遊戯王部活戦記   作:鈴鳴優

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この小説は現在の遊戯王OCGのルールで
 
 2020/4/1 適用 マスタールール使用
 2020/4/1 適用 リミットレギュレーション使用

となり更新する予定があります。


01.はじまりはカードショップにて

 

 4月上旬。

 学生にとっては、進学や進級または学生を終えて社会人へと進む新しい一歩へと踏み出す季節。そして、この季節に中学生から高校生へと進学を果たし東京にある私立遊凪高校に入学した生徒がいた。

 

 彼の名前は桐生悠(きりゅうはるか)

 

 入学式が終わりオリエンテーションや高校生活においての説明などが済み放課後を迎えた時間。放課後のチャイムが鳴り特に学校を見て回ることもせずに彼は下校する。

 

昇降口から靴を履き替え正門へと向かう最中、気になった小説本を開き読みながら歩いていると騒々しい声の数々が聞こえてきた。

 

「あっ、君。本が好きかい? なら文芸部に入るのはどうかな? 可愛い女の子の部員もたくさんいるよ」

 

 突如、眼鏡をかけたおさげの女生徒にチラシを1枚渡される。

 どうにも怪しい客引きのような言葉が引っかかりながらチラシを見ると『部員大歓迎! 部員が集まらないと廃部になっちゃうからタスケテー』とムンクの叫びみたいなイラストと共に描かれていた。

 可愛い女の子はとにかく『部員もたくさんいるよ』とは完全に矛盾していた。

 

「サッカーやらないか? 弱小だから今ならレギュラーになれる可能性高いぜ!」

「漫画研究部募集してまーす。入部すれば漫画読み放題!」

「漢なら空手一筋だろ。強くなりたい奴だけ空手部に来いっ!」

「美術部に入って皆でコンクールを目指さないかい?」

 

 下校する生徒を狙っては正門前でわちゃわちゃと大量の在校生たちが部活勧誘を行っていた。

 遊凪高校は割りと部活動に力を入れていると聞くがその熱意が十分すぎるほどに伝わってくる。

 

 気がつけば大量のチラシを持たされ歩いて読書もできないほどにされた悠だったが、なんとか部活勧誘の人だかりを突破し正門を出ることができた。そのまま両脇に等間隔で植えられた桜並木の道を進むのだが、チラシを見てはふと歩みを止めてぼそりとつぶやいた。

 

「部活動か……」

 

 悠にとって部活動は興味が無いというわけでは無い。中学時代は部活動に所属しなければならないという規則があり楽そうだという理由で文芸部に所属していた。

 

 他は幽霊部員でたった一人だけの部活だが静かに本を読むだけという青春時代を過ごす。

 そのせいか読書は割りと好きになったが。

 

 自分がこのチラシの中のどこかの部活動で活動してみるイメージをしてみようとした。しかし、悠は途端に首を左右に振ってはイメージを消した。

 

「いや、やっぱやめよう」

 

 悠はとある事情で部活よりも優先しなくちゃいけないことがあった。そのためチラシを鞄へと詰め込んで桜並木をただ一人歩いて帰宅するのだった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま叔父さん。手伝うよ」

「あっ、悠君おかえり。いつも助かるよ」

 

 遊戯王専門店カードショップ『デュエループ』それが悠にとっての家だ。

 店の名前は彼の保護者であり店長でもある竜田銀次(たつたぎんじ)(45歳独身)がつけたものであり何でもカードショップ店長として決闘者を見てきて決闘者とは戦い強くなり戦い強くなりを繰り返す存在なのだと言う言葉のループとデュエルを掛けたそうだ。

 

 悠は店名の文字が書かれたエプロンを身につけ店の手伝いを行う。だから彼は部活動に時間を割くつもりはなかった。カードの整理を始めた悠にふと銀次は声をかける。

 

「けど、僕の店はそんなに大きいわけじゃないしお客さんもそこまで多いってわけじゃないから入学式の日ぐらい手伝い休んだってよかったんだよ」

「俺は好きでやっているんだから心配しなくて大丈夫だよ」

 

