日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【11話】ヒトカラ

寝れん。

 

 

 

 

何故だか分からんが眠くならない。

 

 

 

 

……なんてこった。

 

 

 

上田が俺のことを好きなんじゃなくて、俺が上田のことを好きだったという話じゃないか……。

 

 

 

 

 

 

結局、睡眠不足が良い意味に作用し2月末の期末テスト勉強は捗った。逆に勉強して自分の感情をごまかし続けてみた。テストの手応えもいいぞ。全然、嬉しくない。

 

そして今日はテスト最終日だが曜日的に部活は無し。今日も午前中だけで帰宅だ。

 

なんだか無性にムシャクシャしていた俺は高校の最寄り駅の近くにあるジャボンカラオケ広場に入店する。そうヒトカラだ。

 

昨今、ヒトカラをする人は増えたとはいえ、俺はまだ恥ずかしく感じてしまう。コソコソと隠れるように受付を済ませて、ドリンクバーに向かう。

 

ドリンクバーで飲み物を2杯、並々に注いで部屋にこもろう。そう思い、2杯目の飲み物を注いでいた最中だった。

 

 

「あっ鈴木さん!おはようございます。お疲れ様です。」

 

 

何者かに声をかけられる。そこにいたのは演劇部の後輩女子だった。

名前は悪いが覚えていない。ほぼ接点がないからな。にしても見られたくないところを見られてしまったな。

逆に顔見知りレベルの人間だったので助かったとでも思っておくか。

 

 

「お、おう」

「ではでは~」

 

 

話すことも大して無いため、挨拶だけで会話終了した。

俺は2杯の飲み物を持ち、自分の与えられた部屋に向かうが、演劇部の後輩女子も2杯の飲み物を持ってついてくる。どういうつもりなんだ!?と思いきや、俺の部屋の隣の部屋に入っていった。

おいおいマジかよ……。いくら顔見知り程度とはいえ隣の部屋なんて店員め、恨むぞ……。

結局、これが気になって思い切りは歌えないまま時間だけが過ぎた。延長しますか、と部屋に備え付けの機械が提案してきたが、落ち着かないのでヤメにする。

 

 

さっさと帰ろう。今日は厄日だ。いや、あれ以来ずっと厄日だ。気がいっさい晴れない。

 

 

レジの機械はセルフ化しており、受付時に渡されたバーコードをかざすだけで、必要な金額が表示される。それをさっさと操作して出ようとしたが、うまくバーコードを読み取ってくれない。おいおいマジかよ……。焦るとうまくいかないものでかざしなおしても、やっぱりダメだ。後ろには人も並びはじめたしなぁ……。

 

 

「これな、読まんときは下の数字を直接打つといけるぞ」

 

 

後ろに並んでいた人から、そんなありがたいアドバイスが飛んできた。

俺はすかさず、バーコード下に印字されていた数字を打ち込むと、金額が表示されお会計をすることに成功した。

 

「ありがとうございます。助かりました!お待たせしてすいません!」

 

俺は振り返って、このワザを教えてくれた神様と呼ぶべき後ろの客に挨拶をする。

 

「いいって、いいって」

 

が、この声聞いたことあるなぁと下げた頭を上げて分かった。

 

「じゃあな、鈴木」

 

そこにいたのは、庄司先輩だった。よりにもよって、一番会いたくない人に会っちゃった……。

それだけではなく、先ほど会った演劇部の後輩女子が庄司先輩と腕を組んでいる。他に演劇部員はいないみたいだ。

俺は庄司先輩に礼を言った後、お邪魔にならないように、そそくさと逃げ去る。なんだか見ちゃいけないものを見た気分だ。

 

 

 

 

 

ジャボンカラオケ広場から逃げ帰った俺は、家でもう一度、見たものを整理しよう。

 

あの庄司先輩と演劇部員の後輩女子が腕を絡ませてカラオケボックスという密室から出てきた。

他に演劇部員はおらず、恐らく2人きりだったと思われる。

後輩女子の幸せそうな顔も追加だ。

 

ここから導き出される答えは1つだ。あの2人が付き合っているということ。

 

直接、聞いた訳じゃないが……少なくとも俺にはそうとしか見えなかった。

演劇部の部活を見る限り、そんな素振りはなかったから同じ部室でも気付けなかったぜ……。

後輩女子はともかく、庄司先輩はオンオフの切り替えもうまそうだし、うまく校内では包み隠していたんだろうなぁ。

 

 

いや、違う。隠すつもりはハナから無かったんだ。今日、俺に見られても堂々としていたどころか、俺に声をかけてきたくらいだからな。

 

意図的に隠したりしない結果、あまりに自然に物事が進んでたから一切、気付かなかったんだ。我ながら己の鈍感っぷりに辟易する。

 

 

 

 

そして、俺はもう一つの問題にもぶち当たる。

 

 

 

 

俺が見たこの光景は上田に伝えるべきなのだろうか。そもそも上田が最初から知っている可能性もあるか?

 

“そのまま黙ってりゃ、上田は卒業式で自爆だ!心が砕けたところを、うまくすくい取れればイチコロだぞ!!”

 

自室には俺しかいないから今聞こえたのは俺の心に住む悪魔のささやきだ。俺の中の悪魔はなかなかとんでもないことを言っている。悪魔はさらに続けて言いやがる。

 

“だいたい、お前が『庄司先輩と演劇部女子が付き合ってる』って言って信じてもらえなかったとき、お前の評判だけ下がるんだぞ!どう見ても付き合っていそうなシチュエーションだが決定的な証拠は無いんだし動いちゃいけねぇって!”

 

悪魔は言っていること自体は理にかなっている。

こんなとき、だいたい天使と悪魔で喧嘩になるはず。やっぱり天使の声も聞こえてきた。

 

“ダメよ!教えてあげなきゃ上田さんが傷つくわ!ここは優しく親身に上田さんを説得しなきゃ!彼女が傷つかないようにうまくフォローしながら鈴木くんが彼女にとって唯一無二の存在にとってかわるのよ!”

 

あれれ……天使も大概、ろくでもないことを言ってやがるぞ。まさかのどっちもクズか……。

そうだな、相談されたら天使に乗る。何も言われなきゃ悪魔に乗る。出たとこ勝負しかないか。

なんだか今日はかえってスッキリしたぞ。庄司先輩に高確率で彼女がいるということが分かり、なんだか頭がすっきりした。今晩はひさびさに安眠出来るかもしれないな。




まぁ天使も悪魔も中の人は同じだからねw
言うことは同じだよねwww

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