「特別 じゃなきゃ ダメ?」
「言い方が悪かったな。何事にも適材適所があってだな、着る物や武器などにもそれに合ったものがな」
「ごめ ん」
「謝ることは何一つないさ」
「………」
「………」
会話が続かずに沈黙が流れる。
だが、二人には気まずさはない。
「なんた、もう仲直りしたのか」
そこへレオンがやってくる。
「レオンか。その隣にいるのは」
その隣には黒い長髪、長い耳を頭に持った獣人の少女。
「あぁ。昔俺のいた村で少し滞在しててな。幼馴染とでも言うのかな」
「兎の獣人か、見た所純血」
「混血の方が珍しいからな」
異種同士が恋に落ちる事が珍しく、なによりかつて混血の差別が酷く虐げられてた歴史もある。数が少ないのは当然だ。
「なかなか練り上げられた肉体だな。軍人か?」
「凄い、どうしてわかるんですか?」
「鍛え方が騎士や近衛兵とは違う。戦う以外の為にも鍛えるからな」
「獣王激進軍に所属しているキャロル・ラビッツです」
「アニマニアにそんな軍隊あったんだな」
「俺も初耳だ」
「もう、昔からあったよ!レオンは世間を知らなすぎ」
誰も知り得ない深い森に住み、出稼ぎの為に直ぐに他国へ行った。アニマニアのことはなんにも知らない。
「キャロルは家族旅人だったからな」
「一年くらいしかいなかったけどね、レオンは覚えてなかったし」
「す、すまん」
「ダメだな。俺なんか一年も一緒に過ごしてないくせ、八年ぶりだってのに覚えてるんだぞ〜」
隣にいるワルキューレに寄りかかるように頭をあずけるカズキ。
とてもいい笑顔だ。
「婚約者なら忘れるわけないだろ」
「それもそっか」
「もしヒメギなら俺も忘れないぞ」
「ヒメギ の 彼氏?」
「そうだよ」
「向こうからのアプローチ。凄まじかったぞ」
出会った時から付いてきて、四六時中常にずっと付きまとわれた。成り行きで親とも会い、誤解した親が大喜び、成り行きでつきあうと。あれ?全部成り行きか?
「取られる前に取れ。誰にも奪わせない。が 恋愛 成就の 秘訣 オレ 教えた」
「お前が原因か」
まぁ、それをワルキューレに教えた元凶がいるのだろうが。
「ほ、本当にヒメギと付き合っているのか」
キャロルが血の気が引いた顔になりレオンに聴いてくる。
「そうだが?」
対するレオンは真顔で何気なく答える。
「そもそもは結婚はする気はなかった。が、村のボスとなる以上誰かと結ばれなければならない」
「なんだお前!誰でもいいってのか!」
その言葉にカチンときたカズキがレオンの前へズイッと立ち塞がる。
「誰でもって訳じゃない。ただ、俺の理想を理解し支えてくれるってヒメギは言ってくれたからな」
「まぁ、お前はそんなやつじゃないってわかってたよ」
「オレも カズキが望むなら 望むままに」
「流石に自分の意思を持ってほしいな」
「う、うぅ。まさか、本当にヒメギと付き合っていたなんて」
「恋は 早いもの勝ちだぞ」
そっとキャロルの肩に手を添えるワルキューレ。
同じ幼馴染でもこの差である。
「でも 奪えばいい」
「!?ちょっと具合が、失礼します」
そういってフラフラと大広間を後にするキャロル。
「大丈夫か、俺も付いていくか」
「そっと してあげて」
「?その方がいいなら、そうするが」
「なんだ?修羅場か?」
「騒ぎはダメですよ、カズキさんレオンさん」
ルリーと紋様や装飾がほどこされたフードを身に着けた青い髪の少女がやってくる。
「ルリーさん。と、あの時の魔法使い」
「なんだ、知り合いかレオン」
「前のパーティーの襲撃の時にな。協力してもらった」
「ほー、ミラさんが人助けとはな、気でも動転したか?」
「久しいなカズキ。お前はいつも気が動転してるな、正常になるのはいつだ?」
「はっはっはっ、俺の扱いも馴れたもんだな」
「互いに古い仲だからな」
「知り合いなのか?」
「ミラ・クライシス。魔法使いのエリート様だ」
真っ青なほどに青い髪、ヴァイオレットの瞳、超一流の魔法使いにしか着れないと言われるフードを身に着けた姿はまさに魔女。
