文芸部の方針が決まってから数週間。
部活はとりあえずは書くという作業が中心となっている。文化祭の少し前までに色々と書きためて、その中から良い作品を冊子に入れるつもりだ。
2冊も作るのだから、そりゃ沢山書かないとな。結局、虎谷にはかなわないんだが……。
そして俺はもう一点、気になっていることがある。
上田の件だ。
告白の返事をもらってないまま、もうすぐ1ヶ月になろうかという事態だ。
ちなみに言うと、この間もSNSで雑談したりはしていて部活以外に全く接触がないわけではない。
が、一方でこの話題に触れることもない。
なんだか中途半端に胸を締め付けられるような感覚だ。このまま自然消滅するくらいなら、いっそ振られた方が気が楽なんだがなぁ。
いや、振られたいわけじゃないけどな。
そんな風にモヤモヤしながら今日も下駄箱から靴を取り出し、帰ろうとする。
ちなみに同じ時間に部活を終えたはずなのに虎谷は既に下校している。普通に片付けと動きがめちゃめちゃ速い。
「あら?鈴木くんも今帰りー?」
その声に振り返ると、ちょうど上田がいた。
「おぉお疲れー」
「お疲れ様~」
俺としては出来る限り自然に振る舞う。
上田もぎこちなさとかは特になく至って自然だ。それが演技なのかマジで何も思ってないのか分からないが。とりあえず自然に自然に……。
顔を見合わせてもSNSの時と変わらない雑談だな。
「この時間まで生徒会って大変だな」
「フフッ、まぁね~。って鈴木くんもでしょ?」
「ん?まぁ俺は好きでやってるだけだからな。」
「そっかぁ~。まぁ私も無理矢理、生徒会長にさせられはしたけど、今はそれなりに楽しんでるのよ。いろんな意味で将来に役立ちそうな勉強も出来るし。」
「いろんな意味って……あれか。学校の授業では教えてくれないタイプの勉強か」
「そういうこと~。」
「上田はすげぇな。もう社会に出てからのところまで考えてるんだな……」
「そうね~。夢は諦めたし、そうなると現実の世界でまぁ幸せになる方法を探そうかなって」
「そうか……。諦めた、か……。俺みたいに何の夢も希望も無い人間からすると、もったいないなぁなんて勝手に思っちまうな。」
「もったいない……か。ありがとう。でも良いのよ。生徒会長になってからは現実もよく見るようになったし。」
俺は直感した。
多分、この言い方は諦めきれてないのを無理に言い聞かせているな、と。
ただそこまで上田の心の内にもぐり込もうとするのも良くないか……。
「っていうか鈴木くんも夢は知らないけど、今は希望はあるじゃない?」
「ん?」
「文芸部を存続させるって希望が」
言われてみればそうだったな。
というか好きバレしてるから理由を口に出しても、ある意味で問題は無いか。
「それな、上田にいいところを見せたいだけだよ。」
「え!?」
「もちろん後輩が来て部活を守らなきゃってのはあるが、根本的には上田の『大人の事情に抗いたい』ってので、なら俺も…ってなっただけだ。」
「えぇ……もしかして、なんか悪いことした?」
「いいや、むしろ本来、やらなきゃいけなかった部活のことにも目を向けられるようになったし。感謝してるぜ。」
「そう?だったら良いんだけど……私の勝手に巻き込んだりしてない?」
「まぁ正直、巻き込まれてはいるかな。おかげで上田とは知り合ったんだし、俺にとっては良いことばっかりだったかな。」
「あっ……」
雑談をしているとすぐ校門に着く。帰る方向が違うため、上田とはここでお別れだ。
「じゃお疲れ様なー」
俺は上田に声をかける。
「あ、鈴木くん!」
「ん?どうした?」
「こないだの告白の件なんだけど」
おっと、ここで急にか……!
「長い間、保留でごめんね!今、文化祭とかでバタバタしてて……」
あっ……角が立たないように言われるだけで、このパターンは……?
「だから今すぐ、考えられないのよ。もうちょっと保留でもいい?」
「うん……ん?あ、あぁ……はい」
「待たせちゃってホントにごめんね。文化祭が終わったら色々と向き合える……と思うから。」
まさかの保留続行か……。良かったのか悪かったのか……判決の時期だけズラされた気分だな。
「まぁ、気にしてない……ことはないけど、大変なのは分かっているつもりだ。体調だけは気をつけて、無理しないようにな」
「ありがとう。じゃまたね!」
「おぅ」
そんな挨拶を交わして俺たちはそれぞれの道へ帰る。文化祭後まで返事はお預けか……。
まぁある意味、俺も文芸部として部活に打ち込めるな。
なんだったら、俺のこの話ごと小説にしてしまうか……。そんな想像すらしてしまう。泣いても笑っても文化祭まであと少しだな……。