 好きで……というニュアンスは仕事自体はそこまで好きではない。

 

 悠は両親がいないのだ。彼が幼いころに両親が無くなり父親の兄である銀次の元に引き取られて以来お世話になっている。その恩返しをするために他に店員がいないこのカードショップの手伝いをしているのだ。

 

「けど、高校時代というのは1度きりだよ。こう……もっとさ、今しか出来ないことをしてみてもいいんじゃない。例えば部活とかさ、ほらこの雑誌みたいに遊戯王部とか全国まで行けると有名人になれるかもよ!」

 

 そう言って見せてくるのは『月刊・満足決闘伝説』と言うなんとも言い難いネーミングセンスの遊戯王専門雑誌だった。そこには特集記事に『四強・星華代学園遊戯王部の天才決闘者、日向焔。彼女に取材して見た』などという文字が見えた。

 最近では高校デュエルも注目を浴びてきているらしい。

 

「じゃあ、叔父さん。俺が遊戯王部に入ったとして全国まで行けると思う?」

「うん、無理だね」

 

 即答だった。

 断言された。

 期待してなくても少しは迷って欲しかった。

 

「悠君も実力はある方だよ。でもね……あくまで悠君は中の上くらい。実際に決闘者として鍛えてきている猛者たちとは鍛え方が違うからね」

 

 もっとも銀次は「まあ、本格的に悠君がやる気になって鍛えればもしかしたらありえるかもね」などとぼそりとは呟いたのだが。

 

「別に遊戯王部とは言わないけど何かやっておかないと寂しい青春時代を一人で過ごすことになり得るかもよ」

 

 ハハハ、と軽く笑いながら悠をおちゃらかす銀次。ムッ、と中学時代を寂しい一人だけの青春時代を過ごした悠は少しだけ気に障った。

 

「大丈夫。店の手伝いだって俺にとっては悪いことじゃないよ。それと叔父さんみたいな独り身になるつもりもないからね」

「それならいいんだけどね。コンチクショウ!」

 

 悠は皮肉を目一杯込めたカウンターパンチを銀次へとお見舞いした。

 

 こんな会話は親子では無いにしても小さい頃から共に暮らしていた2人にとっては日常茶飯事なのである。

 

 銀次が店番をしながら悠はカードの整理や掃除を行う。

 

 最近のカードショップと比べるとやや狭い敷地のこの店には遊凪高校から近いためかちらほらと遊凪高校の制服を来た生徒たちがカードを眺めていたり1つしかない決闘盤を使い立体映像を駆使して決闘を行うフリースペースで決闘を行っていたりした。

 

 

 

「あれ。なんか騒がしいな?」

 

 事務所の奥で商品のカードの整理をしていると何やらフリースペースの方が騒がしくて思わず作業を中断して顔を出してしまった。そこでは喧しい喧騒が聞こえた。

 

「そんな! 賭けルールなんて聞いてないよ!」

「ハッ、負け犬に発言権なんてねーんだよ! 弱者は弱者らしく勝者に従えよ!」

「さすがッスよ。景山さん!!」

 

 揉めているらしく様子を見てみる。

 どうやらデュエルをしていて勝った方が負けた方のカードを取り上げてしまったみたいだ。普通に店の張り紙に『賭けルール禁止』と書かれているのだが意味を成さないようだ。

 

「叔父さん」

「まただね、こういうの」

 

 ため息混じりに銀次はやれやれと呆れ顔だった。銀次はただ悠に一言だけ

 

「お願いできるかい?」

「大丈夫。任せてよ」

 

 そんな短いやり取りだけで悠はフリースペースへと向かう。

 カードを奪うなどと言う野蛮なやり方も現在のカードショップでは珍しく無くなっていた。 

 遊戯王が普及されエンターテイメントとしてプロリーグが開かれたり学校の一般授業にも思考力記憶力などを鍛える一環で使用されたりし始めてからは決闘が強ければ何でも許されると勘違いする輩がちらほらと出てきているのだ。

 すぐさま喧騒の中心へと駆け寄る。

 

