「じゃあ翼ちゃん。私は先に帰るね!」
「え、あ……それじゃあ。またね」
遊凪高校に入学日から幾日かが過ぎた放課後。一緒に帰ろうと誘おうと思った矢先、言葉をかけるよりも先に帰り支度を済まされ帰られてしまう。そんな彼女をただ見送ることしかできなかった。
そんな遊凪高校1年1組所属の
「愛莉。また先に帰って……」
翼の友人、最上愛莉と一緒に帰ることができないというのが寂しいと感じてしまう。それも彼女は中学からの進学先でとある理由からもっとも遠い遊凪高校に進学を果たしたために中学時代の友人も知人もいないのだ。
そんな学校で入学初日、席が隣だったという理由で愛莉と仲が良くなり最初の休日から一緒にどこか遊びに行くぐらいの関係になった。これまでは一緒に帰っていたのだが、数日前のある日を境にぱったりと愛莉は先に帰るようになってしまったのだ。
聞いたところ用事があると言っていた。
翼はまた短くため息を吐く。
「はぁ、仕方無いわね。一人で帰って……いや、待って?」
帰り支度として鞄に教科書を詰めていくのだが、何かに気がついたかのようにピタリとその手が止まった。愛莉は用事があると言って先に帰ってはいるのだが、その肝心の用事に関しては何も聞いちゃいないのだ。
「そもそも用事って何? 進学したばかりだから家庭の事情で忙しいとか、いや愛莉はおばあちゃんと2人暮らしって聞いたしそんなこと無いか……そもそも、大したことない用事なら普通に言ってくれてもいいじゃない」
用事とは何かと色々と思考を巡らせる。
そもそも女性である翼から見ても愛莉は可愛い。無邪気でいて純粋。彼女が笑うその笑顔は癒されるぐらいだ。だが、その判明危なっかしいと思うとこもあるのだから守ってあげなくちゃと保護欲が駆り立ててしまう。
「も、もしかして悪い男に誑かせられていたりとか、なんて……」
十分にありえそうな話だと翼は思考する。そう考えてしまえば止まらなくなり翼は思わず顔を真っ青にさせて体が震えてしまう。
「そ、そうよ! きっとそれで色々と酷いことをされて助けを求めることもできずに口止めされて…………あっ、愛莉が危ないっ!!」
妄想は膨れ上がりもうすでに翼の中ではマイナス方向で話が進んでしまっていた。このままでは駄目だ愛莉を助けなくてはという感情が心の奥からくみ上げている。
「追わなきゃ! 待ってて愛莉!」
教科書を鞄に乱雑に詰め込みすぐさま教室を後にする。廊下を走るなという校則を無視しつつ最短距離で昇降口へと向かいそのまま校門へと出ようとすると、すぐに見慣れた後姿が見える。そのまま呼び止めようと駆け寄ろうとするのだが、足を止めた。
「待って愛莉──っと、ちょっと待ってっ!?」
このまま止めても愛莉の事情はまったく知らないし用事も話してくれない。本当に口止めされているのならこのまま引き止めても話てくれないだろうし助けることもできないかもしれない。幸いまだ声をかける前だから愛莉には気づかれる前だ。
「ごめんね。愛莉、けどこれは愛莉を助けるためなんだから!」
聞こえない彼女の遠くで謝りつつ翼はこのまま愛莉を止めるのではなく尾行し事情を調べることにしたのだ。変なところで冷静だった。そのまま電柱やら木やら壁の隙間などに隠れながら愛莉の後をつける。道行く人々が不審者を見る目で見てくるのだが、そんなことは気にしない。通報されなかったのは幸いである。
愛莉は一人でゆっくりと歩きながら道を行く。途中で野良猫に声をかけようとするのだがすぐさま逃げられたりと微笑ましい光景があったりとしたが、翼の視線には一切気づかずにいてくれたのはありがたかった。
そうして歩くこと十何分かで目的地と思われる場所に到着したみたいだった。愛莉はそこへ躊躇いもなく入っていく姿を翼は確認して建物を確認してはそこに書かれている看板を読み上げた。
「カードショップ、デュエループ?」
何故か、カードショップだった。
※
「じゃあ、まずは今日はエクシーズ召喚についてやって行こうか」
「了解っ!」
悠が最上愛莉と出会いデュエルを教えるようになってから数日。彼女は機嫌がよさそうに敬礼のポーズを取りながら返事をした。教えるスペースはさすがにお客のいる場所を使うわけにはいかないために店の裏にある事務所を使うことになる。事務所と呼ぶには簡素なテーブルにパイプ椅子があるぐらいの何も無い空間なのだが。
そこでデュエルを教えるのは、まるで家庭教師にでもなったかのような気分だった。基本的なことはもう既に終え儀式、融合、シンクロも教え終わり今日はエクシーズについて。実践するようにカードを並べだす。
「エクシーズは同じレベルのモンスターを揃えることでEXデッキから出す召喚方法で注意が必要なのはレベルでは無くランクを持っているために──」
「レベルを参照にする効果は受けなかったりするんだよね?」
「ん? あ、うん。その通り」
一瞬、悠は呆気に取られる。
愛莉はデュエルを教える中で飲み込みが早い。早いのだが、その理解力は『何っ!? レベルが無いのならレベル0ではないのかっ!?』と発言してしまうような初心者では難しい内容も一瞬で理解してしまうレベルなのだ。
単純に頭が良いのか、もしくはもうすでに知っているか……なのだが、変な詮索もすることなく悠は依頼されたデュエルを教えるという内容をただこなすのみだ。実演するかのように実際にカードを並べて教える。
「そう。例えば《無力の証明》。このカードは相手のレベル5以下のモンスターを全て破壊するがレベル4モンスター2体で召喚するランク4の《No.39希望皇ホープ》を破壊することはできな──あれ?」
教える中、ふと違和感を感じた。
