寮へ戻るとすぐにリビングに集まる。明日には試合なのですぐに作戦をたてなければならないのだ。多少ながら相手チームの実力も見れたので、それをもとに考えなければならないが
「うーん」
なかなか出ないでいた。そもそも僅かな情報だけてすぐに作戦なんか思い付くわけがない。
「なんかねぇか?」
「そうですわね、先に狙撃から叩くのはどうでしょうか?」
「セルトの斬撃をかわしながらか?それじゃジリ貧だ」
「四人は多いですわね」
「まぁ今時接近武器なんて古いからな、今は銃とか遠距離武器が頂点に立つ時代だ」
だいたいの生徒は神威武装(ミスフォルツァ)は剣や槍など接近武器に具現化させているが、それは神威使いの大会では個人戦が多いからで、チーム戦や戦争となると遠距離武器の方が戦術の幅が増えリスクを負わず相手を倒すことができる。
「いかに、楽に多くの敵を殺せるかが基準だからな。一応戦いの理にはかなってんだよな」
軍人として育てられていたジェルマンから見れば当然のような戦術らしい。
「四人の狙撃者を掻い潜る作戦」
「難しいですわね」
「そうか?」
なにかいい案はないかとみんな頭を悩ませている中、カズキが言う。
「カズキさんはあるのですか?」
「そいつが攻めと同時に囮の役目をしているんだろ?だったら俺らも同じ事をすればいい」
「といいますと?」
「俺が囮になる、その隙に狙撃者四人を倒す」
「……それじゃすぐに撃たれてしまいますわ」
「そうだな、だが、弾道を見れば場所はわかるだろ?」
敵の居場所を見つけるための本当の囮に自らなると言うカズキ。
「カズキさんの援護は?」
「囮に援護はいらないよ、狙撃者の始末が優先」
「お前だけで掻い潜れるのかよ」
「できなかったらジェルマンが出ろよ、お前の属性能力(アトリファクタス)なら狙撃の目は掻い潜れるだろう」
怒り狂う爆発(バーストレイジ)で視界を悪くして狙撃から欺くことはできる、だが
「じゃあ俺がその役を最初からやる」
「敵の場所がわからなきゃ意味がない、それこそジリ貧だ」
弾道無しで敵を早く探すのは難しい、セルトの能力を考えると長期戦は不利になる。
「勿論、お前らがすぐに仕留めれることを信じての作戦だ」
「けっ、期待し過ぎな信頼だな」
「カズキさんは全員の攻撃を避ける算段とかあるんですか?」
カズキに聞くルリー。いくら囮とはいえすぐにやられてしまうような事はしないはず、それに口調からセルトを足止めできる自信があるようにも聞こえる。
「ない」
あまりにも無責任な一言だった。
「え、そ、それって、本当に死ににいくようなものでは」
「まさか無策とはな」
「なんとかなるだろ?あ、破茶滅茶な動きでもしてたら当たらないかもしれないしな」
「神威使い相手にそれはあり得ませんわ」
優秀な神威使いとしてだけでなく射撃の名手として有名なノアが言うから説得力がある。
だが、あるだけでカズキの考えは揺らぐことはなかった。
「あくまでもしもの話だ、それで……他に案がないならこれでいくけどいいかな?」
「俺は構わない、苦労すんのはお前だからな」
「私もカズキさんがそれでいいのでしたら」
「……わたくしは反対ですわ、カズキさんの作戦は無責任すぎますわ」
「無責任か、確かにそうかもしれない……」
「絶対に負けられない戦いですのよ、それなのにそんな大雑把な作戦だなんて」
「シンプルでいいと思うんだけどな」
「第一にカズキさんの身の安全が」
「そうか、心配してくれるのか……嬉しいな。でもな、誰かがやらなくちゃいけないんだ」
「そんなことないですわ、何かあるはずですわ」
「……一応言っておくけど、戦争(チーム戦)で勝ちたいなら全員が五体満足で勝つなんて甘い考えを捨てる事ですよ」
「な!?」
「全員が生き残る戦法は否定する訳じゃない、だが勝ちたいなら何かを捨てる覚悟がないとダメってことだよ」
「ですが」
「別に死ぬ訳じゃないんだろ?そんな悲劇しなくてもいいだろうが」
「そうですけど、仲間にそんな事できますか?」
「はぁ、ノアさんは俺の事を信用してないんですか?」
「そんなことはないです」
「向こうの敵も同じ事してるんですよ」
「それはセルトは神威武装(ミスフォルツァ)も属性能力(アトリファクタス)も使えますから」