「お客様。店内での賭け行為は禁止しています。ですので、カードは返して──」

「あ゛あ゛っ!? ウルセーんだよ!!」

 

 注意しても聞いてくれない輩だ。

 正直、この手の相手は警察に頼みたいところなのだが今から通報しても逃げられるし喧嘩も普通に強いのだからこの場に押さえつけたりなんてというのもまず喧嘩が苦手な悠や銀次では無理だ。けれど──

 

 

「なら、お前がデュエルで相手してくれおよォ!」

 

 なんて提案が飛んでくる。

 

「お前が勝ったらカードは返してやる。だが、俺様が勝ったらテメーのカードを貰うぜ!」

 

 大体、この手の輩は弱い相手を何度も倒しては調子に乗って必要以上に自信を持ってしまい天狗になっているのが多く止めようとすれば勝負を吹っかけてくる。 

 

 なんとも実力主義の遊戯王世紀末とも言いたいような時代なのである。それゆえに現代のカードショップでは割りと決闘の腕が必要だったりもする。

 

「いいでしょう……いや、わかった。この勝負受けて立つよ」

 

 もはや相手はお客ではないため敬語をやめる。

 正直、悠はこの手の相手は嫌いだ。

 

「あ、あの……すみません。僕のために」

 

 勝負を受けた瞬間、カードを取られた気弱な男性が謝っていた。そんな男性に心配させぬようこういうことは日常茶飯事だと言うように告げる。

 

「いえ、これも仕事ですから」

 

 そのままカードを奪われた少年とは入れ替わる様にフリースペースへと入り腕に決闘盤を装着して立つ。立体映像を使用するためにおよそ20メートルぐらいの距離をとりつつ景山と呼ばれた男と対面する。決闘盤を構え決闘が始まる直前もともと人は少ないながらも周囲に緊張が走りわずかな静寂が訪れる。

 

 すっ、と息を飲み合図の言葉が交わされる。

 

決闘(デュエル)!!』

 

 先攻後攻は決闘盤のシステムが自動的に決める。そして先攻は、景山。どうやらよっぽど手札が良いのかニヤリと口元が歪んだ。

 

「ハハッ、これは俺様の勝ちだな! まずは《ダーク・グレファー》を通常召喚!」

 

《ダーク・グレファー》

☆4/闇属性/戦士族/ATK1700

 

 まず召喚されたのは闇に堕ちた騎士。

 手札の闇属性モンスターを捨てることでデッキからも同じく闇属性モンスターを墓地へと送る効果を持つカード。どうやらこのモンスターが起点となり景山はプレイングを開始する様だ。

 

「《ダーク・グレファー》の効果! 手札の《オルフェゴール・カノーネ》を捨てデッキから《オルフェゴール・ディヴェル》を墓地へと送る」

「……【オルフェゴール】」

 

 この1プレイで相手のデッキが判明した。

 闇属性・機械族で固まったモンスター郡であり墓地から除外することで効果を発揮するモンスターとリンクモンスターたちで展開を行うテーマの【オルフェゴール】。かなり厄介な相手だ。

 

「続けて捨てた《オルフェゴール・カノーネ》を墓地から除外して手札から《オルフェゴール・スケルツォン》を特殊召喚するぜぇ!」

 

《オルフェゴール・スケルツォン》

☆3/闇属性/機械族/DEF1500

 

 流れるように展開を行い手札から現れたのは骸骨の姿をした機械仕掛けのドラムモンスター。

 

「さあ、お待ちかねだ! 出やがれ俺様のサーキット!」

 

 場に2体のモンスターが並ぶ瞬間、景山は決闘盤を付けていない右腕を天へと掲げるように高く突き上げた。その瞬間、上空に8方向の矢印を持つサーキットが出現するのだ。その召喚エフェクトは決められた場のモンスターを墓地へと送ることでEXデッキと呼ばれる場所から新たなモンスターを呼び込む召喚法。

 

 ──リンク召喚。

 

「《オルフェゴール・スケルツォン》、《ダーク・グレファー》の2体を素材にリンク2《オルフェゴール・ガラテア》をリンク召喚!」

 

