日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【26話】夢だった……過去形か……。

ワクドナルドで適当にポテトをつまみながら席に座る。

学校ではにこやかだった上田は、今はあまり見ない顔をしている。

普段、見せない顔を見せてくれているのだが気分は複雑だ。

 

「とりあえず、お疲れさま。なんて声かけたらいいか分からないけど」

「なんか、ごめんね。」

「ん?俺は別に大丈夫。それより上田が心配だからな……」

 

だいたい、俺は庄司先輩のクズっぷりをチラチラ聞いていたおかげで今日の話を聞いて、ある意味でホッとしたくらいだ。

 

「私は大丈夫よ……。あ、大丈夫って自分から言うときには大丈夫じゃないわよね。うん、でも心配ないわ……。ちょっとショックだったのは間違いないけど……」

「まぁ浮気だもんなぁ……」

「そこはもういい……というか仕方ないんだけど」

「いいのかよ!?」

「真相を知らないまま平和に過ごしてたことがね……一応、4ヶ月付き合ってたのよ?それで他にも女の子がいたことを見抜けなかった……っていう方が悲しいわ……」

 

一応、俺は聞き役だからな……。何も突っ込まないつもりだ。まぁぶれるかもしれんが。

 

「私さ、何やっても案外うまくいかないことが多いのよね」

「そうか?」

 

聞いてはみるが、少なくとも庄司先輩との件はうまくいかなかった判定なのだろう。

演劇部を辞めたのも何かがうまくいかなかったのだろう。

生徒会長として大人の事情に抗いたいと言いながら現状では文芸部の廃部方針は変わらず、うまくいっていないといえばそうなのかもしれない。

 

上田は力無く笑いながら話を続けた。

 

「ほら、鈴木くんでも分かるくらいうまくいっていないでしょ?」

 

もちろん、その裏にはうまくいった事象もたくさんあるはずだが……。

 

「私さ、庄司さんの役者としての部分しか見てなかったんだと思う。」

「役者としての部分?」

「カッコいい役でもコミカルな役でもなんでも出来ちゃうでしょ?」

 

確かに小学生の役なんかも練習でやってたしな。

 

「それに他の人のお芝居をよく見てるし、それでいいアドバイスをしたりもする。言っちゃアレだけどデコボコなメンバーをうまく整えて舞台を作るし、求心力もすごい。」

 

他意はないと思いたいが、そう褒めているのを聞くのは少しつらい。

 

「そういう表向きの部分に惹かれていって、実際、庄司さんがどんな子が好きとか演劇以外がどんな人なのかとか、そういうのが見えてなかったのね。私は……」

「なるほど……。」

「職場恋愛はよくない みたいに言う大人たちの気持ちがほんの少しだけ分かったかな。」

「ん?そういえば、上田が演劇部辞めたのって部内恋愛禁止とかそういうことなのか?」

 

俺はさりげなく、ずっと気になったことを聞いてみた。

上田には悪いが、今なら答えてくれそうな気がしたからだ。

 

「ん?あぁ~部内恋愛禁止とかはないし、それはほとんど関係ないわよ。うーん……まぁ今思えば関係なくもない?って感じだけど……」

「ん?どういう?………まぁ嫌なら言わなくても良いんだけど」

「……嫌ってことは無いんだけど……」

 

上田はそう言いながらも、なかなか打ち明けてくれない。

これが今の上田と俺の心の距離ってことか……。

 

 

 

「まぁ鈴木くんには言っても良いかな?恥ずかしいから皆には言わないで欲しいんだけどね……」

 

 

かなりの間が開いてから上田はそんな事を言い出す。

気にはなっていたし、言いふらすつもりもないので頷いて話を聞く。

 

「実はね。私は将来、役者になるのが夢だったの。」

 

夢だった……過去形か……。

 

「で、演劇部に入ったの。安直でしょ?」

 

まぁ……でもそこはそれで普通だと思うがな。

 

「役者って色んな役で色んな人になれるし、それに観てくれた人を笑顔にしたり泣かせたり出来るっていいなぁ……って。まぁそれもありきたりな話なんだけど。」

 

確かにありそうな話だが、それも普通に良いと思うんだけどな。

 

「で、幼稚園とか小学校とか中学校で何かお芝居とかしたら、みんながチヤホヤしてくれるじゃない?」

 

確かに……批判的にドンドン責められるってことはないよな……。

 

「それで私は特別だし、さぁドンと行こう!~って感じで演劇部に入部したのよ。じゃあ周りは先輩も同期も、みんなすごくて……私なんて普通以下……いや演劇部で一番下?みたいにすら感じちゃって……」

 

さすがにそれは自己評価が低すぎだろ。

俺は1年の時から演劇部を見てきたつもりだが、特別に酷いとかを思ったことは一度も無いぞ。

 

「まぁ客観的に見たらそこまでだったのかもしれないけど、私からしたらもう悲惨よ。これまで自分は特別って思ってたわけだし。」

 

まぁ確かにこれまでが打ち砕かれたみたいな感覚はあったのかもな。

 

「今思えば、庄司さんは単に演劇のためだったんだろうけど、私がド下手だから夜遅くまで練習に付き合ってもらったりもしてたのよ。」

 

そして惹かれていったわけか……。

なんだか、廃部の話を聞いてからの俺の状況に似てるな……。

 

「ただ私も公演が近付くと毎日、そうやって迷惑をかけるのが申し訳ない気がするし……何より、そういう状況に心が折れちゃった。鈴木くんがどう思ってるか分からないけど、私は結構打たれ弱いのよ……。役者になりたいって気持ちはもちろんあったけど、役者の世界は厳しいじゃない?」

 

確かにテレビとかでも売れるまではバイト掛け持ちとかって話もよく聞くな。

 

「最初の私は『自分には才能もあるし特別』みたいな気持ちもあったから多少つらい下積みがあっても頑張れる……みたいに思ってたんだけど、その根底が崩されてね。」

 

で、役者になりたいという夢が過去形になったのか……。

 

「そういうこと。お芝居するのはやっぱり好き。楽しい。でも私なんかが身を置く世界じゃないというのも分かってる。……その心の中のすれ違いが辛いから、逆に演劇が出来ないってなってね。それで演劇部を退部したのよ。」

 

んー……なるほど。

完全に自己都合で誰かと揉めたりしたわけじゃないから、人間関係は良好なままだったのか。

 

「役者になるのも諦めて、演劇部を辞めて……。普通に進学して就職して普通に生きよう。そう思ってた時に、生徒会長に抜擢されて。私は自分には芽生えないことが分かったから自分でその芽を摘んだわけだけど、先生が無理矢理に芽を摘み取るなんて許せなかったから、文芸部の廃部阻止に動いたのよ。」

 

自分で自分の芽を摘み取ったっていうのが悲しいな……。ただだからこそ同じ思いを他人にはして欲しくなかったのか……。俺としては上田にもそんな思いはして欲しくなかったんだけどな。

 

「はい、私の内緒話は終わり♪もう良い時間ね。帰りましょうか」

 

言われてみるとワクドナルドに入って1時間くらいが経っていた。そうだな、帰る時間だな。

 

「次は鈴木くんの内緒話を聞くから覚悟しててね~♪」

 

上田は普通の笑顔に戻って帰り支度を始めた。

なんか久しぶりに見た気がする顔で安心する。

 

……ん?次の時は俺が何か暴露しなきゃいけないだと?トンデモ爆弾を投げ込まれたな……。




鈴木くんは何を暴露するんですかねぇ……。

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