何かむず痒い。
まるで何かに見られるかのように。
思わずそわそわと周囲を見渡すように首を動かしてしまう。
「どうしたの?」
そんな悠の妙な行動に愛莉はおかしく思ったのか怪訝な表情で聞かれてしまう。
「いや、何かおかしくて。まるで何かに見られているかのような視線を感じて──って、本当に見られてるっ!?」
窓の外を見るとジーっと店の中覗く一人の女性の姿あるのだ。思わず大声を上げてしまうとその声に愛莉まで驚いて窓の外へと視線を向けてしまうのだが、彼女はさらに驚いてしまう。
「えっ、翼ちゃん!?」
窓の外から覗く女性はなんと愛莉の友人、黒瀬翼だった。その声を聞いて悠は視線を愛莉へと向ける。
「知り合い?」
「うん。友達の翼ちゃんだよ」
「そうか。友達なんだ」
とりあえず不審者でないことは安心した。
とはいえ何故、窓の外から覗いているのか話をしなければならない。そのために窓を開けたのだが、それは間違いだった。
「ちょ──っ!?」
窓を開けた瞬間、突然胸倉を掴まれぐいっと引っ張られる。
1階だからよかったもののそれでも窓の外へと放り出されそうなぐらい強い力で引っ張られるのだから大変だ。しかも当の愛莉の友人とされる彼女は鬼のような形相なのだからもの凄く怖い。
「アンタ、私の愛莉にとって何者なの?」
「ぐっ……ギブギブ!?」
「あわ、あわわわわ!?」
低いトーンでしかもドスの聞いた声。殺気さえも感じるような迫力。思わずギブアップをするように壁をバンバンと叩くも翼は聞く耳もたず力をまったく緩めるつもりもない。愛莉に助けを求めようにも彼女は彼女で驚きテンパっているみたいだ。
「何者って、ただデュエルを教えているだけだよ」
「デュエルを……どうして?」
「どうしてって、頼まれたから」
ただ事実だけを述べる。服を引っ張られ苦しいためなるべく簡潔に。それを聞いた翼は少しだけ引っ張る力を緩めると悠へと放たれていた殺気が嘘かのように抑えられ心配するかのような表情で愛莉へと視線が向けられるのだ。
「愛莉、本当なの? この男にだまされて酷いことされているとか無いの?」
「だ、大丈夫だよ! 酷いことなんてされてもいないから離してあげて翼ちゃん!」
「なんだ……ふぅ、よかった」
どうやら愛莉の友人、翼とやらは安堵したのか一息付きながら悠の掴んでいた胸倉を離す。けれどまだ何か聞き足りないのか愛莉へと視線を向けたまま新たな質問をする。
「けど愛莉。なんでこんな奴からデュエルを教わりたいって思ったの?」
「こんな奴って……」
勘違いとはいえ悠と翼の初印象は最悪。
まだ翼にとって悠の評価はかなり低いみたいだ。質問された愛莉は少し恥ずかしそうにモジモジしながら答える。
「えっとね。この前、悠くんのデュエルを見たんだけどそれがとっても格好良くてね。わたしもそんな風な決闘がしてみたいって思ったんだよ」
「格好良い……ね」
愛莉の言葉を聞き何か引っかかるように口元に手を当てる翼。彼女はぼそりと二人に聞こえないくらいの声で「愛莉にそんな風に思われるなんて羨ましいわ」なんて呟いた。
「ねえ、愛莉。それならこいつの代わりに私が教えてあげるわ」
「あれ、翼ちゃんもデュエルできるの?」
「まあね、家族でプロリーグも見たりしてるし人並み以上にはできるわ。それに男と狭い部屋で二人きりなんて色々と問題ってあるでしょう」
「問題?」
と、愛莉は何もわからないように首をかしげた。それを指摘するかのように翼は声を叫ぶかのように荒げだしたのだ。
「そうっ! そういうとこよ! 愛莉は無防備すぎるのよ! 愛莉は可愛い! 可愛い過ぎるのだから変な男に誑かされて酷いことされないか心配で心配で!!」
「つ、翼ちゃん落ち着いて落ち着いて。心配してくれてるのはわかったから」
あまりの興奮っぷりに愛莉は驚き慌てた。
ついでに悠もまた友達という関係だというのにあまりの過保護っぷりに声が出ない。心の奥からの叫びだったのか翼は「ぜー、ぜー」と息を乱したのだが数秒で息を整え落ち着きを取り戻す。そうして翼は悠へと人差し指を向ける。
「そんなわけで私の愛莉はアンタには渡さないわ!」
なんか宣戦布告された。
とりあえず『私の』とついたところはある意味危ない匂いがする。
「愛莉! 私が教えてあげるから一緒に帰りましょう」
「あっ、えっと……その……」
強引な翼に慌てふためく愛莉。
おそらく友人である翼の誘いに断ることができないのだが、今まで教えてくれていた悠もそのままお別れなんてするのもできないのだろう。愛莉はどうすれば良いのか考えるそうして現状を回避する一つの手段を思い浮かべた。
「じゃ、じゃあ! 悠くんと翼ちゃんがデュエルするところを見せてよ。わたし二人がデュエルするところを見てみたいな」
これは名案だと愛莉は考える。もっとも翼がデュエルができることを知らない愛莉は翼がどんなデュエルをするのか知りたいという気持ちも混じっていた。
「そうね。だったら! 愛莉を賭けて私とデュエルしなさい!」
なんか流れで勝負することになってしまった。
※
デュエループの店内。
客足はお世辞にも良くないと言われるほどのためたった一つしかない立体映像を使うフリースペースは空くことも少なくない。翼が店内に入り愛莉への授業の一環として使うことをカウンターで店番している銀次に許可をもらって空いているフリースペースに悠と翼が向き合うように立つ。
「二人とも、がんばって!」
フリースペースの外。、丁度二人の間の中間あたりから愛莉は応援する。他にも3人ぐらいいる客が「おっ、決闘するのか見てみるか」と言う感じで見学しているのが見えた。