《オルフェゴール・ガラテア》

LINK2/闇属性/機械族/ATK1800 

右上/左下

 

 2体のモンスターがそれぞれ矢印へと吸い込まれることで新たなモンスターが出現。機械仕掛けの女性が鎌を携えその瞳は虚ろな様で決して心を持たない人形みたいだ。

 

「ガラテアの効果! 除外されているカノーネをデッキに戻すことでデッキから《オルフェゴール・クリマクス》をセットする」

(クリマクス……確か魔法、罠、モンスター効果を無効にするカウンター罠カードだったね)

 

 ガラテアが鎌を振るいその切っ先に1枚のカードが精製される。

 

 それはあらゆる効果を1度だけ無効にする万能の罠カード。条件としてオルフェゴールのリンクモンスターがフィールドに必要なのだがその条件は既に満たしてしまっている。

 

「まだまだ! 墓地の《オルフェゴール・ディヴェル》を除外し《オルフェゴール・トロイメア》をデッキから特殊召喚。そしてもう一度、出やがれ俺様のサーキット! リンク召喚! リンク3《オルフェゴール・ロンギルス》!」

 

《オルフェゴール・ロンギルス》

LINK3/闇属性/機械族/ATK2500

左上/上/右下

 

 2度目のリンク召喚で出現したのは機械族とは思えない瞳に意思を持った槍と盾を身に纏った騎士の姿だ。攻撃力も大型モンスターに引けをとらない数値の2500を持つ。だが景山のプレイングはまだ止まる気配が無い。

 

「今、リンク素材で墓地へ行った《オルフェゴール・トロイメア》の効果も発動だ! 《オルフェゴール・ロンギルス》を対象にデッキから《聖遺物─『星杖》を墓地へ送りそのレベル8×100の800を攻撃力に上乗せする……もっともこいつはオマケだけどな」

 

《オルフェゴール・ロンギルス》

ATK2500→3300

 

「《聖遺物─『星杖》を墓地から除外し除外されている《オルフェゴール・ディヴェル》を特殊召喚しロンギルスとディヴェルを素材に三度、出やがれ俺様のサーキット! リンク召喚! 現れろリンク4《トポロジック・ボマー・ドラゴン》!!」

 

《トポロジック・ボマー・ドラゴン》

LINK4/闇属性/サイバース族/ATK3000 上/左下/下/右下

 

 さらに呼び出されたのは景山が使う【オルフェゴール】のテーマとは異なるリンクモンスターだ。見た目はオルフェゴールに近く機械仕掛けの様な姿をしている。薄いオレンジ色の装甲を纏った機竜は先ほどまでのリンクモンスターとは異なり異色の威圧感を放つ。

 

「リンク召喚はこれで打ち止めだが、まだ終わらねえぜ! 墓地の《オルフェゴール・スケルツォン》を除外することで墓地から《オルフェゴール・ロンギルス》を特殊召喚だ!」

 

 オレンジ色の機竜の召喚素材となった騎士が再びフィールドに舞い戻る。その出された場所はモンスターゾーンの中央であり《トポロジック・ボマー・ドラゴン》が持つ4つの矢印の先の一つ。そこへ特殊召喚された瞬間、機竜は怪しく光を発し始めた。

 

「《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のリンク先へモンスターが特殊召喚された瞬間、メインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊するが、リンク先にある《オルフェゴール・ロンギルス》は効果では破壊されねえ」

 

 溜めた光を空中へと解き放ち雨の様な熱線が解き放たれる。それは敵味方すら関係なく巻き込む威力であるもののロンギルスは盾を構え熱線を防ぎきった。

 

「最後に《テラ・フォーミング》で《オルフェゴール・バベル》を手札に加えて発動しターンエンドだ」

 

 影山 LP8000 手札1

 

①トポロジック・ボマー・ドラゴン 攻

 上/左下/下/右下

②オルフェゴール・ロンギルス 攻

 左上/上/右下

③オルフェゴール・バベル

 

 □□□□■

 □□②□□ ③ 

  ① □

 □□□□□ 

 □□□□□

 

 悠 LP8000 手札5

 

