日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【31話】賞金100万円

その日の晩、上田からメッセージが来た。

今日のお礼だけで告白のことは触れられていない。

もうバレちゃった以上は仕方ないので、俺は開き直って返事をする。こちらこそ今日は来てくれてありがとう、楽しかった、また誘ってもいいかなっと……。

 

「一応、受験生なんだし節度はもってね!」

 

上田からの返事はそんな感じで可とも不可とも言わないものだった。

実際、どう思われているのか不安になる。

ただ聞くのも怖いし、本人は保留と言った以上、答えをもらえるまで待つしかないよな……。

 

 

さて、それから数日後。今日は週に一度の部活だ。

午前中はお互いの作品を交換して読みながら誤字脱字をさがす。

午後からは虎谷が見つけ出した小説応募に参加する。

もはや部活が事務作業で、家で文芸部らしい活動をしてると言っても良いレベルだろう。

 

「賞金が出るところの方がいいですかね~?」

 

虎谷はそんな事を聞いてきた。

 

「まぁ大人の事情は金で黙らせることができるならなぁ」

「はい、鈴木さんの作品をそういうとこに応募しました!」

「相変わらず仕事が速いなぁ」

 

そう言いながら虎谷が応募したサイトを見てみる。

どれどれ……最優秀作品は賞金100万円と弊社読み切りに掲載、さらに弊社より新作の連載を……ってどう見てもプロなレベルじゃねぇか!

賞金100万円ってレベル高すぎて怪しいし。

 

「もしかしたら引っかかるかもしれないですよ」

 

どっちかというと身の丈に合ってない応募をしてる時点で俺たちの方が罠にひっかかったような気分だ。

 

「罠ってなんですか?」

「ん?あぁ個人情報が抜かれる的な?」

「大丈夫ですよ。」

「あぁ学校名と文芸部で応募した?」

「いえ、鈴本善治で応募しました。」

「偽名じゃねぇか!?しかも偽名って分かりにくいし!せめて明らかなペンネームみたいなんにしてくれよ」

「まぁまぁ。じゃあ鈴本善治をペンネームにしましょう。」

 

こんなショートコントみたいなやり取りをしながらポチポチとパソコンを操作して、色々な賞などに投稿する。

ちなみに俺の作品の方が数が少ない上に虎谷は異様に作業が速い。

虎谷は良作を大量生産しているため、俺が読んで誤字脱字をチェックするにも時間がかかる。

結果として俺が忙しく作業に追われてる中、虎谷が先に暇になって俺に話しかけてくる流れとなっている。俺にも虎谷を圧倒できるだけの質と量を書ける文才があればなぁ。

 

「鈴木さん、まだですか?」

「すまんすまん、あと5分」

「えぇ~ほらぁもう帰る時間ですよ~」

 

活動時間の終わりが近づいてくると虎谷が煽ってくる。

ここだけ切り取ると俺が書いてて虎谷が編集みたいだが、現実は真逆という意味不明な事態だ。

 

「お疲れ~おっ!ちゃんと活動してるね~!」

 

そこに上田までやってきた。ややこしい状況をさらにややこしくしそうだな。

 

「ん?鈴木くんどうしたの?私の顔に何か付いてる?」

 

逆になんで上田はこうも平然としてるんだよ。

 

「ほら、鈴木さん!よそ見しないでチェックしてください!」

「は、はいごめんなさい!」

 

もうちょっと上田と世間話をしたいところだが、バッサリと斬られる。

上田と世間話をするミッションはあえなく虎谷に奪われてしまった。

それはそれで色々な意味で気になって作業が進まないんだが……。

 

「虎谷さんうまく尻に敷いてるわね~」

「敷いてないですよ」

「いやいや言うわね~なかなかスパンって言ってたわよ~」

「敷いてないですって」

「そっかぁ~面白い関係ね~!」

 

上田が朗らかに笑ってる。俺も混ざりたいが、作業もあとちょっとだしな。

ここで終わらせなきゃ虎谷にまた煽られる。俺、完全に尻に敷かれてるなぁ。

 

「そうそう文芸部としての調子はどう?」

「まぁまぁですかねー」

「確か、いろんなところに応募してるんだっけ?」

「はい、もう30作くらいですかね」

「すっすごいわね……」

「そーでもないですよ」

 

ちなみにその30作のうち23作くらいは虎谷が書いている。

完全に俺の立つ瀬は無い。せめて今は自分の仕事をするしかないか。

色々な意味で話に混ざりたいんだがなぁ。

 

「よし、じゃあその調子で頑張ってね!夏休みが明けたら、文化祭ね!私の方でもいくらくらい集めたら実績になるか調べとくわね」

「はい、よろしくお願いします」

「うん、じゃまたね~」

 

あら、上田が帰ってしまう。せめて挨拶くらいは虎谷も怒らないだろう。

 

「お疲れ様ー文化祭の件よろしくなー」

「うん。お疲れ様~」

 

普通に手を振りながら上田は帰っていった。

ホントに何事も無くほっとしたような、ちょっと寂しいような……。

 

「で、鈴木さん終わりました?」

「ん?あぁ後はこれをクリックしたら投稿完了だ」

 

俺はそういいながら、最後のワンクリック。今日の部活はこれにて終わりだ。

 

「はい、じゃあお疲れ様ですー」

 

虎谷は俺が作業を完了させたのを見てから、秒で帰り支度を済ませる。

何気に作業完了は待っててくれたんだな。

俺が帰り支度をする頃には、もう校内にいないし、それだけ一瞬で下校して何があるのかは分からんが……。

あ、彼氏に会いにでも行っているのか。いいなぁそれ……。

俺は宙ぶらりんの状況だし1人で下校するか……。


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