「どうぞ、上がってください」
阿求が家の扉を開ける。しかし相変わらず大きい屋敷だ。中に入るのは初めてだが、中も凄まじく綺麗で、高そうな壺や花瓶などがある。恐らく値段を聞いたら驚きのあまり目が飛び出すだろう。もし割ったら物理的に目が飛び出しそうだ。……それだけは注意しなければ。
「…お邪魔します」
家の中に入り、阿求の案内で書斎に入る。ここもとても綺麗で、高そうな壺や花瓶がいくつか置いてある。
「くつろいでいてください。お茶を持ってくるので」
阿求が書斎を出て行く。
「それじゃあ…お言葉に…甘えて」
思いっ切り足を延ばして座る。今のうちに壺や花瓶を鑑賞しておこうか。壺や花瓶に近づき、舐めまわすように観賞する。デザインがいいな。あまり飾らない感じと言えばいいんだろうか。シンプルなところがいい。紅魔館のは、意味不明かつ気色悪いデザインだから困る。あんな物のどこがいいのか、私には分からない。まあ所詮、外国と日本の美的センスは違うという事だろう。
「お待たせしました」
阿求がお茶とお菓子を持って来た。どれも美味しそうだ。………。
「…ん?」
そういえばこのお菓子、あの馬鹿が好きなやつだ。確か昨日全部食べて、明日買ってくるとか言ってたな。勿論今日風邪を引いたから買えないが。あいつがこれを食べれないときに、私が食べるのか。まあ精々あの馬鹿の分まで味わって食べて、その事を帰ったら話してやるとするか。どんな顔をして聞くだろうか? あいつは姉達とは比べにならないくらい子供っぽい。きっととても悔しそうな顔で聞いてくれるだろう。そう考えると中々いい気分だ。
「…いただきます」
お菓子を口に入れる。見かけ倒しじゃなく、やっぱり美味しい。さらにあの馬鹿の悔しそうな顔を想像しながら見ると、なお美味しい。
「それでは質問させてもらいますね」
筆を持った阿求が楽しそうな顔で言う。私の事を書くのがそんなに楽しいのか? あまり面白い話は無いのだが…。
「なんで…楽しそう…なんだ?」
「新しい事を幻想郷縁起に書けるからですよ。こう何代も続けていると、新しい事を書くのが楽しくなるんですよ」
「…ふーん」
まあ何事も継続する事が大事ってわけだろう。生憎私は何かを継続してやる事なんてできないし、したくもないが。
「…どうぞ」
「はい、では趣味は?」
…いきなり際どい質問が来たな。趣味ってあんた、それ性格とか人間性とか性癖とかをよく表してますやん。プライベートですやん。
「そんな事…載せるの…か?」
「場合によっては」
まあ別に隠すような事でもないし。
「観察…」
「観察ですか。一体何を?」
むう、言うまでは思わなかったが、こう自分の趣味を他人に話すのは結構いいな。特に今のように相手が興味を持っているときは。
「人間…妖怪…妖精…その他多数」
「…へ?」
阿求が驚いて固まる。はて…、私は何か変な発言をしてしまったのだろうか?
