遊戯王部活戦記   作:鈴鳴優

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04.なんとなく

「その子の名前は──最上愛莉。君のことだよね?」

 

 瞬間、4人の場が凍ったかのような静寂が走った。誰も言葉を発せず、遠くあるフリースペースでデュエルしている音だけが聞こえてくるのだ。一体、どういうことなのかと悠と翼は思考する。

 

 多くのカードショップの大会で優勝できるというのはかなりの実力が無ければできるはずも無い。デュエルの経験も数年積み重ねて得た知識と実力が必要だろう。

 

 なのだが愛莉は悠や翼にデュエルを教えてほしいと言った。

 

 それは明らかな矛盾だ。

 ならそれはどうしただろうか。

 答えは単純明快、愛莉が『嘘』を言っていたということになる。

 

「それって──」

「待って! いつも素直な愛莉が嘘をつくなんてありえないじゃない。きっと同姓同名とか人違いじゃないかしら!」

 

 悠の言葉を遮るように翼が愛莉を庇う言葉を出す。いや、きっとそう信じたいと思っているのだろう。

 

「翼ちゃん……」

 

 そんな彼女は一言。

 

「ごめんね」

 

 彼女が嘘をついていたのか人違いなのか。その一言で答えが出た。愛莉は一歩、二歩と下がって深くお辞儀をするように頭を下げた。

 

「本当はわたし、デュエルのやり方もルールも知っていたんです……だから、嘘をついてごめんなさい。悠くん、翼ちゃん、銀次さん。本当にごめんなさい」

 

 心の奥から申し訳ないという様に彼女は謝る。

 そうして涙が一滴、二滴と床にポタポタと落ちた。

 

「ここに来る理由は本当はないんです。だから、さようなら」

 

 そう別れの言葉を告げてこの場から立ち去ろうと歩きだそうとする。もう来る理由も無く関わらなければ良いだけ……なのだが、それを引き止めるかのように悠はすかさず彼女の服の裾を掴んだ。

 

「待った」

「え……?」

「勝手に謝って、それでもう来ないなんてさすがにそれは無いんじゃないかな」

 

 その言葉に愛莉は怯えたような表情をしてしまった。思わず出てしまった言葉に悠も少し反省しつつ落ち着いて彼女へと思いを語る。

 

「別に怒ってないよ。まあ、嘘をついてたってのは驚いたけど……最上がそんなこと面白半分とかでやるなんて思ってない。何か理由があるんじゃない?」

 

 悠が愛莉を止めた理由はちゃんと理由を聞きたかったからだ。その言葉に同意するかのように銀次も語る。

 

「そうだよ。僕も驚いたけどね。もし話せるのなら話して欲しいな」

 

 と、二人はできるだけ愛莉が嘘をついたことへ罪悪感を感じないように優しく話す。そんな悠と銀次に対して愛莉はさらに涙をこぼした。

 

「ありがとう。みんな……ありがとう」

 

 泣き顔はさすがに見せられず頭を下げながら愛莉はお礼を言うのだった。

 

 

 

 ※

 

 

「お茶が入ったよ」

 

 デュエループの店の奥。

 事務所のスペースにて悠、翼、銀次、そして愛莉の4人が集まっていた。悠が「店番は?」と聞くのだが、銀次はまあ、こんな時だし。それに僕のお店カードを買うお客はそんなにいないからと言って翼は思わず「大丈夫かこの店」と呟いてしまう。

 

 それぞれ椅子に座り皆の前に冷たいお茶が出された。たくさんの涙を流して喉が乾いてしまったのか愛莉は「いただきます」と言って数口飲んでから話を始めた。

 

「わたし、昔はデュエルが出来たんだよ……でも、今は出来なくなっちゃって」

「今は……出来ない?」

 

 翼の言葉に愛莉はコクリと頷いた。

 かつて出来ていたものが出来なくなったからデュエルを教わるというのはルールを忘れたとかそういうのを考えてしまうが、普通決闘者なら細かいルールならまだしも大体のルールを忘れたりとかなんて無いだろう。

