日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【22話】教師vs主人公

終業式まであと数日に迫ってきた7月のある日。

テスト明けに配布した月刊誌の結果も出た。

今回は6日で無くなった。

ペースが伸びなくなったが固定ファンはついた一方で新規は見込めなくなってきたのかもしれない。

いよいよ先生に直談判するときがやってきた。

 

数日前に上田から「生徒会担当の先生と予定を調整してるので準備だけするように」と言われ、一応は活動実績をまとめた用紙を印刷した。

延べ何人の人に文芸部の作品を届けたか、具体的な数字も入れて俺の中では反論しづらいように明確な活動実績を作ったつもりだ。

後は活動していて固定ファンもいるだろう文芸部の取り潰しはおかしいのでは?と訴えていくつもりだ。

 

 

そして今日、部室に上田がやってきた。

最近は下校時間頃に来ていた上田が今日は早めの登場だ。

つまり生徒会担当の先生と調整がついたのか……。

 

「鈴木くん、今から良い?」

 

やっぱりいきなりの呼び出しになったか。まぁ想定していたけどな。

俺は立ち上がり虎谷に挨拶をしておく。

 

「じゃ、行ってくる」

「頑張ってください。かなり厳しいことになると思いますけど……」

「おう!」

 

普段、虎谷には圧倒されっぱなしだ。ここくらいは先輩らしくビシッと廃部をひっくり返したいところだな。

虎谷の声援を背に受けながら俺は上田と生徒会室に向かった。

 

生徒会室はいつものように誰もいない。

入室すると、いつも内緒話をするため鍵を閉める上田だが、今回は鍵は閉めないままだ。まぁそりゃ当然か。

 

「先生は準備出来たら来るわ。座って待ってて。」

 

上田はそう言いながら自分の定位置らしき席に座る。俺はどこ座っていいかわかんねぇよ。それに生徒会の先生とやらが来るんだ。座って待ってて、いちゃもんつけられたくもないしな。

そう言えば生徒会の担当って誰だっけ?会ったこともない気がするし分からんな……。

インテリヤクザみたいなのが出てきて静かに恐喝でもされるのだろうか……。

 

「そんな怖がらなくても……多分、大丈夫よ。……多分。それに会長としても私もいるから、何かあったりつい言葉に詰まったら手助けするわよ。……多分。」

 

上田はそう言ってフォローしながらも『多分』と強調する。死亡フラグじゃないか。

どこに座っていいかも分からず立ちながら待っていると、数分してコンコンと生徒会室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞー」

 

上田がノックに答え入室を促すと、扉が開いて先生が現れた。

体育会系な雰囲気の漂う大柄な男性教師だ。

ただ体育教師では無いのだろう。

ネクタイを締め、何かの教材や資料が入っていると思わしきエコバックを持っている。少なくとも、この先生の授業を受けたことはないな。

思わぬ風貌でリアルファイトでは勝てなさそうな体格、それでいて頭も良さそうな書類を持っている先生に圧倒され、俺はポカーンとしてしまう。

すると先生から声をかけてきた。

 

「生徒会担当の石橋です。今日、文芸部さんとお話させてもらいます。よろしくお願いします。」

 

体育会系でイケイケっぽい見た目に反した丁寧な挨拶に驚きつつ、俺も挨拶する。

 

「文芸部の部長で3年の鈴木です。よろしくお願いします。」

 

お互いに軽くお辞儀すると、石橋先生は近くの席に座る。そして座った席の向かい側の席へ手を差し出す。

 

「どうぞ、お座りください。」

「えっ!?あ……失礼します。」

 

俺は石橋先生に促されるままに着席する。なんだこの緊張感……。想像の何十倍もの緊張感だ……。

俺の緊張をどう察したのか分からないが、石橋先生は軽く笑いながら俺に話しかける。

 

「これは試験とかではないので、まぁ気楽に。雑談みたいな感じでお話ししましょう。」

 

改まってそんな言い方をすると、逆に緊張感が増す。何が雑談だよ。

 

「改まってこういう場を作られて、話をしろと言われても難しいと思うので僕の方から文芸部さんにまず説明させてもらってもよろしいですか?」

 

石橋先生は今度は笑顔がなくなり、急に真剣な顔をし始めた。

俺も真顔でその説明とやらを聞く。

 

「本校では働き方改革による教職員の勤務休憩時間のフレックス化などを目的として学校運営のスリム化を進めることになりました。安全面などのあらゆる観点から部活動における教職員の顧問は必須との校則は変更出来ませんが、今後数年間で現在の教職員数と顧問を確保することは難しく、生徒会や本校後援会、教職員と協議をした結果として部員3人以下の部活については一律に今年度末の廃部として取り扱うことになりました。」

 

その大人の事情を丸出しにした堅苦しい説明は、もういいや。

 

「で、これについて生徒会から廃部対象の部活に対してご理解ご協力を賜りたいところです。が、生徒会というのは学生主導の団体であり、廃部決定には教職員側の都合なども少なからずあることから今回、生徒会担当の教師として石橋がお話させていただきます。何か質問や異議申し立てなどについて丁寧にご説明させてもらいます。」

 

なるほどな。生徒会が矢面に立たないよう先生が出てきたというわけか。

しかし見た目からしてヒットポイントも高そうだし、生徒会よりも口説き落とすのは困難だと思うんだが……。

というかこっちは高校生なのに、そっちは大人っておかしくないか?

