日常系は推理モノより事件が多い!?   作:あずきシティ

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【8話】ごめんね

「なんだって!?メ□スはキチ[ぴー]なのか!?」

「はい!メ□スは走らずに家でぐーたら寝ております!」

「おのれぇ……!」

 

 

 

俺は視聴覚室で今、クリスマスフェスティバルの演劇部公演を観ている。

大会の時、裏方だった庄司先輩は今回は役者らしく、練習の時に見たような悪乗りを全開している。

にしても、このメ□スは確かに走らないし、親友の処刑が迫る中でグータラ寝ているし自主規制を入れているとはいえ、キチ[ぴー]というのは色々とまずいんじゃないか。

 

そうは思ったが校内公演であり、なにより生徒会長にも大ウケなところを見るに、問題なさそうだ。

 

庄司先輩もいつも部活で指導している時より演じている時の方が、イキイキしているように見える。

 

 

 

さて、文芸部の本番は演劇部の公演が終わってからだ。

 

あらかじめ、同人誌を用意し机も設置済み。公演が終わったタイミングで、外に出て声をかけながら配る。

 

演劇部の舞台は無事に終わりカーテンコールとなった。

俺はこっそり先に退室し、視聴覚室前で同人誌を配布する準備をする。実は昨日、今回配る用の在庫は半分くらい出たんだよな。これはもう、今日で配り終わるかもしれん。

 

「どうもー文芸部でーす。同人誌の無料配布やってまーす。」

 

視聴覚室から出てくる人たちに声をかけていくが、なんと昨日と比べて今日はあまり皆、興味を示さない。なんだよ、演劇部のお客さんはノリが悪いなぁと思いかけて気付く。昨日と同じお客さんだ。そりゃ同じ冊子を2冊も3冊も要らないよな……。

 

結局、今日はほとんど受け取られないまま終わってしまった。

 

 

「お疲れ様。ごめんね、はい差し入れ」

 

昨日との落差に落ち込む俺に缶ジュースを持った上田が現れた。

 

「ありがとう。いくらだ?」

「いいわよ。私のおごり」

「いや、悪いって」

「受け取って。」

 

何故だか妙に気を遣う上田から缶ジュースを受け取る。ジュース代は受け取ってくれないようだ。

 

「ごめんね。先に言っといた方が良かったわよね?」

 

上田の謎の謝罪。

 

「今日は同人誌があまり受け取ってもらえなかったでしょ?」

「あぁ……その件か。」

「2日目以降は同じ人が観に来るから、こうなることは分かってたんだけど、うっかり言い忘れてた。ごめん。」

「ん?あぁ……なんだそんなことか。」

 

 

俺はてっきりこの深刻ムードだから『昨日は私が用意したサクラだった』とでも言ってくるのかと……。

 

 

「って私は神経に気にしてたのに『そんなこと』!?」

「だって、顔見てりゃ昨日と同じメンツなのは分かるし、深刻ムードだからもっと何かあったのかと……」

「むぅ……心配して損した」

 

上田はちょっとだけ怒りながらも内心は安心したような顔をする。

 

「ごめんごめん!お詫びにジュースおごるからさ」

「ほんと!?じゃあ自販機行きましょ」

 

すぐに機嫌を直した上田に俺はさっきのお返しで缶ジュースを買うことにした。

 

さて、この後も苦戦は続いたが、最終日でありビックイベントの吹奏楽部の演奏会のタイミングで配る作戦は功を奏した。

他の部活が校内行事だが、この吹奏楽部だけは、ご近所住民や保護者を巻き込んだビックイベントだけに、うまいことこれまで手に取らなかった人たちまで行き渡らせた。

 

吹奏楽部よ、勝手に俺の部活の土台にしてすまない。

うちの高校が志望校らしき中学生に渡せたし、吹奏楽部に行く新入生を1人でも横取りできたらなぁなんて邪な考えをしてしまった。

これまで無気力な部活だったが、本腰入れて活動していると何故かマジになっている自分がいる。結果に一喜一憂することもあるが、それを含めて楽しい。

この楽しさを教えてくれたのは、紛れもなく上田だ。今日で年内の学校は終わり。

明日から冬休みだし、冬休み中の部活は無い。年内、最後か……。上田に礼の一つでもしときたいんだが……。

 

同人誌を入場前の人たちに配り終え、演奏会が始まり、俺もホールに入るが、上田はいない。これまでクリスマスフェスティバルの公演や演奏中は必ずいたのに、こんな時に限ってなんでいないんだよ。

 

と、思ったが先週の会話を思い出す。「気になってる人がいる」というあの話。終業式の今日は折しもクリスマスイブだ。つまりはそういうことなのか……。今、上田は誰かと……。

だからどうしたのかと問われれば、どうもしないんだけどな。

確かに俺は上田を気にしてはいるが、それは文芸部としてだ。

後は、なんで演劇部やめたの?とかそういう、ただの下世話な好奇心程度だ。それ以上の何かなんて持ち合わせてはいない。うん、そうなんだ。

 

結局、この日に上田を見つけることは出来ず、わざわざクリスマスに邪魔をするのもいけないと思い、数日後にSNSを使って上田に今年のお礼メッセージを送った。上田からの返事はいつものように「私のわがままに文芸部を巻き込んでゴメン」という内容だった。

確かに巻き込まれたのは事実だが、そうでなきゃ部活に精を出したり、上田とこんなに話したりすることもなった、と考えると逆に巻き込んでくれてありがとうなんだよなぁ。

上田が、そんな俺の気持ちを分かっているのか、俺が気を遣っていると思われているのかは分からないが……。

 

ちなみに終業式兼クリスマスイブのあの日は生徒会の仕事として、学校外から来た来客の案内のため、高校の最寄り駅まで送り出されていたらしい。校内で道理で見かけなかったわけだ。

さらに夕方はそのまま生徒会の役員で忘年会に行っていたそうだ。堅いイメージのある生徒会もそんなことをやるんだなぁと、ある意味でとても驚いた。

と同時にクリスマス話から、前の話の続きでも引き出せるかと思ったが、それはなかった。ホントにあの時は謎のリップサービスだったな……。それを俺に言ったのは、何も考えていなかっただけなのか?あるいは……、

 

 

ってこれじゃ俺が自意識過剰なだけだな。はいはい忘れた忘れた。

 

年の瀬に何考えてるんだろうなぁ俺は……。




それぞれのクリスマスが過ぎていく……。

すれ違う想い。
自分の気持ちに気づかない鈍感さ……。

時間は待ってくれない……。




って私、すごいまじめ風な後書きにしてますけど
普段の後書きから考えると、こんなこと言っても薄っぺらすぎて笑われそうだなww

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