「すげえぜ景山さん! 1ターンでバベルボマーコンボを完成させちまうなんて!」

 

 取り巻きだろう男性から歓待の声が上がる。

 景山の場には4枚のカードが存在するが、その中でも3枚のカードはまさに歯車の様に効果がかみ合い本来の性能以上の力を発揮させようとしているのだ。

 

 まず《トポロジック・ボマー・ドラゴン》はリンク先にモンスターを特殊召喚すればメインモンスターゾーンを敵味方問わずに全滅させる凶悪極まりないモンスターだ。それは起動する条件さえ満たせばいつでも発動できる。

 

 それを支えるのは《オルフェゴール・バベル》。

 

 これが場に存在する限り『オルフェゴール』と名の付くモンスターは相手のターンだろうと効果を発動することが許される。それにより墓地の《オルフェゴール・ディヴェル》を除外することでデッキのモンスターを《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のリンク先へと特殊召喚し好きなタイミングで引き金を引くことができるのだ。メインモンスターゾーンにモンスターを展開しようとすればこれで破壊し尽くされる。

 

 加えて《融合》などでメインモンスターゾーンを避けEXモンスターゾーンへと直接出すことも許されない。そこは《オルフェゴール・ロンギルス》のリンク先なのだ。ロンギルスは除外されている自分の機械族モンスター2体をデッキに戻すことでリンク先にある相手モンスターを墓地へ送る効果がありそれも《オルフェゴール・バベル》によって相手ターンでも使うことができる。

 

 そんな布陣をさらに強固にさせる存在が場に伏せられた《オルフェゴール・クリマクス》。このカードによって1度だけあらゆる効果を無効にし除外させる。布陣を崩せるようなカードが手札にあっても無効にされては意味が無い。

 

 この戦術の前には並大抵な真似で突破することは無理だろう。

 

(けど、どんな戦術だって無敵じゃない……穴はあるはず)

  

 現在の5枚の手札ではどう足掻いても突破はできない。故に思考する。

 

 どうすれば超えられるのか。

 どうすれば突破できるのか。

 どうすれば勝てるのか。

 

「見つけた」

 

 自分のデッキであらゆるイメージを駆使してぼそりと呟いた。ある1枚のカードさえ引ければいいだけだ。悠のターンへと移りスタンバイフェイズ、ドローフェイズへと移行しデッキトップに指をかける。 

 

「ドロー!」

 

 引いたカードをゆっくりと確認する。

 それはレベル3のモンスターカード。

 これでやれるか?

 

「やってやるさ! まずは邪魔な伏せカードから消す! 《ハーピィの羽根箒》を発動するよ」

「チッ、それは打たせねえ! 《オルフェゴール・クリマクス》で無効だ」

 

 これで邪魔なクリマクスを取り除くことができた。そして、

 

「これが勝利の一手だ! 手札から《クイック・リボルブ》を発動。デッキから《ヴァレット・トレーサー》を──《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のリンク先へと特殊召喚を行う!」

 

《ヴァレット・トレーサー》

☆4/闇属性/ドラゴン族・チューナー/ATK1600

 

 赤く機械じみた弾丸にも似た形の竜が悠のデッキより飛び出す。その出現先はどういうわけか《トポロジック・ボマー・ドラゴン》の正面だ。

 

「ハッ! 血迷ったか? この瞬間、お前のモンスターは破壊される!」

 

 そう。

 これで《トロポジック・ボマー・ドラゴン》の効果が発動する。

 

 いや、違う。

 発動『させた』のだ。

 

 光を収束され上空へと解き放つ機竜。それはまた雨の様に降り注ぎモンスターを焼き尽くすのだろう。

 

「そうだね。けれど、その効果にチェーンして手札から《幽鬼うさぎ》を発動する」

「なっ!?」

「《幽鬼うさぎ》によって《トポロジック・ボマー・ドラゴン》は破壊される。そうすれば、どうなると思う?」

 

 悠はわざとらしく口元を吊り上げて挑発するように語る。

 相手のフィールド上のカードの発動をトリガーに手札から発動できる手札誘発のカード。その効果は発動したカードを破壊するもの。熱線の雨が降り注ぐ直前、白い髪の和服の少女が札を投げつける。それは雷へと変化しオレンジ色の機竜を打ち貫いたのだ。

