諸王国軍のテントは、重苦しい空気に包まれていた。
「既に一万以上の兵が死んだ……。異界の軍は神の兵器でも使っているのか?」
「ただの蛮族だという話では無いのか!?」
「帝国軍は見かけないし、一体どうなっているのだ!」
彼らは、異界の侵略者を共に討とうと発破をかけられ集められた。しかし、昼間のアルヌス奪還戦において、共闘してくれる筈の帝国軍が一人も居なかったのである。
「あれほどの火の雨や大岩を降らせど、所詮相手は人間だ。夜襲なら、あるいは……」
そう呟いたのは、エルベ藩王国の国王デュランである。
「今夜は新月。声を上げず、馬を駆けさせずに近寄れば、いかに強靭な人垣といえど突き崩す事は可能であろう」
こうして、残された諸王国軍は夜襲を決定するのである。
夜。アルヌス駐屯地は相手の夜襲に対する警戒体制を取っていた。
「こちらシエル04。異常なし」
《キング01了解。警戒を続行せよ》
世闇に紛れて、新たな巨人が立っていた。太い脚部と長い前腕、そして背中に装着されたドーム状のバックパックが特徴的だ。
bEXM-14T シエルノヴァ。現在警備に当たっているのは、その機体に広範囲索敵レーダーを装備している仕様である。
(偵察用ロイロイが、茂みなんかに隠れて偵察してるらしいが、こっちも気を引き締めないとな)
シエル04というコードネームを持つ兵士は、ブラックコーヒーを飲み干すとコクピットの隅に置いておいたレジ袋に入れた。
すると、モニターから「ポーン」という無機質な音が響く。
「む? これは、まさか……」
緑色のモニターには、白い点がポツポツと駐屯地へ向けて進んでいる。シエル04はすぐに通信を繋げた。
「こちらシエル04! 2時の方向に移動物体を探知した!」
《シエル03、5時の方向にて移動物体を探知! シエル04と同じ方角だ!》
《こちらキング01。偵察用ロイロイが、敵集団を発見した。全機、後退せよ。これより、戦闘体制へ移行する》
後退命令を受け、シエルノヴァたちは後退する。こうしてデュランの企みは、偵察用機体によって破られたのである。
デュラン達は、既に自分達の動きがバレているとも知らず、物音を立てずに近付いてきていた。
(まだだ。まだ走る時ではない……)
その時だった。地面から何か光るものが打ち上がったかと思うと……上空で大きく破裂、まばゆい光を放った。
「こ、この明るさは!? いかん! これでは丸見えだ!」
放たれた光、照明弾の特性を瞬時に悟ったデュランは、すぐさま馬を走らせる。
「止まるな、走れぇ! 馬は駆けよ! 人は走れ! 狙われるぞ! 止まるなぁ!」
ありったけの大声で命令し、兵を動かす。その後、昼間にも見えた火の雨が、自分達に向かって降り注ぐ。
「ぎゃあぁぁぁ!」
「ぐああぁぁ!」
「進め! 進めぇぇ!」
もはや陣形も意味がない。倒れていく兵士を担ぎ上げたい気持ちを押さえつけ、他の兵士たちもデュランに続く。だが、そこへ追い討ちをかけるように、次なる一手が襲い掛かってきていることを、兵士たちは知らなかった。
照明弾が放たれ、敵軍の姿が見えるようになると、一斉射撃が行われた。なお、この照明弾を撃ったのは、夜間用迷彩を施されたシエルノヴァである。
「敵の動きの切り替えが早い! すぐに動き出しやがった!」
「指揮官はかなりの切れ者と見た!」
しかも、一ヶ所に固まらずバラバラに動くことで被害を減らしている。もっとも、それでも敵兵は突撃しながらその数を減らしているが。
《敵の進行速度が上がってる、まずい……!》
《キリがねえ!》
シエルノヴァの小隊も援護しているが、それでも敵の突撃は止まらない。その時だった。キュラキュラという音ともにやって来るものが居た。
《こちら、タンク01。遅くなった》
「マジかよ!?」
「いきなり過ぎんだろ!?」
それは、普通の戦車と比べてあまりにも巨大な戦車。エグザマクスが乗ることで移動砲台にもなるよう設計されているそれは……エグザビークル・タンクと呼ばれている物だった。
門へと突入する時、まだ駐車する場所を決めていなかったため、特地への配備が遅れたのである。
《カウント10の後、曲射榴弾で砲撃する。付近の者は対ショック、防音姿勢を取れ。10、9……》
その通信を聞いて、兵士たちは急いで耳を塞ぎ、口を開け、地面へと伏せる。シエルノヴァのパイロットも、耳を塞いだ。
《1……0、撃てぇ!》
それは、一瞬の事だった。空からヒュルルルという音が聞こえたかと思った瞬間、背後から強い衝撃が襲い掛かってきた。デュランは落馬し、地面をゴロゴロと転げ回る。
「何があった! 皆のもの、生き……て…………」
後ろへと目をやると、先程まで自分に付いてきていた兵士たちが見当たらない。あるのは燃え上がる炎と、地面に散らばる“生き物だった物”。
「なぜだ……。なぜ、この様な事になったのだ……」
戦場だというのに、デュランの頭には「なぜ」という言葉が浮かんできた。
敵のことを知らせず、そればかりか増援すら寄越さない帝国。この時、デュランは1つの答えに辿り着いた。
(そう言う事、か……! 我らを肉壁とすることで、帝国の優位を欲しいままにするという算段か……!)
デュランは立ち上がる。その顔は、もはや狂ったような笑みだった。
「は、ははっ、はっはっはっはっはっ! はーっはっはっはっはっ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
デュランは、自身の体が宙へ舞うのを感じながら、目の前が真っ暗になった。
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