「じゃあ、決闘するけど忘れてないわよね! 勝った方が愛莉へデュエルを教える権利を得ることを。私の愛莉は渡さないんだから!」
「忘れてないけど……一つ、だけ気に入らないことがあるんだ」
「ん、何よ?」
翼という少女は滅茶苦茶だ。
いきなり胸倉を掴んできたり、叫んだり、場をかき乱したり。けど、それはまあどうでもよかった。
「最上のことを『私の』って言うのだよ。最上は最上。誰の物でもないでしょ」
その言葉にハッ、翼が我に返ったかのように目を見開いた。
「そ、そうね。ちょっと取り乱していて失言だったわ。けどね私の方が愛莉と一緒にいた時間は長いんだからポッと出のあんたなんかに取られたくないの! だから全力で行くわ!」
「失言、だったのんだ」
どうやら『私の』とかつけていたのは無意識みたいのようだ。
それはそれでどうなのかと思ったのだが。
そうしてそのまま互いに決闘盤を構えた。
『
勝負の合図が行われ始まった。
先攻は悠から。
「先攻は俺からだね」
正直なところこの前の賭け決闘の男と違って負けられない勝負というわけではない。
今回、負けたところで愛莉にデュエルを教える権利が翼に移るだけで、彼に待っているのは今までどおりの平凡な日常であり勝たなければいけないという理由は無いのに。
(何でだろう。負けたいって思わないな)
悠の心の奥底で得体の知れない感情が負けるなと言っているような気がする。故に悠はこの勝負を全力で行うことに決めた。
「まずは《メタルヴァレット・ドラゴン》を通常召喚。そしてそのまま現れろ現在を越えるサーキット! 《ストライカー・ドラゴン》をリンク召喚! 効果でそのまま《リボルブート・セクター》を手札に加えて発動する」
《ストライカー・ドラゴン》
LINK1/闇属性/ドラゴン族/ATK1000
左
まずは召喚の起点から。
蒼いメカメカしい竜を呼び出しその効果にて鍵となるフィールド魔法を手札に加え使用する。それを見ていた翼は目を細めながら悠のプレイングを観察していた。
「ふーん、【ヴァレット】ってわけね」
「ああ! そして《リボルブート・セクター》の効果で手札から《エクスプロードヴァレル・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚し闇属性・ドラゴン族の特殊召喚時に《ノクトビジョン・ドラゴン》も手札から特殊召喚」
《エクスプロードヴァレル・ドラゴン》
☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2000
《ノクトビジョン・ドラゴン》
☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2800
次々と展開を行い上級モンスターを並べていく。そうしてさらに次の一手を思考する。
「ライフを減らすことにしておくかな。《ストライカー・ドラゴン》の効果で場の《エクスプロードヴァレル・ドラゴン》を対象に墓地の《メタルヴァレット・ドラゴン》を回収する効果を使う……けど、ここでエクスプロードの効果を発動するよ」
瞬間、場の《エクスプロードヴァレル・ドラゴン》は膨れ上がり巨大な爆発を生んだ。
その威力は凄まじく翼だけでなく使用者の悠さえも巻き込むほどに。
悠 LP8000→6000
翼 LP8000→6000
「エクスプロードはリンクモンスターの対象になった時、自身を破壊して互いに2000のダメージを与える」
「ちっ、いきなりやってくれたわね」
「続いてもう1度! 現在を越えるサーキット! 《ストライカー・ドラゴン》、《ノクトビジョン・ドラゴン》を素材に《天球の聖刻印》をリンク召喚」
《天球の聖刻印》
LINK2/光属性/ドラゴン族/ATK0
続いて2回目のリンク召喚。
場に出されたのは今まで出した闇属性と対極に存在する光属性。ドラゴン族と呼ぶには似つかわしくない紅く光る球体が悠のEXモンスターゾーンへと出現した。
「リンク素材になった《ノクトビジョン・ドラゴン》の効果で1枚ドローしカードを1枚伏せてターン終了。エンドフェイズ、破壊されたエクスプロードの効果でデッキから《ヴァレット・トレーサー》を守備表示で場に出す」
《ヴァレット・トレーサー》
☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF1000→1300
悠 LP6000 手札2
①天球の聖刻印 攻
左下/右下
②ヴァレット・トレーサー 守
③リボルブート・セクター
□□□□■
□□②□□ ③
① □
□□□□□
□□□□□
翼 LP6000 手札5
初手としてはまずまずの動きだろう。
ダメージを与えて相手ターンに動けるモンスターを並べさらに1枚の伏せカード。これを超えるのは決してたやすいはずではないだろう。
「ふーん、《天球の聖刻印》に伏せカード。それに互いにダメージを与える効果を使ったって事は私のターンの攻撃を防ぎきる自信があるってことね。それで次のターンで攻撃を仕掛けるってところかしら?」
対する翼は冷静に悠の戦術を分析する。
割りと取り乱していたとはいえ愛莉に決闘を教えると言える分には知識と実力を備えているのだろう。翼はデッキに手をかけ
「私のターン、ドロー! 随分と舐められたものね。なら遠慮無く打ち堕としていいってわけよね!」
気合十分にカードを引いた。
それは彼女の勝利宣言と供に。
「まずは《
《RR-バニシング・レイニアス》
☆4/闇属性/鳥獣族/ATK1300
《RR-トリビュート・レイニアス》
☆4/闇属性/鳥獣族/ATK1800