 

「《トポロジック・ボマー・ドラゴン》撃破! そしてロンギルスもリンク状態じゃ無くなり効果破壊耐性を失うがトポロジックの効果は続行される」

 

 《幽鬼うさぎ》の効果はあくまで破壊のみで発動した効果を無効にするわけではない。上空へ解き放たれた熱線は放たれた本人がいなくなっても消滅することなく場へと降り注ぐのだがリンク状態という力を失ったロンギルスが防ぐことがかなわず盾をも貫通し《ヴァレット・トレーサー》《オルフェゴール・ロンギルス》共に破壊され全滅する。

 

「全滅っ!? 俺様のバベルボマーコンボを崩すだとっ!?」

「今度はこっちの番だ! 《ヴァレル・リロード》を発動し墓地から《ヴァレット・トレーサー》を蘇生し装備させる。さらに手札から《アブソルーター・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

《アブソルーター・ドラゴン》

☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2800

 

 相手の戦術は断ち切ることができた。

 だが悠はそれだけで満足することはせずモンスターの展開を繰り広げる。

 破壊されたヴァレットを蘇生させ場に『ヴァレット』モンスターが存在する場合に手札から特殊召喚できるモンスターを場へ呼び出す。

 

「続けてトレーサーの効果を発動し《アブソルーター・ドラゴン》を破壊。デッキから《シルバーヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚。破壊された《アブソルーター・ドラゴン》の効果で《ヴァレット・シンクロン》を手札に加え通常召喚。その効果により《アブソルーター・ドラゴン》を蘇生させる」

 

《シルバーヴァレット・ドラゴン》

☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF100

 

《ヴァレット・シンクロン》

☆1/闇属性/ドラゴン族・チューナー/ATK0

 

 新たなモンスターを呼び通常召喚で破壊したはずのアブソルーターを釣り上げ、場に戻したった一時の間にモンスターが4体も並ぶ。

 

「おいおいデッキ回し過ぎだろうがよォ……」

「さらに《スクイブ・ドロー》を発動! 《ヴァレット・トレーサー》を破壊し《ヴァレル・リロード》と合わせて3枚ドロー!」

 

 場の『ヴァレット』を破壊することで2枚ドローするカードに、装備モンスターが破壊されることで墓地へ送られることで1枚ドローできるカードを組み合わせることで加速的にドローをも行う。

 悠は心の奥で望むカードを引き当てたためか内心ガッツポーズを浮かべる。

 

「よし! 来い。現在(いま)を越えるサーキット! シルバーヴァレットを素材に《ストライカー・ドラゴン》をリンク召喚。効果により《リボルブート・セクター》を手札に加え発動! 手札から《マグナヴァレット・ドラゴン》《メタルヴァレット・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

 

《マグナヴァレット・ドラゴン》

☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF1200→1500

 

《メタルヴァレット・ドラゴン》

☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF1400→1700

 

 加えてリンク召喚を行うことでフィールド魔法をサーチしさらなる展開まで繰り広げる。

 《リボルブート・セクター》の効果により悠が繰り広げる『ヴァレット』モンスターたちはそのステータスが強化されるのだが今は特に必要としていない。

 

 これで悠の場には《ストライカー・ドラゴン》《ヴァレット・シンクロン》《アブソルーター・ドラゴン》《マグナヴァレット・ドラゴン》《メタルヴァレット・ドラゴン》と5体のモンスターが並ぶ。

 

「そしてもう1度! 現れろ、現在を越えるサーキット! 《ストライカー・ドラゴン》《メタルヴァレット・ドラゴン》を素材に《デリンジャラス・ドラゴン》をリンク召喚! そしてリンク2の《デリンジャラス・ドラゴン》《ヴァレット・シンクロン》《アブソルーター・ドラゴン》の3体で《ヴァレルソード・ドラゴン》をリンク召喚!」

 

《ヴァレルソード・ドラゴン》

LINK4/闇属性/ドラゴン族/ATK3000 上/左/左下/下

 

