「…もう一回…言って」
紅魔館の一階にある廊下。窓が無いため少し薄暗い。昼寝のために自分の部屋に戻ろうと歩いていた私の目の前には、買い物籠を私に突きつけるように持った咲夜がいる。
「買い物に行ってきてほしいわ」
清々しいほど無表情で咲夜が言う。聞き間違いじゃなかったか……。
「…自分で…行けば…」
私は『めんどくさいから行きたくない』という気持ちを伝えるために先程より声を抑えて言う。出来る限りの抵抗だ。これ以上やるとナイフが飛んで来る可能性が出てくる。私は自分から危険に飛び込んだりはしない。
「エルお嬢様を看病させてもらうから無理よ」
時を止めて行けばいい、一瞬口から洩れそうになった言葉を飲み込む。黙って買い物籠を受け取り、中にあった買い物リストを見ながら玄関に向かう。
「それじゃあお願いね」
「…ああ」
咲夜と別れた後、玄関で靴を履き、外に出る。門を出ると、壁に寄りかかって見事な鼻提灯を作り出している美鈴を発見する。
「…行ってくる」
「あたっ!?」
買い物籠で頬を叩きながら言い、人里に向かう。
まったく、何で私がおつかいをしなければいけないのか。いくら考えても納得がいかない。言わせてもらうが昼寝をしようとしていたとはいえ、別に仕事をしていなかったわけではない。私の仕事は紅魔館の正門以外の警備、およびそこの侵入者の撃退だ。能力で紅魔館の外に配備している分身を監視カメラにし、侵入者が来た場合にはそれを私が撃退する、といった感じだ。だから別にサボっていたわけではない。
そもそもこんな事になったのもあの馬鹿が風邪をひいたからだ。余裕そうなバカ面で咲夜と異変解決に向かった癖に、帰ってきたらあのザマ寒いなら防寒着でも着ていけ。あの馬鹿は私をペット扱いしてるが、ペットに迷惑をかける飼い主なんていない。もしいたとしても、そんな飼い主ペットはまっぴらごめんだ。まあ何にせよ、あいつのせいでこんな事になったんだ、私はあいつを許すわけにはいかない。…いや、『馬鹿は風邪引かない』という迷信が嘘だと体を張って証明したし、今回は許してあげようか。
そんな事を考えているうちに人里に着く。
「あ、エルちゃんのペットちゃんだ!」
「あぁっ! ……」
一瞬キレそうになったが、ギリギリの所で押さえる。
「ホントだ!」
「ペットちゃーん!」
私を見つけた子供たちが寄ってくる。この子達はあの馬鹿が人里に遊びに行ったときにいつも遊んでいる。というか、この子達は何時まで私の事をペットちゃんと言い続ける気だ。ちくしょう、あの馬鹿め。最初にあんたが私の事を「こいつは私のペットなんだ」なんて言いやがったせいで、すっかり私の名前がペットちゃんになっちまったよ!
「…やあ」
にっこりと、私の中では最高の笑顔(ほぼ無表情)を浮かべて相手をする。
「あれ? エルちゃんは?」
一人の男子が不思議そうな顔をして言う。私がここに来るときは必ず馬鹿がいたからだ。というか、馬鹿が私を無理やり連れてくるのだが。
「御主人は…風邪…私は…おつかい」
「ペットちゃんすごーい!」
おつかい程度ですごいか…。この子達もまだまだ子供という事か。…ちょっと気になったので質問してみるか。
「おつかい…した事…ある?」
「うん! あるよ!」
「私もある!」
全員がお使いの経験があることが分かった。…これは。
今まで私がペットだから、おつかい出来ないと思われてたんじゃねぇかああああああああああっ!!! どういう事だっ! 私この子達から無自覚の馬鹿認定受けてるのかっ! 今までずっと、私はおつかいすらできない能無しだと思われてたのかっ! これでも元々私は、この幻想郷の大自然で自給自足の生活を送ってたんだよっ! おつかいどころか全部自分でやったよ! これもあの馬鹿が私をペットって紹介したからだ!ちくしょうあの馬鹿! 帰ったらぼっこぼこにしてやる!
「どうしたのペットちゃん?」
女の子に言われて我に返る。
「…何でも…ない」
「あ、おつかい中だったんだよね、ごめんねペットちゃん」
何だろうか、物凄く視線が暖かい…。『初めてのおつかい頑張って』って気持ちが物凄い伝わってくる気がする。いや、確かにおつかいは初めてだけど…。
『じゃあね!』
子供達が向こうに走っていく。
「…じゃあ」
私も店に行こうとする。
「あ、ムカデさん」
「…ん?」
後ろから名前を呼ばれたので、振り向く。
「…阿求か」
この人里の中でもかなり大きな屋敷に住んでいる人間。短命な代わりに、記憶を引き継いで転生する事が出来るらしい。何でも幻想郷縁起とかいう、幻想郷の観光案内と妖怪図鑑が合わさったような本を書いているらしい。まあ結構忙しそうな人間だ。
「…どうした?」
「この前の約束、覚えてないんですか?」
約束………!! ああ、そうそう、次会ったときに、私を幻想郷縁起に書く為にいろいろ聞きたいとか言ってたっけ。……まあ、咲夜へのわずかな反抗としてやっていくか。
「…覚えている」
「今からいいですか?」
「…ああ」
「それじゃあ家に行きましょう。お茶やお菓子もありますし」
これは思いがけない得だ。咲夜への反抗と一緒に、お茶やお菓子でゆっくりできる。
「…分かった」
私と阿求は、阿求の屋敷に向かって歩き出す。
「ねえ…阿求」
「何でしょう?」
「他人の…自分への…評価って…結構気になる…よね」
「へ?」
次回「番外編2」
次回もサービスサービスゥ!
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