「ホントに7日で無くなりましたね。」
虎谷と俺で文芸部としての成果を記録する。
5月号は予想通りに7日で配布する在庫が無くなった。
原稿回収に来た上田もあまりの順調っぷりに驚いているようだ。
「すごいわね~。これなら文芸部が人気で取り潰しに反対!っていうのも筋が通るわ。」
確かに、固定の応援してくれる人が増えれば、廃部に対して異論を唱える人も増えてくれるだろう。そう思いたい。
ちなみに7月は夏休みなので発行せずとなり、6月分までの3ヶ月分での実績で先生と交渉することになった。いつも上田に任せっぱなしもいけないので俺も乗り込んで直談判という形だ。
さて、この2ヶ月の文芸部の活動には手応えを感じつつ今日も下校時間を迎える。
「じゃあ、お疲れ様です」
虎谷はいつの間に帰る準備をしたのか分からないが、ソッコーで挨拶して2分で見えなくなってしまう。ホント静かに帰っていくんだが彼女はくの一か何かなのか。
「あ、そうそう例の話の続きなんだけど聞きたい?気になる?」
上田はいつものテンションで話しかけてきた。
例の話というのは恐らく庄司先輩の浮気疑惑だろうな。
こないだ見かけた、あの上田の幸せそうな顔から結論は知っているため、聞きたいか聞きたくないかで言えば微妙だ。
あの俺に向けられることはない幸せな笑顔……。
非常に複雑な心境だが、嘘偽り無く言うなら……と俺は返事した。
「確かに気になっている。聞いて良いなら聞かせてもらおうかな……。」
結末がどうなるか気になっているのは紛れもない事実だ。
「じゃあまた移動しましょうか。」
俺たちは生徒会室に移動する。上田が鍵を閉めて厳重に警戒しながら言う。
「やっぱりね……庄司さん、同じ大学の同級生に目移りしてたって……。」
同じ大学の同級生ってことはやっぱり、俺が見たあの女性か……。
「でさー……『やっぱり江美が一番だ。今回のことは水に流して欲しい!』って額をテーブルにこすりつける勢いで謝られちゃって……」
「え!?……それで?」
「もう二度としないからって言われちゃって……今回は許すことにしたの。」
で、その告白があった後のあの笑顔か……。上田の独白に口をつっこむつもりはなかったが、つい口が滑る。
「それ……上田としては許せたのか?」
上田は少し困った表情をしてから答える。
「まぁ……気持ちは複雑だけど、他に目移りしちゃうのは私に魅力が無いのが、いけないんだろうし……それに、そんな私でも『江美が一番』って言ってくれたし……それだけで私には十分よ」
上田は苦笑い気味にそんな事を言う。なんか自己否定はしながら、妙に本気っぽさが入るのが俺からしたらツラい。
「ごめんね?こんな話聞かせちゃって。他人の色恋沙汰なんて面白くないわよね」
俺の表情を見てどう思ったのか、上田は謝ってきた。
ただ俺がつまらない表情をしているとしたら、それは上田の話がつまらないからではなく、庄司先輩が好き勝手しているという点がつまらないのだ。
こんな庄司先輩に良いようにされている上田を見たくない。
さらに言うと演劇部であんなにカッコ良かった庄司先輩の恋愛事情がこんなクズだったとも知りたくなかった。
上田をフォローするついでに、ほんのちょっとだけ核心に触れてみる。
「すまんすまん、俺から聞き出したんだ。気にしないでくれ。それに結果は気になっていたしな。………でさ、もし、もし仮に、の話なんだがまた庄司先輩が浮気してたら……どうする?」
仮に、というよりは繁華街で上田と会った後に別の女性と会っているわけで、ダブルヘッダーで二股、もしかしたら三股関係は継続中みたいだがな。
俺からの質問に迷った上田はしばらく考えてから、明らかな作り笑顔で答えた。
「もう浮気はしないって約束だし、大丈夫と思うわ。……まぁ仮にそんな事があれば……もう、別れるかな……やっぱり私に魅力がないのかなってことになるしね……。そこまで彼に無理して付き合ってもらうのも申し訳ないし……。」
寂しげに語る上田に俺はなんと声をかけたらいいか分からなかった。ただ一つ言えるのは上田が悪いわけでなく、そもそも最初から二股前提で受けている庄司先輩が悪いという事だ。
「なんかごめんね。こんな話しちゃって。鈴木くんは何か無い?なんかいい子とか見つかった?」
上田は気を遣いながら俺に雑な話題振りをしてくる。どう答えりゃいいんだ……。
「まぁ虎谷さんに彼氏がいたのは残念だったわね~♪」
「別に残念でもなんでもねぇよ」
からかうように言う上田を適当にかわす。まぁ残念でもなんでもないっていうのは本心だがな。
それ以上、つっこんだ話はせずに今日は下校となった。
なんというかバレンタインデーに上田が庄司先輩のことを好きだと知ったときにはきれいさっぱり俺は部外者になるつもりだったのにな……。
歯車がずれた結果、訳の分からない事態になっちまったぜ……。にしても、カッコいい先輩のクズすぎる面は知りたくなかったな……。