「俺にはこの刀と鍛えた力と技がある、そんなものに負けはしない」
「そんなものって、カズキさんは本当に神威の凄さを知らないのですわ」
「別にいいだろ、作戦は多数決で決まったんだからよ」
ソファーでだれ始めたジェルマンが言ってくる。
多数決制度は取ってなかったのだが、言い合ってなかなか決まらないので嫌気が差したのだろう。
「腹減ったから飯作ってくれよ」
「……それもそうですわ、今から作りますので待っていてください」
ノアはキッチンへと向かう。
「俺も神威武装(ミスフォルツァ)は使えないから考えはお前と一緒だ。だけど、あんまり軽視するなよ」
「わかってる」
「ならいい。明日は頑張れよ」
「他人事な、お前の力も信じてるぜ」
「任せとけ」
「それにしてもレオンの奴、帰りが遅いな」
そろそろ夕御飯の時間になる。いつもは隣に居るのに、今は居ない。
「帰ってくるのが辛いか、チーム見つけて交流してるか、どっちかだろ?」
「私、探してきます」
「やめとけって、どっちにしたってあいつが苦しくなるだけだ」
「それでも大切な友達ですから」
玄関の方から軽いノックと共に凜とした声が聞こえる。
「客だぞ、出ろよ」
ジェルマンはソファーでだれ始め、ルリーはカズキの方を見ている。二人とも出る気がないようだ。
「わかったよ」
ため息をこぼしながら立つとすぐ近くの玄関へ向かう。
「どちら様だ」
ドアを開けると見覚えのある青髪の少女が立っていた。
「えっと、エミリアス・ルイスル?」
「ルイスだ。ルイス・エミリミルス……って今はそんなことを言ってる場合ではない」
背負っていた傷だらけのレオンを見せる。
「レオン、どうしたんだ」
「AクラスとBクラスのチームと決闘をしたらしい」
一対数十人。AクラスとBクラス、それも上級生相手にだ。神威使いとしての実力差が激しく決闘とは程遠い、集団暴行のようなものだったらしい。
騒ぎを駆けつけたルイスが止めに入らなければ、大惨事になっていたそうだ。
「とにかく上がれ」
レオンの片側を支え寮の中へ入れリビングに寝かす。
「おいこら、どういうことだ?ルイス」
寝ているレオンを指さす。ある程度の怪我はルリーの回復魔法で治したので安静にすれば起きたら動けるらしい。
「Aクラスと決闘したんだとよ」
「恐らくだが、実力をみせるため」
「理由はわかった。だが、なぜここに連れてきた?」
学園内には設備が整った医務室がある。それなのにわざわざ寮へ送り届ける用な事をしたのだろうか。
「彼を思っての事だ、許せ」
決闘なんてしたことがバレたら、ただでさえ神威使いとして落ちこぼれ扱いされているFクラスだ、退学もありえる。
その事を考え、あえて寮に連れてきたらしい。
「ほぉ、堅物にしては気がきくな」
「勘違いをするな、私は彼の気持ちを無下にしたくなかっただけだ」
圧倒的不利の中、恐れず果敢に戦い続けた覚悟と不屈の精神にせめての償いと敬意らしい。
「だが次はない、そう伝えておけ。勿論、君達もだ」
「うっせぇな、わかってるよ」
「私はもう行くから、後はよろしく頼む」
「レオンをここへ運んでくれてありがとう。助かったよ」
立ち上がり帰ろうとするルイスに頭を下げ礼を言う。
「うるさい、感謝するなら今後騒ぎを起こさないでくれ」
そう言うとそそくさと寮から出て行ってしまう。お邪魔しましたと律儀に挨拶をしていくあたり真面目なんだなとつくづく思わされる。
「おい、行ったぞ」
キッチンに隠れていたルリーが顔を出す。
「なにも隠れなくても良かったんじゃないのか?」
「あの人ちょっと怖そうで、苦手です」
声を震わせながら言う。確かに規則に厳しく、物事をハッキリと言う強気な性格をしているルイスは怖いと思われても仕方がないとは思う。
ちなみにノアもルイスとは仲が悪いのか嫌な顔をしつつ数回言葉を交えるとキッチンへと戻って行った。
「こいつはどうなんだ?」
ジェルマンを指差すカズキ。好戦的な態度で寮で会った時なんかは最悪だったはず。
「慣れました」
この十数日で慣れるとは思えないが、本人が言うのだから本当なのだろう。
だが、ジェルマンは外見と口調は怖いが話せばそうでもなく、楽しいやつだったりする。
「夕御飯が出来ましたわ。運ぶのを手伝ってくださいまし」
