1人のフラッグファイターがソレスタルビーイングのオペレーターと共に、ガンダムマイスターとなって戦い抜く   作:通りがかりのフラッグファイター

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出会い

グラハムside

 

ガンダムとつばぜり合いを行いながら、私はコックピットの中で1人感慨にうち震えていた。

 

「まさかな……よもや君に出会えようとは」

 

目の前にいる青いガンダム…彼とこうして再び相見えるとは思ってもいなかった。

 

「乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない……それとも、光の粒子を出していなかったから見つけられたのかな?」

 

前者だとしたら、これは劇的な再会であり、彼は私にとって運命の相手と言えるのだろうが……それは現実的ではない。ならば少々味気無いが…

 

「おそらくは後者だ!!」

 

そう判断し、スラスターの出力を上げて押しきろうとするが、ガンダムはフラッグの力をアッサリと上回り、大剣によって弾き飛ばされ、その時にプラズマソードを落としてしまう。

 

「圧倒された!?しかし…!!」

 

弾かれた事で左右に揺れる機体をすぐさま立て直し、大剣を振り上げながら目の前に迫るガンダムを見つめる。

 

私とて、誇り高きユニオンのフラッグファイター…簡単に落ちはしないさ。それに!!

 

「その大きな得物では当たらんよ!!」

 

私は左スラスターの出力を上げて、ガンダムの左側を通り抜け大剣を回避、その場で素早く反転する。

 

やはり簡単には勝てんか…ならば!!

 

「手土産に…」

 

再び最大出力でガンダムに迫り、その左肩を右手でがっしりと掴む。

 

「破片の1つも戴いていく!!」

 

そのままパーツをもぎ取ろうとしたが、ガンダムが勢いよく振り返る事でその手を振り払われてしまった。

 

「チィ…!!」

 

どうやら、彼の怒りを買ってしまったようだな…

 

迫るガンダムにリニアライフルを放つが全てを回避され、更に左腕の盾を捨てたガンダムは右肩後部にある白い棒状のパーツを抜き放つと、その先にピンク色の光柱が作り上げられる。

 

そして目の前にまで来たガンダムがそれを振るうと、ライフルの銃身を溶断されてしまう。

 

リニアライフルをアッサリと焼き斬った!?プラズマソードの出力ではそれは不可能…だとすれば、あの武器はまさか…ッ!!

 

「ビームサーベルだとぉッ!?」

 

3国家が実現に向けて開発している武装を、既に実戦に使えるまでにしているガンダムに驚いてしまった私は動きが止まり、振り下ろされる大剣への反応が遅れてしまった。

 

「しまッ!?」

 

このままでは倒される!!それなら、ウィングを犠牲にして海に不時着を……

 

そう考えていた瞬間、ガンダムの大剣に何かが当たって軌道が反れ、何とか無傷で距離を取る事ができた。

 

「間一髪だったか……しかし流石の射撃だ、リュウト!!」

 

安堵の息を吐きながら、私はガンダムの大剣を反らしたもの……飛行形態で迫るリュウトのフラッグにそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウトside

 

「中尉はやらせんッ!!」

 

中尉のフラッグに大剣を振り下ろそうとするガンダムに、私は援護するためリニアライフルを撃ち、大剣に命中させて軌道を変える事に成功した。

 

それによって出来た隙に、中尉のフラッグはガンダムから距離を取る事が出来た。

 

「今度は…俺が相手だッ!!」

 

中尉から伝授された空中変形…通称グラハム・スペシャルでモビルスーツ形態となり、右手にライフルを持ってガンダムへと攻撃を行う。しかし…

 

「くぅ…!!動きが読めん…!?」

 

とんでもない機動性で動き回り、悉くが避けられてしまう。そして大剣が折り畳まれた右腕の武器からピンクの光を連射してくる。

 

「うおッ!?」

 

1発目はギリギリ回避できたが、2発目と3発目は避けきれずディフェンスロッドで防ぐも、その攻撃でロッドが破壊されてしまった。

 

「この威力は…!!」

 

それでバランスを崩し、ガンダムが投げた武器に反応が遅れてしまい、直撃したライフルが爆散してしまう。

 

「武器を投げたッ!?」

 

『リュウトッ!!撤退するぞ!!』

 

