日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【36話】やったか……!?

そしてやってきた文化祭前日だ。明日から2日間の文化祭が始まる。

 

まずは文芸部に行き、明日の動きについて確認する。そして同人誌を……

 

「はい、あとはやっときますんで鈴木さんは生徒会の手伝いに行ってくださいホラ」

 

虎谷はそう煽ってくる。まぁ生徒会の手伝いも大事かもしれんが俺は文芸部員だ。

優先すべきはこっちだと思う。

 

「私1人で出来ますからホラ、早く向こう行ってください。」

 

なんだかえらく急かしてくるな。

 

「『お手伝い』が大事でしょ。それにだいたいの準備は昨日までに終わらせてますから。」

 

そこまで言われると、素直に引き下がった方がいいのか……?

まぁ虎谷の言うとおり、準備はほとんど片付いているしな。

 

「分かった。じゃあ行ってくるから明日の朝、よろしくな。」

「はい。」

 

淡白なのに強情な虎谷の見送りを受けて俺は生徒会の手伝いに行く。って言ってもどこにいきゃいいんだ?

 

とりあえず生徒会室に行くと、貼り紙があり不在にしていて体育館にいるとのことだ。

で、体育館に向かってみると、だだっ広い体育館で上田がパイプ椅子を並べている。

体育館は明日からクラス劇などに使われるので、そのための客席作りだろう。

 

ただ気になるのは作業している人員が明らかに少ない。

 

俺に気付いた上田が手を振りながら笑顔で駆け寄ってくる。

このシーンだけ切り取ればなんとも微笑ましい胸が高鳴る瞬間なんだが、現実はそうも行かないんだろうなぁ。

 

駆け寄ってくる上田以外に2人が俺のところへやってきた。

誰かと思えば石橋先生と水原だ。

サブキャラ大集合かよ。

 

「お疲れ~来てくれてありがとう~」

 

上田が手を振りながら言うがまさか作業してるのってこの3人だけか。

石橋先生は素の表情で話しかけてくる。

 

「お疲れ。文化祭設営の手伝いに来てくれたんやな?」

「えぇはい」

「助かるわ。ほんならとりあえず、俺が椅子出していくから、それを並べていってくれ」

「並び順とか間隔はどうしたら……?」

「適当でええで。こんなもん並んでたらええんやから。」

 

えらいむちゃくちゃだな……。

 

「ま、そういうことだから頑張っていきましょ!」

 

上田はそうやって明るく話しかける。

 

「N700系普通車のシートピッチは1040ミリだからそれくらいだとかなり余裕があると思います」

 

水原が何か言ってるが、一切何言ってるか意味が分からない。

 

「というか人数これだけか?」

「これだけね!」

 

俺の質問に上田は笑顔で答えるが、目が笑ってない。

やる気のない生徒会役員が大半という以前の話も思い出し、察してしまう。

なんなら何故かいる水原も生徒会の人間じゃないはずだしな。

 

石橋先生が体育館のステージの下に収納されたパイプ椅子を引き出し、それを3人で手分けして並べていく。

もっと上田とダベりながらのんびり作業したいところだったが、どうやらそれは叶わないらしい。数が多すぎる。椅子を引き出し終えた石橋先生が俺たち3人に手招きをする。

 

「野郎3人で椅子を持って行くから上田はええ感じに並べてくれ」

 

石橋先生のその号令で完全に役割分担されてしまった。

まぁ確かに女の子に椅子を運ばせるのも申し訳ないしな。

そうこうしているうちになんとか体育館全体にイスが並んだ。

綺麗な観客席の完成だ。

 

俺の気持ちとしては「やったか……!?」って感じなんだが、これはフラグだ。

つまりまだ作業はあるらしい。

石橋先生が俺たち3人に言ってくる。

 

「俺と水原はこれから、音響とかのセッティングがあるんやけど鈴木は分かるか?」

 

残念ながら、機械類はほとんどわからん。ましてや専門的なのは完全にダメだ。

 

「アカンのか………上田は?」

「キカイハサッパリワカリマセン」

 

上田も珍しくカタコトだ。

 

「マジか……ほなもう仕方ないから上田が見回り行ってもらおか。」

 

