日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

14 / 45
【14話】おい待てや。

上田に言われたとおりに合格発表と新入生説明会、入学式の日と俺は登校してビラを配った。あとは実際に始業式を迎えてから、仮入部でどれだけ集まるかと言うところになる。

 

 

新学期が始まり、俺もめでたく3年生に進級した。

あれから上田とは部活で会うが、なかなかプライベートな話をする事はなく、事務的な話ばかり。

そして最初の放課後、仮入部期間が幕を開けた。今年こそ、誰かが入部してくれたらなぁ、楽に廃部阻止となるんだけどなぁ、と甘い考えを持つ。

この期に及んで上田の希望を叶える意味については有るのか疑問だが、理由はどうであれ半年間頑張ったんだ。

その頑張りまで捨ててしまうのはもったいない。ここでくたばったら何も残らない。

 

仮入部期間くらいは毎日部活をやって新入生を大量に集めてやるぜ。

 

 

 

部活が始まって数十分。俺も部室に戻った演劇部も暇そうな顔をしている。新入生が来ないのだ。

まぁ仮入部期間1日目だし、まだ気にするほどではない。

 

にしても気になるよな……。

 

ただこうも新入生に期待していた分、暇になってしまう。

演劇部も基礎練が終わり多少、暇そうだ。文化部希望なら出足は遅いだけならいいが……。

 

演劇部の側も庄司先輩の熱烈な指導は消え、なんというかほんの少しだけ大人しい雰囲気になった。時代は移り変わってゆくのだなぁ……。

じゃなくて、新入生も来ない今こそ、部活じゃない方の件で確かめるべきだろう。

 

俺は少し暇そうにしている同期の演劇部員、水原にこっそり声をかける。

この水原っていうのは前に言った俺のゴーストライターだ。

文化祭のたびに1本か2本ほど俺の名前で作品を生み出している。

名前も知らない演劇部員が多い中で、数少ない顔と名前が一致する演劇部員だ。

 

「なぁ水原……」

「ん?」

「庄司さんって……?」

「いやいや鈴木ちゃん、庄司さんは卒業したからwwwOBで来ることはあっても、さすがに新年度すぐからは来ないってw」

「実会話に草を生やすな!」

 

おや?庄司さんという名前の演劇部員はいないのか……妹説は吹き飛んだぞ?

そこに例の演劇部の後輩女子がやってきた。

 

「庄司さんがどうかしたんですかー?」

 

水原のデカイ声に反応してしまったらしい。

俺がこっそり話しかけたのに空気を読まないヤツめ。俺が言い訳するより先に水原が答える。

 

「いや、鈴木ちゃんが『庄司さんいないな』って。さすがにいないでしょ。」

 

それ以上、深読みした発言はない。助かった。

後輩女子は嬉しそうに語る。

 

「まぁ今週末、会うんですけどね♪久しぶりに」

 

その幸せそうな顔を見ながら、水原は呆れたような顔で

 

「はいはい、よかったよかったね」

 

とめちゃ適当な返事を返している。

この反応からして、少なくとも水原は「庄司先輩とこの後輩女子が付き合っている」というのを知っているのだろう。

なんなら演劇部内では周知の事実かもしれん。

 

 

 

 

って待てや。

 

じゃあ上田が好きな庄司先輩って誰なんだ?

もしかして庄司って名前の先輩は2人いたのか?

んなわけないよな?

んなもん部活どころの騒ぎじゃないぞ?

 

考えられるのは庄司という名前の先輩が2人いた説と、上田とは破局して演劇部後輩女子と復縁した説か……。

前者はやっぱり考えにくいし、後者だとしても言うて1ヶ月ちょっとの間の話だし早すぎねぇか?

 

上田の幸せを願い身を引くか、なんて考えもあったが……少なくとも今の話を聞いちまった俺は一体、何が起きたのかを知りたかった。

とはいえ、さすがにいきなり生徒会室に乗り込んで「別れたのか!?」と聞くなんて無粋なことも出来ないし……。

 

 

 

もやもやしたまま新入生も来ず、1日目は終わる。

 

 

 

2日目は、まずホームルームの時間を使って体育館で部活紹介があり、俺は淡々と部活を紹介した。

運動部でもないし、パフォーマンスとかも無いしな。変に熱くやると逆に来るものも来なさそうだからな。

 

その結果、放課後には部室に新入生がやってきた。

が、その新入生は演劇部に吸い込まれていく。

 

 

さらにしばらくして部室に何者かがやってきた。変な時間だし、よその部の見学から流れてきた新入生かと思いきや、上田だった。

 

「お疲れ~。どう?新入生来た?」

「見ての通りだ」

「誰もいないわね……」

 

さすがの上田もいつもの朗らかな笑顔ではなく苦笑いだ。

 

「まぁ……さすがに拉致とか誘拐はダメだから、見学とかに来た子はなんとか捕まえてね!」

 

確かにそうだな。来た子はなんとか入部させる!そこくらいは最低限やらなきゃな。

 

「私もたまには様子見にくるから」

「いっそ上田が入部してくれ」

「だーめ。意外と生徒会長って忙しいから掛け持ちは出来ないのよ。」

 

俺は冗談半分にある意味、見学に来た上田を捕まえようとしたが無理だった。

ガチで新入生……来てくれるのか?

仮入部期間も始まって数日。まだ折り返し地点でもないんだが、多少諦めムードを1人出しながら、部室にいたときだった。

 

「すいません、文芸部の見学に来たんですが……」

 

そう言いながら部室に新入生の女の子が現れた。しかも美人だ!うぉ!?マジか!!??