翼は自身のターン開始即座にモンスターの展開を行う。場へと出現する2体のモンスターは【RR】とカテゴリされるモンスターであり機械仕掛けのような風貌をしていながら鳥獣族である。
「トリビュートの効果でデッキから《RR-ミミクリー・レイニアス》を墓地へ送りミミクリーの効果で自身を除外し《RR-ネスト》をデッキから手札に加えて発動するわ! その効果でデッキから《RR-ファジー・レイニアス》を手札に加える」
モンスター効果を駆使しデッキから墓地へ落とし落としたモンスターを除外しサーチを繰り返す。一連した繋がりを無駄なく行っていく。これで数枚のカードを使用したにも関わらず翼の手札は5枚と実質消費はたった1枚のみだ。
「さあ、こっちも行くわ! 来なさい空を翔るサーキット! バニシング、トリビュートの2体のモンスターを素材に《RR-ワイズ・ストリクス》をリンク召喚!」
《RR-ワイズ・ストリクス》
LINK2/闇属性/鳥獣族/ATK1400
左下/右下
流れは止まらず2体のモンスターがサーキットに吸い込まれ新たな鳥が飛翔する。
電子的な梟を形どったモンスターがEXデッキよりEXモンスターゾーンに舞い降りる。
「ワイズ・ストリクスのリンク召喚成功時の効果でデッキから《RR-シンキング・レイニアス》を特殊召喚し手札から《RR-ファジー・レイニアス》の効果を発動させ特殊召喚するわ!」
《RR-シンキング・レイニアス》
☆4/闇属性/鳥獣族/DEF100
《RR-ファジー・レイニアス》
☆4/闇属性/鳥獣族/DEF1500
リンク召喚を行って尚、展開は止まらずモンスターを並べていく。悠窺いつつ使い際を見定めるかのようにいまだ自分のカードの発動をさせない。
「これで準備は揃った! 私はレベル4の《RR-ミミクリー・レイニアス》と《RR-ファジー・レイニアス》でオーバーレイネットワークを構築! ランク4《RR-フォース・ストリクス》をエクシーズ召喚!」
《RR-フォース・ストリクス》
★4/闇属性/鳥獣族/DEF2000→2500
2体の鳥が重なり合わさりまるで小さな宇宙のような渦を描く。光が溢れ飛び出したのは梟の仲間であるミミズクのモンスター。先ほどまでの機械染みた鳥たちと異なる点があるとすれば2対の光がそのモンスターを中心に衛星の如く回ることだろう。
それはエクシーズモンスター。
同じレベルのモンスターを掛け合わせて呼ぶモンスターであり、それこそが翼の【RR】デッキの本領であるが故に、これを阻止すべきと悠が動き出した。
「さすがにこれは止める。罠カード《強制脱出装置》を発動して《RR-フォース・ストリクス》をバウンスさせてもらうよ」
「ふーん、伏せていたのは《強制脱出装置》ってわけね。なら私もライフを半分支払い手札から《レッド・リブート》を発動!」
「なっ!?」
翼 LP6000→3000
悠が発動させたのは場のモンスター1体を手札に戻すというシンプルでありながら強力なカードだった。これで複数枚消費したエクシーズモンスターに対し自身は1枚の消費で除去を図ろうとしたまでは良かったのだが、それは見事に妨害されてしまう。
「《レッド・リブート》の効果で《強制脱出装置》は発動が無効となりセットされ直す。さて効果でデッキから1枚罠カードを伏せなさい」
「く……デッキから《無限泡影》をセットする」
《強制脱出装置》は発動が無効化され伏せている状態に戻される。加えてこのターンで発動できないとはいえ新たな罠カードも場へセットされ翼のライフも大きく減ったのだから悠にとっても悪い状況ではないはずなのだ。
だが、翼はただエクシーズモンスターの妨害をされたくないからと《レッド・リブート》を発動したとは思えない。ライフを半分し払い悠に有利な状況を与えてまで発動したのだからおそらく翼はこのターンで悠を仕留める気なのかもしれない。
「フォース・ストリクスの効果を発動するわ! エクシーズ素材を取り除いてデッキから《RR-ブースター・ストリクス》、取り除いたファジー・レイニアスの効果で2枚目の《RR-ファジー・レイニスアス》の2枚を手札に加える。そして《闇の誘惑》を発動し2枚ドローしファジーを除外するわ」
エクシーズモンスター《RR-フォース・ストリクス》はエクシーズ素材を取り除くことでデッキから闇属性・鳥獣族・レベル4モンスターを1枚手札に加えるという単純なサーチ効果と自己強化を持つが脅威と呼ぶには物足りない。
だが恐ろしいのは、RRのエクシーズモンスターにはその先があるということだ。
「RRエクシーズモンスターの効果が発動したことでワイズ・ストリクスの効果が発動するわ。デッキから《
「これは止めるしかない! 《天球の聖刻印》の効果で自身をリリースし《RR-フォース・ストリクス》をバウンスする」
RUMの対象となったフォース・ストリクスの除去を狙う。紅く光る球体はその身を淡い光変化させフォース・ストリクスを包みこんだ。
「そんな見え透いた手が通用するって思ってたの? 手札から速攻魔法《烏合無象》を《天球の聖刻印》の効果にチェーンして発動! フォース・ストリクスを墓地へ送りEXデッキより《RR-ライズ・ファルコン》を特殊召喚!」
《RR-ライズ・ファルコン》
★4/闇属性/鳥獣族/ATK100
包まれた光から逃げるようにフォース・ストリクスは飛翔し別のモンスターへと姿を変えた。ミミズクから反乱の名を持つ隼へと。ランクは変わらず攻撃力も低くさらには《烏合無象》の効果で攻撃も効果も無効にされているはずなのに悠は思わず失敗したかのように息を飲んだ。
