東方紅三女   作:パンプキン大佐

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ついにこの時が来てしまった……。幻想郷の食糧事情に大きな打撃を与える……事はない。


ライバル現る

霊夢と妖夢に頭を思い切り叩かれ、真面目に手伝いをして数時間後、待ちに待った宴会が始まろうとしていた。私は、咲夜から今回のために作ってもらった、新しいワンピースを着ている。変更点は二つ、まず、肩にからも袖が伸びているところ。これは肩から生やす腕のためのものだ。もう一つは、袖の先がやや大きめに作られているところ。これは、宴会のための秘密兵器を収容するためである。

 

「乾杯!!」

 

「「「「かんぱーーーーい!」」」」

 

霊夢の挨拶が終わったようだ。勿論、私はそれと同時に最高時速で料理をいくつもかすめ取っていく。自分で勿論と言ってしまうのがなんとも……。まあ、事実だから仕方がないか。私の三本の腕にある皿には、すでにいくつもの料理が乗っている。あと一つ、天ぷらを取ったら、ひとまず食べる事にしよう。もう一本の手で持っている箸を、目の前にある天ぷら、その一番大きい奴に突っ込む。天ぷらを箸と箸で挟みこみ、潰さないように丁度な手加減で、なおかつ、他人に取られる事の無い速さで掴む。

 

「取った!!」

 

箸が完全に天ぷらを取る、つまり、天ぷらを私が口にする権利を貰う、その直前。

 

「!?」

 

視界から天ぷらが消えた。一瞬、目の錯覚ではないかと思ったが、箸同士がぶつかる空しい音が現実であると教えてくる。一体誰がやった? 私が宴会に参加したのは二回だけだ。しかし、それでも料理を取るのは、自分で言うのも何だが、幻想郷最速ではないかと思う。『吸血鬼の身体能力と。特殊な羽による圧倒的な運動性』『使徒の力による伸縮自在の四本の腕』『「準備を手伝い料理の配置を覚える」という珍作戦を考えた脳みそ』『食べ物への愛』それらがそなわっていたからだ。そして、その私から天ぷらを取ったという事は、そいつはつまり……『好敵手(ライバル)であり、天敵』。

 

ただ、私は特にその存在に驚く事はない。なぜなら、宴会が始まる数時間前から、既にその存在を懸念していたからだ。ゆっくりと視線を上げる。水色を主体とした着物、周りには白い物体が浮いている。……やはり奴だ。

 

「西行寺幽々子」

 

「どうしたのかしら? そんな顔をして」

 

分かっているのか、それとも気づいていないのか。まあ、そんな事はどうでもいい。大事なのは、私の獲物(りょうり)を奪った事実のみだ。私は幽々子の前に座り、皿に乗せていた料理を食べていく。……いつもよりまずい気がするが、錯覚ではないだろう。

 

「失礼しちゃうなぁ、私はいつもこんな顔だって。」

 

「あら、ごめんなさい」

 

幽々子は、側にあった鱒の塩焼き(一番大きいもの)に、箸を伸ばす。……しかし、掴めなかったようだ。それもそのはず、既に私の箸が取っている。塩焼きを、いつもよりゆっくりと味わって、見せつけながら食べる。いつもより美味しい気がするが、錯覚ではないだろう。そしてこれは、「次にお前の取る料理も取ってやる」という、いわば宣戦布告でもある。

 

「美味しいね、これ」

 

「……そうね」

 

「ところで幽々子、そこにある焼きシイタケ(魔理沙提供。以下シイタケ)、美味しそうじゃない?」

 

「ええ……」

 

箸の照準をシイタケに合わせ、相手の顔を見る。その行動は奇しくも、幽々子も取っていた。好敵手や天敵は負けたり、怯えるためにあるんじゃない。超えるためにあるのだ。

 

「美味しそうね」

 

幽々子のその言葉が、いわば戦いの始まりを告げるゴングとなった。同時に箸を伸ばす。予想通りというべきか、私の方が速い。このままいけば私の圧勝だ。戦った事はないが、幽々子は強いと確信している。紫の友人なのだから。弾幕ごっこをやったら、十回に九回は負けるだろう。だが、それは弾幕ごっこという遠・中距離戦を主体とした戦いでの話。この超近距離で、動かない料理に直線的に箸を伸ばす食事では、身体能力の差が物を言うのだ。結果、私の方が有利。

 

箸が料理を掴んだ。今度は確かな手応えがある。私の勝利だ。そう、超える事が出来たのだ。戦利品をじっくりと観賞するため、視線を幽々子の手から料理に移す……。

 

「亡霊!?」

 

私の箸が掴んでいたのは、料理ではない。いくつもの幽霊が身を寄せ合って、壁のようになっているうちの、一つを掴んでしまったのだ。さらにこの幽霊、箸を放そうとはしない。しまった、奴は霊界の管理者、言い換えれば幽霊の管理者。使役するくらいの事は可能だったか。……やってくれるね。

 

「ふふふ、あなたは幽霊が好きなのかしら?」

 

……食べてみる価値はあるかも。

 

幽々子は勝利を確信したのか、さっきとは打って変わって、にんまりとした笑みを浮かべ、箸を伸ばす速度も若干遅くなっている。しかし、それは紛れもない油断なのだ。勿論私は、それを見逃さない。幽々子が個々の数で勝るのならば、私にも勝る数があるのだ。私の肩は、ブルっと震えた。

 

「!!」

 

幽々子が箸でシイタケを掴んだのと同時に、私は一本の箸をそれに突き刺さした。箸を持っていたのは、右肩から伸びた手。袖のふくらみに収容した宴会のための秘密兵器。その正体は予備の箸である。ちなみに、特別なことは何もない箸だ。数秒の沈黙の後、互いに箸をシイタケから放す。引き分けって事だね。

 

「仕切り直しね」

 

「そうだねぇ」

 

さっきと同じように、互いに顔を見合わす。考えてみれば、私達のやっている事は、周りにはどう思われているのだろう。……十中八九変人扱いだろうなぁ。しかし、そんな事でやめるわけにはいかない。私の中での優先順位は、周りの評判<目の前に食事だ。

 

「いただきまーす!!」

 

今回は私の言葉がゴングとなった。私は視線を下げる。そこに見えたのは、美味しそうなシイタケではなく亡霊の集団だ。だが、これは予想の範囲内だ。私の右手を除く三本の手に握られた箸が、亡霊を突き飛ばし、道を開く。右腕は、その道を通ってシイタケに箸を伸ばす。幽々子の箸も迫っている。ゴールに着くのは……。

 

「「!!」」

 

同時だ。さらに、お互いの箸がぶつかり合い、軌道が逸れ、皿に当たる。シイタケは反動で上に飛ばされる。距離は幽々子が近い。だが、私には速さがある。

 

「この食事(しょうぶ)、私の勝ちだ!!」

 

確信した勝利をのせて伸ばした右手は、突然消えた目標に戸惑い、動きを止めた。……は? どこに消えたんだ。確かにさっきまでそこにあったはずなのに……。幽々子も、私と同じような顔をしている。お互いのきょとんとした顔を見合って数秒。

 

「美味しい~」

 

私の左(幽々子からしたら右)から、今の状況を打開する重要なキーワードが聞こえてきた。チラリと声がした方を向くと、私と同じく少女の姿をした妖怪が、美味しそうにシイタケをくわえていた。

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