 

一応、表向きは平静を装いながらも内心は大興奮しながら、その子を文芸部スペースに呼び込み席に座らせる。

あ、大興奮って変な意味じゃないぞ。その女の子は用意された椅子にちょこんと座る。

とりあえず俺の名前と学年を自己紹介し、相手のことを聞き取ってみる。

 

「虎谷七海です。」

 

とらたに ななみ……なんか名前からして凄そうだ。虎の谷と七つの海ってそんなんカッコいいのオンパレードだな。

 

 

……って自己紹介、以上かよ!?名前だけ!?いやいや引き出す側の俺の技量が試されているのか!?……よし乗ってやろう。このままこの子を手放すわけにはいかねぇからな。

 

「虎谷さんは何でこの部活に来てくれたんだ?」

「なんとなく……ですかね?」

「っ……ってそりゃそうか……ほかの部とかも気になったりしてる?」

「まぁ……」

「文芸部で何か書いてみたいとか?もしくは読みたい何かがあったり?」

「んー……まぁ」

 

や、やべぇ……。話が弾まない。前言撤回、ただの冷やかしかもしれない。

すると虎谷の方から話しかけてきた。

 

「もしかして、話が続かない……とか思ってます?」

 

えっ!?何、読心術者なの?一応、正直に答えておくか……。

 

「ん……んん……新入生来るのが初めてだから正直、何を話したらいいか分からない部分はある……」

「フフッ」

 

鼻で笑われて流された!?何者なんだよこの新入生!?

いやいや落ち着け。相手は2つも年下だぜ?流されるんじゃねぇ……。それに冬に上田の協力もあって冊子を作ったじゃないか。

俺は冬に作ってあった同人誌を手渡してみる。ついでに紹介もする。

 

「一応、文芸部で作品を作って年に何回かはこうして同人誌を作り配布しているんだが……」

「そうなんですね。読んでも良いですか?」

「あぁもちろん。」

 

彼女は受け取った同人誌を黙々と読み続ける。ちゃんと作戦通り渡せたのは良かったが、それっきり彼女はそれを読んでいて話しかけることが出来ないまま部活の終了時間を迎えた。

チャイムが鳴ると、パタンと同人誌を閉じ俺に返してくる。

 

「はい、ありがとうございました。」

 

ちゃんとお礼を言ってくれた……。礼儀知らずとかじゃないんだな……。

 

「いや、それはあげるよ。仮入部に来てくれた新入生のために何冊か用意してるんだ。」

「そうなんですね。では、ありがたく……」

 

彼女は返そうとした同人誌をカバンにしまい帰っていった。

 

 

それと入れ替わりに上田がやって来た。なんとなく雰囲気は上機嫌な感じだ。

 

「お疲れ~、今の子ってもしかして?」

「お疲れ様。あぁ、うちに見学に来てくれた子だ」

「やったじゃない!どうどう?入ってくれそう?」

「正直、分からん……なかなか掴みどころがなくてな」

「へ~そっか……あ、ちゃんとクリスマスの時に作った本、渡した?」

「あぁ。ずっとそれを黙々と読んでたぞ」

「へ~じゃあ割と可能性あるんじゃない?」

「そうか?」

「今って若者の活字離れとか言うじゃない?そんな中でずっと読んでいられるって意外と気に入ったんじゃない?」

「ん~そういう考え方もあるな。」

「あ!鈴木くん嬉しそう!やっぱり自分の作ったものが評価されると嬉しいわよね~」

 

言われてみれば、そうかもしれない。後一つ、気付いたことが、上田はやっぱり話しやすい。

すごく柔らかな雰囲気で、部活中ずっと緊張してた俺をほぐすように話しかけてきてくれる。

本当にありがたい存在だ。

庄司先輩が卒業して彼女がこの部室に顔を出す意味もなくなった気がするんだが……今年度も上田はこうして顔を出してくれるのだろうか。

 

「来ないで!って言われたらアレだけど、もちろん来るつもりよ。あの件と文芸部の件は別。付き合えたからもういい、とかってわけは無くて文芸部の存続は私の希望であるっていうのに変わりはないから。」

 

あくまでも庄司先輩の名前は出さないのな。まぁ演劇部もいるしそりゃそうか。

そういえばなんで今日の上田はやけに上機嫌なんだろうか。

 

「知りたい?実は彼とこの週末にUFJに行くのよ」

「UFJってあのUFJか?」

「そう!楽しみ~」

 

おいおいノロケかよ。うらやましいぜコンチクショウ。

 

ちなみにUFJとはユニバーサル・ファンタジック・ジャパンの略だ。テーマパークで家族連れやカップルで賑わうスポットだ。

金融機関じゃないぞ。

俺も小学校の卒業遠足で行ったな。

 

そうか、そんなところに2人でデートに行くのか。

もう諦めたつもりだったがチクチク胸は痛むな。

 

「じゃあ、その調子で新入生勧誘頑張って!またね~」

 

上田はそう言うと、生徒会室の方へ帰っていった。

マジで文芸部の様子見とノロケ話のためだけに来たのかよ。俺の気持ちも分かってくれ……ってそれはさすがに俺の自己チューかな……。

 

 

 




片思いの相手の幸せそうな話……
これキツイなぁ

キーパーがいたらシュートを打たないのか!?
って意見もあるだろうけど。


キーパーに止められるとわかってシュートしますかね??

って部分もあるよねぇ


ただ、問題はその彼の裏の顔なんだけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。