両手に料理を持ってキッチンから出てくるノア、今日はほうれん草とベーコンのパスタ、旬の野菜をつかったサラダ。卵のスープ、白身魚のソテーにデザートの苺のムースもついた豪勢な夕食だ。
「今日もうまそうだな」
「そうですね」
「冷めないうちに召し上がりましょう」
レイカ先生は残業があるらしく帰りが遅くなると怒りの表情で言っていたので先に食べる。
「カズキさん、丁寧に食べてください」
「ふぉおくは難しいんだ」
すすっているカズキに嫌そうな顔をするノア。
「ふん、田舎者が」
それに対しフォークとスプーンを使い器用に食べるジェルマン。食べれればいいとか言っておきながら食事のマナーを守り優雅に食べる姿は紳士のようだ。
「ふん、さすがはオルガノート家、多少のマナーはわきまえているのですね」
「あ?これくらい当然だろ」
ジェルマンと同じようにパスタを巻いて食べているルリーとリュークに視線を当てる。
「こいつが出来ないだけた」
「おかしいですわね、基本なのですが」
「俺の国にはパスタもフォークも無いからな」
「ド田舎だな、おい」
「本当の事だから否定はしないでおこう」
たわいもない会話をしながら食事をしていると
「うっ、ここは………いてて」
ソファーで寝ていたレオンが目を覚まし身を起こす。
「おーレオン、はやい目覚めだな」
「夕飯が出来てますわ」
「はやく食えよ、無くなるぞ」
特に話す事なく皆は食事を続けていた。
「………」
「おかわり」
パスタを食べ終えた皿を突き出すジェルマン
「自分でよそえよ」
「ノアが近いだろ」
「はいはい、よそってあげますから喧嘩はしないでください」
「私もいいですか」
「勿論、どんどん食べてください」
「……レオン、本当に無くなるよ」
なにげない食事風景をただ見つめるレオンにそっと言うリューク。
「なにも、聞かないのか?」
「別に。テメェの事情を聞く必要はねぇだろ?」
「話したければ聞く。決めるのはお前だ」
「……わかった。どのみち知る事だ」
そう言うとレオンはソファーから降り空いている席に据わる。
「俺には、妹がいるんだ」
レオンが辛そうな表情で話してくれた。
ラピス・ビースタルク。昔から体が弱く、ベッドの中にいることが多いが、それでも明るく元気で笑顔を絶やさない子だ。
ある時、原因不明の病にかかってしまった。ただの病ならよかった、まだ治療方法も見つかっていない不治の病。各世界の名医に見せても治せず、告げられた余命も今年で終わる。
そんな絶望的状況の中、唯一救う方法が剣舞祭で優勝し神の力で治してもらう事、もうそれしかなかった。
「俺には今年しかないんだ。俺は……俺は妹を助けたい。どんな手を使ってでもだ」
「なるほど、そりゃ必死になるわけだ」
「剣舞祭に間に合うかどうかもわからない。でも、これに賭けるしかないんだ」
剣舞祭で優勝。その為に医療費として必死で集めた金を入学金に使って、死ぬ気で身に付けた神威でFランクという必要最低限の資格でなんとかアルセウス学園に入学した。
「それなのに、こんなとこで止まってる場合じゃないんだ」
「いいお兄さんですね」
「感動した。俺にもその願い、一枚噛ませろよ」
「協力してくれるのはありがたい。でも、絶対に優勝できるのか?」
「出来る」
根拠のない言葉、だがカズキの声には自信に満ちていた。
「仮に優勝出来なくても、色々と手を尽くす」
「手を尽くす?治療法は無いのにか?」
「俺は世界を旅してたんだ。お前らが知らない名医も治療法も知ってるし、切り札もある」
「例えばなんだよ」
「それは今は言えない、だが手はあることは覚えておけ」
「どれも期待できないな」
「なら優勝だな」
「簡単にいうな。世界から集まる猛者相手だぞ」
「はぁ?俺達はそいつらぶっ飛ばして優勝すんだぞ。強気なのか弱気なのかどっちかにしろよな」
「どのみち宛てがないのでしたら、わたくし達のチームに入りませんか」
「ふっ、お前らも必死だな。まぁ俺がいないと剣舞祭に出れないもんな」
「痛いとこを言うな」
「なぜ俺を誘う。強いやつにも声をかければいいんじゃないのか?」
カズキ達も優勝を狙っている。それならばFランクのレオンではなく他のクラスから誘えばいいのである。