「逃げられた……リリースされた《天球の聖刻印》の効果でドラゴン族モンスターを攻守を0にしてデッキから特殊召喚できる。デッキから《アブソルーター・ドラゴン》を特殊召喚」
《アブソルーター・ドラゴン》
☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2800→0
「それがどうしたっての! 《貪欲な壷》を発動。墓地のモンスター5枚をデッキに戻し2枚ドロー……よしっ!」
墓地より先ほど展開に使われた《RR-バニシング・レイニアス》《RR-トリビュート・レイニアス》《RR-ミミクリー・レイニアス》《RR-ファジー・レイニアス》《RR-フォース・ストリクス》の5枚がデッキに戻され新たにドローする。そうして目当てのカードを引いたのか翼は小さくガッツポーズをした。
「ここからが本番! このカードは手札のRUMを捨てることでランクアップさせることができる《RUM-レヴォリューション・フォース》を捨て。さあ現れなさい! ランクアップエクシーズチェンジ《RR-レヴォリューションファルコン─エアレイド》!!」
《RR-レヴォリューションファルコン─エアレイド》
★6/闇属性/鳥獣族/ATK2000
突如、ライズ・ファルコンが炎に包まれその姿を変貌させるランクを2つ上げ現れたのは革命の名を持った隼。機械染みた姿はより鋭利にもはや兵器とも呼ぶにふさわしい形へと成った。
これがRRの本領。
RUMを駆使してエクシーズモンスターはより強くより凶悪に進化するのだ。
「エアレイドがエクシーズ召喚に成功したことで効果を発動するわ! あんたの場の《ヴァレット・トレーサー》を破壊しその攻撃力分のダメージを与える」
瞬間、エアレイドが《ヴァレット・トレーサー》の頭上へと飛び立ち翼から大量のミサイルの雨を降らし爆発を引き起こしていく。
「っ……けど、その効果にチェーンして《ヴァレット・トレーサー》の効果を発動! 場の《リボルブート・セクター》を破壊し《シルバーヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚する」
《シルバーヴァレット・ドラゴン》
☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF100
悠 LP6000→4400
空爆とも言える破壊の雨を防ぐ手段は無いとはいえ、ただではやられず場に壁となるモンスターを呼び込む。まだ翼の場と悠の場のモンスターの数は2体と同数であり防ぎきれるはずだ。
「さて、最後に墓地の《RUM-レイド・フォース》と手札の《RR-ブースター・ストリクス》を除外することで墓地の《RUM-レヴォリューション・フォース》を回収するわ! お待たせ。バトルフェイズよ!」
これで全ての準備は整ったと翼は攻撃の合図を行う。
「ワイズでアブソルーターをエアレイドでシルバーヴァレットへと攻撃!」
「破壊された《アブソルーター・ドラゴン》の効果。デッキから《ヴァレット・シンクロン》を手札に加える」
2体のモンスターが悠の場のモンスターへと襲いかかる。
ワイズ・ストリクスはその鉤爪で守備力が0となった《アブソルーター・ドラゴン》を八つ裂きにしエアレイドは大量の追尾弾を《シルバーヴァレット・ドラゴン》へと放ち爆裂四散させた。
「2体とも守備表示だからダメージは受けない……けど──」
「そう! それだけじゃすまさないわ! 手札から速攻魔法《RUM-レヴォリューション・フォース》を発動! 《RR-レヴォリューションファルコン─エアレイド》をランクアップさせ《RR-アーセナル・ファルコン》をエクシーズ召喚!」
《RR-アーセナル・ファルコン》
★7/闇属性/鳥獣獣/ATK2500
それは先ほど1度は捨てられたものの回収された速攻魔法のRUMのカードを悠は見逃しているはずも無くまだバトルフェイズは終了しないことを悟っていた。
バトルフェイズにさらにRRを進化させる。
より大きく強大に進化させたその姿はまるで空を飛翔する基地の様だ。
悠の場は先ほどの攻撃でがら空きだった。
「最初のターンでライフを減らしたのは失策だったわね! 《RR─アーセナル・ファルコン》で直接攻撃!」
「っ……」
悠 LP4400→1900
壁となるモンスターが存在しなためにアーセナル・ファルコンより放たれるミサイルが攻撃がまともに直撃する。悠のライフを大きく減らし残りは1900。アーセナル・ファルコンの攻撃力よりも下回ってしまう。
「アーセナルは素材となっているRRの数まで攻撃できる。素材はライズ・ファルコンとレヴォリューションファルコン─エアレイドの2枚。よって2回の攻撃ができる! さあ、これで終わり! アーセナル・ファルコンで直接攻撃!」
2回目の追撃。
これを食らえば悠のライフは尽きる。
「さすがにこれは防がないとね。手札から《アンクリボー》を捨て墓地から《エクスプロードヴァレット・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」
「なっ……!? 手札からも防御用のカードを握ってたのね」
攻撃の直前。
悠の前に自身の効果で破壊され墓地へと送られていた《エクスプロードヴァレット・ドラゴン》が蘇る。それはまさに主人である悠を守るかのようにアーセナル・ファルコンに立ちふさがる。
「誤算だったわ。このままエクスプロードを戦闘破壊してメイン2に入る」
悠の守りが場だけでなく手札にまであったのを読みきれなかったためか悔しそうに顔をしかめながらも翼はこのままだと不利なのを悟る。攻撃はもうできないにしても残りの手札でさらなる手を繰り広げる。