「ッ!!了解!!」

 

そこで中尉の指示が聞こえ、機体を翻して中尉と共にガンダムから撤退した。幸い、追撃はなく無事に輸送艦に帰還できた。

 

「無事かい、2人とも!?」

 

「ああ、死神との面談は延期されたよ」

 

「さすがに川は見えそうでしたが…」

 

「それだけ冗談が言えるなら、大丈夫そうだね」

 

カタギリ技術顧問が心配そうな声に、自分と中尉は少しふざけて返事をし、それに呆れと安堵の混じったため息を吐かれた。

 

「取り敢えず2人とも、休憩所で休んでくるといいよ。キャプテンの許可もあるから」

 

「そうさせて貰おうか」

 

「助かります」

 

「僕もデータを吸い出したら、合流するよ」

 

技術顧問と別れ、中尉と休憩所でスポーツドリンクを飲みながら一息ついた。

 

(アレがガンダム……最新鋭であるフラッグですら、簡単にあしらわれてしまうとは…)

 

その圧倒的な性能によって負けた悔しさに、持っていたボトルを握りつぶしそうになる。

 

「さすがの性能だったな、ガンダムは…」

 

「ええ……フラッグがまるで赤子扱いですからね」

 

「フッ…ますますガンダムに惚れてしまったよ」

 

「ハハ…中尉らしい」

 

そんな中でも相変わらずな中尉の言葉に、思わず苦笑してしまう。そんな自分に、中尉は厳しさと頼もしさを合わせた視線を向けてくる。

 

「今は見向きもされないなら、これからされる様に努力するだけだ。そうだろ?」

 

「ッ!!……ええ、泣き言を言う暇があるなら、ガンダムに勝てるように鍛えるだけです」

 

それが中尉なりの叱咤激励だと理解し、私はこの悔しさをバネにガンダムを越えると胸の中で新たに決意した。

 

「その意気だ」

 

そんな私の胸中を察したのか、中尉は満足そうな顔でドリンクを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……2人揃って予測不能な事をするね?」

 

それからしばらく雑談していたグラハムとリュウトに、先程の戦闘データを回収したカタギリが合流して、解析を始めた。

 

「そのせいでライフルを失った……始末書ものだな」

 

「自分はロッドも失いましたから、減給もあり得そうです…」

 

先の戦闘での失態に罰則を覚悟していた2人だったが、それはカタギリによって否定された。

 

「それは心配いらないよ。今回の戦闘で得たガンダムのデータは、フラッグ1機を失ってもお釣りが来る程だよ。壊れたディフェンスロッドを調べればガンダムの武器の威力が解るし、接触時に付着した塗料なんかで居場所を追跡できるかも知れないしね」

 

「本当ですか!?」

 

「まだ可能性の話だよ」

 

それどころか、思った以上の戦果にリュウトが驚く中、グラハムがポツリと呟いた。

 

「それにしても若かったな、ガンダムのパイロットは…」

 

「え……話したのかい?」

 

もしパイロットと会話データがあれば、相手の性別や出身地、上手くいけば個人を特定する事まで可能になる。しかしグラハムは肩を竦めて首を左右に振った。

 

「まさか。モビルスーツの操縦に、感情が乗っていたのさ」

 

「それは残念…」

 

彼の言葉にカタギリはそう口にするも、それが解っていたのか表情は変わらなかった。

 

(あ、アレはやっぱり独り言だったんだ…)

 

そしてリュウトは彼の言葉を通信越しに聞いていたのだが、これ以上彼の変な印象を広めない為に口には出さず、苦笑するにとどめた。

 

『ガンダム、ロストしました』

 

「フラれたな…」

 

それから数時間後、MSWAD基地に帰投した3人は、出頭命令を受け上官のいる部屋に集まった。

 

「グラハム・エーカー中尉、リュウト・シドウ少尉、ビリー・カタギリ技術顧問。ただいま出頭しました!!」

 

「よく来てくれた。楽にしたまえ」

 

「ハッ!!」

 

目の前にいる上官に言われて敬礼を解き、そんな3人を上官の男は真面目な顔で見る。

 

「AEU新鋭機視察のはずが、とんでもないことになってしまったな?」

 

「あのような機体が存在しているとは、想像もしていませんでした」

 