 未だ、それと皆からデュエルを教わるようになった経緯は見えない。

 

 愛莉は、まず始まりからポツリポツリと語りだす。

 

「わたしのお父さんは昔、プロ決闘者だったんだよ。でも引退しててわたしが物心付いたころには普通にサラリーマンしてて……それでわたしに代わりに夢を引き継いで欲しいって小さい頃からデュエルを教わってたんだ」

 

 出だしに語られたのは家族の話から。

 どうやら昔、多くのカードショップの大会で優勝したのはプロとしての父親を持った親による教育のためなのだろう。

 

「辛かったときもあったけど、うまく出来たときはお父さんもお母さんも褒めてくれて嬉しかったし大会でいい結果が出たらお父さんは自分のように喜んでくれてお母さんもわたしの好きなもの作ってくれて幸せだったんだ。だからわたしはいっぱい多くの大会に出る様にしたんだ」

 

 その時の彼女は朗らかに笑いながら語る。本当にその時は幸せだったのだろう。

 それが彼女が言う昔、決闘が出来ていたという時期であり多くの大会で優勝を果たしていた頃なのだろう。

 

 だが、愛莉はすぐに表情を曇らせて「でも」と言葉を繋いでしまう。

 

「ある日ね。大会で優勝してお父さんとお母さんに報告しようと走って家に帰ったんだ。でも家の中は真っ暗で二人ともいなくて……出かけたのかなって、待っていたんだ。ずっと。ずっと。ずーっと」

 

 話していて辛いのか愛莉はまた泣きそうになっていた。涙を流さないように両手で顔を覆う。

 

「それでも、帰ってこなくて……結局、わたしはおばあちゃんの家にお世話になることになって」

 

 結局、両親は帰ってこなかったのだろう。

 大会で優勝していたのが5年前なら当時は10歳くらい。そんな年頃の少女なのだから親と別れるにしてもあまりに早い。幼かった愛莉にとってもショックは想像できないぐらいに大きいのだろう。

 

「わたしは、それでも帰ってくるって信じてデュエルしてたんだ。また大会を優勝しておばあちゃんは喜んでくれたんだけれど──いつも喜んでくれていたお父さんとお母さんがいないって思ったら怖くなって……」

 

 前触れもなく突然、両親を失ったのだからトラウマになるのも無理はないだろう。愛莉は震えて少し過呼吸のように息が荒くなってしまっていた。

 

「だから、デュエルするとまたわたしにとって大切な人がいなくなっちゃうんじゃないかって思うようになっちゃたの。それが怖くて、怖くて……デュエルをやめようとも思ったのだけれど、それはお父さんとお母さんとの繋がりだから捨てることもできなくて……わたしはただ遠くからデュエルだけを眺めるようになったの」

 

 ただ、怯えるように愛莉はデュエルを恐れるようになってしまった。

 それでもデュエルは両親から与えられ小さい頃からずっと続けてきた思い出も詰まっているためにやめるなんて選択肢も無い。怖いのにやめるということもできずにずっと苦しみ続けていたのだろう。

 

「それでね。ある日、カードショップに立ち寄っていつも通りデュエルを見ていたんだ。それが、とっても格好良くてね。昔、ビデオで見たプロとして戦うお父さんのみたいだって思ったんだ。それで、わたしもう1度、1度でも良いからデュエルをしたいって思ったんだ……だから思わず声をかけちゃったんだけど、デュエルできないというのが変だから思わず嘘をついちゃって」

「それって、もしかして──」

 

 悠の言葉に愛莉はコクリと頷いた。

 前にカードを取り上げた輩と悠がデュエルしたときのことだろう。

 その後、愛莉は興奮気味に悠のデュエルが格好良かったと言っていており、そこから彼女はデュエルを教えて欲しいと言出だしたのだ。

 

 これで全部繋がった。

 なんで愛莉はデュエルができなくなったのか。

 なんで嘘をついてしまったのか。

 

「ううぅ……」

 

