炎龍が倒されたことで喜びに溢れる避難民たちだったが、これから先のことを考えなければならなかった。村へ戻ろうと考える者も多かったが、ある問題が明らかになったのだ。
「盗賊ですか」
「うむ。これほどの規模で移動していたのなら、盗賊共も気が付いておるじゃろう。残された家財を盗むか、もしくは村そのものを根倉にしているかもしれん。そこへわざわざ戻るのは危険すぎる……」
「では、我々が追い払うのは?」
「見たところ、炎龍との戦いで疲弊しておられる。それに、情報提供以上の対価を儂らは払えん……」
「そう、ですか……」
村へと戻らず、別の村へと進む村長たち。だが、馬車を失ったり怪我をした者たちは、面倒を見きれないと置いていかれてしまった。
過去の大戦で難民となった人たちも、このように見捨てないといけない時があったのだろうか。バイスたち連合軍兵士たちは、あらかじめ情報や地図をもらっていたから問題は無い。だが残された村民たちはどうなるのだろうか。
「この人たち、どうすっかなぁ」
「隊長。それもですが、炎龍の死体はどうするんですか? あんな巨体、エグザマクス2機だけでは運べませんよ。」
「だけど解析のためにも必要だよな……。駐屯地に連絡して、増援頼むかぁ。あとこの人たちを駐屯地で預けれないか、聞いてみるよ」
「大丈夫でしょうか……」
「やらないよりはマシだろ?」
こうして、難民となった一部の村民たちは、後にアルヌス駐屯地へと預けられる事になったのである。
とある居酒屋。コダ村から来たと言う勤め始めたばかりの女給は、客に酒や料理を与えると共に、客からの要望があればある話をする。
それは、「巨人と共に現れた兵士が、炎龍を殺した」という内容だった。
「騎士ノーマ、どう思われますか?」
「いくら何でも嘘ではないか? 炎龍を倒すなど……」
「ですが、コダ村から来たと言う人たちが口を揃えて言ってるんですよ? 村人全員で口裏を合わせるなんて不可能です」
「だからと言って、炎龍など……」
ノーマと呼ばれた男が、純粋な後輩のハミルトンに溜め息をつく。只でさえ安っぽい酒と料理だというのに、女給が話すのは嘘八百。それもあって、深いため息となった。
「本当だって。まぁ、巨人がバカみたいに大きな剣で炎龍の首を落としたんだけどさ」
「ふん、騙されんぞ」
「何だい、子供たちは目をキラキラさせて聞いてくれるってのに」
「まぁまぁ。もし良ければ詳しく教えてくれる? お代は弾むからさ」
ノーマの態度に口を尖らせる女給……メリザだったが、数枚の銅貨を渡されると機嫌を良くする(なお、銅貨数枚はチップとしては破格である)。
「いつも通りの日だったんだけど、突然ズシンズシンって音が聞こえてきて、村中は大騒ぎになったんだ。あたしも見に行ったら、背中にデカイ剣を持った巨人と、鉄の荷車に乗った兵士がいたのさ。
なんで兵士って分かったかって? そいつ等が話してくれたんだよ。遠い所から来たばかりで道が分からないから、ここら辺の事を教えてくれないかって。盗賊とか猛獣に襲われるかも知れないから武器を持ってるんだって言ってたよ。最初は怪しいと思ってたんだけど丁寧な言葉でさ、聞かれたことを教えるとキチンと礼を言ってくれるし、礼儀正しい連中だったよ。
だけど、その兵士たちの仲間が炎龍を見かけたらしくてね。あたしたちの村はすぐに逃げることにしたのさ」
メリザは、兵士は胸につけてる小さな箱で、遠くに居る仲間と話をしているのを見たと付け加えた。これは無線機の事である。
「途中から他の仲間も来て、巨人は2人ほどになったかねぇ。でも巨人はあたし達を襲うことはなくて、むしろキョロキョロと辺りを見回して盗賊が来ないか見張っててくれたんだよ」
「その巨人とは、どのような見た目なのだ?」
「目玉は1つしか無くて、全体的にちょっと角張ってて、鉄っぽかったかな。話に聞くトロルなんかとは違ったよ。本当に見上げるような大きささ」
「続けてくれる?」
「あいよ! で、逃げる途中なんかも飲み物くれたり、荷車に怪我人乗せたりと良い連中だったよ。
だけど、その時さ。巨人の一人が大声で『炎龍だ!』って叫んだのさ。それだけ聞いたら疑わしいだろうけど、兵士たちが武器を構えるから、本当なんだって皆信じて馬を走らせたよ。途中で荷車を棄てる奴も居たね。
それからしばらくして、真っ赤な龍が空からやって来たのさ」
メリザの声も表情も真剣だったため、騎士団だけではなく他の客も聞き入っていた。
「あいつは、あたし達には目もくれずに巨人を狙った。村を焼き尽くすような炎を吐いたんだけど、巨人はヒラリと避ける。鉄の荷車に乗ってる兵士たちも、顔を出してパパパと音を出しながら、小さな火の玉をたくさん、しかも速く放っていたんだ。今思えば、あれは杖だったのかも知れないね。
そしたら、女の兵士がデカイ鉄の杖……と言うよりは筒を構えたんだよ」
「おい、女の兵士も居たのかよ!」
「聞いてねえぞ!」
「あんたらは黙ってな! ……で、その筒から何かが飛び出たと思ったら、大きな音と爆発で炎龍の顔が見えなくなったのさ。あたし達は『やった!』って思ったんだけどねぇ……」
「まさか、生きていたのか?」
「その通りさ。顔の肉が大きく抉れて見るに耐えない姿だったけど、それでもハッキリと、怒ってることが伝わってきたよ。本当に終わりだ……と思ったときに、剣を持った巨人が炎龍に向かって走り出したのさ。
ジャンプしたかと思うと、背中から青い炎がブワーッ!と吹き出て、一気に空を飛んだんだ。で、その大きな剣で一気に炎龍の首を切り落としたのさ。今でも忘れられないよ。『チェーストー!』って大声で叫んでたんだから」
メリザが「これで話はおしまいね」と言うと、とっとと仕事に戻ってしまった。ノーマ達は顔を見合わせる。
「どう思います?」
「良くできた話……とは言い難いな。まさか本当に……」
「調べる必要があるな」
凛とした声に、ノーマとハミルトンはリーダーに視線を向ける。
彼女の名前は、ピニャ・コ・ラーダ。この騎士団を率いる者であり、皇帝の三女である。
「巨人の兵士たちは辺りを調査していると言う。もしそれが、アルヌスに陣取る者たちだとしたら……」
「殿下はあの女給の話を信じるのですか?」
「アルヌスにいる者たちは、異界からやって来たという。恐らく巨人を従わせる方法を独自に持っているのかもしれない。だとすれば、先の戦いでの惨敗も納得が行くだろう」
そう言い濁った葡萄酒を飲むピニャだったが、内心は嫌な予感で満ちていた。
(すごく、嫌な予感がする……。アルヌスの敵が本当に巨人を従える集団だとしたら、帝国は……)
飲んだ葡萄酒は、やけに酸っぱいような気がした。
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