「友達だからとか、他にいないとか言うんじゃないだろうな。そんな安い理由だったら入らない」
「俺の考えなんだが。レオンの実力はまだ隠してあると見ている、それに精霊を使役しているなら半端な実力の神威使いよりもいい戦力になる。精霊無しを考えても、サシ勝負ならBランク程度なら余裕で勝てるだろう」
「それは大袈裟に誉めているだけか?」
「バカ言え、訓練中の動きと獣人の身体能力を考えての考察だ。それに、絶対に勝つって信念がちゃんとある」
「しかし、Bランクは言い過ぎかと」
「俺が見てるのは神威使いとしての実力じゃない。戦士としての実力を見ている」
「戦士として?」
「あくまで予想だ、まぁ俺の目が節穴じゃないことを祈るよ」
「…………」
「決めるのはお前だ、俺は未来に備えて修行するから」
ごちそうさまでしたと挨拶を済ませ立ち上がり空いた皿を片付けるカズキ。
「カズキさん、食べてすぐの運動は体に悪いですわ」
「大丈夫大丈夫、死にはしないさ」
「もう、そういう問題ではありませんのに」
「……本当に優勝できる実力があるんだろうな」
「当然」
「なら、試させてもらおうか」
「いいぜ、御相手つかまつろう」
「おいおい明日試合だぜ、いいのか?」
「ふ、二人とも落ち着いてください」
「そうですわ、また怪我でもしたらどうするのですか」
「なに甘い事を言ってる。戦う者に休息など無い、敵や挑戦者がいればいつ如何なる時でも相手になる。それが戦う者としての責務だ」
止めに入る三人に、見下すような目で睨むカズキ。先程の優しい顔付きから一瞬、眼光鋭い迫力のある顔へと変える。
「というか、心配するならレオンだろ?怪我ひどいしよ」
「当然レオンさんの事も思って言ってますわ!」
怒鳴るように言うノア。
先程まで傷付き寝ていたのだ、満身創痍の状態で更に戦えば体はボロボロになり最悪死んでしまうかもしれない。
「戦う者の責務、お前がいま言ったばかりだろ?なら俺もその通りにしよう」
「その意気や良し。アルセウス学園の学生としてではなく、アニマニアの戦士とみなそう。俺も本気でやろう、全力でかかってくるがいい」
「やるなら外でやってね、まだご飯食べてるから」
一触即発の中、パスタを食べているリュークが外を指差す。『食事の邪魔はするな、勝手にやってろ』と言わんばかりの対応に他は苦笑している。
「あとレオン、はやくケリつけないと無くなるわよ。カズキも、ほどほどにね」
そう言うとパスタを皿に盛り再び食べ始める。
「しょうがねぇ。俺が見届け人になってやんよ」
「ちょっとジェルマン、あなたまでそんなことを」
「いいだろ、喧嘩の一つや二つくらい。仲間なんだしよ」
「仲間の喧嘩なんて見たくありませんわ」
「じゃあ手当ての準備でもして待ってろ」
「いくぞ」
「あぁ」
ドアを開けると、そこには鬼の、いや、閻魔の形相をしたレイカ先生が立っていた。
「話は聞いたぞ貴様ら、まーた喧嘩しようってのか?あぁ!?」
「うげぇ、レイカなぜこぐはぁ」
「レイカ先生だろうが、あぁん?」
問答無用でジェルマンを殴り飛ばす。いつになく暴力的で口も悪くなっている。そう言えば理不尽な残業があってイライしていたな。
「貴様らも、また場所を用意してやるから待ってろ!」
「しかし、いで」
「口答え厳禁!」
カズキの頭にチョップを入れる。
「レオン、お前も騒ぎを起こして。はやく怪我治せ」
「………」
「はい説教終了、さぁご飯だ今日は何かな~、あ?」
「あ、先生。御馳走様」
残った全ての料理が空になった皿へと変わっていた。
「私の夕御飯がーーー!」
「だあぁぁうっせぇセン公だどはぁ」
起き上がった瞬間顔面に前蹴りを入れられるジェルマン。
「なにがセン公だ、口が悪いぞエテ公が!」
「て、テメェもだろ、が」
「なんだと」
「せ、先生、ちゃんとご飯ありますから落ち着いてください」
「なぁ、なんか酒臭くないか?」
「確かにお酒の匂いがしますね」
よく見ると玄関に空になった酒の缶が数本袋から出て転がっている。
「学園内で飲酒かよ」
「教師が何してんだよ」
「うるさい。黙れ。飲まないとやってられないんだよおおおお」
その日、カズキとレオンの衝突は避けられたがレイカ先生との衝突は避けられなかったのだっだ。めでたしめでたし
つづく