フォルマル伯爵家の屋敷へと到着したボーゼス一行。彼女らを出迎えたのは、ピニャであった。
「殿下!」
「よく来たな、ボーゼス」
ボーゼスの声は、ピニャが無事である喜びと、説明を求めるようなヒステリックな物であった。
「殿下! あの巨人は何ですか! それに街中を歩く者たちは……!」
「落ち着けボーゼス、聞いてくるだろうと思っていたさ。詳しくは茶でも飲みながら話すとしよう」
伯爵家に仕える近くのメイドに目配せをすると、メイドは一礼をしてお茶を淹れに行った。
そして応接室にて、ピニャは“巨人の兵士たち”について説明した。
「では、あの者たちが盗賊を?」
「そうだ。数が少ないにも関わらず勝利してみせた。イタリカの住人たちは彼らを信用している」
「ですが、未だに信じられません。巨人を従えるなど……」
「貴様は、私が嘘をついていると?」
「い、いえ! そんな事は!」
ピニャはお茶を飲み干し、カップを置く。
「ボーゼス。あの者たちは、アルヌスからやって来たと言う」
「っ! ならば彼等は敵ではないですか!」
「そうだ。だが私は思うのだ。帝国は何を相手にしているのだろうか? 幾度の戦いに帝国は敗れ、諸王国連合も敗れた。
ボーゼス。父は、皇帝は未だに“巨人の兵士たち”を、少し手強い程度の蛮族としか見ていない。だが私には、彼らが神の軍勢に見えるのだ。
人間が神に勝てるか? このまま神の軍勢へ戦いを挑めば、人を無駄に死なせてしまう。それはやがて、帝国を衰退へと導くだろう」
(殿下……殿下は何を見たのですか? あそこまで恐れるなんて……)
いつもは気高くあったピニャが、まるで幼子のように怯えているように見える。そこまで怯えさせてしまう“巨人の兵士たち”とは一体何者なのか? ボーゼスは気になった。
2杯目のお茶を飲み、目を瞑って一息吐く。再び開けたその目は、決意を固めた目だった。
「……私は決めたぞ、ボーゼス。私は皇族だ。例え父のように巨大な権力は無くとも、出来る限り帝国の運命を救いたい」
「ま、まさか、殿下……」
「うむ。アルヌスへ向かう」
これが、後に歴史書にその名を刻む、ピニャ・コ・ラーダの活動の始まりであった。
薔薇騎士団が到着したとの報告を受けて、第3調査班たちは全員が撤退する事となった。レレイによると、本来の目的であった翼竜の鱗の売却も終えたという。これ以上留まる理由は無いため、アルヌス駐屯地へ帰投することになったのだが……。
「どうするんですか、まさか帝国の皇女がアルヌスへ向かいたいなんて……」
「こちら側の情報が向こうに流れたら、何をされるか分かりませんよ」
「司令には報告して、今は指示待ちだが……」
ピニャ達の傍でエミリー、アルバート、バイスの3人が待機していた。と言うのも、帰投するかと隊員たちで話し合っていたタイミングで、ピニャが「あなた方の最高責任者と会談をしたい」と求められたのだ。もしかしたら帝国との戦争を止められるかもしれないと言う相談だった。バイスやミカエルは、あくまで隊員の1人でしかない。ましてや敵国の人間、それも皇族を駐屯地へ入れるなど、簡単に首を縦に振れない。故に司令官からの指示を待っていたのだ。
《こちらはアルヌス駐屯地司令、ヴィエラだ》
「第3調査班班長、バイスです」
《先ほど緊急会議を行った結果、大規模集団の立ち入りは許可しないが、少人数での立ち入りは許可する事が決まった》
「で、では……」
《お前たちは、アルヌス駐屯地まで来賓者を護衛せよ。以上だ》
「了解!」
無線が切られる。アルバートとエミリーが不安そうに見つめていた。
「姫様たちを駐屯地へお送りしろってさ」
「良いんですか!?」
「上の人たちが話し合って決めたんだ。何か狙いがあるんだろうよ。俺たちは姫様たちの護衛をしろって命令だ。良いな?」
「「了解」」
そして、同じ車内にいるテュカ、レレイ、ロゥリィに頼み込む。
「なぁ、エグザマクスに関しては……」
「秘密、だよね」
「大丈夫。秘密はしっかりと守る」
「レレイちゃん、本当に大丈夫ぅ? あれは何だって尋ねられてうっかり本当の事喋らない~?」
「……問題ない」
「おい、今の間は何だ。本当に頼むぞ」
こうして、ピニャと護衛としてボーゼスが、第3調査班と共にアルヌスへ向かうのであった。
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