「御義姉ちゃん、カズキさんと知り合いなんですか?」
「姉!?おま、妹いたのか?」
ミラのほうをみる。性格姿も全く似ていない。驚く程に。あっ、たまに強い言葉を発するのは似ているか。
「あぁ。私に似て出来のいい妹だろ?」
誇らしげにルリーの頭を撫でるミラ。とても愛おしそうに。
「あ、私実は養子なんですよ」
作戦を立てる時に言いませんでしたか?と聞いてくるので、言ってませんと言う。まじで初耳。
「へー、養子?へ〜」
そういえば、ルリー・マキフィルム・クライシス。クライシスの名前があったわ。
「かわいそうに、こんな姉を持って色々苦労しただろう」
ルリーに対して同情をしながら優しく語りかける。
「こんなとはなんだこんなとは」
「ふん。散々こき使いやがって」
「それより新しい古代の魔法書を見つけたんだ。アズが解読してヘカーティアが実践し形にした改訂版がここにあるんだが興味あるか?」
どこからか本を取り出しミラに見せる。
「興味ない」
「そうか?巨大化魔法とか極大魔法、即死魔法に蘇生魔法とかもあるぞ」
手に持つ本をパラパラめくりながら言う。
「カズキさんが魔法に詳しい理由がわかりました」
初めてルリーがカズキと戦った時に、魔法というものがまだ知れ渡っていないにも関わらず異様なまでに魔法対策が凄かったのと戦い慣れていたのに納得がいく。
「魔法書とか魔術書とか見てて勉強になるんだよな。見聞を広められるし対策も練れる」
「カズキ、敵に技を教えるなよ」
「悪い悪い、ついな。こいつとは交渉の話しかしないからな」
「そんな所だと思った。それで、交渉の内容だけは聞いてやろう」
「え?ちょっとここではあれだな。また二人っきりの時で、ね」
「 浮気?」
「あ!?ちょちょ違いますよワルキューレさん。こんな堂々と人前でやるわけないじゃないですかへへへっ」
「そうだな。婚約者がいる所では話せない事もあるか」
(彼女がワルキューレさんか。カズキを倒した時は戦慄したが、直接会うとまた凄まじいオーラだ……あと乙女だな)
ワルキューレをまじまじと見ながら思う。同じ人とは思えないが同じ人以上に乙女だ。
「ちょ、お前ふざけるな!誤解だかんね」
ミラに掴みかかるカズキ。こいつめ。
「お前といい、フィロさんといい。年上は苦手だ」
「ふふ、お前がいい反応をするからついな」
「年上といっても一つ二つだろ」
「やかましい!」
先輩からはからかわれ、後輩には尊敬される。いい立ち位置にいるのでは?と思うレオン。
「随分 親しい ね」
「まあね。世界飛び回ったから当ては沢山いる。何かを成すには現地に赴く、それが一番だからな」
神伐隊に入ったのも世界を回った理由も全て伝手や情報、見聞を広める為だ。まあ神伐隊は最初不本意だったがね。
「これもそれも全てはワルキューレの為にだ。色々苦労したぞ」
思い返せば……って、まだ勝ってないから思い返すにはまだはやいはやい。
「オレ の ため に」
「悪い男みたいな言い方だな」
「おいこらやめろ」
「冗談だ」
「ったく、本はまた後でだ。大事な話でもあるからな」
「剣舞祭。楽しみにしているぞ」
そういい残しミラはどこかへ行ってしまった。敵同士馴れ合いはしない。それは皆が思っていることだ。
「カズキ 浮気」
「違うって、ちょっと魔法について聞きたい事があるの」
「カズキは女を侍らかす習性があるからな、浮気なんて手慣れているか」
「あのな。そもそも浮気するなら、まず俺のアジトに…って何を言わすねん」
「う わ き」
「ほら本気にしちゃったよ。誤解さ、浮気するくらいなら別れようって言うわ」
「前に、別れようって言った」
「ぐはぁっ」
ここにきて過去に言った言葉がカズキを苦しめる。
「めんどくさいな。もう別れよう」
「え!?」
「俺のせいで不安になるくらいなら、もっと誠実な人とさ」
ゴチンッと鈍い音がこだます。
「なにバカな事を言ってるんだこのたわけ!!」
軽口を叩くカズキの背後から頭上に強烈な鉄拳が落ちる。