まぁそんなところで争っても仕方ないのでひとまずストレートに行くしかないな。

 

「まず、廃部には大反対です。」

 

俺の意見に間髪入れずに石橋先生は返答する。

 

「気持ちは分かります。しかし方針としては決定してしまっています。」

 

まぁそうなるよな。

ただ、あんだけ理屈並べといて何が『気持ちは分かります』だ。

感情論だけではなんともならない相手のようだ。

だが相手は大人の事情、それで無理を押し通そうものならどこかで破綻するはず。

こうなったら質問攻めにしてしまうか。

 

「先生、分かりました。納得は出来ませんし、廃部を受け入れるつもりもありませんが……質問させてください」

「どうぞ。」

「そもそも一律部員3人以下っていうのがどういう基準か分かりません。なんでそんな基準なんですか?3人はダメで4人ならいいんですか?」

「今回の3人という基準ですが、そもそも現状で活動を一切していない部員0人の部活もあります。ただし現時点で0人としても廃部は早いうちから周知しないといけません。現時点で部員が0人の部活も定期的に入部や退部があり1年365日部員が0人というわけではありません。そこで廃部までの間に部員0人で活動しない時期がある可能性が高い部活を廃部の対象としました。」

「??……つまり?」

「部員が3人以下の部活は部員0人になる可能性が高いため廃部に決定しました。もちろん、各部活によって少数でも永続的に活動できる部活もありますし、多人数でも3年生が引退した途端に部員0人の可能性はあります。が、多数ある部活ひとつひとつの状況に合わせた判断は難しく一律で部員3人以下という基準を設けました。」

 

長ったらしくてよく分からないが、要約したら『たまたま部員3人以下だから廃部』になっただけって意味じゃないか?

なんだか説明を聞けば聞くほど納得出来なくなってきたぞ。

石橋先生は表情は申し訳無さそうな雰囲気漂う真顔のまま、エコバックから何やら書類を取り出して俺に見せてきた。

 

「廃部の代わりと言ってはなんですが……外部の文芸サークルのパンフレットです。高校の部活にこだわらずとも、外部にも選択肢はあります。あとこれが出版社のパンフレットで、進路としてこういう仕事に就くという選択肢もあります。今回は求人票も取り寄せました。」

「石橋先生ちょっと待ってください!これはおかしいです!そもそも学内の部活で、同じ学校の生徒としての交流や志を同じくする者が集まって部活です!外部とか就職とかそういう次元の話ではないと俺は思います。」

 

つい俺は石橋先生の言葉を遮って抗議した。今のは明らかに論点をズラそうとしたからだ。

 

「外部とか就職とかは考えるとしても俺の問題です。俺がこの選択肢を選んで俺1人は良いとしても、今いる後輩や来年以降に入部する新入生から部活という選択肢を奪ったことには変わりません。」

「……失礼しました。」

 

一瞬だけ石橋先生の目が俺を鋭く睨んだ。思惑通り誘導出来なかったのが悔しかったのか……。石橋先生は外部サークルのチラシや出版社の求人票をエコバックにしまう。

 

「このチラシや求人票は僕が預かりますので、鈴木くん個人として気になるなら後で取りに来てください。で、文芸部として廃部は受け入れられないというのが、文芸部としての意見ですね。」

「はい。」

「ただもう決まっているんです。部員3人以下の部活動はどんな活動しているかも不透明で、そもそも活動していない可能性も高い部活動は廃部とする方針です。」

「どんな活動をしているか不透明……?」

「これも一律での取扱いですが先ほどお伝えした部員が0人になる可能性が高い部活については、部としての活動内容も不透明であるとしています。」

 

さっきから聞いていれば難しい言い回しで適当なことばかり言いやがって……。政治家かよ。

あ……そうか、上田もきっと同じ説明を石橋先生から聞いているんだ。

だからSNSやクリスマスフェスティバルの参加など何をやってる部活か明確にしたらいいと言っていたのか。

ひっくり返す糸口はここかもしれない。俺は、あらかじめ印刷しておいた資料を出す。どのタイミングでどんなものを発刊し、何部配布したかという資料だ。

部員が0人になる可能性は確かに否定できないが、だから部活として何やってるか分からんという理論はおかしい。

 

俺は資料からこの半年ちょっと、どれだけ爪痕を残してきたか、数字という絶対的なものさしを使って説明した。

少なくとも活動が不透明なんて言わせてはならない。

 

一通り資料に目を通した石橋先生は、ため息をつき天を仰ぐような素振りを見せた。

 

そして話を切り出す。

 

「存じております。ですが、先ほど申し上げましたように個々の多数ある部活ひとつひとつの状況に合わせた判断は難しく一律で部員3人以下という基準で活動内容について不透明である可能性が高いという判断になりました。」

 

いかんな、同じ話にループしている。

 

「なんで一律なんですか?多数ある部活って言っても全部あわせて100とか1000とかじゃなくて30とか40とかしか無いじゃないですか。その上、部員3人以下ってその中のいくつってレベルですよね?仮に半分の20が廃部対象としても1日1部活見て回れば1ヶ月で済みますよね?無理ということは無いですよね?」

「……。」

 

石橋先生はついに黙った。ただ俺は論破したかった訳ではない。

 

「先生、廃部には無理な理論じゃないですか?」

 

 

 

石橋先生は黙ったままだ。このまま無言か……?

 

 




私の作品を好き好んでみてる(人がいるとは思えないけど)方は分かると思いますが
この生徒会の先生は「らき☆べる」からのゲストキャラクターですね

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