 話を聞いていたが翼は泣きそうな愛莉の横で思いっきり涙を流していた。ハンカチで目元を拭いながら席を立ち上がり後ろから椅子越しに愛莉を抱きしめた。

 

「そうだったんだ。辛かったね愛莉……話してくれてありがとう」

 

 ぎゅっ、と握り締めるのだが泣いて感情的になってしまったのか力の制御ができずに愛莉は困ったかのように「痛いよ。翼ちゃん」と言う。対する悠と銀次は涙こそ流さないが愛莉が嘘を付いていたことに対して咎めるつもりはまったくなかった。

 

「わかった。俺が出来ることがあったら何でも言って欲しい。いつも通り教えたりでもいい」

「悠くん……ありがとう」

 

 またして愛莉は涙を流すだが、今度は先ほどのようではない。笑いながら。嬉し泣きだった。

 

 これで一件落着。

 だと思われたはずなのだが銀次は一言。

 

 

 

「このままじゃ駄目なんじゃないかな?」

 

 

 

 この場で否定的な意見を出していた。

 銀次の言葉に呆気に取られる愛莉。

 

「え……?」

「愛莉君……君はもう1度、デュエルがしたいって言うけど僕は今のやり方を続けるだけでは何も変わらないと思うよ」

 

 それは大人だからでこその意見だった。

 確かに愛莉のためと思い今までどおりというのは優しさから来るものだ。

 けれど、彼女のためを思いはっきりと意見するのが銀次なりの優しさだ。

 

「デュエルが出来なくなったというけど……それを解決するならやはりデュエルの中でしか見つけられない。だから一つ提案させてもらうけど、愛莉君、きみが──悠君とデュエルをするんんだ!」

 

 はっきりと、宣言するように告げる。

 デュエルが出来なくなってしまった愛莉にデュエルをしろというのは酷な話だろう。

 

 思わず愛莉を抱きしめていた翼は彼女から離れ机を強めに叩き銀次の言葉を否定した。

 

「ちょっ!? いきなりすぎじゃない! それに相手なら悠なんかじゃなくて私が──」

 

 翼の提案に銀次は首を横に振る。

 

「デュエルというのは本来、魂のぶつかり合い。翼君じゃあ、愛莉君に対して甘過ぎるからね。きっと手を抜いてしまうだろう。できるのは全力でぶつかれる相手だけ。だから僕は悠君を推薦したんだ」

 

 そう。

 本来デュエルとは勝敗を決めるために全力で思考を廻らせる戦いなのだ。

 その中には、すさまじい攻防と緊張がある。だが、そこに手を抜いてしまっては何も無い。だからでこそ翼では駄目なのだ。

 

「…………」

 

 翼は銀次の言葉に何も言えずただ悠を見つめるだけだった。悠はただ一言。

 

「俺は、構わないけど……最上はどうしたい?」

 

 提案は受け入れた。

 だが、それは肝心の愛莉がどうしたいかによる。

 愛莉は考え若干、悩むような表情を浮かべるのだが、振り切るかのようにブンブンと頭を左右に振り勢いよく立ち上がった。そして──

 

「わ、わたしはもう一度デュエルがしたい! まだ怖いけど、それでもデュエルがしたいっ!!」

 

 それは愛莉の心からの叫びだった。

 彼女の言葉を聞いた銀次は満足そうな表情を浮かべる。

 

「そうか。なら今すぐにでも……と言いたいのだけれど、愛莉君は今デッキを持ってきてないだろう? 明日は丁度、日曜日だしそこで悠君と勝負だ。勿論、手加減は抜きでね」

 

 

 

 ※

 

 

 

 そうして翌日。

 デュエループ店内は静かだった。

 本来、今日は日曜日で暇な学生たちでフリースペースは割りと賑わうのだが、誰も客はいなかった。それも銀次の計らいで店にはシャッターを下ろされており臨時休業という看板が立てられているのだ。