振り向くと、パーティーには似つかわしくない普段着姿の女性がいた。
蒼く深みを帯びた瞳、不気味なほどに白く美しい長髪。彼女もまた人の形をしているが、同じ人とは思えない存在。
「ぐおぉっ。りゅ、リューナ様!?」
「全く、弟子の様子を見に来たらこれだ」
やれやれとため息をつきながはワルキューレの方をキッと睨みつける。
「ワルキューレ!男に面倒くさいと思われたら終わりだと何度も教えたはずだぞ!意中の人を射止めたいなら常に堂々としろ!」
「 うっ で、でも」
「好きなら好かれる努力をしろ!カズキも紛らわしい事を言うな!彼女を不安にさせるバカがいるか!」
再びカズキの頭頂部に拳を振り落とす。
「いてぇ!殴るこたないじゃないですか」
リューナは背丈がカズキとほぼ同じなため容易く頭を殴れるのだ。
「ワルキューレ。お前には私が花嫁としてしっかり修行をつけたつもりだったが。どうやら思い違いだったらしい」
「やっぱりリューナ様に鍛えて貰っていたか。よくついていけたな、俺は無理だったぞ」
「カズキ、この御方は誰なんだ?」
「おおいたいた、カズキ探したぞ」
ここであの神々の中枢を担っていた大男が駆け足でやってきた。
「あれリューナさん?お仕事終わったんですか?迎えに行ったのに」
リューナを見て少し驚いた風な顔をする。
「リューガか。仕事ならとっくに終わらしていた」
「え?じゃあ一緒に行けたんじゃ」
「タイガーに少し用があったんだ。仕方ないだろ」
「兄貴にか?まぁ珍しくもないか」
「あの、リューガ様?」
「おおそうだ。カズキ、俺達の愛娘はどこだ?リュークが見当たらんぞ」
「リューク?」
「あぁ、リュークならあそこで貴族共に声かけられてますよ」
指差す方には、リュークが若い貴族の男どもに囲まれてなにか話している。
「なに!?なかなか見る目はあるが、身の程を弁えてないな」
「おい、カズキ」
レオンが声をかけてくる。
「なんだよ」
「この御方は」
確かに、知っておく必要はあるな。
「覇神サクラギ・リューガ様とその奥様サクラギ・リューナ様だ」
「やはり神様なのですか!?」
「神様なんてもんじゃない、あのタイガー様の弟だぞ」
「!?」
「リュークさんが娘と言っていましたけど」
ルリーが聞いてくる。
「あれ?知らなかったのか?リュークは神様の子なんだぞ」
それに対して意外そうに返事を返す。
「なっ!?なんだとぉ!?」
「お父さん!お母さん!」
こちらに気づいたリュークが駆け寄ってくるなり、リューガに飛びつく。
「おぉリューク会いたかったぞ!世界はどうだ?学園生活も楽しんでいるか?」
「とても楽しいよ!世界は素晴らしいね」
「我が娘ながらいい感性だ。残りの二年も思うがまま見聞するがいい」
「ちゃんとご飯は食べているか。体は大切にするんだぞ」
「わかってるよお母さん」
「ま、まじか。本当に神様なのか!?」
珍しくレオンが声を上げて驚く。
「リュークさんが神様の子。ほ、本当なんですか」
得体が知れない。そう感じてはいたが、まさか神様だったとは。
「そうだよ」
「チームの人達か。自由奔放な娘だ、世話を焼いてるだろ」
リューナがルリーとレオンに向けて深々と御辞儀をし挨拶をする。
「い、いえ。自由過ぎてとても楽しいですよ」
「それは良かった。いい友達を作ったな。母さんは安心したぞ」
「友達作れるか心配してたもんね」
「はっははは、母さんとは違って俺の血が流れてるからな。友達なんか沢山作れる」
「私には、リューガが入ればそれだけで良かった」
「おっと、そんなんだからストーカーって言われるんだぜ?」
「 」
リューナの鋭い視線を浴びるリューガ。すぐさま話を変える。
「か、カズキも随分と急成長したな。やることが目茶苦茶で楽しいやつだ」
「光栄の極みですな。あの肉体ではリュークには流石に勝てなかったが、今なら勝てるかも。祭終わったら組手しようぜ」
「いいわよ。また軽く捻ってあげるわ」
「くぅーっ、ぶっ殺してぇ!」
「ワルキューレとカズキ、どっちが勝つか見物だな」