「性能に関しても、我が軍のフラッグの遥か上です」

 

「研究する価値があると思いますが?」

 

グラハム達の言葉に上官は頷き、引き出しを開けて何かを取り出す。

 

「上もそう思っているようだ」

 

そして机に3枚の書類を広げた。それは【対ガンダム調査隊】という部隊への3人の転属に関するものだった。

 

「ガンダムを目撃した君達3人に、転属命令が下りた」

 

「対ガンダム調査隊…ですか?」

 

「新設の部隊だ。正式名は追って司令部が付けてくれるだろう」

 

その書類を確認していく中で、カタギリが技術主任に見知った名を見つけた。

 

「レイフ・エイフマン教授…技術主任を担当するんですか?」

 

その人は機械工学や材料工学になどの工業学に精通している権威であり、フラッグの開発主任でカタギリの恩師でもある人物だった。

 

「上はそれだけ事態を重く見ているということだ。早急に対応しろ」

 

「グラハム・エーカー中尉、リュウト・シドウ少尉、ビリー・カタギリ技術顧問、対ガンダム調査隊への転属、受領いたしました!!」

 

書類を受け取った3人は退室し、MSハンガーへと歩を進める。

 

「驚いたな…」

 

その途中、グラハムがポツリと呟く。

 

「ええ、ここまで事態がトントン拍子に進むなんて…」

 

「まさか君は、ここまで理解して?」

 

「私はそこまで万能ではないさ。因縁めいたものは感じているがね?」

 

「中尉にとっては因縁というより……運命だったのでは?」

 

「ハハハッ!!確かに、そっちの方が気持ちの高ぶりが違うな!!」

 

「やれやれ…」

 

他愛の無い会話をしつつ、リュウト達はMSハンガーに懸架されている自身のフラッグの前に立つ。その姿に頼もしさを感じつつも、2人は憂いを帯びた表情を浮かべる。

 

「しかし、戦ってみて解ったが……今のフラッグではガンダムには勝てない」

 

そう、先の戦闘で彼らは圧倒的な差をガンダムに見せつけられた。今のフラッグでは、相手にすらならないという事実を叩きつけられてしまったのだ。

 

「機体の受けた衝撃度から、ガンダムの出力はフラッグのザッと6倍……どんなモーターを積んでいるんだか」

 

「やはり……どこかの企業が極秘に援助を?」

 

リュウトの言葉にカタギリは首を左右に振る。

 

「いや、それはないよ。既に国内の企業においては政府が調べてる筈だからね」

 

「では、やはりガンダムはソレスタルビーイングの独自製造なのでしょうか?」

 

「そっちの方が可能性が高いと、僕は思ってる」

 

「それに出力もそうだが、あの機動性だ」

 

「ええ、従来のモビルスーツではあり得ない挙動です」

 

「戦闘データを調べたけど、あの機動性を実現させているのはおそらく…背中から発せられている特殊粒子だね」

 

「あの特殊粒子はステルス性だけでなく、機体制御にも使われている」

 

「おそらく、火器にも転用されておるじゃろうて」

 

3人がガンダムの性能について話していると、そこに1人の初老の男性が割って入ってくる。杖をつき、白髪の髪に顔にはシワがあるも、腰はまっすぐに伸びている。

 

「エイフマン教授!!」

 

その人を見たカタギリが、嬉しそうにその人の名を口にする。そう、この人物こそがユニオンが誇るモビルスーツ開発の権威であり、ガンダム調査隊の技術主任となるレイフ・エイフマン教授その人だった。

 

「イオリア・シュヘンベルク……恐ろしい男じゃ。儂らの何十年も先の技術を持っておる」

 

そう言って、教授もフラッグを見上げる。

 

「できることなら捕獲したいものじゃ、ガンダムという機体を」

 

その言葉にグラハムはニヤリと笑う。まさしく同士を得たりと。

 

「同感です。そのためにも、私とリュウトの機体をチューンしていただきたい」

 

「フム……君達パイロットへの負担は?」

 

「私のは無視していただいて結構。リュウトはどうする?」

 

グラハムの問いに、リュウトもやる気の満ちた笑みを浮かべ答える。

 

「もちろん無視してください!!」

 

