日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【3話】ダンゴムシ食べたい!

上田からの廃部宣告から1週間、また部活の日がやってきた。

 

いつも通り、部室で演劇部員たちの挨拶に小声で返しながら隅っこの文芸部活動スペースに向かう。

文化祭前は一応、小説を書いたりもしているが、今は完全にフリーの時期だ。

部室で座って、大会が近い演劇部を眺めて、帰るだけ。ごくまれに演劇部の台本をチェックしたりすることもあるが、ほぼ活動はしていないに等しい。

取り潰しになるのも納得と言えば納得だし、来年度末に廃部なら俺が在校生の間は関係ないじゃないか。

 

そんな風に思い、演劇部の練習風景を眺めること約20分。

 

庄司先輩の熱い指導が入る。

「リキ、だいぶ良くなったな!あとナイスフォロー!」

前に庄司先輩は厳しい熱血指導と言ったが、褒めるときはちゃんと褒めている。ここらへんが、やっぱり信頼されるのだろう。

 

と、そんな風にのんびりしていると、部室のドアが開いた。

反射的に演劇部員が「おはようございます!」と挨拶をするが、入室してきたのは演劇部員ではなく上田だった。

なんで生徒会の会長さんが部室に?演劇部に復帰か?

 

「お邪魔しまーす!」

 

上田は明るく挨拶しながら、俺の元に来る。え?目的は俺か?

上田は文芸部活動スペースに来て近くのイスに座る。そして普通に俺に話しかけてきた。

 

「去年と変わってないな~。何もしてないでしょ?」

「まぁな。否定は出来ない。」

「確かに先輩がいたわけでもないし、何をどうしたらいいか分からない今時の若者みたいになるのも分かるわ」

 

今時の若者なのはお互い様じゃないか。

 

「で、上田はここに何しに来たんだよ。」

「鈴木くんに会いに来た!」

「はい!?」

「っていうのは冗談で、文芸部のことよ。」

 

ほんの一瞬、動揺してしまった。というか上田は案外、お茶目なんだな。生徒会長という堅苦しい肩書きの人間とは思えない。ちょっと不安なところでもあるが。

 

「きっと『実績上げろ』って言われても何をしたらいいか分からないだろうなぁって思って様子を見に来たのよ」

 

俺の考えはお見通しかよ。

 

「で、実績をどうやってあげるかの方法は見つかった?」

 

うげぇ……。そうストレートに聞かれると困るな……。俺表情を見て、答えを聞く前から上田はしゃべり出す。

 

「やっぱり図星ね……。確かに1人で考えても何も思いつかないだろうし、大人の事情が相手だから覆すのは難しいって気持ちも分かるわ……。」

 

俺がそこまでやる気じゃないだけなんだがなぁ……。上田はとても好意的に解釈してくれているみたいだが。

 

「もしかしてなんだけど……鈴木くんは文芸部で1人だし、そこまで力も入れてないし、卒業と同時の廃部なら、それもアリかなーっとかて考えてる?」

 

前言撤回。すべて見透かされているみたいだ。

 

「あはは!やっぱりね~。」

 

割とクズな面がバレたような気もするのだが、上田は朗らかに笑う。ここまでお見通しの上で乗り込んでくるって……会長としての器はある人間なんだなぁ。

 

「でも、それじゃダメ。前も言ったけど、大人の事情に抗いたいの。だから来たってわけ。私のわがままだから私も協力する。」

 

確かに廃部に反対なのは俺より上田の方だな。だからそれを行動で示しているというわけか……。

 

「悪いけど拒否権は無いわよ?」

 

どうやら逃げ場はないらしい。まぁ上田は信用も出来そうだし、そこまで言うなら俺も廃部にならないように出来るだけ頑張ってみるか。

 

「で、何をしたらいいんだ?」

「ほら~それ!鈴木くんは文芸部の部長なんだから自分で考えてみなよ!」

「くっ……もっともなことを……」

 

いきなり言われても難しいな……。

 

「じゃあ単純に、廃部にならない部活ってどんなだと思う?」

「うーん……まぁ部員がいっぱいいれば無くならない?」

「そうよね~どこか絶対に廃部にしなければいけないってなったら、部員が100人以上いる吹奏楽部を廃部にしようとはならないよね~。じゃあ文芸部も部員を増やしてみたら?そうね~30人も集まれば廃部なんて声上がらなくなるわ!」

「30人て……うちの学校、兼部はアリだし幽霊部員でも在籍してればOKか?」

「あのね……一応、仮にも生徒会長に幽霊部員はアリかなんて聞く?」

「……ごめん。」

「まぁ私からOKとは言わないけど、そもそもあと29人も入部届を書いてくれるアテがあるの?」

 

確かに言われてみれば怪しい。

 

「それに幽霊部員が明らかになったら、それをネタに先生たちが廃部に動くと思うわ……」

 

確かに、あり得なくはないな……。つまり部員30人なら活動する部員を30人集めろと……。一応、実は演劇部にゴーストライターはいるんだがなぁ……。それで1人……。あと28人とは、まぁ無理な相談だ。

 

 

「俺、ダンゴムシ食べたい!」

そうか……ダンゴムシか……って、え?今の庄司先輩?

「あ、庄司さんの代役みたいね」

上田が解説する。どうやら休んだ部員の代わりに庄司先輩が練習に入ってるらしい。

上田も気になって見てしまうようで、結局この場面の練習風景を10分近くずっと見てしまった。

 

「つい見ちゃったなぁ。文芸部のために来てくれたのにすまんな。」

「いいわよ~。庄司さんの小学生役なんて見れないしさ~。今日はいいもの見させてもらったわ~」

 

俺は少し申し訳なくなったが、上田は笑いながら流す。ついでに話題も流れてしまった。

 

「さて、私もそろそろ生徒会長の仕事に戻らなきゃ。じゃあ鈴木くん、文芸部の実績作り考えておきなさいよ~。私も手伝うからさ。また次の活動日ね。ばいはい!」

 

まぁ当然っちゃ当然だが、やっぱり考えるのは俺の仕事か……。部員30人なんて出来るのか……?というか次の活動日も上田は来るつもりなのか……。会長になったからって大変だなぁ……。

 

 

ん?上田は最後に「生徒会長の仕事に戻らなきゃ」って言ったな。ここに来ていたのは生徒会長の仕事としてではないって意味か?それとも単なる言葉のあやか?意外と上田は何も考えていないような気がするし、何も考えていないように見えるだけなのかもしれないし……。分からないな……。




ごめんなさいサブタイで釣りましたww

生徒会長の上田さんはなんでこんなに文芸部に肩入れするんでしょうねぇ……
まぁ大人の事情に抗いたいからなんだろうけども……

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