日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【28話】デートと言っても差し支えない

今日は夏休みが始まって数日の平日、俺は繁華街近くの駅までやってきた。

時刻は昼前の11時………より1時間前の朝10時だ。

 

なんでこんな猛暑の夏まっただ中に俺はこんなところにいるのか。

 

理由は簡単である。

 

上田から実際に暇な日の連絡が来たのだ。

 

そして今日、午前11時に待ち合わせることになったのである。

まさか本気でOKされるとは思っても見なかった。

これは、デートと言っても差し支えないのではなかろうか……やめとこう、向こうは何も考えずに単に予定を教えてくれただけだ。

 

ちなみになんで集合時間の1時間前にいるのかと、今日発売の新刊が欲しいとか、先着200人限定のお菓子が食べたいとか、そういう理由ではなく単純に楽しみすぎて着くのが早過ぎただけだ。

小学生かよ、俺。

 

この1時間の間にとりあえず、考えてきたプランを再度確認する。

気合いを入れすぎた結果、分刻みのスケジュールになってしまった。

 

上田がゆっくりしよ~って言えばこのスケジュールは闇に葬ることになるが。まぁそれくらい想定の範囲内だ。

 

 

 

………にしても待ち時間って暇だな……。

 

 

10時45分、集合時間までまだ15分もあるのに上田はやってきた。

マジで来てくれた……こんな暑い日に、しかも集合時間の15分も前に。

 

「おはよ~。早いわね!」

「おはよう。上田こそ早いじゃん。」

「まぁ一応、10分前に着くようにって思ってね!さらに5分前行動したら、今着いちゃった。って鈴木くんの方が早いじゃん!何時からいたの?」

「10時からかな」

「はやっ!?そんなに楽しみで?……ってそうじゃなくて、どうせ新刊か何かの発売日でしょ?」

「ん?あぁ、まぁそんなとこだなー」

 

と、ここでヒヨってしまうからいけないんだよな……。分かっちゃいるが……。

 

「で、どうする?どっか行きたいところとかある?」

「一応、予定は考えてきたんだが」

「ホント!?へ~結構、気合入れてきたのね。なんか嬉しいわね~」

「気合を入れすぎて分刻みのスケジュールになった……」

「ってえぇ……。まぁそこまでキッチリにしなくても適当で良いんじゃない?その方がのんびりできるし。ってか暑くてキッチリキッチリなんて出来ないわ……。」

「だな。俺も予定立てたは良いが暑さを甘く見ていた。とりあえず暑いし、どっかで涼むか?」

「そうね。モールの中をフラッとしましょ」

 

猛暑の屋外にいるのはキツいしな。

 

 

2人で近くのショッピングモールに入る。

 

「とりあえずウニクロ寄ってもいい?」

「お?いいぜ」

 

そういえば前は虎谷とウニクロに行ったな。

 

「せっかくだし、鈴木くんに選んでもらおうかなぁ~」

 

クルックルッと回りながら、軽くステップを踏んでウニクロに向かう上田。

 

かわいい、ヤバい。

 

やっぱり好きだな。

 

 

あの件で忘れようとしても無理だったしな。

 

向こうは俺をどう思っているんだろうな。ただの友達くらいなのだろうか。

ウニクロであれでもない、これでもないと何やら選んでいるようだ。

 

「う~ん部屋着をね~……何か良いのがないかなぁ……って。ねぇねぇ!どっちが良いかな?」

 

そう言ってTシャツを2着、見せながら話しかけてくる。ハムスターと無地……どっちもいいんだが……男の子としてはハムスタープリントの方を推したくなる。理由は察してほしい。

 

「って、鈴木くんどうしたの?もしかして部屋着だから誰かに見られるわけでもないのに……みたいなこと考えてる?」

「ん?違う違う。普通にどっちが良いかなぁって」

「ホント?『部屋着見せる相手もいないのにw』とか思ってない?」

「思ってない思ってない。ってかいないのか?今度は誰とか」

 