「…どうした」
「ひ、人を観察してどうするんですかっ!」
阿求が顔を赤くして叫ぶ。むむ、純粋だな。
「いや…特に…見るだけ」
「…へ?」
また阿求が固まる。が、すぐに動き出す。どうやら私に対する耐性が付いたようだ。よかったよかった。
「い、いや、人の事を観察しといて何もしないんですか?」
「ああ…しない」
私はあくまでも他人の行動を観察するだけだ。別に観察して分かった事を馬鹿にしたり、話のネタにするような事はしない。そうする理由も特にないが、それが私のルール。
「それにしてもまさかそんな事だったとは…。今まで誰を観察したんですか?」
阿求、驚いたりしてた割にグイグイ聞いてくるな…。これも何代にも渡って質問をしてきた結果か。やっぱり何事も継続が大事って事だ。
「紅魔館の奴ら、周辺にいた妖怪や妖精なんかもやったな」
「成程…」
何が成程なのか私にはさっぱりなんだが…。
少女質問中
「これで終わりです。協力ありがとうございました」
「…ああ」
私は立ち上がり、玄関に向かっていく。
「あ、エルさんのためにあれを持って行ったらどうですか?」
あれ、とは恐らくあのお菓子の事だろう。勿論断る。あの馬鹿の悔しい顔を見るのだからな。
「いやいい」
「そうですか…」
靴を履き玄関の扉に手を掛ける。
「…じゃあ」
「はい、それではまた今度」
扉を開け一歩踏み出そうとする。しかし目の前の地面にいたとある物体に目がいく。ひょろ長い貧弱そうな体。四足で這いつくばるように歩く気味の悪い移動方法。低脳そうなアホ面。それがなんであるか理解していくと同時に、全身から汗が出てくる。
「と」
「と?」
後ろにいる阿求が不思議そうに声をあげる。
「トカゲ!」
私の嫌いな生物、トカゲだ。
「わわわわわわっ!?」
私は急いで阿求の後ろに隠れ、肩越しにトカゲの様子を見る。一向にそこを退こうとしな。私よりずっと低能な爬虫類の癖に…。
「阿求…追い払って」
「へ? あのトカゲをですか?」
「…うん」
「分かりました」
阿求がトカゲに近づくと、トカゲは逃げるように去っていく。ザマア見やがれ! てめえは森で一生餌探してな! 心の中で出来る限り馬鹿にする。
「それにしてもムカデさん、トカゲが苦手だったんですね」
「苦手…じゃない…嫌いな…だけ!」
「そ、そうですか。じゃあ何で嫌いなんですか?」
やはり聞いてくる阿求。
「食べる…だよ…百足を」
「ああ、そういえトカゲは百足を餌にしますね。という事はカエルやモグラなんかも嫌いなんですか?」
「…うん」
阿求の言う通りだ。私はカエルやモグラも嫌いだ。勿論百足を食べるからだ。
「危な…かった…妖怪に…なってて…良かった」
もっとも、普通の百足としての人生を送っていたらもう私はいないのだが。
「…ムカデさんってもしかして」
「…何だ?」
「エルさんの事、結構恩義を感じてるんじゃないですか?」
「そんなわけ…ないだろ!?」
私があいつを尊敬してるだと? ありえない! 寝ていた私を勝手に連れて行き、揚句自分のペットにするような、自分勝手で意地汚く、馬鹿丸出しなあいつに恩義? バカバカしい。この世のどんなジョークより面白味が無い。
「だってムカデさん、妖怪になってて良かったって言ってましたし」
「………」
妖怪になってて良かった。当たり前だろう。寿命が増え、体が丈夫になり、天敵に食われることも無くなり、死に対する恐怖が無くなった。体力が増し、知能が増し、人間の体になってからは器用になった。だから妖怪になれてよかったと心底思っている。………あれ? 私を妖怪にしたのは…。
「………」
「ムカデさん?」
「…阿求」
「何でしょう?」
買ってきたものを咲夜に渡し、あの馬鹿の部屋に入る。どうやら寝ているようだ。私はベットに近づき、馬鹿の寝顔を見てみる。
「スゥ…スゥ…」
馬鹿面なのには変わりはないが、なんだか少しだけかわいく見えた。
起きる前に用を済ませるか。私はベットの近くの机の上に皿を置き、その上に阿求から貰ったお菓子を置く。置き終わったら静かに部屋を出る。
「…早く…元気になれよ…ご主人」
寝るために自室に戻ろうと歩き出す。この馬鹿のペットでいるのも悪くないかもしれない。少しだけそう思った。
「頑張って早く元気になりますかね」
皿の上に丁寧に並べられたお菓子を一つ取り、口に入れる。
「…いつもより美味しい気がするなぁ」
次回「番外編3」
次回も、サービスサービスゥ!