「彼も問題ありません。ただし、期限は1週間でお願いしたい」

 

その無茶ぶりな注文にエイフマンは顔をしかめるどころか、むしろ開発者魂に火が付いた表情になる。

 

「ほお、無茶を言う男達じゃ。1週間で2機も改良しろと…」

 

「多少強引でなければ、ガンダムは口説けません」

 

「私も、ガンダムを越えられませんから」

 

(グラハム)はメロメロで、(リュウト)はメラメラなんですよ」

 

そんな2人の心境を、カタギリがらしい表現で表した。

 

「ハッハッハッ!!良いじゃろう。1週間でこの儂が、お前達のフラッグを最高の機体に仕上げてやろう」

 

「感謝します」「ありがとうございます!!」

 

エイフマン教授が快く引き受けてくれた時、グラハムの端末が着信を告げた。

 

「私だ。何?ガンダムが出た!?しかも1機はユニオン領内だと!?」

 

その内容は、ガンダムの襲来を告げるものであり、その内の1機はユニオンに現れたとの事だった。

 

「場所は…………タリビアか!!すぐにむか「出撃は許可出来ん!!」なッ!?」

 

グラハムはすぐにでも出撃しようとしたが、それはエイフマン教授によって防がれてしまった。

 

「何故です!?1機はタリビアだ!!ここからなら間に合う!!」

 

そう進言するグラハムだが、それでもエイフマン教授は首を縦には振らなかった。

 

「何か理由でも?」

 

「儂は【麻薬】という物が心底嫌いでな……消し去ってくれるというのなら、ガンダムを支持したい!!」

 

「麻薬…!?」

 

「そうか…確かあの地域には、大規模な麻薬の栽培施設があったはず!!」

 

「なるほど、ガンダムの狙いは其処か」

 

「奴等は紛争の原因を断ち切るつもりだ。それに、お前さんのフラッグは武装がない。そんな機体では死にに行くようなものだぞ?」

 

「……わかりました。今回は引き下がりましょう」

 

その理由に、さすがのグラハムもこれ以上進言することはなかった。

 

「ならばお前達は1週間、休暇でも取りなさい。どちらにしろ、改修が終わるまでは出撃できんのだからな。ガンダムと戦うために、英気を養ってくるといい」

 

「では、そうさせて頂こう。リュウトはどうする?」

 

「自分はいつも通りですね」

 

「そうか、なら早く行って顔を見せてやれ」

 

「ハッ!!では、お先に失礼します」

 

グラハム達に敬礼してから、リュウトは笑顔でMSハンガーから出ていった。

 

「なんだか彼、楽しそうだったね。家族にでも会いに行くのかな?」

 

「姪っ子だよ。姉夫婦の子供だそうだ」

 

「へぇ…それは楽しみにもなるね」

 

リュウトの様子に笑顔を浮かべるカタギリだったが、続くグラハムの言葉にその表情は驚きに固まる。

 

「ああ……銃乱射テロで亡くなった姉夫婦の忘れ形見で、唯一の家族だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウトside

 

「ふ~む…お土産は何にするかな?」

 

俺は1週間の休暇をもらったので、翌日に自宅のあるカルフォルニア州の繁華街に来ていた。ここで探しているのは仕事で中々会えない姪に買うお土産だ。

 

「今年で12歳だからな…あまり子供っぽい物だと嫌がられそうだ…しかし、大人すぎる物もな~…」

 

もう思春期といってもいい年齢で、大人ぶる事が多くなっていると預けている施設の担当者から聞かされているので、その品定めに苦労していた俺は、良い物が見つからず入っていた店から出た。

 

「はぁ~、女の子へのプレゼント選びは大変だ…」

 

そんな愚痴をこぼしながら、次の店を探そうとした時…

 

「ど、泥棒~ッ!!」

 

通りに女性の叫び声が響き渡り、声の方を向くと1人の男がこちらへ向かって走ってきていて、その腕には男に似つかわしくないピンクの財布が抱えられていた。

 

「誰かソイツ捕まえてッ!!ひったくりよ!!」

 

その声で男がひったくり犯と判断し、俺は男の前に立つ。

 

「邪魔だあッ!!」

 