いたら今度こそキッパリ諦められるが。

 

「いないわよ~。しょ……Sさんのことはもういいんだけど、だからハイ次!って探すのも何か違うかなって。自分から行くのはちょっと控えめにしようかなって」

 

わざわざ名前を伏せなくても……本人からしたら消したい記憶なのかもな。

 

しかしまぁ、こう言われると、神様はどうしても俺に諦めさせたくないのかもな。

 

なら、もう玉砕覚悟で突っ込むしかないだろうし。今この瞬間ではないが。

 

「とりあえずTシャツはやっぱりハムスター柄かな。かわいいし」

「そう?じゃあコレにしちゃおうかなぁ~」

 

一旦は会話の中身を最初に戻す。いつかはハッキリしときたいが、さすがにウニクロの店内で言うのはおかしいだろう。

サクッと会計を済ませた上田は小走りで俺の元にやってくる。

 

「お待たせ~」

 

いいなぁこの風景。これだけでも俺には十分過ぎる幸せな景色だ。

 

「そろそろお昼ね?ちょっと早いけどお昼ご飯にする?」

「おっ、そうだな。何か食べたいものとかある?」

「ん~パッと思いつかないわね~立ててきた予定表はどうなってるの?」

「11時52分にどこかの店に入ることはきめているが、どこかは決めていない」

「え~ん~じゃあ……どうする?」

「困ったときはサイ世リヤ……でもいいかな?」

「賛成~!」

 

いつもいくような場所なので提案するのは少し勇気がいったが、上田は気にしないみたいで助かった。

 

こうして2人でサイ世リヤにやってきた。早速、適当な料理とドリンクバーを注文し長居する体制になる。

 

「鈴木くんは座って待ってて!私、鈴木くんの分のドリンク取ってくるから!」

「いや、いいよ。自分で行くし」

「いいって!いいって!ほら、荷物番しててほしいから気にしないで!」

 

上田はそう言いながら、めっちゃ笑顔でドリンクバーに向かう。なんか申し訳ないな、とは思いつつも何故かウキウキしてる上田の申し出をあまりしつこく断るのも悪い気がしてお願いしてみる。

そういえば、なんの飲み物がいいか希望は聞かれなかったな……。

 

なんか急に嫌な予感がしてきた。

 

しばらくして上田は白い半透明な飲み物を持って帰ってきた。見た感じは普通の飲み物に見えるが……。

 

「どうしたのー?変な顔して」

 

上田に声をかけられ、とっさに返事をする。正面から何の飲み物か聞いてみるか……。

 

「ん?あぁサンキュ!ちなみに何だ?……まさか白ワインか?」

「いやいや、さすがに会長の立場でお酒は勧めないって。これはただの白ブドウジュースよ」

 

ふぅ、良かった。『飲んでみてのお楽しみ』とか言われたらヤバすぎるからな。

 

「あとはハイ、これ」

 

上田はそう言うとどこからかタバスコを取り出してきた。そこに店員もやってくる。

 

「お待たせしました~こちらマルゲリータでございます」

「は~いありがとうございま~す」

 

突然現れたタバスコにポカンとする俺を差し置いて、上田なニコニコとピザを受け取る。

 

「ん?しょうがないな~私が取り分けてあげるわよ~」

 

えらく上機嫌で上田は俺の目の前にあった皿を取り上げ、そこにピザを一切れ(というのだろうか)を乗せる。

実に手際が良い。

そして、俺にそれをくれる……前に手に持ったタバスコをドパドパっとかける。そしてそれを俺に差し出してきた。

 

「えっ?上田さん……?これはどういう……」

「時にはスパイスも必要だよ♪はい、どうぞ♪」

 

上田は、いつにもまして良い笑顔で真っ赤なピザを渡してくる。

 

 

えっ……これを……?とてもヤバい雰囲気しかしないんですが……。

 