 出現するのは、頭部に鋭利な刃物を身に付けたどこか銃を思わせる風貌のモンスター。それは先ほど影山が使った《トポロジック・ボマー・ドラゴン》と同じくリンク4のモンスターである。

 そのモンスターの強さを知っているのだろうか景山は思わず目を見開いた。

 

「なっ、ヴァレル……ソード」

「そして場の《マグナヴァレット・ドラゴン》を除外し手札から《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚する!」

 

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

☆10/闇属性/ドラゴン族/ATK2800

 

 続けて新たな強力なモンスターを繰り出す悠。真紅に染まる瞳を持った黒い鋼鉄のボディを持った竜。それは手札、墓地から他のドラゴンを特殊召喚するという力を持つ。

 

「ダークネスメタルの効果で墓地の《ヴァレット・トレーサー》を蘇生しヴァレットモンスターの特殊召喚成功時、墓地から《デリンジャラス・ドラゴン》も特殊召喚させる。そしてまた現れろ! 現在を越えるサーキット! トレーサーとデリンジャラスの2体を素材に《スリーバストショット・ドラゴン》をリンク召喚!」

 

《スリーバストショット・ドラゴン》

LINK3/闇属性/ドラゴン族/ATK2400 上/左/下

 

 呼び出された《ヴァレット・トレーサー》と蘇った《デリンジャラス・ドラゴン》を上手く扱い胸部と肩らしき部分の3箇所に銃口を持った機械仕掛けの竜が新たにリンク召喚を行われる。これで悠の場には攻撃力2400、2800、3000と打点が高いモンスターたちが立ち並ぶこととなる。

 

「これで準備は整ったバトルフェイズ!」

「ぐ……バトルフェイズ前。墓地のディヴェルを除外しカノーネを特殊召喚する」

 

 悪あがきと言わんばかりに景山は《オルフェゴール・バベル》と《オルフェゴール・ディヴェル》のカードを駆使して壁モンスターを生み出す。

 

「スリーバストでカノーネを攻撃! スリーバーストは貫通効果だ」

 

 景山 LP8000→7500

 

 本来、守備モンスターを攻撃してもダメージは与えられないものだが貫通効果を持つスリーバーストの前に相手の守備力からの超過ダメージが跳び火として景山のライフを削る。

 

「これで決まりだ! ダークネスメタル、ヴァレル・ソードで攻撃。そしてヴァレル・ソードの効果でダークネスメタルを守備表示にし追加攻撃ができる!」

「くそっ!! ちくしょぅおお!!」

 

 景山 LP7500→4700→1700→0

 

 強力なモンスターの連激の前に一瞬にて影山のライフを削りきる。

 戦術を崩され打つ手が無くなった景山はただ悔しさで吼えることしかできなかった。

 

「俺の勝ちだね。それじゃあ、カードは返してもらおうか」

「畜生っ! こんなカードなんていらねえぇよ! 覚えてやがれ!」

 

 なんて捨て台詞を吐きながら逃げ出して行った。相手が立っていた場所には投げ捨てるように置かれたカードが数枚散らばっておりそれらを拾い上げては持ち主の少年の元に返す。

 

「これで間違いありませんね」

「あの、ありがとうございます」

「店員として店のトラブルの対処は当然のことですから」

 

 先ほどの輩との相手では無く店員として敬語に戻す。

 

 途端、周囲に観客として見ていたお客がパチパチとまるで悪役を倒したヒーローを讃えるかのような拍手が上げられるのだが、少々むず痒い感じがする。観客たちもフリースペースで決闘を始めたり店のカードを眺めに戻りこのまま店の裏で雑用に戻りかけた瞬間、先ほどの対戦を眺めていた観客の中の一人から大きな声が溢れた。

 

「すごいっ!! すごい、すごい、すごいよ!!」 

 

語彙無くただすごいと連呼しているのは興奮しているからだろうか。背の小さなロングヘアの少女はぴょんぴょんと小さく飛び跳ねながら賞賛する。

 

その姿はまるではしゃぐ子犬の様だった。

 

