鏑矢達の月光曲 -契約者達への鎮魂歌・外史典- 作:渚のグレイズ
後悔はしていない。今は反芻している。
かつて、日本の首都であった東京の渋谷には、"ハチ公"と呼ばれる犬の銅像があったらしい。なんでも、待ち合わせには定番のスポットなのだとか。
いずれ見てみたいとは思うが、神樹様の教えによって、壁の外へ出る事は禁じられている。
それでなくとも、壁の外は終末戦争の傷跡の残る大地だ。きっと、生身の身体一つでは渋谷にたどり着く事すら、困難だろう。
「お待たせしたわ」
私───乃木
閉じていた瞳を開くと、目の前に、美少女がいた。
ウェーブのかかった長く艶やかな黒髪。
宝石を思わせる煌めく瞳。
それらを彩るかの如く頭頂に添えられた、チャームポイントのいつもの帽子。
服装はいつもと違い、蒼いワンピースの上から上着を着ていた。
普段見慣れないその艶姿に、流石の私も言葉を失う。
「・・・・・・・・・・」
「あら?どうかしたの?黙りこくったりして」
「・・・・・・・・・・別に」
「もしかして、弥勒に見惚れてた、とか?」
「違うっ!!」
と、売り言葉に買い言葉で吠えてから気付いた。此方をからかうように、妖艶に
自分の心を落ち着ける意味も込めて、一つ咳払いをする。
「・・・・・・・・・・・・服装一つで、こんなにも印象が違うものなのだと、そう思っただけだ」
「つまり、弥勒の艶姿に心奪われた、という事ね」
「何故そうなる・・・・」
自信満々に言い切るとは・・・・・相も変わらず剛胆な女だ。
「─────────というか、分かっているのか?これは任務なのだぞ?遊びでやっている訳ではないのだぞ」
お遊び気分でいるこの女に釘を刺す。が、
「ええ、勿論。貴方以上に理解しているわ」
私の右隣までやって来て、真面目なトーンで告げてきた。
その横顔は、年不相応の戦士の顔であった。
「──────なら、良い。行くぞ蓮華」
「ええ、良くってよ」
そう言って女────弥勒蓮華は私の右腕に腕を組んで身体を押し付けてきた。
「おい」
「フリとはいえデートなのだから、恋人らしく振る舞うべきではなくて?」
「────────────好きにしろ」
「ええ、好きにするわ」
まったく・・・・何故こうなった・・・・?
―――――――――――†――――――――――
神世紀72年
"終末戦争"と呼ばれる戦いが終わり、激動の時代を生き抜いた人々が皆、死去した年。
神樹様の神託によって、四国内にて"淀み"から産まれる怪物『妖忌』が発生した事が告げられた。
このまま放置しておけば、いずれ人々に影響を及ぼすだろう。
そこで大赦は、神樹様の力を与えられた特別な少女達を召集。同時にその補佐役として、魔術に長けた者───魔術師にも協力を仰ぎ、対策部隊を設立した。
その名は『鏑矢』
邪気を払う、魔除けの鏃。
「・・・・・よし。良いわ!」
「──────葛葉流
ターゲットは、既に一般男性に獲り憑いていた。なので、路地裏に誘い込んでから、行動を開始。
協力して動きを封じ、蓮華が男に張り付けた護符によって、涌き出てきた黒い泥のような物体に向かい、左拳による
私は、乃木の名が示す通り、かの大戦の英雄『乃木若葉』の孫息子だ。(葛葉の名から女と思われがちだが、れっきとした男である)
しかし、どうした訳か、私には
それはまるで呪いの如く、刀を振るえばすっぽ抜け、細剣を持てば刃が折れた。
ありとあらゆる剣で試したが、どれも結果は変わらず、悩みに悩んだ末、編み出したのが・・・・・『自身の四肢を剣に見立てる』事だった。
「相変わらず、お見事ね」
「・・・・・いや、まだまだだ。このままでは、私はお婆様に顔向けできない」
苦し紛れの方法に、それらしい名前を付けて造り上げた、私だけの『剣術』。
認める者は数少なく、故に私は、証明し続けなければならない。
「私が、『乃木』である限り・・・・・!!」
「──────ふふ」
「・・・・・・・・・何が可笑しい」
嘲られたのかと思い蓮華の方を睨むが、蓮華は優しく微笑んでいた。
「気に触ったのならごめんなさい。ただ、貴方のそのひたむきな姿、すごく、素敵だったから」
「──────────またそうやって、お前は」
「あら、言った筈よ?『弥勒は、いつか貴方を弥勒のモノにする』・・・と」
「言った筈だ。『私は誰のモノにもならない、私が"乃木"である限り』」
「知ってるわ。でも、その程度で弥勒が諦める訳、なくってよ」
挑戦的に笑う蓮華に、私は辟易しながらも跡処理を始める。
と、その時、蓮華の端末から着信音が鳴る。
「弥勒よ───────ああ、瑛次。そっちも終わったのね?──────そう、分かったわ。
どうやら別動隊の方も終わったらしい。
あのふにゃふにゃコンビが無事に事を治められたのか・・・・
「葛葉」
「む・・・・・?」
跡処理が終わり、路地裏から出た瞬間、蓮華が再び右腕に組んできた。
「集合まで時間があるのだし、このままデートの続きをしましょう」
「・・・・・・・何ぃ?」
こいつはいったい何を言っている?
「あら、弥勒がデートのお誘いをしているのよ?殿方としてはこの上なく名誉な事なのだから、光栄に思いなさい♪」
「───────勘弁してくれ」
満面の笑みを浮かべる蓮華から顔を背けつつ、私は、いつも通り、蓮華に振り回されていた。
キャラ紹介①
─乃木葛葉─
英雄・乃木若葉の孫息子。14歳。
祖父母に憧れ剣士を目指すが、才能が全く無かったので虚○流になった少年。
真面目。堅物。
弥勒蓮華に好意を寄せられている事には気付いているが、それに答えるつもりは微塵も無い。一人称は『私』