「ん?食べさせてほしいの?しょ~がないな~はい、あ~ん♪」

 

上田はピザを取って俺に食べさせようとしてくる。

 

が、男というのは単純な生き物でこうされるとたとえ劇物が目の前にあるとしても口を開けてしまうのだ。

 

したがって、俺は上田の『あ~ん♪』の後から記憶がない。

ピザ(と思われる赤い物体)を食べる前は端から見ればバカップルだな、とか思っていた気がするんだが……。

 

 

 

多分、数時間は経っているのだろうが次に記憶があるのはサイ世リヤを出たところだ。

うん、幸せ過ぎて記憶がないんだと思おう。

なんしか気付いたときには、上田はプンプン怒っている。

 

「もう、ワリカンでいいって」

「まーまーまーまーそこは一応、俺が男だし」

「そういう考え方ってもう古いんじゃないかなぁって」

「じゃあ、まぁ今回は俺が誘ったんだし」

「んーそうじゃなくて……じゃあハイ、ごちそうさまでした!」

「どういたしまして」

「次は私がおごるから!大人しくおごられなさいね!」

「ういっす」

 

なんとか、俺の体裁は保てたかな……。

 

「次どうしよっか?」

 

おっ……ここで解散にならない。

おごるワリカン問題はそんなに悪影響は与えてないんだな。よしよし。

 

「なぁ、上田はゲーセンとか行ったりするか?」

「生徒会長としてそのような風紀が乱れる場所は……なーんて言わないわよ。ゲーセン行く?」

「おっ!じゃあ行くか」

 

流れでそのままゲームセンターへ向かう。

そうだよな、気張って何かをするのも良いかもしれないがゆるくゲームセンターで遊んだりするのもいいよな。

 

「ちなみにさ、鈴木くんはクレーンゲームとか得意?」

「まぁ得意なわけがないよな。」

「そっかー。私も苦手なんだけどね。欲しいのがあるとついやっちゃうのよね」

 

なんだか、本日二度目の死亡フラグが立った気がする。

 

「あ、鈴木くん見て見て!コウテイペンキンの赤ちゃんに似てるイルカのキャラクターのぬいぐるみがあるわ!」

 

おぉ……フラグ回収が早くないかな?

 

「このキャラ好きなのよ!ちょっとやってもいい?」

「おう。頑張れ」

 

上田は数百円流しながら、イルカのぬいぐるみを落とそうとするが、なかなか落ちない。

 

「悔しいわね……あと100円あれば取れそうなんだけど……。」

 

そう言いながらもうすぐ1000円に達しそうだ。好きな人が目の前でクレーンゲーム破産するのを見たくもない。俺が代わるか……それこそが俺が死亡フラグだが。

 

「あーもう……」

「ちょっとやってみても良いか?」

「かなりアームが弱いわよ……」

「まぁもともと景品をくれーんゲームって言うくらいだから……」

「寒っ!?」

 

誰かのギャグをもろパクりした結果、大火傷をした。

が、それはさておき、とりあえず500円を投入する。500円なら6回プレイ出来るしな。

 

「豪快ね……1回で取れたらって思ったらなかなか500円一気には入れられないわ……」

「アーム弱いんだろ……長期戦ならこうしないともったいないからな……」

 

そう言いながら1度目チャレンジ。アームはイルカのぬいぐるみを掴み、そして離さないままポトン。ありゃ、まさかの一撃か……。

 

「え~すごいっ!いいなぁいいなぁ」

「ほい、プレゼント」

「えっ!?いいの!?悪いわよ?」

 

そう言いながらすでにイルカの背びれを掴む上田。

 

「まぁ元からそのつもりだったしな。」

「ありがとう~カバンに……あれ入らないわね……」

 

上田はイルカを無理やり、カバンに押し込もうとしていたが、そのうちに諦めてゲームセンターから袋をもらい持ち運ぶようにしたようだ。




いい青春してるなぁ~・・・・・・

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