どうやら校内で何か変なところがないか、なおしておかなきゃいけないものが出ぱなっしになってないかの確認をするらしい。

 

「鈴木も行ったってくれるか。不審者でもおったりしたら盾になったってくれ」

 

上田の見回りに同行することに異存は無いが、縁起でもないことを言うなよ……。

 

「分かりました。じゃ鈴木くん、行きましょう」

「了解」

 

既に日は落ちているし、下校時間も過ぎている。

さっさと見回りも済ませた方が良さそうだな。

 

「ちなみに私もあんまり機械よく分かんないんですが……」

水原もそんなことを言ったが

「んなもん適当につないで音が出たらええんや」

と石橋先生に一蹴されていた。

 

なんか俺たちとも違う扱いを受けているな。まぁ石橋先生と水原の関係については俺には関係ないな。そんなスピンオフまでフォローは出来ない。

 

「じゃあよろしくな」

 

石橋先生はそれだけ言う。え?懐中電灯とかは無いのか?

確か下校時間は過ぎてるから体育館とか職員室以外は照明も落ちてるよな?

 

「スマホのライト使えや。ほな、はよ行ってきてな。」

 

石橋先生はそう言うと追い出すような仕草をする。

 

「仕方ないわね。行きましょ」

 

上田はスマホを取り出しライトを点灯させる。

これ以上、なんか言っても時間の無駄かな。上田が体育館を出ようとするので俺もついて行く。

図らずも2人にされてしまったな……。

 

 

電気が消えた夜の校舎というのはなんだか不気味だ。

正直、来たくないとすら思う。肝試しとかを学校でやりたがるのも納得だ。

 

さて、俺も肝試しのような扱いを受けている。

スマホのライトはあるが、あれはどちらかというと一筋の光というような感じで全体は照らしてくれない。

そんな不気味な場所を好きな人と2人で歩くというのはなんとも複雑な心境だ。

 

「まぁ石橋先生はあんなこと言ってたけど不審者なんていないわよ~」

「そりゃ……そうだけど景色からして不気味じゃないか?」

「まぁ確かにそれはね……。」

 

上田と並んで夜の校舎を見て回る。

教室外に出ては行けないモノが出ていないかと、下校時間を過ぎて残っている生徒がいないかどうかの確認だ。無言で回るのもしんどいので、上田に話しかける。

 

「いよいよ明日、文化祭だな」

「そうねぇ~」

「上田は文化祭の間ってどうしてるんだ?」

「ん?もしかして誘ってる?文化祭でどっか遊びに行こう的なお誘いしてる?」

「ご名答だ。じゃ単刀直入に文化祭、一緒に見て回らないか?」

「良いわよ……と言いたいところなんだけど、生徒会は見ての通りだしゴメン!約束は出来ない」

「そうか……」

「そんなしょんぼりしなくても……あ、うん!どうなるかは分からないから当日に連絡とかでもいい?」

「おぅ!大丈夫大丈夫。嫌なら無理にとも言わないし。」

「嫌ってことは無いわね。仕事してなきゃ1人でいると思うし、誰かといた方が楽しいからね」

 

こう言ってくれるだけ嬉しくは思うが、そこに深い意味は無いんだろうなぁ、とも思ってしまう。

 

「ん?ストップ!」

 

上田は歩みを止める。何かに気付いたらしい。

 

「人のいる気配がしない?」

 

言われてみると確かに微かな音というか振動が聞こえる。

 

「多分、上の階ね。次に見回りに行く場所だわ……。」

 

まさかマジで不審者か……。

誰だよ、そんな死亡フラグ立てたんは……。

 

階段までやってきた。ここから上の階に上がるわけだが、もし不審者と対峙するなら、上田にはここに残ってもらった方が安全か?

