上田に連れられ数分歩いてたどり着いたのは公園だ。閑静な住宅街の中の普通の公園だ。
公園のベンチに上田は腰を下ろして、俺に隣に座るように促す。
「改めて、文芸部の件ありがとうね。」
「ん?んん。俺こそ、上田に言われなきゃ何も出来なかったわけだしな。」
「怒らないで聞いてね。私さ、あんなこと言ってはいたけど正直、廃部になると思ってた。最初はそんことも無かったけど、石橋先生からそもそも廃部ありきで話が進んでると聞いてもう無理かなって。」
「俺も正直、あの時は無理だって思いはしたさ。石橋先生は何言っても機械的に同じことばっかり言うし。」
「でもそれを鈴木くんはひっくり返してくれた。頼んだ私が聞くのも変だけどさ、なんで諦めたり投げやりになったりしなかったの?後輩の虎谷さんがいるから?」
「まぁそれもあるっちゃあるがな。一番は上田だよ」
「私?」
「上田に良いところを見せたい。希望を叶えたい。もちろん大人の勝手に振り回されるのも嫌なんだが、一番はそういう……まぁ下心だな。」
「ふふっ下心って……。ある意味すごいわね。それでこの1年?」
「そうだな。年明けたくらいからだな。」
「諦めなかったの?」
「諦めそうになった時はあったが、やっぱり諦めきれなかった。」
「そう……」
ここで会話が一旦、止まる。周りには誰もいない。上田は俺の気持ちも知っている。
待ってくれと言われた文化祭も終わった。俺は改めて上田の方に向き直る。
「上田……」
「ん?何かしら」
何を言われるのかを察したように彼女は笑う。
「俺……上田のことが好きだ。付き合ってほしい。」
「しょうがないなぁ~。そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」
上田は笑いながらそう答えてくれた。
この答え、考えてたな…。
そう思いながらも、やっともらえたいい返事に俺も自然に顔が綻ぶ。
「そんなに嬉しいんだ……鈴木くん意外と純情なのね」
「うるせぇ!……はははっ……今日ほど清々しい気持ちなことも滅多にないぜ」
「そう……早速で悪いけど、私からのお願い聞いてくれる?」
「ん?どうしたんだ?」
「私たち、受験生だから受験が終わるまで遊びに行ったりとかは出来ないけど良い?」
「それはもちろん。」
「後もう一つ。大事にしてくれる?」
「あぁもちろん。」
「じゃよろしくね!」
上田はそんな当たり前のお願いだけ言うとウインクをひとつ。かわいい。
「あ、あとひとつ。いい?」
「ん?なんだ?」
「私のこと、名前で呼んで。」
「……江美。これでいいか?」
「鈴木くん……あー……いや、善治くん。これすごい恥ずかしいわね」
「……だな。」
上田の顔がみるみる赤くなる。
「善治くん、顔赤いわよ?」
「江美、そらお互い様だ。」
そんなことを言って笑いあう。なんだろう、この幸せは……。
このあと、俺たちはそれぞれに帰路へ向かう。
このままどっかへ遊びに行ったりするのは受験生という身分が許してくれなかった。まぁそういうことは受験が終わってからすればいい。
ここに至るまで長かったんだ。この先も長くて良いだろう。
ゆっくりゆっくりと歩んでいけばいい。