「俺的にはカズキを応援してるぞ。恋という面では他人事には思えんからな」
「確かに。お前結局私に勝ててないもんな」
「一番最初に出会った時は俺の方が強かったのにな。あの時にわからせておくべきだった、とほほのほ」
「とにかくだ、ワルキューレ!期待しているぞ」
「はい」
「リューク、お前は変身無しで戦うんだぞ。魔石も首飾りにしておいたから。さすがに結果が見えた試合ほどつまらないものはないからな」
「ちぇ、みんな蹂躙しようと思ったのにさ」
不機嫌な顔をするリューク
「仕方ないだろ。神への奉納に神が出るなんてまずありえないことだからな」
「それもそっか」
「成長した姿を私達に見せてくれ、楽しみにしている」
「うん」
「じゃあ俺達はデートに戻るから、娘を頼んだぞ」
「奉納される立場だかは贔屓はしない。だが、健闘を祈る」
そういうとリューガの腕に寄り添うリューナは楽しく会話をしながら大広間を周る。
「相変わらず熱々な二人だ」
「オレ達も 熱々」
「おっと、敵とは馴れ合わないぜぇい」
ワルキューレから距離をおくカズキ。
「 グスン」
「じょ、冗談さ。終わってから!終わってからデートしましょ」
「今」
「今はちょっとな。戦う時の気持ち切り替えられなくなるから、特にキューちゃん」
「オレ?」
「手加減なんてしたら絶縁ね。一生姿見せないから、絶対に」
「ひどい」
「これは本気。明日を楽しみにしているぞ!それではさらばだ!」
そう言うとピューンとどこかへ行ってしまう。
「あーあ、行っちゃった」
「本当にワルキューレさんに拘っているんですね」
基本的に自身の事以外は興味がないカズキらしからぬ執着したような言い方。それほどの存在なのだ。
「気を悪くするな、あいつなりの精一杯なんだろう」
「不器用な方ですからね」
あの煮え切らない態度の正体はカズキが今年で寿命が終わるという理由を知ってるレオン達。せめてものフォローをする。
「わかって いる。 でも かなしい」
「それでも心変わりはしないんですね」
「カズキは オレの 全てだから」
「純愛なのか、執着なのか。俺にはわかんないな」
「そんなこと言ったらダメですよレオンさん」
「そうだな。軽率な発言だった、すまない」
「気に しない で」
(どうするつもりなんだ、カズキ)
優勝し寿命を延ばしてほしいと神様に願いを叶えれば良いのに、カズキはそれをしようとしない。
何を願い、この関係にどうケジメをつけるのだろうか。
大広間から離れた人影の無い廊下。薄暗くあまり使われていないのか掃除がいきとどいていない。
「ごふっ」
壁に手をつき口から血を吐きながらヨロヨロと歩くカズキ。
滴る血は床に触れた瞬間、炎が舞い血痕を残すことなく消滅する。
「ぐっ はぁはぁはぁ⋯⋯はぁぁ」
体がダルい、全身が焼けるように痛い、うまく力も入らないし頭も割れそうだ。
今までもそうだったが、この姿になってからはそれの比じゃないくらい激しい。
(体、持ってくれよ)
「全く寿命が今年だというのに、無茶をするな」
垂直に伸びた小さな二本の角と耳。大きな二つの尻尾、白衣を着た混血の獣人がヒールをコツコツと音を立てながら近づいてくる。
「フィロさん」
「全く困った男だ、ここまで無茶をするとはな」
「結果的にはこうする予定だったんだ。無茶ではない」
「それでどうするんだ。そんな満身創痍で明日の戦いに出るのか」
「出るに決まってる。部屋へ来い、治療を頼む」
「やれやれ、私は医者じゃないんだぞ」
「チユ先生から点滴薬を貰っている。気休め程度らしいが、やらないよりましだ」
「やれやれ、チユさんも自分でやればいいのに」
「クイナからわざわざ来てくれたんだ。忙しいんだろ、ほら肩貸せ」
「はぁ、はぁ⋯⋯血が足りないな、あとで飯でも作ってくれ」
「うるさいな、黙って歩け」
「気を抜くと逝っちまいそうなんだ。喋らないと、な」
「はいはい、いくらでも独り言を言うがいい」
「すまねえ」
重い足取りで、暗い廊下をゆっくりと歩くのであった。
つづく