日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【39話】一緒に

そして早くも1日目が終わる時間がやってきた。

悩み相談作戦はうまく行ったと言えばうまく行ったのかもしれない。

持ち出した冊数はすべて売れた。

お客さんの話を聞いて真面目に考えてで話をしていたもんだから回転率は悪かったがな。でも俺が店番してても回転率は悪くなるからこっちの方がいいのかもしれない。

 

「どうです?売れました?」

「持って行った分は売れたぜ」

「お~!」

「そっちは?」

「まぁまぁまぁまぁ」

 

そう言いながら虎谷の手元を見ると在庫はほとんど残っていない。あと数冊だ。マジかよ……。

 

「補充はしてないんでまだ部室に残ってますけどね」

 

それはそうなんだけどな。実はまだ部室に全体の6割近い在庫はある。

 

「一般がいない今日、全体の4割弱売れたなら上出来だろう。と俺は思うが……」

「まぁ……そうですね」

 

もちろん明日は今日より売らなきゃならないわけだが、ある程度の満足をしたってバチは当たらないだろう。虎谷は不満そうな顔をしているのが気になるが……。

 

「明日の方が人は多いし今日より売れるって」

「そうですかねー……」

 

そんな風に話していたところに上田がやってくる。

 

「お疲れ様~鈴木くん探したよ~」

「俺か?どうした?」

「出張販売うまくいった?」

「おぉうまくいった!あの悩み相談の貼り紙だから話しかけてもらいやすかったし助かった!」

「おぉ~!」

 

なんだかニコニコと上機嫌になる上田とそれを見てちょっと虎谷が不機嫌そうな顔になる。

 

「鈴木さん、私への感謝は?」

「そうだったな。虎谷が出張を言いだしてくれたんだもんな。ありがとうな。」

「フフッ」

 

なんか感謝しろと言う割に真面目に感謝を伝えると鼻で笑われた。出会って半年になるがやっぱり掴みにくいなぁ。悪い子じゃないのは間違いないんだが。

もう一歩だけ押すかな。

 

「よし、何かスイーツでも食べようか?おごるぜ?コンビニで良いかな?」

「あーチーズケーキ食べたいです。コンビニ行きましょ。」

 

おごられるのはちょっとと断ることも多い虎谷が珍しくアッサリ受け入れたな。

案外、慣れないこと続きで疲れているのかもな。

 

「いってらっしゃい~」

 

上田が笑顔で手を振るがちょっと待てよ。

 

「上田は来ないのか?」

「え?私は文芸部じゃないけどいいの?」

「いつも助けてくれるし、感謝してるって意味じゃ虎谷だけじゃなくて上田にも感謝してるぜ?用事がなかったらせっかくだし来てくれよ。」

「う~ん……じゃあごちそうさまです!すぐに帰る準備するわ」

「よし!」

 

つい声にガッツポーズが出てしまったが、まぁそれはともかく3人でコンビニに向かう。

コンビニでチーズケーキを買ってから3人は解散して帰る。妙に疲れた雰囲気で会話は少なくケーキを買ってお礼と挨拶だけで帰る。

 

俺も帰宅すると何ともいえない肩こりに襲われる。知らない人に話しかけ続けたストレスが一気に来たんだろう。

しんどくなってゴロゴロとしていると、着信音が鳴る。

メッセージじゃなくて電話か……。珍しいな。

 

誰からだろう、と画面を見るとなんと上田だ。突然のことに慌てて出る。

 

「もしもし、鈴木くん?今、大丈夫?」

「おぅ大丈夫。」

「今日はチーズケーキありがとうね。美味しくいただきました~」

「おぅ良かった良かった」

 

このお礼を言うために電話をかけてきたのだろうか?

 

「それでね、一昨日の晩の話覚えてる?文化祭でどっか回ろうよって話なんだけど」

「おぉ覚えてる覚えてる」

「その件なんだけどね。ちょっと時間が作れないのよ……。」

 

あらら……。

そりゃ俺にとっては非常に残念だが、あの生徒会の様子なら無理もないのか……。

それとも俺を避けているのか……?

後者は考えにくいし考えたくもないが……。

 

「本当にごめんね!それでね、いろんなところを見て回るのは出来ないんだけども……」

 

ん?上田の話には続きがあるのか。

 

「私ね、明日の午前中は2年のクラス劇を観なきゃいけないのよ。優秀賞とかそういうのを決めるためにね。」

「へぇ……あれ、生徒会で決めてるのか」

「ホントは先生と生徒会が話し合って……なんだけどね。多分、他の人はそんなことするつもりが無いみたいなのよね。で私1人で多分決めると思う。」

「ひぇっ……寒気のする話だな……」

「でね、もし明日の午前中にヒマだったら一緒に2年のクラス劇、観ないかな?さすがに1人では決められないし」

 

俺としては嬉しい誘いだが、元演劇部員とただの素人じゃ、俺には能力不足じゃないかな?

 

「お芝居は楽しませたもん勝ちだから、元演劇部とか関係無いわよ。それに……」

「それに?」

「鈴木くんの文化祭を一緒に回ろうって誘いを断ってるわけだしね。埋め合わせ……には、ならないと思うけど……鈴木くんが良かったら一緒に観劇くらいはどうかな?って」

「そうか……」

 

上田が俺の軽い誘いにそこまで向き合ってくれていたのか……。

 

なら俺の回答は一つだな。

 

「分かった。じゃあ明日の午前は2年のクラス劇を観に行くよ。あんまり舞台のことはよく知らんからお手柔らかに頼むな。」

「ありがとう!よろしくね♪」

「こっちこそ、よろしく!」

 

これにて通話終了。俺にとっては最後の文化祭で好きな人と過ごせる時間が作れた。

色んな出店を見て回ったりは出来ないが、クラス劇を観るのもなかなか面白そうだしな。

 

明日が楽しみだ。


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