ただ不審者が複数だったり別の階段から降りてきたりするリスクを考えるなら、上田を1人にしては危険だ。

 

「どうする?ここで待つか?」

「ん?なんで?見回りって元は私の仕事よ?」

「まぁ……万が一、不審者がいたら……」

「あぁ~……へぇ~鈴木くん守ってくれるんだ?」

「当たり前だろ?」

「じゃあ……」

 

ニタニタって笑った上田は半歩下がって俺の服の裾をつまむ。

時々、反則的にかわいいことをしてくるんだよなぁ……。心臓がヤバい。

 

「はい!これで盾になってね!……なーんて……」

 

おい、冗談のつもりかよ。

 

こんな役得、冗談にはしねぇよ。

 

「よし!盾になるかなら行くぜ!」

「えっ……」

 

驚きながらも、というか驚いたからなのか、俺が歩き出すと上田はその手を離さないままついてくる。

かわいい。

上の階に着くと電気がついた教室がある。

 

「あれは音楽室ね……」

 

上田はそう言いながらスマホを取り出し電話をかける。

片手でそれをして、もう片方は俺の服をつまんだままだ。

 

「もしもし石橋先生?音楽室で消灯漏れが……」

 

上田が先生に報告してる中、電気が消えた。俺たちの気配に気付いたのかもしれない。……人がいることは明らかだな。

 

「消灯したので中に人がいるのは確定です。えぇ……えぇ……不審者なら110番&速やかに現場から離れて、学生なら臨機応変に。電気が消えて気付かなかったなら仕方ない。ですね?はい」

 

通話が終わった上田は改めて俺を見て言う。

 

「聞こえてた?」

「あぁ。俺1人で見てこようか?」

 

ここでカッコをつけなきゃ男が廃る。

 

「………行く。私も行く。」

 

上田はそう言って裾をつまんだまま離さない。仕方ない、このまま行くか。

こっそり音楽室を覗くと何やら人がいるが息を潜めている感じに見える。

スマホのライトで照らしてみると、どうやらバンド演奏の練習をやってる途中で慌てて隠れたような雰囲気だ。

上田は俺に隠れながら後ろから窓を覗き込む。

 

「あら?軽音部さんじゃない?」

 

安心したのか俺からスッと離れて音楽室のドアを開け、躊躇なく電気をつける。

 

「やばい!生徒会が来たぞ!!」

 

軽音部の元気そうな女子がそうやって言う。

上田は呆れたような安心したような笑顔で応える。

 

「はいはい。で、何やってるのよー?」

「見てわからんかー!?練習だ!練習!」

「今、分かってる?下校時間過ぎて、かなり経ってるのよ?」

「わーってるよ!でもこーゆー徹夜で作業とかが楽しいんじゃん!」

 

生徒会長に食い下がる軽音部の女子。

なんか本来ありそうな姿だな。

ちなみに上田はそう食い下がる軽音部員を尻目にスマホを取り出して電話をかける。

 

「そんなぁ~……お代官様ぁぁ……」

「もしもし?石橋先生?音楽室の件ですが私の気のせいでした。はい、異常なしです。」

 

何!?私(上田)の気のせい!?

 

「はい。私たちは何も見てないから。鈴木くん行きましょ。音楽室の電気は気のせいだったわ。」

「上田……なんで?」

「私は生徒会長。生徒の味方だから。それに悪いことしてる自覚があるならバレないように出来るでしょ?」

 

上田の言葉に、5人の軽音部員たちは目をキラキラさせている。

 

「じゃあ明日と明後日、楽しみにしてるからね!」

 

そう言いながら、上田は音楽室から立ち去ろうとする。

俺も一礼してここから離れるとするか。

 

 

 

「さっきはありがとうね」

 

上田は急にお礼を言ってきた。

 

「ん?何がだ?」

「さっき。1人だったら多分、心細かったから。一緒に来てくれてありがとう。」

 

俺としては役得くらいに考えていたから、なんとも言いづらいな……。

 

「さ、他も見回りしましょ。ほかにも残ってる生徒がいるかもしれないし」

「いたら、また見逃すのか?」

「相手次第かな?意味もなく悪気もないっていうのは帰ってもらうかな?」

「なるほどな……生徒のための生徒会長。残ることがためにならないなら帰すということか。」

「そういうこと。明日の文化祭も楽しんでもらうために私はやってるのよ。」

「えらいな……」

「へへ~」

 

上田の笑い顔は真っ暗な校舎でよく見えなかった。どういう表情だったんだろうな。


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