地球連合軍が特地と呼ぶ世界。その世界の空の下を、とある部隊が歩いていた。
「良い天気だね~。異世界調査の第一歩が雨なんて日にゃ、俺はやさぐれてコーラ飲むとこだった」
「そこはビールとかでは?」
「雨の日は雨の日で、書類仕事だろ? 昼酒なんてやったら上司がうるさい」
「ははっ、なるほど」
ジープ型のトラックの中で、兵士たちが雑談をしている。助手席に座り「良い天気だ」と話すのは、バイス。この調査班のリーダーである。彼の言葉に苦笑いで返す運転席の男はアルバートだ。
「ジュースではなく、お茶でもいかがです? 紅茶なんかは特に最高で……」
「出たよエミリーの紅茶信仰」
「コーヒーの話題でキレないだけでも良いじゃないですか」
衛生兵のエミリーは、飲み物と言えば紅茶と言うほどの紅茶ジャンキーである。実際、彼女の祖国のI国は紅茶の産地なのだ。
「レイス。付近に異常は無いか?」
《今のところは、異常無しだね》
バイスの言葉に通信で答えたのは、レイスと呼ばれる女性。しかし彼女は車に乗っていない。
その後ろを歩く、アルトの操縦者がレイスなのである。
彼女のアルトは、少し改造が施されていた。ポルタ・ノヴァの肩部分の装甲が取り付けられている。これは、相手が何かしらの攻撃をして来た際に、少しでもダメージを軽減する物として取り付けられたのだ。オプションアーマーとして、肩はポルタ・ノヴァのを、それ以外はアルト用の物を装着し、左腕にはシールドが設けられている。
「まずは情報を得るために、各集落の人たちと友好関係を築くことが任務かぁ」
「エグザマクスを見て、かえって警戒しないですかね?」
「武装勢力の潜んでる村かもしれないと考えると、少しばかりの武装は必要なんだとさ」
助手席から見渡すバイスだったが、どこも草原や森林が続いている。
「本当に何も無いな……」
これは野宿になりそうだと、ため息をついた。
夜。それは突然の事だった。
《隊長、前方に高熱反応だ。かなりの広範囲だぜ》
「サンキュー、レイス。こっちでも焦げ臭さを感じてる」
「火事……でしょうか?」
「かもしれない。これ以上の進行は無理だな」
《っ! やばっ!》
突然、レイスの操るアルトが片膝をついて姿勢を低くした。その理由は、森から現れた存在によって明らかとなった。
「……俺、昔の特撮映画であんな感じのモンスター観たぞ」
「エミリー、ちょっと頬つねってくれる?」
「アルバートさん、もう自分でやりました。これは現実です」
目の前に現れた、赤くて巨大な龍。それは間違いなく、ドラゴンと呼ばれる存在だった。
一夜明け、一行は焼け焦げた森を捜索していた。昨夜のドラゴンは、おそらく生物を狩るために炎を吐いていたと考えたからである。
コクピットの中に居たレイスも降り、生存者を探していた。
(ちょっと触れただけで崩れる……。とんでもない高温だな……)
辺りにあるのは、“人の形をした炭”。中には瓦礫の隙間から生焼けの遺体も見つかっていた。
「ん? これは……エミリー! 来てくれ!」
「どうかしましたか?」
「こいつを見てくれ」
レイスが見つけたのは、現地人の物であろう片腕。炭化した部分と生焼けの部分が混じったそれにエミリーは顔をしかめるが、レイスは気にしない。
「これ、ちょいとおかしいんだ。傷口、お前ならどう見る?」
「傷口、ですか? これは……」
エミリーは観察する。
「……何かに噛みつかれた後、でしょうか。刃物で斬られた割には、切り口が……」
「だよなぁ。しかも噛まれたのは腕じゃなくて……」
「体、ですね」
「どうした?」
そこへ、バイスとアルバートがやって来た。あの様子だと生存者は居ないようだ。レイスとエミリーが、先程の事について話す。
「隊長、まずくないですか? 要するに、あのドラゴンは人を食ったって事ですよね? 人の味を覚えたとしたら……」
「付近の集落を襲う可能性がある、か」
「それだけじゃねえ。あいつは翼を持ってた。飛翔能力があるってことは、駐屯地を襲う可能性もある」
「隊長、すぐに連絡を!」
「そうだな!」
バイスが車へ戻ってる間、アルバートが井戸へ向かう。
「2人とも、喉乾いてません? 井戸ありますし、少し水分補給しましょう」
「その水、飲んで大丈夫でしょうか……」
「ここの住人が使ってたってことは、飲めるだろ」
アルバートがバケツを下ろす。
「ん?」
「どうした?」
「何か、バケツの手応えがおかしくて……」
「中、照らしてみろよ」
アルバートが懐中電灯で中を照らす。
そこには、金髪のエルフが気を失っていた。
「っ! 生存者か!」
「アルバート、隊長に連絡! エミリーは応急処置の準備!」
「「はいっ!」」
レイスが井戸へ入り、少女を抱き上げる。
「エミリー、毛布だ! 息はあるが体温が極端に低い! 低体温症の可能性ありだ!」
「わかりました!」
2人は大急ぎで、救助にあたった。
レイスとエミリーが救助にあたっている頃、バイスは他の部隊と連絡を取り合っていた。
「では、第2調査班はコダ村に居るんですね」
《そうだ。君たちが遭遇したドラゴンの座標と照らし合わせると、コダ村も近い。早速住民にもドラゴンのことを知らせよう》
「では、我々も合流します。手伝いますよ」
《助かる》
通信を終えると、アルバートが走ってくる。後にバイスは、生存者が居たことに驚くのであった。
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