男は走った勢いそのままに殴りかかってくるが、軍で鍛えた俺から見れば遅すぎる。ひらりと横に避けながら男の足を払い、前のめりに倒れる男の腕を掴んで背中に回しながら地面へと倒して押さえ込んだ。

 

「い、イダダダダダダダダダッ!?」

 

「大人しく盗んだ物を返せ」

 

「俺は何も盗んでなんか…「ほう?」ギャアアアアアアアアアアアアッ!?!?わかった!!返す!!返しますぅぅぅ!?」

 

しらを切る男の腕を更にキメると、観念したのか男は空いていた手を懐に入れ…

 

「こんのぉッ!!」

 

手にしたナイフを振るってくるが、そんなものはお見通しだ。それを押さえつけてるのとは反対の手で、手首を掴んで同じようにキメてやった。

 

「うぎゃああああああああああッ!?」

 

「やる事が古典的だ。その程度で、今時の軍人を騙せると思うな」

 

「ハァ…!!ハァ…!!やっと追い付いた…!!」

 

そのまま男を押さえ込んでいたら、財布をひったくられただろう女性が、息を切らせながら俺の傍にやって来た。

 

カーキ色のショートパンツに彩度の低いピンクの袖無しのシャツを着ていて、背中まで伸びた茶色の髪のどちらかといえば可愛い系の女性だ。

 

「あの…!!ありがとう…ございます…!!」

 

「気にしないでくれ。それより、腕は抑えておくから盗まれた物を」

 

「はい!!」

 

男を強引にエビぞりにさせて、女性は男の懐のポケットに手を入れてすぐ、先ほど見えた財布を取り出した。

 

「あった!!私のお財布!!」

 

「良かったな」

 

「はい!!」

 

その後、誰かが通報したのだろう駆けつけた警官に男を引き渡し、俺達も簡単な事情聴取を受けてから解放された。

 

「ふぅ、君も災難だったな」

 

「本当ですよ……でも、貴方のお陰で助かりました!!」

 

「いや、軍人としての勤めを果たしたまでさ……けど、被害届を出さなくて良かったのか?」

 

共に出てきた女性に俺は気になった事を聞いた。彼女は何故かひったくりの被害届を出さなかったからだ。

 

「私のは返ってきましたし…それにあの男、余罪がたっぷりあるそうですから、私1人分抜けても量刑に大差無いそうです」

 

「なるほど」

 

まあ…それで本人がいいというなら、俺がとやかく言う事もないか。

 

「さて、これからどうするか…」

 

時計を見れば既に11時半を過ぎていた。昼過ぎには姪を迎えに行く予定だから、早めに昼食にしてプレゼントを探さないと…

 

「あの…もし良かったら、一緒にランチしませんか?」

 

「ん?」

 

そう考えていたら、隣の女性から思わぬ誘いがあった。

 

「助けてくれた御礼もしたいですから」

 

「それは別に気にしなくても…」

 

「それだと私の気が収まらないんです!!」

 

最初は断ろうとしたが、彼女は引く気は無いらしくグイグイと攻めてきて、断れないと判断した俺は…

 

「……なら、受けさせてもらおうかな」

 

そう返事をした。

 

「やった♪」

 

それを聞いて笑顔になった彼女に、俺は一瞬見惚れてしまう。

 

イカンイカンッ!!俺は軍人だぞ!?外では節度ある対応をせねば…!!

 

「どうしました?」

 

そんな雑念を頭を振って振り払っていたら、彼女にキョトンとした表情で見られていた。

 

「うおッ!?いや、なんでも…」

 

「そうですか?なら、早く行きましょ♪」

 

どうやら彼女も気にしない様にしてくれたらしく、俺達はその場から歩き方出そうとして、あることを聞いていないのを思い出した。

 

「そういえばまだ聞いてなかったけど、君の名前は?」

 

「あ、そうだった!!」

 

どうやら彼女もそれを失念していたらしい。慌てた様子で俺の方を向き…

 

「では改めて…私は【クリスティナ・シエラ】です」

 

そう笑顔で自己紹介してくれた。

 

「俺はリュウト・シドウだ。よろしく」

 

「はい、よろしくです!!ところでリュウトさんって…」

 

互いに名乗った俺達は、そのまま通りを一緒に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが1度は敵対するも、その後は共に歩む事になる女性との出会いだった。

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