日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【43話】一旦、保留

文化祭から数日後、明日は生徒会長の選挙という形だけのイベントが待ち受けている。

つまり上田が生徒会長でいるのも明日までということだ。

思えば上田が生徒会長になって、生徒会室に呼び出され、文芸部の廃部方針などを聞かされてから1年が経つのか……。

 

ちなみに俺は文化祭をもって文芸部引退ということになり、いまは虎谷が1人で部活をしている。

といってもまだその体制も始まって数日なんだがな。

 

そんな今日は上田から生徒会室に呼び出された。

呼び出しは俺個人ではなく文芸部あてだ。つまり文芸部の廃部問題に結論が出たのだろう。

俺は引退してるし、虎谷1人で行ってこいと言うべきなのかもしれないが、俺も結果は気になる。こればっかりは俺も生徒会室に一緒に行くことにする。

 

 

さて、虎谷と2人で生徒会室の前にたどり着き、俺はここで深呼吸。

 

「入らないんですか?」

「入る!……入るけど……ってか緊張しないのか」

「まぁ」

 

良いのか悪いのか虎谷はいつも通りだ。

 

まぁこの顔を見てると、俺は先輩なんだしドンと構えて行かなきゃな、とは思う。

生徒会室の扉をノックすると、中から上田の声が聞こえ入室を許可される。

入るといつものように上田がいて、他には誰もいない。

 

「いらっしゃい♪まぁ座って座って」

 

なんか逆に怖くなるようなノリの軽さだな。

虎谷は普通に促されるがまま近くの席に座る。なんでそんな堂々としてられるんだよ。

 

まぁ今さらジタバタしても遅いわけで、俺も破れかぶれ、虚勢でしかないがドシっと構えて近くのイスに座る。

座ったことを確認して上田は話し始めた。

 

 

「今日は来てくれてありがとう。もうお察しかもしれませんが、改めて。今年の文化祭までの活動記録などを基に文芸部の廃部撤回などを求めて抗議をしました。そして先生方から一定の回答が出ました。今日はそれをお伝えするために文芸部を呼び出しました。」

 

 

上田は過去になくもったいぶってくる。

この妙に堅い言葉を並べてくる感じはさながら初期状態の石橋先生みたいだな。

 

 

「で判決は?」

「判決って、そんな大げさじゃないわよ~。じゃあ言って良い?」

「あぁ言ってくれ」

 

「落ち着いてちゃんと最後まで聞いてね………………文芸部は廃部」

 

 

 

 

マジか……やっぱり大人の事情には一切勝てなかったのか……。俺は上田の発言で肩を落とす。

 

 

 

「……が一旦、保留となりました。」

 

 

はい?保留?

 

 

「だから最後までちゃんと聞いてねって言ったじゃない♪」

「聞いてますよ。」

「虎谷さんじゃなくて鈴木くんに言ったのよ。過去最高にわかりやすい顔してたから。」

「ふふっ」

 

なんだか女子2人が俺をディスってる気がするが……。

 

「とりあえずちゃんと説明するから聞いてね。文芸部の廃部方針は変わらないものの時期が今年度末から来年度末まで保留されることになりました。」

「全部の部活がか?」

「いえ、文芸部だけよ。やったじゃない!文芸部は文化祭のアンケートとかでも評判が良かったのよ。あと売上金もあったし。さらに文化祭以外でも鈴木くんが書いた『クズな俺と今カノと元カノ(未来形)』が賞を取ったのもあるわ。そういう多数の目に見える活動実績が廃部決定をひっくり返したのよ!」

「おめでとうございます。」

 

かなり朗らかに笑いながら説明してくれる上田と、何故か淡々と祝う虎谷。

まぁ、でもこれで俺もちゃんとした形で後輩にバトンを渡せたことになるかな。

 

「虎谷さんなら大丈夫と思うけど、一応言っておくね」

「なんですか?」

「今回は廃部が保留になった。大人たちはまだ廃部にするのを諦めた訳じゃない。来年も今年と同じかそれ以上のレベルを求められるからそのつもりでね」

「分かりました。」

 

虎谷は淡々と答える。まぁ俺よりも有能な虎谷のことだから大丈夫だろう。

 

「それと鈴木くん、ありがとうね」

「んん?何がだ?」

「廃部を阻止して!って最初に言い出したのは私だからさ。今回、保留ってことだけど事実上、廃部は阻止できた。本当にありがとう。」

「あぁ~……いやいや、こっちこそ上田の協力あってこそだからな。ありがとうな。あと虎谷も、俺についてきてなんなら引っ張ってもくれて」

「ふふっ」

 

このあと3人で数分程度、雑談をしてこの会合は終わりとなった。

 

 

「さぁ私の生徒会長としての仕事も終わったわ!明日からは新しい会長になるし!」

「そうだったな。上田も1年間お疲れ様!」

「上田さん、お疲れ様でした。じゃあ私は部活に戻りますね。」

 

虎谷が先にスイッと生徒会室を出る。続いて俺も出て帰ろうとする。

 

「あ、鈴木くん。ちょっと待って。私も帰るから。」

「ん?おぉ」

 

上田に呼び止められ一旦、止まる。上田が身支度を整えて出てきた。

 

「ちょっとだけ話がしたいんだけど時間ある?」

 

上田がそんな風に言う。なんだか珍しいことを言うなぁ。

 

「ちょっとついて来て」

 

上田からは、そんな風に言われて一緒に校門を出る。するとお互いに帰る方向ではない方に向かう。

 

 

 

どういうつもりなのだろうか。

・・・いや何となくはわかるんだが・・・・


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