 

「店員さん! 店員さん! 今の決闘とってもすごかったよ! 不利な状況を簡単に覆してからのモンスターを大量に並べて一瞬で勝負を決めちゃうところなんて格好良かった!」

 

 そんな風に声をかけられては、照れくさそうな表情をするしかなく曖昧な返事をするしかなかった。

 

「どうも。悪いけどこれから仕事だから」

「あ……ちょっと待ってっ!」

「ん?」

 

 雑用に戻ろうとするのだがふと彼女の声によって止められてしまう。

 

「あのね……その……」

 

 振り返り彼女へと視線を向けると先ほどの興奮していた様子とは一転しモジモジしながら視線を左右へと動かしていた。

 

「貴方の決闘を見てとっても格好良いって思って……それでわたしも貴方みたいな決闘がしてみたいなって思ったの、だから……」

 

 だから、とさらに小さくつぶやきながら彼女は一呼吸して決心がついたかのように大きく頼む言葉を口にしたのだ。

 

「もし、よかったらわたしに決闘(デュエル)を教えてもらえませんか?」

「……え?」

 

 思わず言葉が詰まった。

 知り合いというわけでも無くいきなりデュエルを教えてほしいと頼まれ驚く。おそらくだが彼女は遊戯王の初心者なのだろう。ほんの少しの間を空けて悠は言いにくそうにバツが悪い表情で返答した。

 

「悪いけど。店の仕事があるから断らせてもらうよ」

「あっ、そうなんだ」

 

 シュン、と少女は見てわかるように落ち込んでしまった。

 そんな様子を見ては罪悪感を感じてしまう。

 

「ちょっと待った」

 

 そんな中、一連のやり取りを見ていたであろう銀次が割って入ってきたのだ。彼はぐっ、とサムズアップをし自信満々に語る。

 

「話は聞かせてもらったよ! 何、断る理由なんてないさ。これからデュエルを覚えたいって子を応援するのも接客の一つさ!」

「え……それじゃあ!」

「デュエルを教えるという依頼。悠君がしっかりとこなせてみせるよ。あっ、悠君これ店長命令ね」

 

 彼の意思はどこへやら勝手に決められてしまった。しかも、上の立場からの強制で。

 正直、友人もおらず人と接するのが苦手な悠なのだが仕事ならば仕方が無いと割り切る。

 

「それに悠君って友達いないじゃないか。丁度、彼女も遊凪高校の生徒みたいだしいいんじゃないかい?」

「え……あっ、本当だ。しかも同い年!」

 

 ちゃんと見ていなかったものの彼女の服装を良く見ると遊凪高校の制服を着ているのだった。しかも同じ学年の赤い色のリボンが胸元についている。同い年ということにびっくりしたのはどうやら彼女もそうだったらしい。

 後、友達がいないというのは余計だ。

 

「君も遊凪高校だったんだ。奇遇だね。えへへ」

 

 親近感からだろうか零れるような笑みを浮かべる少女。

 

「まあ店長命令なら仕方ないね。……と、自己紹介がまだだったね。俺は桐生悠、まあよろしく」

「わたしは愛莉。最上愛莉(もがみあいり)だよ。よろしくね……えっと悠先生?」

 

 呼び方に困ったのか、これから決闘を教わることから多分先生をつけたのだろう。

 けど、さすがに先生呼びはどうにも嫌だったのだろうか。悠はなんとも微妙な表情を浮かべてしまう。

 

「悪いけど先生って呼ぶのは柄じゃないからやめてくれないかな?」

「あっ、ごめんね……それじゃあ、よろしくね悠くん」

「ああ、よろしく」

 

 自己紹介を済まし愛莉は右手を悠へと向ける。それを悠は軽く掴むように握手を交わした。その光景をうんうんと頷きながら眺める銀次。

 

「うんうん。これも青春だね……あれ、最上。どこか聞き覚えがあるような?」

 

 

 これが桐生悠と最上愛莉が出会った日だ。

 この日こそが桐生悠にとって運命が変わる日だっただなんて彼はまだ思うことが無かったのであった。

 

 

 

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