期末テスト終了の翌日は卒業式前日だ。
俺たち在校生はテスト返却まで1週間ほど休みとなる。卒業式前日と卒業式は生徒会が参加する他は自由登校となる。つまり俺は登校する必要は無いのかもしれないが、曜日的には部活の日だし、上田の件もあるので登校して部活に励む。
上田の件を見届けたいのかと言われると、正直半々だ。
部活を黙々と1人で続け、時刻は昼過ぎ。卒業式の予行が終わった頃、部室に上田が現れた。
「失礼しまーす。おっ、いた!?」
俺はいないと思っていたのか、上田は軽く驚きながら入ってくる。
「今日は原稿の日だろ?」
「そうだけど……ふふっしっかり文芸部してるじゃん!」
「まぁなぁ~。次こそは新入生が来るかもしれないしなぁ~。」
我ながら、それっぽいことを言うなぁと感心する。俺も演劇部に向いてるんじゃねぇか?
なんてな。
「しっかり頑張ってね!じゃっ!」
上田は原稿を受け取るとそのまま引き上げる。
明日、庄司先輩に……という例の件は一切スルーだ。
ちょうど昼なので俺も一旦、部室を出て近くのコンビニに向かう。腹が減った。昼飯を買わなきゃならん。
コンビニ弁当を買って部室に戻り、1人弁当を食べ始める。しばらくしていると部室のドアが開いた。現れたのは庄司先輩だ。
「おー鈴木がいる」
庄司先輩は笑いながら近付いてくる。昨日の今日なんだが、それに触れるのもなんだかなぁと思い、当たり障りのない挨拶をする。
「庄司先輩、明日卒業ですね。おめでとうございます。」
「あざっす!」
それ以上、話すことはないし、どうしようかと思う間もなくさらに……
「鈴木くんお昼食べよー」
そんな風に言いながら、上田が入ってきた。
「あ!庄司さん!卒業おめでとうございます!」
「ありがとうありがとう」
なんちゅう鉢合わせだ。
「じゃ、俺は演劇部に顔出してくるわ」
庄司先輩はそう言って、退室しようとするが、上田が声をかける。
「庄司さん、明日の卒業式が終わってから、少し時間もらえますか?」
「ん?おぉ」
「よろしくお願いします!」
「分かった。じゃお疲れ~」
俺の目の前で上田は庄司先輩と明日会う約束を取り付けた。そして庄司先輩は去っていった。
お弁当を持った上田は俺に微笑みかける。そして言い出した。
「えへへ……ホントは明日、どうやって庄司さんを呼び出そうかなって相談しに来たんだけど……うまく約束できちゃった♪」
上田はそう嬉しそうに語りながら、お弁当を食べ始める。
恋する乙女はかわいい。
それは事実なんだなぁとある意味、他人事のような顔をしながら見てしまう。待ち受ける明日のことを考えると、心が痛い。
「それでね!校長先生が臭くってさ~」
上田は楽しそうに今日の卒業式予行であったことを話してる。完全なる雑談だ。庄司先輩にどんなセリフを言うのかを教えてくれたりするわけでもなく、一切スルーだ。そりゃまぁ他人に告白のセリフなんて言いたくはないよな。
だいたい赤裸々に色々言われても俺が苦しい。
だが、昨日見たことを伝えるなら今しかないよな……。
何も知らない(と思われる)上田にこのまま行かせて撃沈させて……、で本当に良いのだろうか。
とはいえ、ここまで動いた上田に伝えたところで、先に撃ち落とすだけであって、撃沈という結果には変わらない。なら本人が思うようにさせるしかないのかなぁ。
「どうしたの?私の顔に何か付いてる?」
「いや、別に……。良かったな、明日の約束を取り付けれて」
「えぇ?あぁ……うん!」
それ以上、俺からかけられる言葉は無かった。
食べ終わった後、上田は卒業式の準備に消えていく。俺はモヤモヤしたまま部活を続けていたが、やっぱり手につかない。結局、時間的には早いが帰ることにした。
が、帰っても悩む。
あの時、庄司先輩には彼女がいると言うべきだったのか、言わずに今のままでいいのか。SNSで繋がっているから上田に今から言うことも出来るが言うべきなのか……。
せめて庄司先輩がいるときに彼女の話題でも振ることが出来たなら、上田に間接的に伝えることも出来ただろうに……。
後悔先に立たずとは言うが、自分からまったく行動を起こせなかったことを悩む。まぁ行動を起こさないというのが最良だったのかもしれないため、なんとも言えないけどな。
考えても答えが出ない上に俺からしたら蚊帳の外……、そう思い悩んでるうちに心の悪魔が言っていたことを思い出す。
上田が振られて傷付いて、その時にどこまで俺に付け入る隙があるのだろう。
こうなってしまった以上、上田は悔いなく想いを伝えればいい。そしてその後を俺がどれだけうまくすくい取れるかを考えるべきだろう。我ながら腹黒いな。とはいえこれは自然の成り行きだ。
俺が何かをした結果ではないんだから勘弁してほしい。俺にとっての本番はまさに明日からだ。
とんでもな話だね。
でも気持ちはわかる。
天使も悪魔も同じ人。腹黒いことも考えちゃうよね。