三人称にしました。要望があれば一人称に戻します。
博麗神社の屋根裏。そこで、つまみ食いをしようとする三つの人影が動き回っていた。
「チルノ、大ちゃん、準備OK?」
「OK」
「は、はい、大丈夫です」
先頭にいるエル・スカーレットが振り向き、確認をすると、後にピッタリとくっ付いているチルノが元気よく答え、二人とは若干距離を開けている大ちゃんこと大妖精が、不安そうに答える。大妖精はこのつまみ食いには反対だったのだが、その意見は、万能の多数決によって消えてしまった。
つまみ食いの提案をしてから、屋根裏に行くまでのわずかな間で、エルとチルノはかなり仲良くなっていた。おそらく、お互いの性格がガッチリと音がなりそうなほど上手く合わさったのだろう。
「でも、どうやってつまみ食いするの?」
「まずはこうやってと」
エルは掌から光の槍を出すと、それを使って天井に小さな穴を開ける。さらに腕を伸ばし、別の場所にも穴を開ける。チルノが、最初にあけた穴を覗く。
「この下に霊夢がいるよ」
「おお! そりゃラッキー。探す手間が省けたよ」
エルが穴を覗くと、料理を作っている霊夢が見えた。どうやら丁度、台所の真上にあける事が出来たらしい。
「でもエルさん、いなくなっても霊夢さんにバレないんですか?」
「大丈夫、いなくなっていないから」
「え?」
大妖精が穴を覗くと、もう一人のエル・スカーレットが、霊夢の元にやってきた。
「エル、次はこれ運んで」
「アイアイサー!」
エルは霊夢から料理を渡されると、すぐさま外に飛び出していった。今回の宴会は、神社の中と外、両方使う大規模なものだ。しかしそれは、参加人数の問題だけではない。いや、むしろそれはおまけに近い。大規模になった本当の理由は、作る料理の多さである。そうなる事になった犯人は二人、名前は言うまでもないだろう。
「エルさん急に真面目になりましたね」
「ええ、最初からそうしていてくれると嬉しいんだけれどね」
「どういう事?」
「詳しくは企業秘密って事でよろしく。後はこれだ」
「うわ!?」
「なんですか、それ…」
エルの腕には、数匹の蜘蛛がくっ付いていた。どうやら屋根裏に巣を張っていたのを捕まえたらしい。だが、チルノ達が驚いたのは蜘蛛ではなく、エルの手に付着している青い物体だ。驚いたチルノだが、好奇心からか、その液体を触ろうと手を伸ばす。しかし、エルがその手を掴んで止める。
「なんで止めるの!」
「今はそんな事してる場合じゃないでしょ。大丈夫、後でいくらでも触らせてあげるから」
その手で蜘蛛を捕まえると、青い液体が蜘蛛の中に入っていく。入り終わったところで、蜘蛛を穴から下に落としていく。
穴から落ちた蜘蛛は、無事に着地に成功した。その場所は。
「………」
霊夢が妖夢から遠ざかるために、後ずさる。
「霊夢さん?」
「妖夢、悪いけど私に近づかないで」
「へ? どうして……」
「……肩」
「肩………」
霊夢がこわばった顔で妖夢の肩を指すと、妖夢がゆっくりと自分の方を見る。そこにいたのは数匹の蜘蛛。それが、がっしりと妖夢の服につかまっている。そう、蜘蛛が着地した場所は、妖夢の肩の上だった。それは、エルの狙い通りでもある。
「れ、霊夢さん! と、取ってください!」
「え!? こ、こっち来ないで!」
「ちょ!? 霊夢さーん! 行かないで下さいよおおお!」
逃げる霊夢と、それを追いかける妖夢。台所には誰もいなくなった。それを見計らって、天井板の一部が取り外され、にやにやと笑うエルの顔が出てくる。
「博麗の巫女も冥界の庭師も、やっぱり女の子って事かね」
「大丈夫なの? すぐに取りそうな気がするけど」
「大丈夫大丈夫、さっきのアレで蜘蛛は私の言う事を聞くようになっているから。剥がされてもまた引っ付きに行くよ」
先程の液体は、『浸食』に使う物だ。あの液体が付着した生物は浸食され、エルによって操られる事になる。中に入れる必要は無かったのだが、霊夢にバレないようにするため、あえてそうしたようだ。
「まあ、あくまでも蜘蛛だからね。あんまり期待はできないし、さっさとつまむ物持っていこうか」
エル達はバレないように、色々な料理を少しずつ取っていき、使われていない皿にのせていく。
「あれ、大ちゃんは取らなくていいの?」
「はい、私はいいです」
エル達は一通り取り終わった後、天井裏に戻っていく。
博麗神社の屋根の上。そこで、妖精と吸血鬼が、他よりも早く宴会の料理を食べていた。
「美味し~!」
「やっぱりつまみ食いはいいよね~。料理のおいしさ+成功による達成感だからね。ほら、大ちゃんも食べなよ」
「いえ、私はいいです」
「別に遠慮しなくてもいいのに……」
再び料理を口に入れようとしたエルだが、目の前に何かが落ちてきたため、いったん中断する事になった。何かを拾い上げる。
「……蜘蛛…」
すると、エルの頭に誰かの手が置かれる。当の本人からはダラダラと冷や汗が流れる。
「つまみ食いにはもう一つ楽しみがあるわよ」
「バレた時の緊張感。これを忘れてはいけませんね」
「……そ、それはずっと忘れていたいな~」
エルはゆっくりと後ろを向いた。彼女の中にあるのは、緊張感ではなく、絶望感であった。