週末にデートだと言っていた両者がどうなったのか、さすがにストーキングする訳でもなく、俺にとっては何もないままの週末を過ごした。
というか同一の庄司先輩ならバッティングしてるような気すらしてくるんだが……。
あ、土日で2日あるしバッティングはしないか。
ってバッティングしないなら本気であの人が二股してることになるじゃねぇか。
……あかん、考えるのはやめよう。俺に出る幕は無い話だ。
そして週明け、仮入部期間の2週目に突入した。
仮入部期間はまるまる2週間、つまり来週半ばまでとなる。これまでに見学に来たのは1人。
同室の演劇部には4~6人程度は来ていたように見えるので、やはり少し悪い意味で気になってくる。そもそも見学に来た虎谷もなんとなく何考えてるかわかんねぇしな。
しかし今日、新入生は誰も来なかった。
演劇部もほぼ確定で入部の新入生以外は見えず、暇になっているようなので、また水原のところへこっそり話しに行く。
水原はまた例の後輩女子からノロケ話を聞かされているようだ。
俺としても気にしないつもりでもやっぱり気になる庄司先輩の二股の確証が欲しい。
後輩女子は俺が来て、話を丁寧に最初からし始める。
「日曜日UFJ行ってきたんですよ。彼、めっちゃUFJ詳しくて~もう昨日現地で予習してきたの?ってレベルで季節のイベントとかも含めて詳しくてホントすごいんですよ~」
そこに上田がにゅるっとインしてきた。
「へぇ~良い彼氏さんね~。私も土曜日、彼とUFJ行ってきたんだけど、UFJ初めてでさ。私もあんまり行ったこと無いから、2人で年パス買って、どこ見たらいいかも分かんないまま色々歩いたりして……まぁ2人で考えておしゃべりしてって、そういうのももちろん良いんだけどね!」
あれ……これ二股なら上田を練習台にしてるってことか?
一方で演劇部後輩の方は2人で色々考えるとかはナシにして遊ばれてる?
俺の疑念には、もちろん2人とも気づかないまま、俺と水原を置いてけぼりにして女子トークが続いてる。
「まぁ会長も2人で年パス買ったんだったら、これから2人でいろんな楽しみ方を探せますし良いですよね」
「それはもちろん、そうなんだけどやっぱり女の子としてはエスコートしてほしいかな?って部分もあったり……まぁそこまで言うのって贅沢よね~」
「難しいですよね~。確かに『次はここ行こうぜ』って決めてくれるのはありがたいですし、色々考えてくれてるなぁって嬉しくなりますけど……そうですね。贅沢というか無い物ねだりというか」
「お互いに『隣の芝は青い』ってだけなのかしら。」
「ですかね」
それ……、本当に隣の芝なのだろうか……。俺には同じ芝の話をしているような気がしてならない。
「はい、休憩終わり!演劇部集合!」
そのかけ声で水原と後輩女子は話を切り上げ集合する。
俺も文芸部スペースに戻るかな。
「文芸部が気になって見に来たけど」
「今日は見ての通りの開店休業だ。」
「やっぱり厳しいわね~」
「ツブヤイターも結構、頑張っているんだけどなぁ。なかなかうまくいかないぜ。で、上田は今日は何しに来たんだ?」
「ん?文芸部の様子見よ。新入生は来てほしいだろうし、男の子1人だと入りにくいって思う子もいるかもしれないでしょ?」
「なるほど……なんだか申し訳ないな。」
「いいのよ。鈴木くんには文芸部の廃部を阻止してもらわなきゃいけないんだし」
あぁ……そうだった。そのためには新入生が30人だっけ?無理だろ。いくら上田がかわいいって言ってもそんなに入部してくれないだろうし、何なら上田目当てなら生徒会絡みのとこに行くだろうしな。
「だから頑張ってね♪文芸部の部長さん♪」
だから、その素敵な笑顔を俺に向けないでくれ……。
蓋をしたはずの感情が起き上がってしまう。
「ん?どうしたの?あ、見て見て~アトラクションで写真撮ってくれるんだけど私の顔ヤバくない?」
そういうと上田は笑いながら写真を見せてくる。何かのホラー系アトラクションで驚かされた瞬間が収められた写真だ。なんともまぁかわいい。が、隣にいる男を見てスッと感情に蓋がされる。やっぱり、あの庄司先輩だ。さすがにここまで証拠が揃って、双子でしたなんてオチは無いはず。二股確定だ。だが、それを伝えるべきか?