 そのためこの場にいるのは4人。

 フリースペースに決闘盤を腕に付けて立つ愛莉と悠、その外から心配そうに見守る翼と黙って二人を見つめる銀次。デュエルを始まる前、悠は少し心配そうに愛莉に声をかけた。

 

「俺は準備良いけど……最上は?」

「だ、大丈夫。ちゃんとデッキも持ってきたしも、問題ないよ……」

「あ、ああ……」

 

 嘘だ。

 明らかに嘘だとわかってしまった。

 

 今の愛莉は悠が知る中で元気が無いように遠くから見てもわかってしまった。

 声が震えており、同時に手も震えてガチガチに緊張している。さらに冷や汗が愛莉の頬を伝う。

 

「愛莉……」

 

 そして、それはフリースペースの外から見る翼も同様に愛莉の様子を理解してしまっていた。明らかにいつもとは違う彼女に翼は心配でならなかった。

 

 いまだに愛莉は決闘(デュエル)を恐れている。

 

 それを克服するために行うのだが、本当に大丈夫なのだろうかと悠も少し心配になってしまう。これで失敗して愛莉は二度とデュエルができなくなってしまうんじゃないか。逃げ出してしまうんじゃないか、と。

 

 そう考えてしまうのだが途端、愛莉が声をかけてきた。

 

「悠くん……わたし、頑張るから、だから、だから……わたしを信じて遠慮なく来て」

「最上……」

 

 だが、怖がって尚、向き合おうとする愛莉は悠が思っていたよりも強いものだった。

 悠は軽く深呼吸をし息を整える。そうしてしっかりと愛莉へと視線を向けた。

 

「わかった。最上を信じることにするよ」

「うん、ありがと」

 

 そうして互いに決闘盤を構える。

 勝負が始まる前の静寂。一瞬、時間が止まったかのように静まり返り。

 

決闘(デュエル)!」

「デュ、決闘(デュエル)!」

 

 勝負の合図を告げるのだが、愛莉がわずかに送れて反応してしまう。決闘盤が先攻後攻を選択するのだが、先攻は愛莉。

 

 ここから愛莉はどうなるのか見守る。

 彼女は5枚の中の手札から1枚を抜き取り使おうとして、

 

「わ、わたしは……っ──!?」

「愛莉っ!?」

 

 途端、大きく体がよろけて転んでしまった。

 床へと散らばった手札のカードを拾って立ち上がろうとするのだが、立ち上がる気配が無いのだ。

 

 始まったデュエル。

 いや、始まってしまったデュエルの独特の空気に彼女は押しつぶされるかのように立ち上がることができなかった。

 

 

 

 怖い。

 両親を失ったことが怖い。

 

 

 

 怖い。

 また、大切な誰かを失うことが怖い。

 

 

 

 怖い。

 今度は、一人になってしまうかもしれないことが怖い。

 

 

 

 そんな恐怖を前にすれば体に力が入らずにただ両膝を付いたままだ。頭の中がぐちゃぐちゃになって視界が回るかのようにおぼつかない。立ってデュエルをしなくちゃいけないというのに、体が動かない。

 

 

 

「やっぱり無理よ! やめさせてっ!!」

 

 翼は叫ぶかのように無理やりにでも二人のデュエルをやめさせようとするのだが、銀次が道を塞ぐように翼の前に立ちはだかったのだ。

 

「まだ始まったばかりだよ。もう少し様子を見てみよう」

「様子って……愛莉はあんな苦しそうにして、立てもしないで……どうみても無理じゃない!」

 

 そうだ。

 立つこともできずに床でただ蹲るだけの彼女に何ができよう。だから翼はもう見てはいられないのだが、翼に対し銀次は一言。

 

「愛莉君を信じてあげて欲しい」

「っ……!?」

 

 思わず翼は目を見開く。

 そんな言葉を言われたら止まらざるを得なかった。

 

「確かに愛莉君も見ている翼君も苦しいかもしれない。でも、これを乗り越えられるかどうかは愛莉君を信じるしかないんだ」

「うっ……そんなこと言われると、でも……」

「わかってる。本当に危険ならやめさせるから」

 