「アーセナル・ファルコンの効果を発動し素材を一つ取り除くことでデッキから《RR-ネクロ・ヴァルチャー》を特殊召喚する」
《RR-ネクロ・ヴァルチャー》
☆4/闇属性/鳥獣族/DEF1600
新たにモンスターを展開する。
この時、素材としてエクシーズモンスターの《RR-レヴォリューション・ファルコン─エアレイド》が取り除かれた。
「邪魔な伏せカードはここで潰す! 《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を発動! ライフを半分支払い墓地のランク6《RR-レヴォリューション・ファルコン─エアレイド》を蘇生し2つランク上のモンスターをエクシーズ召喚する。こいつで《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》をエクシーズ召喚!」
《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》
★8/闇属性/鳥獣族/DEF2000
翼 LP3000→1500
エクシーズモンスターの進化は未だ止まらず。
戦闘機染みた隼はさらなる形へと進化を果たし上空へと飛び立つ。それは砲撃衛星とも呼べる姿だ。ランク8のモンスターを呼び出したにも関わらずその表示形式は守備表示なのは少なくなったライフに対して警戒しているのだろう。
「サテライト・キャノンがエクシーズ召喚に成功時、相手の魔法・罠を全て破壊する!」
「っ……」
サテライト・キャノン・ファルコンから解き放たれるレーザーが2枚のカードを焼き尽くした。不発に終わった《強制脱出装置》と《無限泡影》の2枚は発動を許されることもなく消失する。
「これで脅威は消えたわ。仕上げに場のネクロ・ヴァルチャーの効果でワイズ・ストリクスをリリースして墓地から《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を回収し2枚のカードを伏せてターンエンドよ」
「エンドフェイズに破壊されたシルバーヴァレットとエクスプロードヴァレットの効果でデッキから《マグナヴァレット・ドラゴン》《メタルヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚」
《マグナヴァレット・ドラゴン》
☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF1200
《メタルヴァレット・ドラゴン》
☆4/闇属性/ドラゴン族/DEF1400
ターンの終わりに負けじと悠も場に後続を残す。『ヴァレット』の多くが持つ破壊されたターンのエンドフェイズにデッキから他の『ヴァレト』を特殊召喚できる効果によって攻められた分をリカバリーした。
悠 LP1900 手札2
⑤メタルヴァレット・ドラゴン 守
⑥マグナヴァレット・ドラゴン 守
□□□□□
□□①□②
□ □
③□④□⑤
□■■④□
翼 LP1500 手札1
①RR-アーセナル・ファルコン 攻
②RR-サテライト・キャノンファルコン 守
③RR-ネクロ・ヴァルチャー 守
④RR-ネスト
このターンで終わらせるという試みが失敗した翼であったが持ち直し伏せカードを除去しつつも守りも固めさらにその次の攻撃のための布石さえも用意したのだ。悠はこのターンを防ぐために守りのためのカードをほぼ使い果たしたためにおそらく次の攻撃を防ぐ手立てはないだろう。回収した《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を使われ翼のエクシーズモンスターたちの前に成す術も無く敗北してしまうだろう。
ならどうすれば勝てるか。
答えは単純明快。今から回ってくる悠のターンで終わらせるしかないのだ。
とはいえ状況は優しいわけではない。
翼には3体のモンスターが存在しそのうち2体は守備表示のため攻撃してもダメージを与えられない。モンスター全て倒して直接攻撃を決めるにも場の《RR─サテライト・キャノン・ファルコン》は素材を取り除くことで対象としたモンスターの攻撃力を下げてくるため生半可な攻撃力では返り討ちに合うだろう。
加えて2枚の謎の伏せカードはブラフかそれとも2枚とも悠のアクションに対して起動するカードかは不明だ。
唯一、良い状況なのは翼の残りライフが少ないことぐらいだろうか。
「けど、やるしかないか! まずは現れろ、現在を超えるサーキット! 《マグナヴァレット・ドラゴン》を素材に2枚目の《ストライカー・ドラゴン》をリンク召喚しデッキから同じく2枚目の《リボルブート・セクター》を加える」
まずは下準備、最初のターンにリンク召喚したモンスターと同じモンスターを呼び出しフィールド魔法をサーチする。
「そして《ヴァレット・シンクロン》を通常召喚し墓地から《ノクトビジョン・ドラゴン》を特殊召喚。もう1度、現在を超えるサーキット! 《メタルヴァレット・ドラゴン》《ストライカー・ドラゴン》《ヴァレット・シンクロン》《ノクトビジョンドラゴン》4体でリンク召喚! 出撃せよ! 《ヴァレルソード・ドラゴン》!」
悠の選んだ道は小細工抜きの正面突破。
《ヴァレルソード・ドラゴン》は3000の高打点に加えて攻撃対象のモンスターの攻撃力の半分を吸収しつつ相手モンスターの攻撃力を半分にする。これでサテライト・キャノン・ファルコンの効果と伏せカードを掻い潜ってアーセナル・ファルコンに攻撃が決まれば決着が付く。
手札の《リボルブート・セクター》を含む3枚の手札でそれができるのだろうか?