「さっきはあんなこと言ったけど、やっぱり楽しかったな~……フフッ」
上田のその幸せそうな顔を見てると、俺はこれを壊そうなんて気にはなれなかった……。
俺の複雑そうな顔をどう察したのか、上田はまた話し出す。
「?……あっそうか……ごめんね?大丈夫よ!新入生きっと来てくれるわよ!」
そうじゃないんだが……まぁ、そういうことにしとこう。
「そうだよな。まぁまだ仮入部期間は半分も終わってないしな。頑張ってみるよ」
「私もできる限り顔は出すわ!頑張りましょ」
俺も単純だなぁ……。上田ができる限り顔を出してくれるらしい。それだけで、もっとやるか!って気になってくる。やれやれ。
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上田に乗せられ新入生集めを頑張ろうと思ってからの今週。今日は既に金曜日だ。
この間に起きたことと言えば女の子3人組は来たが、10分で帰られた。ありゃ脈無しだな。
なんとなく、乗っ取ろうとでもいうような雰囲気だった。S○S団とかをそんなのがやりたい感じな雰囲気だ。10分ほどでそれは無理だと悟ったのだろう。
そんな事がしたいなら大人の事情がない学校に進学すべきだったな。
で、今日は金曜日に至るわけだが、目新しいことはなく俺は黙々と原稿を部室のパソコンに入力していた。ちなみに文芸部としての真面目な活動場面を見せるという目的もあり、上田の週1回原稿ノルマは仮入部期間もアリとなっている。
ん?今日はよく見ると演劇部の仮入部に虎谷がいるなぁ。
文芸部の見学に来てくれたが、結局はそっちに行ってしまったか。
原稿が打ち込み終わる頃、ちょうど下校時間が近付いてくる。仮入部期間も来週あと2日くらいだったはずだし、もう終わりだ。
こうなりゃ校門前でキャッチでもするか?
ってそれでうまく行くわけもないしなぁ。
ってかキャッチで捕まえた新入生が長続きするとも思えないし、厳しい問題だ。
とりあえず、今日はまだ来ていない上田が来るかもしれないしちょっとだけ待ってみるかな。
演劇部員たちが帰り支度をしているが、マジマジと眺めるのも変なので、俺はパソコンを見たまま何やら考えているフリをする。
が、後ろから声をかけられた。
「ねーねー鈴木さん」
「?」
振り返ると虎谷がいた。手には数枚の紙が入ったクリアファイルがある。
「書いたんで読んでみてください。」
「お?おぅ……」
それだけ言うと虎谷は帰ろうとしたが、俺はとっさに引き止める。
「コレ、部外に編集さんみたいな人がいるんだが、その人にも読ませていいかな?」
「いいですよ、じゃお疲れ様です」
虎谷はあっさり挨拶すると、すっと帰っていった。
って入部するのかどうか聞けよ、俺!
もう帰っちゃったし仕方ない。何より、渡されたものが気になる。見たところ小説か?マジかよ……。これも気になるが、まずは編集さんこと上田のためにコピーを取りながら原稿の中を入部届を探すが無い。
えぇ……もしかして2人目のゴーストライターにしかならないのかな……。
そういえば上田も色々よくはしてくれるが、入部はしてくれないしな……。
正式な部員になってもらう……ってそんなハードルが高いのか……。
とりあえずツブヤイターには敷居の低さをアピールしとくかな……。
「お疲れ~お!やっぱりいた」
そう思っていると上田がやってきた。
「ごめんね~今日、原稿回収の日だったわよね~ちょっと用事が立て込んで遅くなっちゃった」
「まぁ生徒会長は忙しいもんな。お疲れさん。はい、あと俺の分の原稿」
「忙しいのは、お互い様よ~。で、どう?新入生は来てくれた?」
「それが……演劇部を見学してた子がコレを。今さっき渡されたから俺もまだ読めていない。」
俺はそういいながら虎谷が書いてきた原稿を渡してみる。
上田は多少驚きながら受け取った。
「ん?……何!?え!?新入生がこれ書いてきてくれたの!?すごいじゃない!!土日の間に鈴木くんのも含めてじっくり読ませてもらうわ!やったね!新入生獲得じゃない!」
「いやぁそれが入部届はくれなかった……」
「え!?あ……ごめん……まだ悩んでるのかしらね。でも、これはなんとなくあと一押しの気がするわ。」
虎谷の顔を思い浮かべる……。何考えてるかやっぱり分からん。
が、それゆえにゴースト路線ではなく実は上田が言うとおり迷ってるだけで入部してくれる可能性もあるのかもしれない。
「じゃあ頑張ってね!せめて1人、出来れば30人の新入生を獲得よ!」
振り幅でかくないか?
「また来週。お疲れ様~」
上田はそう言うと荷物を持って帰っていった。あ……また二股の件を言いそびれたな。
というか言う気があるのか俺自身も分からないレベルだが。
俺も支度して帰るか。
帰ってからは、虎谷が書いてきた原稿を読むことにする。
幸い、今日は上田のノロケ話とかは聞いていないため、落ち着いた気持ちで読めそうだ。
……
………
…………
なんだこれ……。持ち込まれたのは長編の最初の部分みたいだが、続きがとても気になる。
しかも面白い。
これはヤバいぞ。
正直、虎谷が入部したら俺の存在意義が無くなってしまうレベルだ。
が、そんな俺のプライドはどうでもよく、純粋に続きは読みたいし、入部もしてほしい。これは色んな意味でヤバいな。
いよいよ仮入部期間も部活をやるのは、あと2日だが、虎谷は来てくれるのだろうか……。
完璧超人が現れた!?!?
立つ瀬ない状況に追い込まれた時、あっさりそれを認められるのか
プライドが邪魔してちょっとでも上に立とうとするのか
そういうところで人間の器っていうのが出てきますが、さてさて・・・