妖夢の立場を少々変更しております。
「……疲れた~」
幽々子との
皿に積んだ料理を頬張る。霊夢の味付けは相変わらず絶妙だ。うちの咲夜にも負けていないな。やはり一人暮らしをしているからか。という事は、咲夜も一人暮らしさせれば調理の腕がさらに上がる……やめておこう。生活が不便になりそうだ。
「私も~」
独り言のつもりだったのだが、幽々子から返事が返ってきた。決闘して友情が芽生えた……かどうかは分からないが、私の隣で皿に積んだ料理を頬張っている。私と同じく被害者のはずなのだが、そこに落胆の様子はない。私と違って熱くなっていなかったのだろう。
「……あの乱入者さえ来なければ、私の勝ちだったのに」
「あら? どっちにしても私の勝ちだったわ」
悔し紛れの一言だったが、即座に否定された。勝敗は意外と気にしていたようだ。その言葉の真偽は分からないが、取り敢えず私の中ではハッタリだという事にしておく。流石にそこまでネガティブになってはいない。
「ところで一つ聞きたいんだけど、あの桜黙らしたのにまだ寒いのは何故?」
「ええ、春はまだここに戻ってきていないからね。例年通りになるにはまだ時間が掛かるわ」
「え、それホント?」
「本当よ」
「うへぇ、勘弁してよぉ」
人里への菓子の補充がかなり面倒になる。仕方ないが、戻るまでは控えておこう。幸い、蓄えはまだある。あの桜め、咲夜を泣かして精神的に、寒さで肉体的に苦しめてくるとは……。薪にして人里で売りさばいてやろうか。幽々子の言葉通りまだ時間が掛かるのなら、かなりの売り上げが期待できる……燃やしたら魂が抜けそうだな、やめておこう。
「根本的な解決にはならないけれど、お酒を飲めば今のうちは暖かくなるんじゃないかしら?」
幽々子はお猪口に酒を注ぐと、私の前に差し出してきた。酒はキラキラと光って私を誘惑してくる。だが、飲むわけにはいかない。
「そうかもしれないけれど、生憎酒は禁止されててねぇ」
お猪口を幽々子の前に置く。酔った勢いで問題を起こしてから、博麗神社での飲酒は禁止されている。それを破ろうものなら問答無用で霊夢による鉄拳制裁が行われてしまうの。酒がないと生きられないわけではないので大人しく従っている。皆が楽しく飲んでいるのを見ると言いようのない悲しい気持ちになる事があるが、頭にデカいたんこぶを作り上げられるよりはマシだ。
「それは気の毒ね」
幽々子は一気に飲み干すと、また注ぎ始めた。うぅ、満足そうな顔が羨ましい。
「気の毒に思うんだったらそんな顔しないでよ」
「無理ね、だって美味しいもの」
そう言って顔をほころばせ、酒を飲んでいる。おのれ、明らかに私の反応を見て楽しんでいるな。
「うー、目の毒とはまさにこれだ」
両手で目を隠す。この状態でも食事に支障をきたさないのは良い事だ。
「その腕いいわね」
「ほほう! これの魅力に気付くとは、いいセンスしてるね。見た目はかなり気持ち悪いけど、実用的なだよ。さっき見せたけれど、伸ばす事だってできる」
「まあ素敵、一本貰ってもいいかしら」
「今回は特別に……いや、無理だから」
通販番組のような会話の流れから、危うく同意しかけてしまった。吸血鬼なので再生するとは思うけれども。……何となくだが、幽々子の場合は食事以外では使わなそうだ。
「うまいね、霊夢の料理は」
「そうね~、妖夢達といい勝負してるわ」
「……わーお」
「?」
私と同じような事を考えていた。お互い食事に人一倍幸福を感じているからか、その辺りの思考回路は酷似しているようだ。初めてであった
手伝い中に本人から聞いた話だと、剣術指南役兼庭師だが、(食事の時間に間に合わなくなるため)食事係の幽霊を時々手伝っているらしい。それはもはや家政婦じゃないだろうかと思う。だが、色々とやれるのは良い事だ。器用貧乏という四字熟語があるが、私はそうは思わない。中途半端だろうが何だろうが、全くできないというよりは全然マシだろう。それにしても美味しいのか。なら食べてみたい。
「あなたの所の料理は美味しいのかしら?」
「そりゃあ勿論。ここにも負けてないよ」
「なら、一度食べてみたいわね」
「……わーお」
「?」
またしても同じような事を考えていたようだ。
「いや、妖夢の料理を食べたいな~と思っていたところでその発言だったからね」
「あら、不思議ね」
こんな不思議は私達二人の間でしか起こらないと思う。
私が妖夢の料理を食べたいように、幽々子も咲夜の料理が食べたいのか。話によれば二人とも料理の腕は拮抗しているようだし、これを使って何か暇潰しができないだろうか。……いっそ霊夢も入れて料理対決でもさせてみようか。互角ならば面白い勝負になりそうだ。
「また今度、霊夢とうちの咲夜も入れて三人で料理対決させてみよう。勿論、私達が審査員で。暇潰しには最適だと思うよ」
「……その企画、乗ったわ」
「そう言ってくれると思ってたよ!」
力強く親指を立てる。暇潰しができ、美味しい料理も食べる事が出来る。私にとっては最高の企画だ。
「私も入れてほしいのだ~」
「あれ? 私達以外に参加しようとする人がいたの……」
……私の後ろにいたのは妖怪の少女だった。私以上に幼い見た目。赤いリボンが特徴の金髪。闇のように深い黒のワンピース。そして口の周りには何かの食べカスが付いている。そして、私はこいつを知っている。私と幽々子の
「フフフ、ここであったが百年「いいわよ」!?」
「わーい!」
拳を作り言った因縁の相手へのお決まりのセリフは、幽々子の承諾の声によって遮られた。
「ゆ、幽々子ぉ」
「あら、嫌だったかしら?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
こいつに行おうとしていた事は物理的な方であり、いじめなどの陰湿な事ではない。そのため、参加させる事自体には全く異議はない。
私が幽々子を責めた理由は、今から仕切り直す事が出来なくなってしまったからだ。隣にいる妖怪少女(私もそうだが)は……。
「どんな料理がでるのかな。ねえねえ、どんな料理がでるの?」
「私にもまだ分からないわ。だからこそ当日が楽しみね」
「そうなのかー。ムフフフフ、楽しみ~」
……私にはできない。こんな楽しそうな顔をしている子供を殴る事はできない。先程作りあげた拳と再燃した怒りは、活躍の場を与えられないまま消えてしまった。