考えた結果。
翼は不安要素は少しでも潰すという選択肢に至った。
「そして、リンク素材になった《ノクトビジョン・ドラゴン》の効果で1枚ドローする」
「ヴァレルソードでごり押しでも狙う? させないっつーの!! チェーンして《ゴッドバードアタック》を発動! ネクロ・ヴァルチャーをリリースし私のアーセナル・ファルコンとあんたのヴァレルソードを破壊する!」
やはり妨害札があった。
場の鳥獣族モンスターをリリースしフィールドのカード2枚を破壊するカード。2枚を選ばなくてはならないために1枚しか存在しない悠の場に加え自身のカードさえも破壊するのだが、翼の狙いはそれだけではなかった。
「そして『RR』エクシーズ素材を持っていたアーセナル・ファルコンが墓地へ送られたことで効果が発動するわ! EXデッキから現れなさい究極の隼! 《RR-アルティメット・ファルコン》を特殊召喚し墓地のアーセナルはアルティメットの素材になる!」
《RR-アルティメット・ファルコン》
★10/闇属性/鳥獣族/ATK3500
《RR-アーセナル・ファルコン》は『RR』モンスターをエクシーズ素材として持っている状態で墓地へ送られることで発動できる効果を持っている。それはアーセナル以外の『RR』エクシーズモンスターを呼び出す効果。
その効果を使用しさらなるモンスターを呼び出した。
ランクは跳んで2桁の10。あらゆるカード効果を受け付けず高い攻撃力を誇るためか今度は強気の攻撃表示。まさに究極の名を持つに相応しいモンスターが翼の場に舞い降りるのだった。
「っ、アルティメットまで出してくるんだ」
悠も思わず苦笑いを浮かべる。
4体のモンスターを消費して呼び出した《ヴァレルソード・ドラゴン》を難なく処理しつつさらに切り札と呼ぶに相応しいモンスターを呼び出されたのだ。状況はさらに悪くなる一方だった。
「どう? 潔く降参するのがいいんじゃないかしら?」
「いいや、悪いけど諦めは悪い方なんでね。フィールド魔法《リボルブート・セクター》の効果を発動!」
ふふん、と圧倒的な盤面に誇らしげに笑う翼に対して悠はまだ諦めない。先ほどサーチし手札に加えたフィールド魔法なら『ヴァレット』モンスターを展開することが可能。これから次のモンスターを呼び出せば勝ちの目はまだ消えていない。
けれど──
「それもさせないっ! 《ラプターズ・ガスト》を発動し《リボルブート・セクター》の発動を無効にし破壊する!」
「っ!?」
これも許されなかった。
発動したフィールド魔法は突風の渦へと巻き込まれ消滅する。悠の一手一手をことごとく潰してくる翼。
だが、これで翼の伏せカードは全て使い果たし残る手札も回収したRUMのみ。動ける手段はサテライト・キャノン・ファルコンの効果のみと悠を遮る手段が無くなったのだ。ここから自由に展開を行える。
だからでこそ、悠は考える。
この場面で何ができるのか。
何をすればば突破できるのか。
どうすれば勝利することができるのか。
「見つけた」
そうして悠は勝利への道のりを見つけたのだ。
「まずは永続魔法《星遺物の守護竜》を発動。墓地からレベル4ドラゴン族、《ヴァレット・トレーサー》を特殊召喚しその効果で《星遺物の守護竜》を破壊! 2枚目の《マグナヴァレット・ドラゴン》をデッキから特殊召喚!」
「諦め悪くまだ展開するのね」
手をことごとく潰されて尚、悠はモンスターを2体場へと並べた。それでも翼の場には《RR-アルティメット・ファルコン》と《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》という2体の強力なモンスターが存在し負ける気がしない。
「ふーん、けどそれで何するの? リンク召喚を行うのかしら? それともチューナーがいるからシンクロ召喚?」
何を出されても問題無いと翼は考えていた。
今、ここで出されそうなモンスターでもリンク2、何か繋いで3まで呼び出せたところで翼のエクシーズモンスターに適うはずもない。もし、シンクロ召喚を行うにしてもトレーサーの効果の縛りで闇属性しか出せなくなった今、考えられる脅威は《ヴァレルロード・S・ドラゴン》だが、これを出されたのなら効果発動時にサテライト・キャノンの効果で攻撃力を下げればよい。守りは鉄壁だと考えられた。
だが悠は──
「いや、リンクでもシンクロでもないさ。俺はレベル4の《ヴァレット・トレーサー》と《マグナヴァレット・ドラゴン》でオーバーレイネットワークを構築!」
「なっ!?」
それは翼が予想しなかった事態だ。
悠の使う【ヴァレット】には強力なリンクやシンクロモンスターが存在するために見落としてしまっていた事態。彼のデッキにも翼が扱うのと同じエクシーズモンスターが存在するのだから。
「ランク4《ヴァレルロード・
《ヴァレルロード・X・ドラゴン》
★4/闇属性/ドラゴン族/ATK3000
雷鳴を響かせ出現するのは黒い装甲を纏った機竜。咆哮と共にその存在感を顕にした。
「私のと同じエクシーズ召喚を……」
「エクスチャージ・ドラゴンの効果。素材を一つ取り除くことで相手モンスターの攻守を600下げることができる。サテライト・キャノン・ファルコンの攻守を下げる」
《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》
ATK3000→2400
DEF2000→1400
アルティメット・ファルコンに効果は通用しない。そのためなのか何か別の狙いがあるのか悠はサテライト・キャノン・ファルコンのステータスを下げた。そして《ヴァレルロード・X・ドラゴン》にはさらなる能力が秘められている。
「その後、墓地から《ヴァレルソード・ドラゴン》を特殊召喚する!」
蘇るヴァレルソード。
翼の場には強力な2体のエクシーズモンスターが並び立つように悠の場にも2体のヴァレルモンスターが咆哮を上げて対峙する。だがまだ優勢なのは翼のはずだ。ヴァレルソードの効果ならアルティメットファルコンとの戦闘で攻撃力を上げて戦闘破壊されてしまうだろう。
しかし、今はサテライト・キャノン・ファルコンがいるためそこで攻撃力を下げれば殴り勝てるはずだ。
「それで、どう私のフィールドを突破するのかしら?」
「いや、突破する必要はないさ。これが勝利への一手だ! バトルフェイズに《エネミーコントローラー》を発動しサテライト・キャノン・ファルコンを攻撃表示に変更。《ヴァレルソード・ドラゴン》で攻撃する!」