 気がつけば翼も今すぐに泣きそうな表情だった。翼はただ見ていることしかできない。

 

「頑張って愛莉……」

 

 

 

 床に蹲ってただ苦しそうに息をする愛莉。

 過呼吸ぎみに息を乱し辛そうな姿を翼だけで無く向かいに立っている悠もまた立ったまま見ていることしかできなかった。

 

 一秒、二秒、三秒……十秒、二十秒と時間だけが過ぎている。そうして60秒が経過した瞬間。ブザーが鳴った。

 

 決闘盤のシステムにより何のアクションもせずに60秒が経過してしまえば自動的にターンが終了し相手ターンへと移るシステムなのだ。それにより愛莉のターンは終了し悠のターンへと移行されてしまった。

 

「っ……俺のターン、ドロー」

 

 カードを引く悠だが、彼もまた迷う。

 何せ状況が予想以上に酷かったのだ。

 

 今までデュエルをしてきた悠だが、目の前の相手が蹲っているなんてことはない。そんな相手に手加減せずにぶつかるなんてもはや無茶苦茶なのだ。

 

 チラリ、と悠は銀次へと視線を向けてしまう。

 銀次と視線が合うのだが、彼はただ首を横に振るのだった。

 

 

 

 ──手加減するな、と。

 

 

 

「くっ……俺は《ヴァレット・トレーサー》を通常召喚。効果により《アブソルーター・ドラゴン》を特殊召喚し加えて《ノクトビジョン・ドラゴン》も特殊召喚」

 

《ヴァレット・トレーサー》

☆4/闇属性/ドラゴン族・チューナー/ATK1600

 

《アブソルーター・ドラゴン》

☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2800

 

《ノクトビジョン・ドラゴン》

☆7/闇属性/ドラゴン族/DEF2800

 

 戸惑いながらも【ヴァレット】のデッキを展開させ一気に3体のモンスターを展開する。

 例え心に迷いがあろうとも体に叩きこまれた動きは、心とは関係なく動くのだ。

 

「トレーサーの効果で場の《アブソルーター・ドラゴン》を破壊しデッキから《マグナヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚。さらにアブソルーターの効果でデッキから《ヴァレット・シンクロン》を手札に加える」

 

《マグナヴァレット・ドラゴン》

☆4/闇属性/ドラゴン族/ATK1800

 

 加えてさらなる展開とサーチを行う。

 モンスターの数を減らさずに次の一手のために新たなカードを手札に加える。

 

「バトルフェイズ! 《マグナヴァレット・ドラゴン》《ヴァレット・トレーサー》で直接攻撃!」

 

愛莉 LP8000→6200→4600

 

 いまだに蹲る無防備な愛莉に無慈悲な直接攻撃が決まる。これではまるでいじめをしている気分だった。

 

「メイン2。現在を越えるサーキット! 《ヴァレット・トレーサー》1体で《ストライカー・ドラゴン》をリンク召喚。《リボルブート・セクター》を手札に加え。《ストライカー・ドラゴン》、《マグナヴァレット・ドラゴン》で《ツイン・トライアングル・ドラゴン》をリンク召喚する」

 

《ツイン・トライアングル・ドラゴン》

LINK2/闇属性/ドラゴン族/ATK1200 

右/下

 

 攻撃は終えても悠は相手が万全だった状態と同じプレイングを展開する。

 与えるダメージは多いがこのままモンスターを並べていてても返しのターンで的にされる可能性がある。

 

本来ならば。

 

 たとえ愛莉が勝負できない状態であろうともそうであると過程しプレイングは続行される。

 

 

「ツイン・トライアングルのリンク召喚時、500のライフを支払いアブソルーターを蘇生しもう1度、現在を超えるサーキット! リンク2のツイン・トライアングル、アブソルーター、ノクトビジョンでリンク4《ヴァレルソード・ドラゴン》をリンク召喚」

 

悠 LP8000→7500

 

