生徒会室に入ると上田は何やら紙を眺めていた。
部室から出て行った理由は庄司先輩がいたからだと思ったが、それとは別に真面目に上田は上田の出来ることを考えてくれていたみたいだ。
本当にありがたい。
俺が入ってきて、これまでの真剣そうな顔からいつもの笑顔に戻った上田は話しかけてくる。
「お疲れ~文芸部は何か出た?」
俺は文芸部が夏休みの間、何かに入賞できるように手当たり次第に投稿する方針であることを説明した。
「なるほどね~。まぁもし本当に入賞出来たら全校集会で賞状渡すから」
「マジか。それだいぶハズいぞ」
「その瞬間を写真に収めて生徒会便りみたいなのにも載せてあげるわ。感謝しなさい♪」
イタズラっぽく笑う上田。そういえば運動部が何かの大会で勝ってきたらそんな事やってたなぁ。俺には無縁だと思って気にしてなかったが、まさか同じ舞台に立てと言われることになるとは……。
「で、会長さんは何か見つかったか?」
「だから~会長じゃなくて名前で良いってば~」
と笑ったあと、上田は真顔になって話を進める。
「文芸部他、少人数の部活を廃部した後の廃部第2弾候補リストを見つけた……」
な、なんだって。上田は真顔で生徒会室に鍵をかける。
これは他の誰かに聞かれてはマズい話のサインだ。
「第2弾は4年後くらいの廃部をメドに、今はまだ素案って感じであくまで廃部も候補であって決定ではないみたいだけど……」
「4年後なら俺たちどころか今の在校生には一切、関係ない……とはいえ見過ごせないな。ってか、その情報ってどこから仕入れたんだ?」
「石橋先生が忘れていったUSB……」
「なんてこった……ってかそんな機密情報忘れるなよ……先生のUSBってことは他にも生徒の成績とか色々まずいものが……?」
「それは一切無くて、この廃部案だけ。だから多分、石橋先生はわざとこれを忘れたんだと思う。私に廃部案を見せるために……」
「なんでそんな……」
「石橋先生はあんな人だから……自分から戦うつもりはないんだわ……でも、さすがにおかしいと思ってる。だから私たちに託したいんじゃない?」
「なるほど……ちなみに廃部の候補って……」
「かなりたくさんあるわよ。なんなら吹奏楽部みたいな部員100人を超える大所帯も対象だわ」
「なんだそりゃ……んなもん暴動レベルだぞ。よく知らんがうちの吹奏楽部ってレベル高かったろ?」
「えぇ……賞状渡しの常連よ。」
「なんでそんなとこまで廃部なんだ?」
「本音は顧問を減らしてどうこうっていう大人の事情だと思うけど、表向きの理由は考えてる途中みたい。言っちゃ悪いけど吹奏楽部よりかなり人数が少ない茶道部や漫研は廃部候補じゃないのも気になるわ。」
確かに、その差は気になるが、最終的にはうちの高校の部活が全部無くなりそうな勢いだな……。
「私はこの廃部第2弾候補に選ばれた部活と選ばれない部活から共通点を見つけてなんとかならないか調べてみようかな……って思うんだけど」
「よろしく頼む。俺たちは真っ向勝負しかできないからな。」
「さっ帰りましょ。もう下校時間だし」
帰ろうとしたが、その前に一つだけ。さっき気になったことを聞いてみるか……。
「なぁ、上田。さっき部室からすぐ出て行ったのって……」
「あー、見られちゃった?」
てへっ☆とでも言うような笑顔で立ち止まる。
「うーん、そうね。鈴木くんには言っておこうかな。私ね、庄司さんと別れちゃったの。」
やっぱりな……。まぁ庄司先輩の二股三股の話を見たりしてた俺としては、良かったと思うが………それは黙っておこう。上田の話は続く。
「結局、大学生の彼女とは別れてなかったし……なんか、そもそも『浮気された』って言うよりは『私が浮気』だったみたい。なんか、私が告白したときにも別の彼女がいたとかなんとか……もうバカらしくなっちゃってさ~。ならその大学の彼女とお幸せに~って言って別れたの」
上田は笑って言うけど、内心はどうなんだろうな……。
「なんだろう。私がやることってだいたいうまく行かないのよね~。」
上田は笑顔で話すが目は笑っていない。確かに演劇部をやめた件も含めて、何かしらうまくいかないことはあるんだろうなぁ。
「なんだったらゆっくり話を聞こうか?」
「え?んー悪いわよ……鈴木くん、忙しいでしょ?」
「俺は暇だぜ?駅前のワクドナルドでもミセスドでも繁華街のサン○クでもいいし、上田が忙しいなら後日でも良いし、言いたくないならナシでいい」
我ながら強引な誘い出しだが、上田は数秒ほど考えた後、答える。
「ん。じゃあ駅前のワックに行きましょ。」
俺たちはそのまま、下校して駅前のワクドナルドに向かった。
放課後に上田と2人きりでどっかに行くって案外、記憶にないな。