一体、何を考えているのか。
防御の姿勢を行っていたサテライト・キャノン・ファルコンはそれを解き迎撃の態勢へと変わる。《ヴァレルソード・ドラゴン》の方が確かに攻撃力は高い。今は、の話だが。
「この瞬間! 《ヴァレルソード・ドラゴン》の効果で《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》の攻撃力の半分アップし攻撃力を半減させる」
《ヴァレルソード・ドラゴン》
ATK3000→4200
《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》
ATK2400→1200
サテライト・キャノン・ファルコンの下げられていた攻撃力はさらに下がりその攻撃力差は3000。この一撃が通れば悠の勝利で終わるが、それを翼が許すわけにもいかなかった。
「させるわけないっ! ダメージステップに《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》の効果で素材を取り除き《ヴァレルソード・ドラゴン》の攻撃力を墓地の『RR』の数×800ダウンさせる!」
墓地には《RR-ワイズ・ストリクス》《RR-ネクロ・ヴァルチャー》《RR-アーセナル・ファルコン》《RR-ライズ・ファルコン》《RR-レヴォリューション・ファルコン─エアレイド》の合計5枚。その効果で下がる数値は4000。
《ヴァレルソード・ドラゴン》
ATK4200→200
「くっ!?」
悠 LP1900→900
サテライト・キャノン・ファルコンの迎撃の前に攻撃力が大幅に下がり下級モンスターの数値へと下がっていたサテライト・キャノンよりもさらに攻撃力が下回ってしまいそのまま攻撃が続行されてしまった。
そのまま数値の差分、1000のダメージが悠に入る。いわゆる自爆という形になってしまいその衝撃が悠を襲った。
「《ヴァレルソード・ドラゴン》は戦闘破壊耐性があるから破壊されないけど、ただ自爆しただけ。一体、何を考えて……」
「《ヴァレルソード・ドラゴン》の効果で変動した数値はターン終了時まで戻らない。それが俺の狙いだよ」
「あっ……!?」
ここで翼は悠の狙いに気づいた。
いや、気づいてしまった。
悠の場にはまだ『攻撃が可能なモンスター』が残っていることに。
「これで決まりだ! 《ヴァレルロード・X・ドラゴン》で《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》に攻撃!」
全てはこれが狙いだったのだろう。
このためにサテライト・キャノン・ファルコンを攻撃表示に変更させ攻撃力を下げていた。《ヴァレルロード・X・ドラゴン》の攻撃力は3000に対し《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》の攻撃力は1200まで下がりきってしまっている。
その攻撃力差は1800。そして翼のライフは1500。
翼 LP1500→0
エクスチャージ・ドラゴンより放たれる砲撃と雷撃の2つがサテライト・キャノン・ファルコンへと突き刺さる。防ぐ手段も無くそれを見ているだけしかない翼はただ敗北を受け入れるしかなかった。
敗北を告げる機械音と共に翼の残りライフ全てが削りきられるのだった。
勝負としてはたった3ターンだけの攻防だったとはいえ激しい撃ち合いの応酬に見ていた観客たちは思わずパチパチと拍手が送られていた。全力の攻めと守りで全てを出し尽くしていた故に、翼も敗北して悔しいと思えど清清しい様子だとも見えた。
「凄い、凄かったよ翼ちゃん! 悠くん!」
デュエルが終わりパタパタと駆け足で二人へと近寄る愛莉。相変わらず興奮気味な様子で語彙力が無かった。
「そうね……けど負けちゃった」
対する翼はテンションが低い。勝負に負けてしまったから当然だろう。けれど、愛莉は両手で翼の手を握り締める。
「そんなこと無いよ! 翼ちゃんも格好良かったよ。だから、わたし翼ちゃんからもデュエルを教えて欲しいな」
「っ……!?」
はにかみながら微笑む愛莉の表情に翼は顔を赤くさせてびくりと軽く飛び跳ねながら驚いた。
「えっと、駄目かな?」
「駄目なんかじゃないっ! むしろ良いわ。私がみっちりと教えてあげるからっ!」
愛莉に掴まれていた腕を翼も両手で握り返してぶんぶんと上下に振るわせた。それに「あはは、痛いよ翼ちゃん」と愛莉は喜びながら笑っていた。そもそも愛莉にデュエルを教える人物を決める勝負だったはずなのだが、その勝負はいったい何だったのかという結果ではあった。
もっとも、そんな内容に悠は執着していたわけでもなく愛莉と翼の微笑ましい光景を眺めているだけだった。
「まあ、一見落着かな……って、あれ?」
気がつけな翼の足元の近くに長細い機械が落ちていたのだ。見てみるとそれはスマホだった。おそらくブンブンと愛莉の手を握り上下させた際にポケットから落としたのだろう。落下した衝撃で偶然にも電源が入ったいたのだろうか待ち受けの画像が見えていた。
「ん、これって……」
ついつい画像が目に入ってしまった。写真だ。それも人物の。とりあえず翼に渡さなければと拾い上げる。
「ありがとう翼ちゃん! じゃあ私は先に行っているから」
丁度良いタイミングで愛莉は先ほど悠にデュエルを教わっていた事務所の部屋へと行っていった。翼一人となり声をかけるなら今がチャンスだと近寄る。
「えっと、黒瀬だったよね。スマホ落ちてたよ」
「え……っ──!?」
ほんの一瞬、呆けた声を上げるものの突如顔を真っ赤にさせてもの凄い速さで悠の手にあるスマホを掠め取った。スマホを抱きしめる様にギュっと握りながら翼はぼそりと聞く。
「み、見た?」
「何を?」
「スマホよ! スマホ! 中見たっ聞いてるのよっ!」
怒鳴るような声に悠は驚くというよりも何か納得してしまったというような感覚だ。
先ほど見てしまった待ち受けの画像は遊凪高校近くの桜並木を背景に愛莉が映っていたのだ。だが目線は桜の木に見とれるかのように見上げておりカメラへ目線は一切移っていないのだ。
「ああ、あれってやっぱ盗さ──」
「盗撮じゃないわ断じて! ただなんとなく桜の木を取ろうとして映っただけなんだから!」
慌てふためく様子が尚、怪しさを増していた。
やっぱりこの黒瀬翼という少女は危険な感じがしていた。