《ヴァレルソード・ドラゴン》

LINK4/闇属性/ドラゴン族/ATK3000 上/左/左下/下

 

 そうして出される悠の切り札の1枚。

 戦闘で破壊されることなく相手モンスターをスペルスピード2で守備表示にできる凶悪なカードだ。それは悠の手加減抜き、本気であることの証だ。

 

「リンク素材になったノクトビジョンの効果で1枚ドロー。カードを2枚伏せてターン──」

 

 ターン終了。

 そう告げる前に悠は手を止めたのだ。

 

 デュエルを中止する、と言うわけでは無く。

 ただ愛莉と話をするために。

 

「最上。聞こえている?」

 

 蹲る愛莉に声をかける。

 反応は無く聞こえているかわからないのだが、そのまま悠は言葉を続ける。

 

「まあ、返事は無くても話は続けるけど……俺はさ、はっきり言うと。デュエルが嫌いなんだ」

 

 その言葉に反応するように返事は無いものの愛莉はぴくりと動いた。聞こえている。悠はそのまま話す。

 

「実は俺の両親もプロ決闘者だった。でさ、俺が子供の頃病気で寝込んでいたとき両親は俺を置いてデュエルの勝負に行ってしまったんだ。俺はそんな両親が許せなくて……いなくなっちゃえって願ってしまったんだ。そうしたら両親は交通事故に会って帰ってこなくなった」

 

 それが悠が叔父である銀次の世話になっている理由。両親は既に他界しており一人ぼっちだった悠は叔父の元に引き取られた。

 

「それで、俺は自分が許せなくて自分が嫌い。それに関わったデュエルも大嫌いだ」

 

 それは悠の心からの本音だ。

 もし悠が願ってなくても交通事故は起きてしまっただろう。けれども、それを願ってしまったのは誰でも無い悠なのだから。

 

 己を嫌うのも当然だ。

 

 そして悠と両親を引き離したきっかけはデュエル。だからでこそデュエルをも嫌うのだ。

 

「それで……」

 

 途端、愛莉は言葉を口にする。

 顔を上げて視線を悠へと向けて聞く。

 

「それで……どうなったの?」

「別に何もなかったよ。カードショップの店主である叔父さんに引き取られて店の手伝いをして、たまに変な客がいるからデュエルの腕も磨いて追い払ったりもしている」

 

 例えデュエルが嫌いになったとしてもカードショップの店で手伝うならデュエルは切って離せるものでは無いだろう。悠は愛莉と違い今でもデュエルを続けている。

 

「俺と最上の境遇はきっと似ている。でも俺は両親を失った後、デュエルを続けても何も失うものなんてなかったよ」

 

 それは慰めなのだろうか。

 ただ事実を言っているのだろうか。

 

 

 

「いや、ちょっと違うかな」

 

 

 

 だが、何か気づいたかのように悠は言葉を変える。

 

「失うものは無くても得るものはあった。例えば……40過ぎても独身を貫く叔父さんとか、なんか子犬みたいにデュエルを教えてと言ってきた奴とか、初対面でいきなり殺しにかかってきた奴なんかと知り合うことが出来た」

 

 冗談交じりに言う。

 デュエルは今でも嫌いだ。

 

 けれど叔父の店で手伝いをしていたり、翼と一緒に愛莉にデュエルを教えていた場所は妙に居心地が良くて嫌いではなかったのだ。そんな悠を見つめ愛莉は声を絞り出すかのように聞いた。

 

「悠くんは、悠くんは……何でデュエルを続けられるの?」

 

 愛莉は同じ境遇だと知り悠に聞く。

 両親を失い決闘が出来なくなった愛莉。両親を失っても決闘を続けている悠。その違い。その続けられる理由。それさえ知ればきっと愛莉はまた昔の様にデュエルが出来るかもしれないと思ったのだ。

 

 だからでこそ知りたい。

 知らなければいけない。

 

 なのだが、悠はただ一つだけ簡潔に述べる。

 

 

 

「何でって言われても……なんとなく?」

 

 

 

「へ?」

 

 それは苦しんでいた愛莉でさえ拍子抜けするような一言だった。悠がただ続けられる理由は特に無い。ただカードショップの店員として手伝っていたら必然とそうなってしまっただけ。

 

「あはっ」

 

 途端、愛莉はお腹を抑えた。

 具合が悪くなったとか。そうでは無い。

 辛いとか。苦しいとか。そう言ったものとは違う『何か別の感情』が溢れ出しそうになったのだ。

 

「あはははははっ! 何それ、なんとなくって……おかしくて、あはは……」

 

 先ほどの様子とは一転、今度は笑っているがそれはそれで笑いすぎで苦しそうだ。

 

 それもそうだろう。

 

 愛莉がデュエルをできなくなって5年間。ずーっとデュエルが出来なくなってしまい彼女を苦しめていたのだが、同じ境遇の悠はデュエルを続ける理由の答えは『なんとなく』なのだったのだから。

 

 可笑しくて仕方がないのだろう。

 

「げほっげほっ……」

 

 むしろ笑い過ぎでむせた。

 

「笑いすぎだろ……まあ、それで最上はどうしたい?」

「げほっ……わ、わたし?」

 

 けれど、そのおかげで緊張がほぐれたのだろう。

 苦しそうな表情から打って変わりいつも通りの愛莉だった。

 

「ああ。最上はこれからどうしたいんだ?」

「わ……わたしは……」

 

 愛莉はそのまま立ち上がった。

 胸に手を当て考える。その答えはまるで最初から用意されていたかのようにすぐに出てきた。それを目一杯、すーっ、と大きく息を吸って、

 

「わたしは、デュエルがしたいっ! 大切なみんなと一緒にいたいっ! みんなと一緒に笑いたいっ! お父さんとお母さんにもう1度会いたいっ!」

 

 それは心からの叫びだった。

 悠はただ「そうか」と小さく口にする。

 

「だったら、どうすれば良いと思う?」

「えっ、え、えっと……?」

 

 その質問に悠は簡単だと正解を口にした。

 

「ただ、『今を』頑張ればいいんだ」

「今を……」

 

 そういえば今は、決闘の最中だったのだ。

 愛莉はすっかりと忘れていた。

 

 気がつけば悠はプレイを止めてから喋って時間が立っており60秒が経過した。これでターンは自動的に移りまた愛莉のターンへと戻るのだった。

 

 愛莉 LP4600

 

 □□□□□

 □□□□□ 

  □ ①

 □□□□□ 

 □■□□■

 

 悠 LP8000

①ヴァレルソード・ドラゴン

 上/左/左下/下

 

「ほら、最上のターンだ」

「え、あっ、わ、わたしのターン、ドロー!」

 

 慌てつつカードを引く。

 その様子は先ほどまでの緊張など感じさせない動きだった。

 

(あれ、普通にカード引けた?)

 

 それに対し愛莉は疑問を持った。

 

 さっきまで震えて重かった体が軽い。

 ごちゃごちゃだった頭の中がすっきりとしている。今にも吐きそうだった気持ちが穏やかだ。

 

「うん。そうなんだ」

 

 愛莉は目を閉じた。

 

 今までデュエルが出来なかった……ではない。出来ない、と思い込んで愛莉自身が逃げようとしているだけだった。

 

 別に愛莉がデュエルをするのに理由なんていらない。そんな理由は『なんとなく』だって別にいいのだから。

 

 そう思うと世界が違う様に見えた。

 より鮮明に鮮やかでいて美しく。

 

 すっ、と息を吸って目を見開く。

 その愛莉の表情はどこまでも清清しいものだった。

 

「悠くん」

「ん?」

「今まで嘘ついてごめんね。心配もかけてごめんね。でも、でも──もう大丈夫!」

 

 愛莉はカードに手をかける。

 トラウマを乗り切り彼女はカードを手にかけた。

 

 

 

 そう。

 デュエルをするために。

 

 

 

「本気の本気で行くよ!」

 

 




次の更新は4月17日(金)予定です。
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